作品誕生のいきさつ
暁月あきらは過去にも西尾維新原作の『めだかボックス』『症年症女』の作画を担当しており、本作『十二大戦』で西尾維新原作の作画を担当するのは3度目。しかし小説のコミカライズは暁月あきらにとって初の体験で、当初は小説と同様に寝住を主人公としてプロットを組んだが、小説のおもしろさを漫画にするのが難しく、そのプロットは担当編集者に即没にされた。その後、話をわかりやすく展開するため、読者視点で『十二大戦』を描写するキャラクターとして、本作の主人公のナビィが誕生。こうして、彼の視点で話を展開する作品となった。
あらすじ
第1巻
干支の名を宿す十二人の戦士が、たった一つの叶えたい願いをかけて争う「十二大戦」、そのレポーターに選ばれたナビィは、集まった戦士達を一人ひとり確認する。大戦開始前に断罪兄弟(弟)が殺されているのが発見されるが、特に問題視される事もなく、遂に大戦は開幕となった。大戦開始直後、平和主義者の砂粒の呼びかけによって一大勢力が築かれそうになる。しかし謎の爆発によって戦士は離散、すんでのところでチーム結成は流れてしまうのだった。爆発の中、異能肉は異常殺人者の憂城と対峙する。自らの圧倒的な火力に自信を持つ異能肉だったが、憂城は「死体作り」の能力で断罪兄弟(弟)の死体をあやつり、異能肉を殺害。異能肉の死体も自らの戦力に組み込み、チーム「死体同盟 ラビット一味」を結成するのだった。その様子を自らの能力で窺っていた庭取は、怒突に共闘を呼びかける。能天気な庭取を御しやすいと思った怒突は、自らの能力で庭取を強化し、捨て駒として利用しようと考える。しかし、その思惑すら読んでいた庭取に逆に利用され、怒突は強化された庭取に用済みとして殺されてしまうのだった。
第2巻
怒突を殺した庭取は、その足のままあやつられた異能肉の死体と対峙。自らの能力で活動不可能になるまで異能肉の死体を破壊する事に成功する。その後、休憩に入った庭取は町中で偶然、寝住と砂粒に出会う。スキを見て二人を殺そうと考える庭取だったが、砂粒の裏表ない態度とドーピングの副作用で心が揺れ、平静さを失ってしまう。庭取は心が揺れたまま二人と別れ、街へと駆け出すが、そこで最強の戦士、失井と遭遇。庭取は砂粒を守るため失井と戦うが、失井の圧倒的な力を前に為す術なく敗れ去ってしまうのだった。その後、地下水路に潜んでいた寝住、砂粒に憂城が襲い掛かる。動物を殺し、ゾンビとしてあやつった憂城は数の暴力で二人をあぶり出す。寝住に支援された砂粒は憂城と直接対峙し、彼を何とか無力化して説得しようと考える。しかし砂粒は、憂城の思わぬ能力の使い方に不意打ちを受け、殺されてしまうのだった。一方、一人街をさまよっていた必爺は、公園で酒を飲む妬良と出会っていた。無防備に酔っ払う妬良をそのまま殺そうとする必爺だったが、実力を隠していた妬良にあっさり返り討ちにされてしまう。
第3巻
死ぬ事を忌避する迂々真は、戦いを回避する術を探す中、失井と遭遇する。失井と手を結ぼうとする迂々真だったが、方針転換した失井に拒絶されて戦闘。圧倒的な力を持つ失井との実力差に絶望した迂々真は銀行の金庫に逃げ込み、籠城しようと考える。同じく断罪兄弟(弟)のゾンビに追われて金庫に逃げ込んで来た寝住に現状を教えてもらうが、心が折れた迂々真は現状を変える判断ができず、寝住を追って来た断罪兄弟(弟)に金庫に閉じ込められたまま、火炎放射器で焼き殺されてしまうのだった。迂々真を殺した断罪兄弟(弟)は妬良と遭遇。彼女と戦いを繰り広げ、騒ぎに駆けつけた失井も合流して三つ巴の戦いとなる。殺しても壊しても活動を停止しない「死体作り」に妬良と失井は苦戦する。その様子を上空から見ていた断罪兄弟(兄)は漁夫の利を狙おうとするが、憂城の思わぬ不意打ちを受けて死亡。断罪兄弟はそろって死体作りでゾンビにされてしまうのだった。窮地を前に妬良と失井は一時的に共闘を約束。即席のコンビネーションで断罪兄弟(兄)の冷却剤を奪い、兄弟の死体を氷付けにする事でかろうじて危機を脱する事に成功するのだった。
