概要・あらすじ
江戸時代中期。幕府の老中を務める田沼意次から、無職生活を満喫していた富士見喜亀之介のもとに、オランダの商館長であるマルコ・ファン・フェレンの護衛の依頼が持ち込まれた。そして護衛初日、謎の南蛮人の襲撃に遭いマルコは死亡してしまう。マルコの死の直前にオランダの医学書「ターヘルアナトミア」の最新版を医者の杉田玄白に渡して欲しいと託されていた喜亀之介は、仲間たちとともにマルコの無念を晴らすため、襲撃して来た南蛮人たちのアジトへと潜入する。
登場人物・キャラクター
富士見 喜亀之介 (ふじみ ききのすけ)
武家の家系である富士見家の次男。黒い短髪で、黒い着物に赤いマフラーを巻き、刀を腰に差している。長男の富士見富鶴之介が家督を継いだために、仕事に就くことすらできなかった。しかし、本人はそれを気にすることなく、逆にその自由気ままな生活を満喫している。遊び好きでだらしのない性格をしているが、困った人を放っておけない、正義感の強い一面も持っている。 街で起こるさまざまな騒動や犯罪を、仲間の柳生十三たちとともに解決している。以前、幕府の老中である田沼意次の命を救ったことがあり、以来、意次から信頼を寄せられている。意次の依頼を受け、オランダの商館長であるマルコ・ファン・フェレンの護衛をすることとなった。決め台詞は「この危機、俺が引き受けた!!」。
柳生 十三 (やぎゅう じゅうぞう)
武家の家系の男性。前髪が目が隠れてしまう位に長く、胸元に家紋が付いた白い着物を着用し、腰に刀を差している。剣の名門である柳生家の息子で、幼少の頃から剣術の稽古をして育ったため、柳生家の中でも抜群の剣の腕前を持ち、多勢相手でも軽やかに剣を振るい、瞬く間にやっつけてしまう。富士見喜亀之介とは、良きパートナーとして行動をともにすることが多い。 真面目で冗談が通じないところがあり、ダジャレを言うのが大の苦手。
喜多川 ウタ (きたがわ うた)
浮世絵師を目指して修業中の少女。黒髪のおかっぱ頭で、左右の毛先に丸い形をした髪飾りを付けており、花の模様があしらわれた濃紅色の着物を着用している。明るく活発な性格で、好奇心旺盛な一面があり、身の危険を顧みずに何かと事件に首を突っ込んでしまうため、富士見喜亀之介たちの中ではトラブルメーカー的な存在となっている。部屋には自分が描いた作品も含めて、沢山の浮世絵が壁や床など、至るところに置かれている。 現在は石燕という浮世絵師に弟子入りしてさまざまな手伝いをしている。ヤコによく懐かれている。
平賀 源内 (ひらが げんない)
発明家の男性。黒い短髪で、上唇の上にひげを生やし、丸くて細いフレームのメガネをかけ、着物を着用している。つり上がった眉毛が特徴。複数人が乗って水の上を走行できる道具など、さまざまなものを発明して生活している。また博識で、得意分野の科学だけでなく、医学や政治など多くの知識を持っている。愛煙家で、いつも煙管を携帯している。 実在の人物、平賀源内がモデル。
杉田 玄白 (すぎた げんぱく)
医者の男性。黒い長髪で、ハチマキのように紐で頭部を巻き、着物を着用している。蘭方の医学の知識に長け、これまでの日本の医学では治療できなかった病気を直すこともできる。自身が熟読して勉強をしたオランダの医学書「ターヘルアナトミア」を国内で出版して、日本の医療レベルを上げ、病気で苦しんでいる人をより多く助けてあげたいと考えている。 オランダ商館長のマルコ・ファン・フェレンと交流があり、一人娘の杉田糸と二人暮らしをしている。実在の人物、杉田玄白がモデル。
杉田 糸 (すぎた いと)
杉田玄白の娘。短髪で、黒いタートルネックのシャツと五分丈のズボンを着用し、黒い足袋を履いている。あまり感情を表に出すことがないため、はたから見ると冷たい印象を受ける。しかし根は優しく仲間想いで、正義感の強い女性。富士見喜亀之介の仲間で、剣術に長け、レイピアという西洋の突剣を武器に戦う。
