「坊っちゃん」の時代

「坊っちゃん」の時代

夏目漱石が、明治38年(1905年)11月から翌年にかけて、若い友人や文学仲間などに刺激を受け、薩長閥や西欧文明に翻弄される日本の行く末を案じながら、『坊っちゃん』という中編小説を書き上げるまでの経緯を、世相・風俗を交えて描いた歴史漫画。原作関川夏央。漱石研究者が提示する『坊っちゃん』の成立過程と、違った視点をとっている。第2回手塚治虫文化賞受賞(1998年)。続編に『「坊っちゃん」の時代 第二部・秋の舞姫』(以下『「坊っちゃん」の時代』省略)『第三部・かの蒼空に』『第四部・明治流星雨』『第五部・不機嫌亭漱石』がある。

正式名称
「坊っちゃん」の時代
ふりがな
ぼっちゃんのじだい
作画
原作
ジャンル
時代劇
 
自伝・伝記
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概要・あらすじ

明治38年(1905年)11月、夏目漱石は酒場での縁で知り合った若い友人たちに、新しい小説の構想を語る。題は『坊っちゃん』であった。東京帝大・一高、明治大学で英文学の講師をしていた漱石だったが、西欧文明に侵食されていく日本を憂えていた。文学仲間である森鴎外と夭折した樋口一葉を偲び、新しい女平塚らいてう森田草平の恋を訝しみ、長州閥の山県有朋が主宰する歌会に出席し、講道館で江戸っ子が洋行帰りに倒されるのを見て、ますますこの国の行く末を哀しく想い、『坊っちゃん』を書き上げるのだった。

登場人物・キャラクター

夏目 漱石 (なつめ そうせき)

英国留学で神経を患い、親戚を含めた家族を養うために東京帝大・一高、明治大学で英文学の講師をしている。明治38年(1905年)11月で満38歳10ヶ月。ビヤホールで太田仲三郎、堀紫郎、森田草平、荒畑寒村らと知り合う。彼らの動向や文学仲間、政治関係者の姿を元に、『坊っちゃん』という小説を書く。 実在の人物である夏目漱石がモデル。

太田 仲三郎 (おおた ちゅうざぶろう)

銀座尾張町のビアホールで、夏目漱石と知り合う。明治大学の学生で、かつ人力車夫。18歳の江戸っ子の青年。講道館で柔道を学んでおり、山県有朋主宰の柔道大会で、伊集院影韶と優勝を争う。この作品中では、彼が『坊っちゃん』の主人公のモデルとされる。 晩年に、自分こそ『坊っちゃん』のモデルであると主張した手記『明治蹇蹇匪躬録』(めいじ けんけん ひきゅうろく)を出版した(『「坊っちゃん」の時代』という作品の原作は、この本を元にして書かれた、とあとがきで関川夏央は記している)。

堀 紫郎 (ほり しろう)

銀座尾張町のビアホールで、夏目漱石と知り合う。30歳の侠客で、義侠心に富み、会津藩出身で、薩長が嫌い。東北訛りで喋る。東京専門学校(後の早稲田大学)で、坪内逍遥にシェークスピアを習った、と話したこともある。小泉八雲の思い出を語り、八雲が東京帝大英文学の教師を追われた顛末を漱石に教える。 この作品中では、彼が『坊っちゃん』の「山嵐」のモデルとされる。

森田 草平 (もりた そうへい)

銀座尾張町のビアホールで、夏目漱石と知り合う。21歳。第一高等学校(一高)生徒。平塚明子と激しい恋をしたが、警視伊集院影韶に奪われる。後に実家に戻る。この作品中では、彼が『坊っちゃん』の「うらなり」のモデルとされる。史実でも彼は夏目漱石の弟子として有名だが、この作品中の森田は、史実と少しずらしてあると思われる。 実在の人物である森田草平がモデル。

荒畑 寒村 (あらはた かんそん)

銀座尾張町のビアホールで、夏目漱石と知り合う。19歳。横須賀海軍工廠で職工をしていた。作品後半で、和歌山の新聞社に仕事が決まり、漱石宅に挨拶に赴いて仲間たちと宴会をしたのちに離京する。史実での彼は、社会主義者として有名。実在の人物である荒畑寒村がモデル。