第4巻
断罪兄弟の死体を破壊された憂城は遂に、自分自身が表に出て戦う。強力な戦士である失井と妬良の二人がかりの前では為す術なく、憂城は体を細切れにされてあっさり死亡する。憂城の死によって失井と妬良の束の間の共闘も終わり、二人は正々堂々の一騎打ちの決闘を始める。しかし、そこに死んだはずの憂城が攻撃を仕掛けて来るのだった。憂城は死んだ自分自身に「死体作り」を使う事で、自分自身をゾンビにしたのだ。妬良は憂城の攻撃から失井をかばったため、瀕死の重傷を負ってしまう。このまま死んでは自分もゾンビになってしまうため、妬良は失井に介錯される事を望み、彼の手にかかって死亡。そして妬良の死を看取った失井は、憂城と最後の戦いを繰り広げる。最早、原形の残らない怪物と化した憂城を一刀のもとに切り伏せる失井だったが、憂城の思わぬ奇策にはまって絶対絶命。失井はこのまま無念の最期を遂げる、とあきらめにも似た感情を抱くが、そこに大逆転の一手を携えた寝住がやって来るのだった。
関連作品
どうしても叶えたいたったひとつの願いと割とそうでもない99の願い
原作小説の『十二大戦』はもともと短編集『大斬』に収録されている原作・西尾維新、作画・中村光の『どうしても叶えたいたったひとつの願いと割とそうでもない99の願い』のキャラクターデザインを西尾維新が気に入り、同作の前日談という形で作られた。そのため漫画版である本作も『どうしても叶えたいたったひとつの願いと割とそうでもない99の願い』へと続くという形で終わっている。
十二大戦対十二大戦
原作小説の『十二大戦』がTVアニメ化されるにあたり、続編となる『十二大戦対十二大戦』が2017年12月12日に刊行された。内容は『十二大戦』のIf展開となる作品で、『十二大戦』の登場人物達が新たなる敵と戦うという形となっている。『十二対大戦対十二大戦』の予告編となる短編小説が「ジャンプSQ」2017年11月号特典小冊子に掲載され、『十二大戦』漫画版である本作の4巻に収録されている。
登場人物・キャラクター
ナビィ
十二大戦のレポーターを務める青年。黒いコートに帽子をかぶった男性で、本名は「三田修士」。大学卒業後、フリーターをして生計を立てていたところ、2年前に十二大戦運営に拉致されて雇われた経緯を持つ。ドゥデキャプルの血縁者だが、雇われる際に初めてその事を知らされた。その後、ナビィ自身の能力「無限増殖」を発現し、この能力で十二大戦の記録をつづって行く事となる。 元が一般人であったため、戦士の情報は大会運営に与えられたもの以上は知らなかった。大会運営に服装の規定が厳しく決められているため、唯一自由にできる帽子集めが趣味となっている。最近は趣味がエスカレートして奇抜な帽子を求めるようになっているが、ナビィはその事に気づいていない。 誕生日は3月10日。
寝住 (ねずみ)
十二大戦に参加する「子の戦士」。気だるげな雰囲気を持つ銀髪の少年で、他者に無関心な達観した性格をしている。本名は「墨野継義」。名乗りの際に上げる口上は「うじゃうじゃ殺す」。十二大戦では砂粒の和平案に賛成し、彼女と行動を共にするが、心は許しておらず、彼女の語る言葉をきれい事と切って捨てた。しかし、それでもまっすぐに前を向く彼女の姿勢は「嫌いじゃない」と認めている。 戦闘能力は大戦に参加した戦士の中でも下位に位置し、直接的な戦闘は苦手。そのため寝住自身の能力「ねずみさん」を使い、砂粒の死後は敵から逃げながら自身が生き残る道を模索していた。逃げる最中にも必爺の「醜怪送り」を逆転の一手として回収していたり、抜け目のない行動をしている。 戦闘能力は低いが、攻撃の回避や侵入に関してはねずみさんを応用する事で一線でも通用する実力を持つ。後日談にあたる原作・西尾維新、作画・中村光の『どうしても叶えたいたったひとつの願いと割とそうでもない99の願い』でも主人公を務めており、彼の叶えたいたった一つの願い「夢が欲しい」について語っている。 チーズが大好物。誕生日は3月3日。