田沼 意次 (たぬま おきつぐ)
幕府の老中を務める男性。黒髪を大銀杏に結い、顎にひげを生やし、着物を着用している。政治よりも女遊びが大好きで、女郎屋によく入り浸っている遊び人。かつて富士見喜亀之介たちに命を救われたことがあり、それがきっかけで、喜亀之介たちにオランダ商館長であるマルコ・ファン・フェレンの護衛を依頼した。のちに、杉田玄白が日本語訳して出版したいと考えているオランダの医学書「ターヘルアナトミア」を国内で出版する許可を出す。 実在の人物、田沼意次がモデル。
長谷川 平蔵宣以 (はせがわ へいぞうのぶため)
本所勤めの男性。黒い短髪で、旋毛の辺に小さな髷を結っている。黒装束に身を包み、左肩に甲冑、両腕に鉤爪の付いた小手を装着し、ネックウォーマーのような物を首に巻いている。身の丈ほどもある長い槍を自由自在に使いこなす槍の達人。本所では先手組に配属されており、部下を率いて江戸の街の警備をしている。現在は長崎屋で刃傷沙汰があったため、下手人を探している最中。 富士見喜亀之介とは旧知の仲で、喜亀之介からは「テツ」と呼ばれている。得意技は真剣を素手で受け止める「真剣白羽取り」。実在の人物、長谷川宣以がモデル。
富士見 富鶴之介 (ふじみ ふかくのすけ)
武家の家系である富士見家の長男。黒い短髪で、旋毛の辺に小さな髷を結っている。黒の四角いフレームの小さな眼鏡をかけ、着物を着用している。富士見喜亀之介の兄で、老中・田沼意次に奉公している。長男ゆえに奉公の身になった自分とは違い、自由気ままに将来を選択することが許されている弟の喜亀之介のことを羨ましく思っている。 腰が低く、引き受けた仕事は誠実に最後までまっとうする殊勝な性格。喜亀之介とともに意次に呼ばれ、オランダ商館長マルコ・ファン・フェレンの近辺の警護を任されることになる。
柳生 宗俊 (やぎゅう むねとし)
武家の家系である柳生家の長男。柳生十三の長兄にあたる、柳生家の正統な後継者。長い髪をオールバックにしていて、着物を着用している。プライドが高く、生真面目で毅然とした性格のため、再び柳生家が将軍家の指南役に返り咲かなければならないと考えている。職にも就かずに街をブラブラと遊び歩く富士見喜亀之介のことを快く思っておらず、そんな喜亀之介とつるんで親しくしている十三を柳生家の恥さらしだと思っている。
マルコ・ファン・フェレン (まるこふぁんふぇれん)
オランダ商館長の男性。背が高く、短髪で鼻の下と顎にひげを生やし、洋装を着用している。杉田玄白にオランダの医学書「ターヘルアナトミア」の最新版を渡すために日本へ来航した。しかし、小田原沖に着港した際に何者かに襲われたため、田沼意次を頼り、富士見喜亀之介に護衛をしてもらうことになった。何度も来航していることもあって、片言の日本語をしゃべることができるが、日本の風習にはあまり慣れていない。
一橋 治済 (ひとつばし はるさだ)
一橋家当主の男性。頭頂部で髷を結い、着物を着用している。オランダの医学書「ターヘルアナトミア」の日本語版を出版して、国内の医療レベルを上げようとしている杉田玄白の動きを阻止しようと考えている。そのため、ポルトガルの宣教師ガスパルに、オランダ商館長マルコ・ファン・フェレンから「ターヘルアナトミア」の最新版を奪って来るよう依頼する。 実在の人物、一橋治済がモデル。
多紀 法源 (たき ほうげん)
医学館頭取の男性。頭髪はなく、口の周りともみあげから顎にかけてひげを蓄え、着物を着用している。医学館の影の御意見番と呼ばれるくらいに国内の医学関係での影響力が大きい。杉田玄白が日本語訳したオランダの医学書「ターヘルアナトミア」の国内での出版を、田沼意次が許可したことを快く思っておらず、何とかして出版を差し止められないかと画策している。
ガスパル
