地球を呑む

地球を呑む

世の中すべてへの復讐を企てる謎の美女ゼフィルスと、その美貌の虜になって操られる男たちが引き起こす陰謀に、無類の飲んだくれ男の関五本松が行き当たりばったりで巻き込まれていく姿を描く冒険活劇。「ビッグコミック」1968年4月号から1969年7月25日号まで掲載された作品。

正式名称
地球を呑む
ふりがな
ちきゅうをのむ
作者
ジャンル
アドベンチャー
レーベル
手塚治虫文庫全集(講談社コミッククリエイト)
関連商品
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あらすじ

第1巻

昭和17年8月、関五本松安達原は、ガダルカナル島で捕縛した捕虜にゼフィルスと呼ばれる女性の写真を見せられてからというもの、彼女の虜になってしまう。戦争が終わり、20年という年月が経ってもその想いが消える事はなく、五本松と安達原はゼフィルスの消息を探していた。すると、五本松は日本のホテルでゼフィルスの娘の一人ミルダ・ゼフィルスに遭遇。ミルダは「LSD」という幻覚剤を酒に混入させ、持ち前の美貌で五本松を誘惑して殺そうとするが、五本松は何とかこの窮地を脱する。命の危機があると判断した五本松は、彼女の調査を中止しようとするが、安達原がこれを許さない。結果、五本松は彼女の素性をより詳しく知るべく、マムウ共和国を訪れると、さらなる危機に直面する。一方、ゼフィルスと名乗る七人の姉妹達は、男によって人生を狂わされて死に至った母親ゼフィルスの三つの遺言に従い、世界に復讐しようとしていた。しかし、五本松を殺し損ねたうえ、彼に恋をしたミルダは、ゼフィルスの遺言の一つである「男に復讐する」という約束を破り、ほかの姉妹達に不信感を持たれる。

第2巻

モンテ・クリトスが開発した人工皮膚デルモイドZは、罪人や殺し屋が簡単に他人になりすませるため、大きな社会問題となっていた。人工皮膚デルモイドZの使用を法律で禁止しようとしたが、すでにそれは叶わない状況だった。こうしてゼフィルスの遺言の一つである「世界中の道徳や法律を混乱させる」は奇しくも果たされる事となる。遺言の残る一つである「お金を滅ぼす」を完遂させるため、ゼフィルスの娘達は世界中に金塊をばら撒く事を計画する。しかし、これを阻止しようと考えるモンテとミルダ・ゼフィルスは、マムウ共和国を脱出して日本へ戻って来た関五本松に協力を求める。そんな中、ついにマムウ共和国秘蔵の金塊が世界中にばら撒かれ、世界はさらに混乱状態になっていく。これにより紙幣が価値を失った東京では、人口が一気に減少してしまう。五本松はミルダと共に酒を売って生活をしていたが、姉妹達によって殺され、ミルダはマムウ共和国に連れ戻されてしまう。そして月日が流れ、マムウ共和国を訪れた五本松とミルダの二人のあいだに授かった息子・関六本松は、ミルダを連れ出し、マムウ共和国を壊滅させる計画を立てる。

登場人物・キャラクター

関 五本松 (せき ごほんまつ)

なによりを酒を愛する無類の飲んだくれ。あまり物欲がなく、日雇いの仕事で稼いだ金のほとんどを父親に渡し、細やかな小遣いで毎日酒を飲む気ままな暮らしを送っている。安達原からの依頼を受けてゼフィルスを探るうちに、世界秩序を破壊させようとする彼女の陰謀に巻き込まれていく。周囲の男たちがゼフィルスの虜になるなか、ただ一人ゼフィルスの魅力が通じない稀有な人物。

ゼフィルス

夫に騙されて父親を失った女性。彼女の夫は、第二次世界大戦中にヒトラー政権に協力するため、科学者だった彼女の父親に近づく手段としてゼフィルスと結婚したのだった。父親の死後、7人の娘を連れて姿を消した。自分の一生をめちゃめちゃにした世の中全部を恨んでおり、人間の文明社会、特に自分を踏みにじった男たちに復讐をするよう娘たちに言い残した。

関 市松 (せき いちまつ)

