僕らはみんな生きている

僕らはみんな生きている

政情が不安定な途上国に出張することになった主人公のサラリーマンが、現地でさまざまなトラブルに巻き込まれていく姿を描いたビジネスマンガ。西アジアの架空の国を舞台に、日本人ビジネスマンたちの悲哀が自虐的に描写されており、バブル時代の日本のサラリーマン社会を風刺した内容になっている。1993年に真田広之主演で実写映画化された。

正式名称
僕らはみんな生きている
ふりがな
ぼくらはみんないきている
原作者
一色 伸幸
作画
ジャンル
サラリーマン
関連商品
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あらすじ

第1巻

大手建設会社の三ツ星建設に勤務する高橋啓一は、西アジアのタルキスタンという国に出張することになった。三ツ星建設はタルキスタンの開発援助に参加しており、同国での橋梁建設の契約を勝ち取るため、建築設計の技術者である高橋を派遣することにしたのである。到着した高橋はタルキスタンの支店長を務める中井戸と、彼に運転手兼メイドとして雇われているセーナという現地女性に迎えられる。表向きは友好的な中井戸だったが、彼は高橋に駐在員の役を押しつけようと企んでおり、そのためにセーナに高橋を誘惑させようとしていた。とまどいながらもタルキスタンでの日々を過ごす高橋は、セーナに誘われるまま関係を持ってしまうが、高橋は短期出張の些細な思い出として、さっさと日本に帰るつもりだった。ところが現地政府へのプレゼンが不首尾に終わったことから帰国が延期となり、続いて同時多発テロの発生によって空港が閉鎖される。さらに高橋はパスポートを紛失してしまい、日本に帰れなくなってしまう。

第2巻

高橋啓一は、パスポートを再発行してもらうためにタルキスタンの日本大使館に通い詰めるが、職員の仕事ぶりは恐ろしくいいかげんで、なかなかうまくいかない。一方、日本では自分が手がけていたプロジェクトで同僚が社長賞を受賞したことを知り、焦る高橋はついに違法パスポートを手に入れようとするが失敗。そのことで裏社会の男たちとトラブルになり、あやうく命を落としかける。それでも日本人の大使館員とつながりができ、どうにか再発行の手続きを済ませるが、彼を引き留めようとする中井戸の陰謀によって、土壇場で申請が却下されてしまう。ついに気力が尽きた高橋はマラリアにかかってダウンするが、セーナの献身的な介護のおかげでどうにか回復。その後は相変わらずタルキスタンでの無為の日々が続くものの、セーナとの仲はさらに深まっていく。そんな中、今度はセーナがカゼと疲労のために倒れてしまう。さらにタルキスタンでは政府軍と、反政府ゲリラによる本格的な内戦が勃発。現地の日本人たちは救援機で急きょ帰国することになるが、高橋は高熱に苦しむセーナを見捨てることができず、中井戸たちと別れてタルキスタンに残る道を選ぶ。

第3巻

高橋啓一は回復したセーナと情熱的な一夜を過ごすが、翌朝目を覚ますと彼女はいなくなっていた。一方、タルキスタンの内戦はさらに激しさを増しており、空港へ向かった中井戸たちは先に進めなくなり、いったん町に戻ってくる。高橋も中井戸らの一行に加わり、彼らは同じ日本人の現地駐在員である井関を迎えに行くが、彼の住む町もすでに激戦状態となっていた。市街戦に巻き込まれた高橋は、銃撃が飛び交う中でセーナと再会する。実は、彼女は反政府ゲリラのメンバーだったのである。高橋たちはセーナにうながされて命からがら脱出を試みるが、井関が流れ弾に当たって死亡する。一行は戦火を避けるため、ジャングルを抜けて空港に向かうことにするが、ジャングルの中はゲリラの仕掛けたブービートラップだらけで、暑さや疲労も手伝って道に迷ってしまう。手持ちの食料もほとんどなく、全員心身とも限界に達するが、そんな高橋たちに隠れて中井戸はひそかに何者かと連絡を取っていた。

第4巻

中井戸が、セーナたちの反政府ゲリラに捕縛されてしまう。彼は契約を勝ち取るためにタルキスタン政府のスパイとなり、ゲリラの情報を軍に流していたのである。高橋啓一は、ほかの日本人たちと共にゲリラに身柄を拘束されるが、スキを見て脱出に成功。セーナを人質兼案内役として、どうにか空港へとたどり着く。しかし高橋は中井戸を置いていくことができず、一か八かの救出を決意して情報収集のため、空港にとどまっていたセーナに仲介を依頼する。再びゲリラの基地に戻った高橋たちは反政府軍のリーダーに面会し、自作のデジタル無線傍受機と中井戸の身柄の交換を持ちかける。傍受機はゲーム機の部品などで作った簡素なものだったが、ゲリラにとってはめったに手に入らない貴重品であった。かくして高橋らは中井戸の救出に成功するが、中井戸はこのままタルキスタンに残ると言い出す。ここでゲリラとのコネクションを作っておけば、クーデター成功後に新政府と契約を結べると踏んだのである。高橋は何かに取りつかれたかのような中井戸の姿に戦慄する。それから3年、タルキスタンに向かう旅客機の機内になんと高橋の姿があった。