失井 (うしい)
十二大戦に参加する「丑の戦士」。サーベル「牛蒡剣(ごぼうけん)」を携え、2本の角が生えた長髪の青年剣士。本名は「樫井栄児」。名乗りの際に上げる口上は「ただ殺す」。十二大戦優勝候補筆頭の最強の戦士で、その強さは「皆殺しの天才」「わけがわからないほど強い」と評される。ほかの戦士達のように目立った特殊能力は持たないが、その驚異的な身体能力と剣技だけで、肉体を極限まで強化された庭取を瞬殺し、最硬の防御力を持つ迂々真を一方的に圧倒するほどである。 5歳の頃から戦場に出ては成果を挙げて生還する生まれながらの天才。ただしそれゆえに「孤高の天才剣士」となっており、本心では誰かに頼りたい気持ちがあった。そのため叶えたいたった一つの願いは「助けがほしい」。 幼い頃より戦場の矛盾に向き合ったため、「正しい事」をできるできないに拘(かか)わらず「やろう」とする信条を持つ。その生き様は過去に、道を誤っていた妬良にも大きな影響を与えた。また最強と言われつつもあくまで兵士でしかない自分と違い、戦争を平和に導く砂粒の事を認めている。誕生日は2月2日。
妬良 (とら)
十二大戦に参加する「寅の戦士」。虎柄のビキニにジャケットを羽織った女性で、つねに酒を飲んで赤ら顔をしている。本名は「姶良香奈江」。名乗りの際に上げる口上は「酔った勢いで殺す」。酔っ払った態度から下馬評はノーマークで、最弱と評されていた。だがその実、酔っ払う事で自身の力量を弱く見せる能力を持ち、その擬態は歴戦の猛者である必爺の眼を欺くほど。 戦闘では酔拳と獣じみた身のこなしを武器に戦う。十二大戦では佳境に差し掛かるまで公園で飲んだっくれていたが、必爺が戦いに来たのを皮切りに本格参戦。必爺を瞬殺したのを評価され、一気に優勝予想ランキング3位に躍り出た。元は思慮深くまっすぐな性格をした少女で、自身を鍛える「道」として武道を学んでいた。 しかし戦争の現実に打ちのめされ挫折し、以降は酒に溺れる日々を送っていた。その日々の中で偶然、失井と出会ったのをきっかけにして、彼のように正しくなりたいと願うようになった。そのためたった一つの願いは失井に認められるような「正しさが欲しい」。大戦では失井の事に気づいているが、当の失井からは気づかれていない。誕生日は1月1日。
憂城 (うさぎ)
十二大戦に参加する「卯の戦士」。極小のホットパンツに兎耳を付けた青年。2本の剣「三月兎」と「白兎」を振るう殺人鬼で、名乗りの際に上げる口上は「異常に殺す」。大戦開催前から断罪兄弟(弟)を殺すなどの異常な言動が目立ったため、ほかの戦士達から危険視されている。常軌を逸した言動に隠れているが、その実、自身にとって天敵と言える断罪兄弟(弟)を真っ先に殺したり、自身の能力を効果的に使うように戦術を練ったりと、クレバーな一面を持つ。 能力は「死体作り」で、断罪兄弟(弟)をはじめ殺した戦士達をチームに加え「死体同盟 ラビット一味」を結成、大戦を引っ搔き回す台風の目となる。さびしがり屋で、叶えたいたった一つの願いは「友達が欲しい」。ただし、憂城は生きている人間とは友達になれないと考えており、相手を殺して自らの能力で「お友達」になる事が最善だと考えている。 憂城自身も戦士として体を鍛えているが、体術や剣技の腕前は素人レベル。そのため「死体作り」の能力なしでの戦闘では、ほかの戦士に圧倒される可能性も存在する。経歴には謎が多く、十二大戦運営すら本名および誕生日などは把握できていない。
断罪兄弟(兄) (たつみきょうだい)