関五本松の父親。第二次世界大戦中、脱走した捕虜から渡されたゼフィルスの写真を見て心を奪われた。戦争後は身を持ち崩し、その日暮らしを送っている。今でもゼフィルスを忘れられずにおり、妻には逃げられてしまった。ゼフィルスが日本に現れたと安達原から聞かされ、調査のために五本松を貸し出した。

安達原 (あだちがはら)

関市松と共に、捕虜から渡されたゼフィルスの写真を見て以来、彼女に囚われている男性。戦争後は自らが経営する安達原コンツェルンを、日本の五大企業体のひとつにまでに成長させた。取引先からゼフィルスと名乗る女が日本にいるという情報を得て、市松に相談して彼の息子である関五本松に調査をさせる。

安達原 ナナ (あだちがはら なな)

安達原の娘で、アマチュアカメラマン。父親に頼まれて、ゼフィルスを探る関五本松の監視をしていた。野末風太郎とは異母兄妹だが、芸者に生ませた子供である風太郎を嘲っていた。世界経済の混乱が原因で父親が破産しかけた際には風太郎に助けて欲しいと懇願し、代償として肉体を要求される。

モンテ・クリトス (もんてくりとす)

安達原の会社に、人工皮膚デルモイドZを持ち込んだ科学者。正体を明かさないことを条件に、人工皮膚デルモイドZの特許権利を無償で譲ると申し出た。自分自身も人工皮膚デルモイドZを常に身にまとっており、素顔を明かさない。実はゼフィロスの協力者で、全世界に人工の顔をあふれさせることで犯罪者が自由に活動できるようにして、犯罪を蔓延させようと目論んでいる。

H・H・ブリード

ブリード財団の会長。5千億ドルの財産を持つ、世界有数の大金持ち。ゼフィルスと出会い、すっかり魅了されてしまう。伝説のムウ大帝国の末裔だと主張するゼフィルスが、証拠として渡した調度品が純金であると知り、ゼフィルスの母国であるマムウ共和国に埋まっているとされるムウ大帝国の財宝の発掘事業に全力を傾ける。ゼフィルスの魅力が通じない関五本松に興味を持ち、親交を結ぶ。

ダンウィッチ

ゼフィルスの部下。マムウ共和国の殺し屋。ゼフィルスに命じられ、マムウ共和国に捕らえられていた関五本松を始末しようとして返り討ちにあった。逃げ出した五本松を殺すため、五本松が流れ着いた太平洋の小島にまで追いかけていく。

ミルダ・ゼフィルス (みるだぜふぃるす)

ゼフィルスの7人の娘の一人。ゼフィルスの娘たちを代表して日本に来ていた。自分を探る関五本松を始末しようとしたが、魅力が通じない五本松に心を乱され、戸惑いながらも魅かれていく。ゼフィルスの陰謀とその正体を知った五本松を殺そうとする姉妹から五本松をかばったため、裏切り者として処罰される。

村長 (そんちょう)

マムウ共和国から逃げ出した関五本松が流れ着いた、太平洋上の小島にある村の村長。村にある酒を飲んでしまった五本松を殺そうとしたが、五本松が逃亡に使った飛行機を差し出され、村に受け入れる。村にはお金がなく、欲しいものは物々交換で手に入れる。文明から遠く離れているが、奪い合いも憎しみもない暮らしを誇りに思っている。 自らをムウ民族の子孫と語る。

大泉 京介 (おおいずみ きょうすけ)

安達原コンツェルンの研究所で働いている。東京大学を卒業し助教授になった自分に誇りを持っており、プライドが高い。同郷のよしみで俵了二を下宿に住まわせているが、奇妙な敵意を感じ取っており、冷戦状態になっている。ハーバード大学に留学する費用を手に入れるため、人工皮膚デルモイドZを用いて了二に変装し、銀行強盗をしようと企んだ。

俵 了二 (たわら りょうじ)

同じ福岡出身というよしみで、大泉京介の下宿に居候している。人工皮膚デルモイドZ専門のクリーニング店で働いており、助教授であることを鼻にかける京介に見下されている。人工皮膚デルモイドZの配達先でモンテ・クリトスの正体を見てしまうが、境遇を聞かされて同情し、広く世間に訴えることはしなかった。京介の後をつけ、自分を犯人に仕立て上げて金を手に入れようとしているのを知る。

