概要・あらすじ
侍から一代で大きな財を築いた高天原子爵家の嫡男、高天原紫蓮はとても美しい青年で、由緒ある家柄の娘たちとの見合い話が後を絶たない。本人はまったく興味がなく飽き飽きしていたところ、親友の黒栖聖に「気晴らしに闇市に行かないか」と誘われる。高貴な身分でありながら闇市などという下賤なところに出入りする聖を咎める紫蓮だったが、結局は押し切られ一緒に出かけることになる。
そこで行われていた女衒の競りで、外国人との混血の少女を見つけた紫蓮は、「父上に知られたらどうするんだ」と制止する聖を振り切り、壱萬円で少女を落札。泥にまみれて最下層で生きてきた人間をどこまで変えられるか知りたいという、ほんの一時の気まぐれで少女を屋敷に連れ帰るのだった。
こうして少女は「真珠」と名付けられ、さまざまな躾を施されていくこととなる。
登場人物・キャラクター
真珠 (しんじゅ)
外国人との混血の少女。周りと違う容姿のせいで、育ての親から虐待を受けたり、近所の人にも冷たくあしらわれるなど辛い幼少時代を送っていた。闇市で売られていたところを高天原紫蓮に買われ、白く美しいその姿から、「真珠」と名付けられる。初めて自分のことを美しいと褒めてくれた紫蓮の、「どこに出しても恥ずかしくないように育ててやる」という言葉を信じ、さまざまな躾を受けて育つ。 明るく無邪気な性格だが気性の荒い一面もあり、紫蓮と衝突することもしばしば。そのたびに、黒栖聖や三沢に仲裁されている。
高天原 紫蓮 (たかまがはら しれん)
高天原子爵家の嫡男。とても美しい青年だが社交界が嫌い。見合い話が後を絶たず、断った見合いの数は150を下らないという。体の弱かった美しい母親には愛してもらえず、母親の愛した人形にそっくりの少女を闇市で買い、一人前のレディに育てるためという名目で淫らな手ほどきをする。母親のことを大切にせず、家にもめったに帰ってこなかった父親をとても嫌っている。 黒栖聖とは幼い頃からの親友。
黒栖 聖 (くろす せい)
由緒ある黒栖伯爵家の跡取り。高天原紫蓮とは同級生で、幼い頃から紫蓮の守り役としていつも側にいた。紫蓮とは対照的に社交好きで、美しいものや華やかなものは何でも大好きなフェミニスト。すなわち、美しい紫蓮や真珠のことも大好き。高貴な家柄の生まれにもかかわらず奔放なところがあり、闇市や吉原に頻繁に出入りしている。こちらも見合い話が後を絶たないが、紫蓮のことを思ってか、独身を貫いている。
花里 (はなさと)
遊女屋「万松楼」の二枚目花魁。真珠が高天原紫蓮と初めての大喧嘩をして家出をした際、「万松楼」の女将に、しばらく住まわせてもらえるように話を通してくれた。長い黒髪と整った顔立ちで、美しいだけではなく芯がとても強く、住まわせてもらうなら自分の食い扶ちは自分で稼がなければならないと、真珠を店に出す。
飛鷹 悠俐 (ひだか ゆうり)
黒栖伯爵家と親交のある、飛鷹侯爵家の嫡男。14歳にしてバラの栽培や品種改良を趣味としており、新種のバラを作り出すほど傾倒している。黒栖聖と高天原紫蓮に連れられてきた真珠に出会って一目惚れし、翌日早速仕立て屋に頼んで服を作らせ、プレゼントするほど情熱的な一面を持つ。真珠が紫蓮にひどい扱いを受けているのを目撃してしまい、彼女を助けたい一心で2万円で真珠を譲ってくれないかと申し出る。
佐伯 熾暮 (さえき しぐれ)
真珠と同じ、混血の青年。画家で、その美貌と絵の才能で若宮侯爵の寵愛を受けている。父親も画家であったが、なかなか売れずにのたれ死んだため、世間から奇異の目を向けられようと、貴族の愛人として優雅に生きる道を選ぶ。自らの容姿に強いコンプレックスを持っているが、その容姿がなければ自分たちは愛されないと思い込んでいる。
三沢 (みさわ)
高天原子爵家に仕える執事で、物腰の柔らかな初老の男性。高天原紫蓮が小さな頃からずっと高天原の家に仕えているため、紫蓮も信用を置いている。いきなり闇市で真珠を買って戻ってきた紫蓮を咎めることもせず、紫蓮の思うこと、やりたいことを実行するため、手助けをすることをいとわない。真珠に対しても優しく誠実に接することから、真珠にも信頼を置かれている。
園 (その)
下賤の女性で、真珠の育ての母親。過去に一度流産しており、まだ乳児だった真珠が捨てられていたのを見過ごせずに拾って育てた。真珠が異人との混血の子だったために周囲から迫害を受けており、人買いに売った過去がある。街で高天原紫蓮と買い物中だった真珠を見て「捨」と呼び、高天原の屋敷を訪ねてくる。もう一度真珠と共に暮らしたいと紫蓮に話し、真珠を引き取ろうとする。
ネイサン・ヴァレンタイン (ねいさんゔぁれんたいん)
英国艦隊の提督。15年前、英国海軍士官候補生だった頃に英国へ滞在していた高天原子爵の妻と知り合い、人妻と知りながらも恋に落ちる。身分も年の差もある恋でしかも相手が既婚者だったため、その恋は叶わなかったが、年月を経て英国艦隊の提督としてまた来日する。真珠に今は亡き想い人の面影を重ね、英国に連れて帰りたいと申し出る。