十二大戦に参加する「辰の戦士」。断罪兄弟(弟)とは双子の兄弟で、容姿は瓜二つで、目つきの鋭いアッシュブロンドの青年となっている。本名は「積田長幸」。非情にも見える冷静沈着な性格をしており、断罪兄弟(弟)が大会直前に殺されても飄々とした態度で大戦に参加した。その際には弟がもらうはずだった獣石をドゥデキャプルにことわって持って行った。 大戦終盤まで空を自在に飛ぶ事ができる能力「天の抑留(てんのよくりゅう)」で空に姿をくらまし、戦局を見極めていたが、憂城から不意打ちを喰らって死亡。対象を凍らせる冷却剤「逝女(ゆきおんな)」を持っており、本来は双子ならではの連携を得意とする。弟の死にはなにもショックを受けていないように振る舞っていたが、実は兄弟揃って悪党である事にプライドを抱いており、弟が死んで悲しむ「いい奴」になりたくないと考えていた。 そのため叶えたいたった一つの願いは、当初は弟と同じく「金が欲しい」だったが、弟の死によって「なにも欲しくない」と変わっている。名乗りの際に上げる口上は弟と同じく「遊ぶ金欲しさに殺す」。誕生日は双子だが、戸籍上は弟と違う11月11日生まれ。
断罪兄弟(弟) (たつみきょうだい)
十二大戦に参加する「巳の戦士」。断罪兄弟(兄)とは双子の兄弟で、容姿は瓜二つで、目つきの鋭いアッシュブロンドの青年となっている。本名は「積田剛保」。大戦開始直前に憂城によって殺され、その死体は「死体作り」であやつられてしまう。断罪兄弟(弟)の分の獣石は断罪兄弟(兄)の所有となった。所持している強力な火炎放射器「人影(ひとかげ)」と、地面の振動から周囲を索敵する能力「地の善導(ちのぜんどう)」は死しても健在で、憂城の手駒として大戦を引っ搔き回した。 実は火炎放射器は憂城の能力にとって天敵とも言える存在で、死体作りの弱点に気づいた失井は断罪兄弟(弟)の火炎放射器を使って死体への対策を行った。生前、名乗りの際に上げていた口上は兄と同じく「遊ぶ金欲しさに殺す」。 兄弟そろって手段を選ばず金を集めて、それを慈善団体に寄付するという「遊び」にはまっていた。そのため叶えたいたった一つの願いも「金が欲しい」。誕生日は双子だが、戸籍上は兄と違う10月10日生まれとなっている。趣味は爬虫類のペットの育成日記で、ブログとして公開して人気を博しているらしい。
迂々真 (ううま)
十二大戦に参加する「午の戦士」。筋骨隆々とした身長2メートルを超える大男で、本名は「早間好実」。寡黙な性格をしており、名乗りの際にも「無言で殺す」と口上を上げている。過去に戦場で悲惨な敗退を喫した事から死ぬ事に強い恐怖感を抱いており、その反動から度重なる肉体改造、薬物投与をして現在の体型を手にした。その果てに肉体を人体の限界を超えた硬度まで強化する防御術「鐙(あぶみ)」を習得した事で、戦士達の中でも最高クラスのタフネスを手に入れる。 しかし今回の大戦では自身を超える戦士達が幾人も参加しているため、早々に自分の力量に見切りをつけて砂粒の和平案に乗った。不幸にもチーム結成直前の爆発によって砂粒と別れ、その後も合流できなかったため、大会の情勢の変化に取り残される。 和平案に賛成していた失井に接触するが、憂城の脅威を前に意見を翻した失井に襲われる。失井には自慢の鐙も通用しない事に絶望し、銀行の金庫に立てこもる事で生き残ろうとしたが、断罪兄弟(弟)に銀行ごと焼かれて死亡した。叶えたいたった一つの願いは「才能が欲しい」。誕生日は9月9日。
必爺 (ひつじい)
十二大戦に参加する「未の戦士」。立派なひげを生やした老爺。歴戦の古強者で、過去に行われた第九回十二大戦では優勝している。その際に叶えてもらった願いは「孫の顔が見たい」。本名は「辻家純彦」。銃火器のあつかいを得意とする優秀な戦士だったが、寄る年波に身体能力はかなり衰えている。しかし孫の参加が決まった第十二回の十二大戦が曲者揃いだったため、代理として参加する事を申し出た。 今大戦の中でも老いた自身の力量は下位であると自覚しているが、長年培った経験と「醜怪送り」を武器に優勝を狙う。話術による騙し討ちを得意とするため、名乗りの際に上げる口上は「騙して殺す」。大戦開始直後に醜怪送りで戦士達を皆殺しにするつもりだったが、咄嗟に気づいた砂粒の機転で失敗。 その後は、同盟相手を探して街をさまよっていた。妬良を見つけるが、余りの弱さに組む価値なしと判断してそのまま殺そうとする。しかし皮肉にも自身を弱く見せていた妬良に騙されて殺された。若さを渇望しているため、叶えたいたった一つの願いは「時間が欲しい」となっている。誕生日は8月8日。