チャーリイ

人工皮膚デルモイドZを身に着けて顔を隠し、殺人を請け負っている殺し屋。内輪もめで仲間を殺してしまい、行方をくらますために故郷へと帰る。替え玉として置いてきた、自分の顔の人工皮膚を被せた偽物のチャーリイが、今も家族と暮らしていることを知る。その時に、逃亡中に行き倒れた関五本松を家族が世話しているのを目撃し、マムウ共和国の追っ手に密告する。

ヘンリー・オネガー (へんりーおねがー)

石油井戸のある小島で、一人きりで暮らす青年。石油はすっかり枯れてしまい、今では一滴も湧かなくなっている。父親は失意のうちに10年前この世を去った。また元のように石油を噴出させてみせるという野望を持ち、執念深くボーリングを続けている。ある日金の混じった水が湧き、大量の金が降り注ぐようになる。しかしそれは、ゼフィルスたちが湖の底に隠した金塊が地下水脈を通じて流れ込んだものであった。 調査に来たリーザ・ゼフィルスと出会いひと目で魅かれる。

リーザ・ゼフィルス (りーざぜふぃるす)

ゼフィルスの7人の娘の一人。ヘンリー・オネガーが掘り当てた金を調査するため家に訪ねていき、ひと目で魅かれあう。ゼフィルスの娘たちは、金塊を世界中にばらまいて金の価値を暴落させ、世界経済を混乱させる企みを持っていたため、ヘンリーに金を持っていても無駄だと忠告する。

マナベ

エール市立病院に勤める精神科の医師。ゼフィルスの企みにより国際経済が破たんし、財産を一夜で失い精神のバランスを崩した人々が急増したため、次々と新しい患者が運ばれてきてパンク状態になっているのを憂慮している。患者の一人であるジャネット・バルーンに秘かに恋心を抱き、ジャネットの精神的な要因による健忘性失語症を治療しようと奮闘する。

ジャネット・バルーン (じゃねっとばるーん)

マナベの勤務するエール市立病院に入院している女性。健忘性失語症を患っており、なにもかも忘れて言葉を話すことができない。懸命に治療してくれるマナベを信頼し慕っている。病気の原因となった心の傷を探るため、自分の脳波とマナベの脳波を交流させるという危険な治療法を受け入れる。

野末 風太郎 (のずえ ふうたろう)

一等陸佐の青年。安達原が惚れた芸者が嫌がっていたにも関わらず、金の力で強引にものにした結果生まれたため、安達原ナナとは異母兄妹ながら「金が生ませた子」と蔑まれていた。世界経済が破たんした後は立場が逆転し、安達原を破産から救う代わりに、自分と寝るようにナナに要求する。経済が破たんし混乱する世界に治安をもたらすべく、不穏分子の弾圧と殺害を主張している。 ゼフィルスに扮して現れたミルダ・ゼフィルスに心を奪われ、彼女の行方を求めて関五本松を捕まえ、拷問した。

関 六本松 (せき ろっぽんまつ)

関五本松とミルダ・ゼフィルスの息子。ゼフィルスの娘たちが巡らした陰謀により変貌した後の世界で、船長として世界の海を股にかけている。やや粗暴な面があり、ゼフィルスの娘たちに危険視されている。五本松によく似ており、かなりの酒飲み。

場所

マムウ共和国 (まむうきょうわこく)

ゼフィルスの娘達が住む国。ムー大陸が滅びたあと、その末裔が築いた国ともいわれている。国には秘蔵の金塊が大量に眠っており、ゼフィルスの娘達は、「お金を滅ぼす」という母親の遺言の一つを達成するため、世界中にばら撒いた。

その他キーワード

人工皮膚デルモイドZ (じんこうひふでるもいどぜっど)

ゼフィルスの陰謀を実現するためにモンテ・クリトスが開発した、合成樹脂で作られた人工皮膚。毛穴のひとつひとつまで緻密に再現されている。簡単に他人に変身できるため、犯罪者が野放しにされ世界の秩序を崩壊させる一助となった。

書誌情報

地球を呑む 講談社コミッククリエイト〈手塚治虫文庫全集〉

(2012-02-10発行、 978-4063738865)

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