(ねこ)

明治37年6月に夏目漱石の家に入り込んできた、足の裏まで真っ黒なオスの黒猫。足の裏まで黒い猫は古典でいうところの福猫だと、出入りの者に言われてから、漱石夫人自ら餌を与えるようになった。漱石は、この猫に想を得て『吾輩は猫である』を「ホトトギス」に連載する。 明治41年まで生きる。最後まで名前はなかった。実在の漱石の飼い猫がモデル。

小泉 八雲 (こいずみ やくも)

1850年生まれで明治23年に来日、翌年小泉節子と結婚、明治29年に日本に帰化し、同じ年に東京帝大の英文学講師となる。明治36年にその職を追われ(後任は、夏目漱石)、翌明治37年9月に狭心症で死去。享年54歳。『怪談』で有名。実在の人物である小泉八雲がモデル。

森 鴎外 (もり おうがい)

1862年生まれで、この物語の中では43歳。帝国陸軍軍医部長にして小説家。作品中で、夏目漱石は鴎外と会った際、鴎外が樋口一葉の中の「江戸」を賞賛するのを聞き、「西洋に学びつつ西洋と距離を置く知識人」が自分だけでないことを知り、安堵を得る。山県有朋主宰の椿山荘の歌会にも、漱石と鴎外は出席し、政治家たちの文才の無さに辟易している。 実在の人物である森鴎外がモデル。

樋口 一葉 (ひぐち いちよう)

女流小説家。明治29年に、結核により24歳で死去しているため、作品中では回想シーンにしか登場しないが、「旧時代(江戸)の詩魂」を持つものとして、森鴎外と夏目漱石に評価されている。この作品中では、彼女が『坊っちゃん』の「清」のモデルとされる。実在の人物である樋口一葉がモデル。

平塚 らいてう (ひらつか らいちょう)

のちに、思想家・女性解放運動家となる。森田草平と熱烈な恋に落ちるが、すぐに権力と知力にあふれる警視庁警視伊集院影韶に乗り換える。この作品中では、彼女が『坊っちゃん』の「マドンナ」のモデルとされる。史実では平塚と森田の初デートは明治41年である(その後心中未遂事件を起こす)。 実在の人物である平塚らいてうがモデル。

伊集院 影韶 (いじゅういん かげあき)

東京警視庁警視で、フランス留学経験者。夏目漱石と、留学中に知り合っている。山県有朋の覚えもめでたく、次期警視総監との話もある。柔道も四段で、知力・体力・権力全て持ち合わせたパワーエリート。それゆえ非常に傲慢。「和魂洋才」を説く。平塚らいてうを森田草平から奪う。 この作品中では、彼が『坊っちゃん』の「赤シャツ」のモデルとされる。

山縣 有朋 (やまがた ありとも)

内閣総理大臣を二度経験した明治維新の功労者で、日本陸軍の父親的存在。長州出身。明治38年の作品中では63歳。夏目漱石や森鴎外が参加した歌会や、柔道大会などを主催している。文学的才能は、全くないように描写される。この作品中では、彼が『坊っちゃん』の「中学校校長(狸)」のモデルとされる。 実在の人物である山縣有朋がモデル。

桂 太郎 (かつら たろう)

長州出身で、明治38年の作品中では内閣総理大臣。山縣有朋にへつらって陸軍で出世したと言われる。夏目漱石や森鴎外が参加した歌会で、首相なのに山縣有朋のご機嫌を伺っているような描写がなされている。この作品中では、彼が『坊っちゃん』の「野だいこ」のモデルとされる。 実在の人物である桂太郎がモデル。

島崎 藤村 (しまざき とうそん)

小説家で、明治39年3月に『破戒』を発表する。作中では伊集院影韶と平塚らいてうが知り合ったとされる、文学の会合で登場する。島崎が三人の子供を栄養失調で亡くしたことを伊集院がなじり、平塚が妻を文学の犠牲にするなと罵る。島崎は小さい声で「生意気女」とつぶやくのが精一杯、という描写であった。 実在の人物である島崎藤村がモデル。

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