砂粒 (しゃりゅう)
十二大戦に参加する「申の戦士」。眼鏡をかけたショートカットの少女。つねに前向きな考えを持つ平和主義者で、314の戦争と229の内乱を和解に導いた実績を持つ。本名は「柚木美咲」。異能肉など彼女の言葉をきれい事として嫌う者も多いが、他者からの批判を真っ向から受け入れ、それでも信念をあきらめない強(したた)かさを持つ。 また彼女の生き様は失井からも認められ、庭取の価値観に大きな影響を与えている。叶えたいたった一つの願いも「平和が欲しい」となっている。名乗りの際に上げる口上は「平和裏に殺す」。砂粒曰く、平和主義者であっても無抵抗主義者ではないため、必要であれば戦うのを忌避したりしない模様。素手での格闘技を得意として、その戦闘能力は失井に匹敵するとされる。 大戦開幕直後に「必勝法」を持ちかけ、チームを結成しようとするが、必爺の不穏な行動のせいで寝住以外の戦士とは離れ離れとなってしまう。大戦佳境までは寝住と共闘していたが、憂城を殺さずに無力化しようとしたのが仇となって死亡。「死体作り」によって憂城の手駒となってしまう。 誕生日は7月7日。
庭取 (にわとり)
十二大戦に参加する「酉の戦士」。鶏のトサカのような髪飾りをしたセミロングの少女。本名は「丹羽遼香」。名乗りの際に上げる口上は「啄(ついば)んで殺す」。一見するとのんきな性格をしているが、その実、自分を守るためならすべてを利用する強かさを持つ。親から凄惨な虐待を受け、その末に両親を殺した過去を持ち、それらのショックで15歳以前の記憶がない。 これらの経験から罪悪感や願いがない精神破綻者となっており、裏切りや騙しに忌避感を抱かない気質を持つ。そのため叶えたいたった一つの願いは「自分が欲しい」。大戦でも自身の能力「鵜の目鷹の目」で得た情報を手土産に、怒突に取り入った。怒突の前ではなにも知らない振りをしていたが、怒突の能力の事は熟知しており、狙い通り怒突が自分を「ワンマンアーミー」でドーピングしたら用済みとして殺している。 しかしドーピングの思わぬ副作用で壊れた精神まで復元されたのをきっかけにして、砂粒の生き様に感化されてしまい、彼女を守るため失井と戦って死亡した。両親が死亡後は戦士の名家「丹羽家」に養女として迎えられたため、誕生日は6月6日。
怒突 (どつく)
十二大戦に参加する「戌の戦士」。鼻の部分や目が黒く、犬のような顔つきをした中年の男性。本名は「津久井道雄」。名乗りの際に上げる口上は「嚙んで含めるように殺す」。何でも嚙み砕く「狂犬鋲(きょうけんびょう)」という能力を持つと公言するが、それはブラフで本来の能力は自在に毒をあやつる事ができる「毒殺師」。大戦開始直後は毒殺師の能力で獣石の解毒剤を作り、大戦末期まで陰に潜むつもりだったが、庭取のもたらした情報で憂城を放置する事を危険と判断し、戦う決断をする。 庭取をドーピングして捨て駒にするつもりだったが、逆にドーピングが狙いだった庭取に用済みとして殺された。表向きの本業は保父だが、裏では裏社会に素質のある子供を流す人身ブローカーを営んでいる。 ただし、裏社会に流した子供のその後は気にしている素振りがあり、その内の子供の一人が悪質な客に流れた際には強引に取り返し、自らの養子にした。現在はその子供を育てるために勝ち続ける人生を望んでおり、叶えたいたった一つの願いも「勝ちが欲しい」となっている。誕生日は5月5日。
異能肉 (いのうのしし)
