対照的な少女たちが織りなす青春ドラマ
主人公の一人である月鍔ルナは、成績優秀で運動神経抜群の優等生。一方の日菜野ヒナコは失声症で、授業前や放課後はずっと一人で弾きもしないピアノの前にボーッと座っている、周囲から浮いた影の薄い存在。一見すると対照的な二人は、ふとしたきっかけでなかよくなり、音楽室で会話を交わすようになる。さらに、ルナがヒナコの義父で天才音楽家の日菜野陽一に師事することが決まり、ヒナコの家に居候を始める。二人はひとつ屋根の下で、理想のピアニストになるため日々練習を重ねて絆(きずな)を深めていく。
負けず嫌いのスポーツ少女がピアノに魅了される
他人から虐げられている弱い存在、いわゆる負け犬が大嫌いなルナは、人生とは戦って勝ち残らないと意味がないと考え、小学生の頃から始めたバドミントンで勝ち続けることで自分の存在価値を証明しようとしていた。そんな中、友人となったヒナコの卓越したピアノの才能を知ったルナは、音楽で挫折して行方不明になった父親を思い出すものの、それ以上にピアノが奏でる美しい世界に魅了される。自分もヒナコのようにピアノを弾いてみたいと考えるようになったルナは、バドミントンを辞めて一心不乱にピアノの練習に励むようになる。そして、「勝つためのピアノ」を信条とする亜鞍馬カノンの自信に満ちた演奏にシンパシーを感じ、彼女を大きな目標と定める。
虐待によって心身に傷を負った日菜野ヒナコ
全身に包帯を巻いている日菜野ヒナコは、幼い頃に母親が病死したことで実の父親から酷い虐待を受け、全身に傷を負ったうえに心に大きなトラウマを抱える。やがて虐待が発覚して父親が逮捕され、心身の治療のために小さな町病院に入院するものの、過去のトラウマから抜け出せず大人を強く拒絶している。そんな中、ピアノを弾くために病院を訪れた日菜野陽一にヒナコは引き取られると、彼を真似る形でピアノの練習を始め、絶望の淵から立ち直ることができた。しかし、その後も周囲と馴染(なじ)めずにいたが、偶然出会ったルナと友人になり、学校生活にも充実感を覚えるようになる。自らをどん底から救ってくれた陽一とルナに感謝しており、ひたすらピアノに打ち込んでいるのも、二人とピアノを通してつながっていることを実感するためである。
登場人物・キャラクター
月鍔 ルナ (つきつば るな)
天王高校に通う2年生の女子。年齢は17歳で、身長171センチ。両親は離婚しており、現在は一人暮らしをしている。母親譲りの美貌を誇り、かつて雑誌の読者モデルをしていた。成績優秀で5か国語を話せるほか、バドミントン部のエースを務めるなど文武両道を体現している。ただし、自らの才能を鼻にかけることはいっさいなく、つねに自分を高めるための努力を惜しまない。ピアノに関しては素人ながら、天才音楽家の日菜野陽一の教えを受けて常人より早いスピードで上達していく。異常に勝ちにこだわっており、あらゆるフィールドで負けることを嫌悪している。父親はキーボード奏者だったが、自分の才能の限界を感じて仲間や妻子の前から逃げるように姿を消してしまう。そのため、父親のことを負けた犬と忌み嫌っているが、その一方で自分をもっと見てほしかったとの未練を残している。
日菜野 ヒナコ (ひなの ひなこ)
天王高校に通う2年生の女子。年齢は17歳。天才音楽家の日菜野陽一の養子で、引き取られる前の本名は「明里ヒナコ」。ピアノをはじめ、ヴァイオリンやドラムなどの楽器に精通しており、かつて陽一の弟子であった亜鞍馬カノンからは「自分や陽一すら上回るほどの才能を秘めている」と太鼓判を押されていた。かつて実の父親から虐待を受けており、その影響から現在も失声症を患っている。そのため、ふだんからスケッチブックを携帯しており、筆談で意思疎通を図っている。虐待を受けた自分を直視することを恐れ、全身に包帯を巻いて虐待の傷跡を隠している。その特異な外見と音楽室に引きこもっていることから、一部の生徒には「音楽室の幽霊」と呼ばれていた。だが、同じクラスの月鍔ルナに声をかけられたことをきっかけになかよくなり、心を開いていく。さらに、ルナから勧められて文化祭でベートーヴェンの『ピアノソナタ第14番 月光』を演奏したことで一瞬で生徒たちの心をつかみ、一転してクラスの人気者となる。
書誌情報
傷だらけのピアノソナタ 全3巻 集英社〈ジャンプコミックス〉
第1巻
(2021-03-04発行、 978-4088826240)
第2巻
(2021-04-02発行、 978-4088826523)
第3巻
(2021-07-02発行、 978-4088827551)