ポルトガルの宣教師の男性。白髪を茶筅髷に結って、鼻の下にひげを生やし、スータンを着用して黒いマントに身を包んでいる。一橋治済と交流があり、治済に依頼され、神父のミゲルと多くの部下を連れて大量の銃を携え来航。オランダ商館長マルコ・ファン・フェレンが来航の際に持参したオランダの医学書「ターヘルアナトミア」の最新版を奪おうと狙っている。
ミゲル
黒人の神父の男性。背が高く黒い短髪で、サングラスをかけ、スータンを着用している。身の丈ほどもある黒い銃と刀を所持している。銃と剣の扱いに長けていることを評価され、ガスパルに雇われている。ガスパルの指示で、オランダ商館長マルコ・ファン・フェレンが来航の際に持参したオランダの医学書「ターヘルアナトミア」の最新版を奪おうと狙っている。
ヤコ
町人の娘。長い黒髪を島田髷にして髪飾りを付け、前髪を目にかからないくらいの長さで下ろして、花柄の着物を着用している。数か月前から病気を患って家で寝込んでおり、薬代を稼ぐために父親が昼夜問わず働いている。しかし、薬を飲んでも治るどころか日に日に悪くなる一方で、生死の境を彷徨っている。喜多川ウタと仲が良く、よく懐いている。
ヤコの父親 (やこのちちおや)
ヤコの父親。黒髪を銀杏髷にし、着物を着用している。娘思いの父親で、ヤコが数か月前から病気を患って家で寝込んでおり、ヤコの病気に良く効くと御影薬局の店主に言われた高額な「青竜紫胡湯」という薬を購入するため、昼夜問わず身を粉にして働いている。しかし、薬を飲ませ続けてもヤコの病気は一向に回復の兆しを見せず、むしろ悪化して生死の境を彷徨っている。
御影薬局の店主 (みかげやっきょくのてんしゅ)
御影薬局の店主の男性。黒髪を銀杏髷にし、着物を着用している。団子鼻で厚い唇が特徴。悪知恵の働く悪党で、ヤコの父親が娘のために薬を買い求めに来た際、豆の粉末をヤコの病気に効く特効薬「青竜紫胡湯」だと嘘をつき、以降金を騙し取り続けている。
集団・組織
柳生家 (やぎゅうけ)
武家の一族。家康公の剣術指南役を務めたのがきっかけで、その後、代々将軍に剣術を指南する役を務め続けていた。しかし、戦のない平和な世の中になった現在ではその役から外れている。今でもなお柳生家代々の道場は剣の名門と見なされている。世間ではその功労を褒め称えられており、特に現在の正当な柳生家の後継者で、世間からの評判も高い柳生宗俊は、道場の門下生からも慕われている。 反対に、世間ではチンピラ呼ばわりされて評判の悪い富士見喜亀之介と親しく、よく行動をともにしている柳生十三は、道場の恥さらしだと道場の門下生から陰口を叩かれている。
場所
御影薬局 (みかげやっきょく)
御影薬局の店主が経営している薬屋。店の表には「御影薬局」と書かれた大きな暖簾が垂れ下がっている。街の人々からは「ミカゲ薬局」と漢字表記ではなく、カタカナ表記の名称で親しまれている。店主は悪知恵の働く悪党で、客によっては豆の粉末を特効薬と言って高額な薬代を騙し取っている。
長崎屋 (ながさきや)
日本に来航して来た外国人使節が御用達の宿。大きな日本家屋で、屋内の廊下は板張り、室内は畳が敷きつめられている。宿泊する外国人を襲撃しようとする者が多いため、護衛が雇われることも多い。オランダ商館長マルコ・ファン・フェレンが来航してこの宿に宿泊する際には、田沼意次からの依頼で富士見喜亀之介が護衛をすることになった。
その他キーワード
ターヘルアナトミア
オランダの医学書。内容は不確実な要素も多く、これをもとに手術などを行うには危険な部分も含まれている。しかし、精密な図版が多く掲載されており、日本では未だ治療のできない病気の治療法までもが記されている。杉田玄白は、この「ターヘルアナトミア」を医学の未来を担う書だと考えており、いよいよ出版を目前にしたところで内容に不備があることが発覚。 結果、玄白はオランダ商館長マルコ・ファン・フェレンが来航する際に最新版を持ってきてもらい、改めて出版の準備にとりかかろうとしている。
クレジット
- 原案
- 原作
-
富沢 義彦