十二大戦に参加する「亥の戦士」。ドレスをまとった長い金髪の美女。優秀な女戦士で、自信に裏打ちされた確かな実力を持つ。本名は「伊能淑子」。名乗りの際に上げる口上は「豊かに殺す」。持っている能力「湯水の如く(のんりろーど)」は、銃火器を弾切れせずに撃ち続けられる能力で、2挺の機関銃「愛終(あいしゅう)」と「命恋(いのちごい)」を乱射する戦法を得意とする。 十二大戦開始直後に憂城と戦うが、死体作りによる不意打ちで死亡した。死亡後は自らも死体作りであやつられ、憂城の「死体同盟 ラビット一味」の一員となる。死後もその戦闘能力は健在で、ほかの戦士達の脅威となったが、庭取の能力で鳥葬され、原形をとどめないレベルで死体を破壊されて活動を停止した。 戦士の名家である伊能家に生まれ、体罰も辞さない厳しい父親と、溺愛する母親の両極端な両親に育てられた。両親の期待に応えるが、本心では真実の愛を欲しており、恋人を十二人も作っている。叶えたいたった一つの願いも「愛が欲しい」であり、世界中に自分のハーレムを作りたいと考えている。誕生日は4月4日。
ドゥデキャプル
十二大戦の審判員を務める老紳士。黒ずくめのコートにシルクハットを被った上品な物腰の男性で、戦士達に大戦のルール説明を行った。手を触れずに遠くの物を引き寄せたり、ルール説明の際に自らの腹を引き裂いても平然としていたり、何らかの異能力を持つ。ナビィは血縁者にあたるが、最近までナビィにその事を知らせなかった。
イベント・出来事
十二大戦 (じゅうにたいせん)
12年に一度開催される戦い。ルールや舞台は毎回違い、第十二回となる今大戦では、無人状態にした50万人規模の都市を舞台とし、獣石を十二個集める事がルールとなっている。参加者となる戦士は全員が干支にちなんだ12人の戦士となっており、優勝した戦士にはたった一つのどんな願いでも叶えてもらえる権利と、副賞として獣石の解毒剤が与えられる。 バトルロイヤル形式で、制限時間は設けられていないが、獣石は12時間で化学反応を起こして持ち主を殺すため、実質的に12時間が制限時間。ただし毒への対抗手段を持つ者にとっては、この制限時間は意味をなさない物となっている。参加している戦士達には知らされていないが、実は国家の代理戦争という側面を持ち、戦士達の活躍は賭けの対象となっている。
その他キーワード
無限増殖 (こぴーあんどぺーすと)
ナビィの持つ特殊能力。同時刻同世界に無数の自分を配置する事が可能な能力で、生み出した複数の自分は「分身」ではなく「全てが自分」で「本体」。そのため配置した自分が見聞きした物は場所が離れていても共有する事ができ、殺されたとしても配置した自分が一人でも残っていれば、そこから再び自分を配置する事ができる。このため、危険な場所への偵察能力として最適な能力とされている。 しかし一方で「配置した自分は殺さないと消せない」「配置した数が多ければ多いほどナビィの加齢速度が加速する」といったデメリットも存在する。またナビィは能力を使うたびに、自分が殺されるという経験を短いうちに何度も経験したため、性格が若干臆病になってしまっている。寝住の「ねずみさん」で分岐した世界の自分とも記憶を同期する事が可能であるため、ねずみさんで削除された記憶もクリアな状態で保持する事が可能。 そのため寝住との会話でナビィは「無限増殖」を使ってちゃっかり情報を得ている。
ねずみさん (はんどれっとくりっく)
「子の戦士」寝住の持つ特殊能力。分岐させた世界を最大100まで体験できるという能力で、戦いで使えば100の戦術をシミュレートし、最良の一つを選んで確定する事ができる。単純な演算能力によるシミュレートと違い、世界そのものを分岐させて干渉しているため、寝住が知り得るはずのない情報も分岐の中で得る事ができる。使い方によっては1パーセントしかない可能性も確定させる事ができるが、逆に言えば可能性が0パーセントの場合は、なにをしてもまったく無駄である事を知るだけの能力となっている。 また選ばなかった選択肢で感じた苦痛は、そのまま寝住にフィードバックされるなど欠点も存在するため、寝住は中学時代、能力を使って意中の女子に100回告白して、100回振られ、100倍傷ついたという経験をしている。 寝住は十二大戦中、つねにこの能力をフル稼働し、自身が生き残る分岐を探していたため、能力への負担からいつも眠たげにしていた。選ばなかった分岐世界の事は基本的に寝住しか知りえないが、強烈な体験は本人にもフィードバックされる。それは朧気な記憶だが、十二大戦中、寝住への既視感という形でほかの戦士達の記憶に残っていた。