メディアミックス

実写映画

本作『僕らはみんな生きている』は、1993年に実写映画化されている。監督は滝田洋二郎が務めた。高橋啓一を真田広之、中井戸を山崎努、富田を岸部一徳がそれぞれ演じている。

登場人物・キャラクター

高橋 啓一 (たかはし けいいち)

日本の大手建設会社「三ツ星建設」設計三課に所属する、若手のエリートサラリーマン。倉岡美由紀と社内恋愛をしており、公私ともに順風満帆だったが、西アジアの小国であるタルキスタンへの出張を命じられたことをきっかけに運命が変転。駐在員の中井戸の仕掛けたハニートラップにはまり、現地女性のセーナと深い仲になってしまい、徐々に彼女に情が移っていく。さらにタルキスタン高官たちへのプレゼンに失敗、同時爆破テロの発生、パスポートの盗難などトラブルが続発。5日間の短期出張のはずが、帰国不能の状態に追い込まれてしまう。それでもなんとか日本に帰国しようとするが、反政府ゲリラのクーデターにより、タルキスタンは内戦状態に突入。中井戸やほかの日本人駐在員たちと共に紛争のまっただ中をさまよう羽目になる。

中井戸 (なかいど)

三ツ星建設のタルキスタン支店長を務める中年男性。単身での赴任で現地女性のセーナを運転手兼愛人にしている。タルキスタンでのライバル会社との競争に勝利するため、本社に設計技術を持つ社員の派遣を要請。短期出張でやって来た高橋啓一を歓待するが、実は彼に現地駐在員の役を押し付けようと企んでおり、セーナに彼を誘惑させるなど、あの手この手で高橋の帰国を引き延ばそうとする。既婚者を装っているが、実はサウジアラビアに単身赴任していた際、仕事に没頭するあまり家庭が破綻。妻を別の男に寝取られ、さらに娘の親権も失い、ノイローゼになってしまったという過去を持つ。そのため、アルコール中毒気味で情緒不安定なところがある。高橋と交代で日本に帰国しようと企む一方、タルキスタンでのビジネスの成功に異様なまでの執念を燃やしている。政府高官とのパイプをライバル企業から奪うべく、スパイとなって政府軍にゲリラ側の情報を流すという危険な橋を渡ろうとしている。

セーナ

中井戸の愛人兼運転手をしているタルキスタンの女性。キナキナ族という少数部族が暮らす小さな村の生まれだが、父親が高級官僚だったことからフランスの名門ソルボンヌ大学への留学経験を持つ。語学が堪能で英語、フランス語、ドイツ語を自在にあやつるエリートだったが、軍によるクーデターが起こった際、父親をはじめ一族のほとんどがフクォウィクの刑に処されて死亡。生きる希望を失い、街中で行き倒れていたところを中井戸に拾われ、彼の愛人となった。その後、元海外留学生を中心に結成された反政府ゲリラに参加。陸軍に顔のきく中井戸を利用して、政府軍の情報をひそかに収集していた。中井戸に命じられて高橋啓一にハニートラップを仕掛けるが、彼との仲が深まるにつれて少しずつ情が移っていく。しかし、内戦が勃発すると高橋のもとを去り、ゲリラとして政府との戦闘に参加。政府軍のスパイとなっていた中井戸を処刑すべく彼を捕える。

寿恵村 真紀 (すえむら まき)

ルポライターを生業とする女性。ノンフィクション作家志望で、取材のためにタルキスタンを訪問している。現地の日本人会で高橋啓一と知り合い、強引に彼の家に転がり込んだ。皮肉屋の厚かましい性格で、発展途上国での日本人や日本企業の振る舞いを口汚く罵る。しかし、ポル・ポトの名前すら知らないなど、ジャーナリストとしての意識は低く、内戦が勃発するとさっさと日本への帰国を決めた。中井戸や富田たちと空港に向かうが、戦闘に行く手を阻まれ、彼らと共に紛争のまっただ中をさまよう羽目になる。

倉岡 美由紀 (くらおか みゆき)