死体作り (ねくろまんちすと)
「卯の戦士」憂城の持つ特殊能力。殺した生き物の死体を自らの支配下に置く能力で、憂城はこの能力で支配下に置かれた死体を「お友達」と呼んでいる。死体は人間だけではなく、動物の死体もあやつる事が可能。死体作りの支配下に置かれた死体は、生前持っていた能力も使用可能で、身体能力も脳のリミッターが外れた事で大きく上昇している。 すでに死んでいるため多少の損壊では活動を停止しない。ただし再生能力はないため、原形をとどめないレベルで破壊された場合、活動は停止しないもののその活動には大きな制限が掛かる。死体と視界を共有する事ができるなど、応用力も高いが、憂城が側にいないと単純な命令しか遂行できないなど欠点も存在する。また弱点は炎で、焼かれた死体はあやつる事ができない。 そのため憂城は火炎放射機を持つ断罪兄弟(弟)を大戦開始前に殺したとされている。バトルロイヤルである今回の十二大戦では絶対に裏切らない味方を増やせるという点が大きなアドバンテージで、大戦開始前に断罪兄弟(弟)を死体作りで仲間に引き込んだのを皮切りに、異能肉、砂粒、断罪兄弟(兄)と次々とその毒牙にかけていく。
鵜の目鷹の目 (うのめたかのめ)
「酉の戦士」庭取の持つ特殊能力。あらゆる種類の鳥と意思疎通を行う事ができる能力で、庭取はこの能力を利用する事で十二大戦の舞台となった街にいるすべての鳥の協力を取りつけた。鳥を利用する事で情報収集をはじめ、対象の追跡や捜索、道具の運搬など幅広い用途に使用が可能。庭取はこの能力を活用する事で、早いうちに憂城の死体作りの能力について知った。 また敵に鳥をけしかける事で、対象を骨になるまで啄ばませる「鳥葬」という使い方も可能。鳥葬を使えば死体作りであやつられた死体も活動不可能になるまで破壊する事ができるが、鳥の腹が空くまで再使用する事ができなくなるという欠点が存在する。
毒殺師 (どくさつし)
「戌の戦士」怒突の真の能力。体内で自在に毒を構成し、敵に感染させる事が可能。単純に人を殺すだけではなく毒の解毒剤を作ったり、ドーピングを行ったりと、非常に汎用性の高い能力となっている。獣石の毒すら判別して解毒剤を作る事が可能で、怒突は秘かに獣石の解毒剤を用意していた。また取っておきのドーピングとして、対象の潜在能力を解放する「ワンマンアーミー」を持ち、庭取に施した際には、心身が強化されて超人的な身体能力を発揮した。
獣石 (じゅうせき)
カッティングされたどす黒い宝石で、戦士達は大戦が始まる際にこの宝石を飲み込むように言われた。人間の新鮮な胃酸に反応して独特の化学反応を起こし、12時間ほどでその人間を死に至らしめる効果を持つ。また宝石自体はものすごく頑丈で、人間の新鮮な胃酸以外では科学反応をいっさい起こさず、如何なる物理衝撃でも破壊するのは不可能だとされている。 第十二回の十二大戦では、この獣石を12個集める事が唯一のルールとされている。獣石さえ手に入れれば戦士の生死は問わないが、一度飲み込んだ獣石は吐き出す事ができないようになっているため、実質的に殺して腹を割いて獣石を取るしか方法は存在しない。
醜怪送り (しゅうかいおくり)
「未の戦士」必爺が持つ投擲手榴弾。武器商人兼戦士として生きてきた必爺が長年の研究の末に編み出した最高傑作。片手で持ち運べる程度のサイズにもかかわらず、大爆発を引き起こす威力を誇る。直撃すれば最強の戦士と謳われる失井や砂粒であっても無事ではいられないとされている。必爺は十二大戦開幕直後にこれを使って戦士達を皆殺しするつもりだったが、不穏な気配を感じた砂粒に邪魔をされて失敗。 その後、必爺は妬良に殺されたため、使われずにそのまま放置される事となった。しかし、その存在は砂粒から寝住に伝えられており、憂城を倒すための切り札として彼の手に渡る事となる。