三ツ星建設に勤める女性社員。高橋啓一の恋人だが、実は高橋の上司の吉田部長とも関係を持っている。当初はタルキスタンに行った高橋のことを気にかけ、何度か国際電話で連絡を取ろうとしていた。しかし、高橋がさまざまなトラブルに巻き込まれ、日本に戻れなくなったことを知ると彼をあっさりと見限り、その後はニュースでタルキスタンの情勢が報じられても、ほとんど関心を示そうとしなかった。

富田 (とみた)

三ツ星建設とライバル関係にあるIBC国際建設の男性社員。国際建設社長の御曹司という恵まれた立場にいたが、会社がIBCという企業に乗っ取られ、IBC国際建設となったためにタルキスタンに飛ばされることとなった。ビジネスのためなら卑屈な行為も辞さない典型的な日本人サラリーマンで、カッツら軍事政権の重鎮たちに取り入り、彼らとのパイプを築くことに成功する。三ツ星建設との入札争いで圧倒的優位に立っていたが、タルキスタンが内戦状態になったことから、高橋啓一や中井戸と共に紛争のまっただ中をさまよう羽目になる。

マスモト

三ツ星建設とライバル関係にあるIBC国際建設の技術担当を務める男性。富田の部下で、タルキスタンに駐在して7年目。すっかり現地に馴染んでいるため、エイズに感染して男娼街に入り浸っている、浮気した妻を殺してタルキスタンに逃げてきたなど、さまざまな怪しい噂が流れている。タルキスタンの日本人たちの内情にも通じており、セーナが中井戸の愛人であることを高橋啓一に伝えた。詳細は不明だが、日本で何か大きな問題を起こしてタルキスタンに飛ばされたようで、内戦の勃発によって日本に帰国することになった際、こうした事態でなければ日本に帰れない身分だと富田に言われていた。

井関 (いぜき)

タルキスタン駐在の男性で、いつも酢コンブを食べている。タルキスタンへやって来たのはエビの買い付けのためで、日本を離れて3年目だが、あと1週間で任期終了となり、日本で待つ家族のもとに帰れるはずだった。そんな中、井関がタルキスタンで建設を推し進めたクルマエビの養殖場が、産業廃棄物の有毒物質で汚染されていたことが発覚。これが原因で任期が延長となり、目前で帰国の道が絶たれたことから精神が不安定になる。

雀崎 (すずめざき)

タルキスタンに駐在する中年男性。三ツ星建設の下請け会社の社員で、中井戸とは麻雀仲間でもある。いつも笑顔を絶やさず温厚そうに見えるが、タルキスタン独自の処刑であるフクォウィクを見物するのが趣味で、苦悶する死刑囚を見て性的興奮を覚えるという倒錯した一面を持つ。変わり身も非常に早く、中井戸がゲリラに捕まったことを知るや、IBC国際建設の富田に接近しようとした。

カッツ

タルキスタン陸軍の大佐を務める男性。軍事政権の重鎮で建設事業に関する決定権を持っていることから、現地の駐在員たちによるさまざな接待を受けている。欲にまみれた傲慢な人物で、IBC国際建設によるゴルフ接待の際、富田のアタマをティー代わりにしてボールを打つなど横柄に振る舞っていたが、反政府ゲリラによる同時多発テロによって死亡した。

反政府軍のリーダー (はんせいふぐんのりーだー)

タルキスタンの反政府ゲリラを率いる若い男性。海外留学の経験を持つインテリで、セーナによるとパリ留学仲間の中で一番優秀だった。計算高い冷徹な人物で、政権奪取後をにらんで日本企業に恩を売っておこうと考え、スパイとして拘束していた中井戸の身柄を解放し、高橋啓一らに引き渡した。

場所

タルキスタン

人口3000万ほどの西アジアの発展途上国。ジャングルと湿地が国土の大部分を占める貧しい国のために政情が不安定で、反政府勢力によるクーデターやテロが頻発している。3年前に軍が政権をにぎったのを機に日本の開発援助が本格化。タルキスタンでの事業に参入すべく、さまざまな日本の企業が駐在員を送り込んでいる。

その他キーワード

フクォウィク

タルキスタン独自の処刑方法。材木などを運ぶクレーンに付いている太いフックを処刑する者の上あごに突き刺し、生きたまま木などにつるして晒すという残酷なもので、この刑を受けた者は3日間ほどで死ぬが、そのあいだ苦痛に苛まれ続けるという。かつては公開で行われていたが、人権団体の非難の対象となったために現在は非公開となっている。ただ、役人に金をにぎらせれば見物することが可能で、これをひそかな楽しみにしている現地駐在員もいる。

クレジット

原作

一色 伸幸

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