塩の街 ~自衛隊三部作シリーズ~

塩の街 ~自衛隊三部作シリーズ~

有川ひろの小説『塩の街』のコミカライズ作品。ある日、東京湾に巨大な白い隕石が落下したことがきっかけで、突然人間が塩と化す怪現象「塩害」が発生する。崩壊寸前の東京で、女子高校生・小笠原真奈と元自衛官・秋庭がさまざまな人と出会い、生きること、死ぬこと、人を愛することの意味を問うヒューマンドラマ。白泉社「LaLa」2021年10月号から掲載の作品。

正式名称
塩の街 ~自衛隊三部作シリーズ~
ふりがな
しおのまち じえいたいさんぶさくしりーず
原作者
有川 ひろ
作者
ジャンル
ヒューマンドラマ
 
終末・ディストピア
レーベル
花とゆめコミックス(白泉社)
巻数
既刊4巻
関連商品
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あらすじ

舞台は東京。塩害の被害で塩が町を埋め尽くし、町中に立ち並んだ塩の柱はもはやなんの変哲もないただの風景となっていた。日本全土で突如として始まった塩害は、関東圏の人口を三分の一まで減らし、人々の生活を破綻させた。政府も壊滅状態で、日々を無事に過ごすことが精一杯の中、塩害が起こる原因も予防方法もわからず、突然塩になって死んでしまうかもしれないという恐怖に怯えながら、人々の秩序は失われ、世の中は混沌としていた。そんなある日、自らの保護者的存在の秋庭と共に暮らしている女子高校生・小笠原真奈は、行き倒れた男性・谷田部遼一を助ける。巨大なリュックサックを背負った遼一は、空腹で倒れそうな状態ながら、海を目指して再び歩き出そうとしていた。しかし真奈は、そんな遼一を放っておくことができず、秋庭の部屋へ連れて帰ることを決める。真奈が見知らぬ人間を連れて帰ったことで、秋庭は全力で拒絶しようとするが、なんだかんだと文句を言いながらも遼一を部屋に招き入れ、食事を振る舞う。まともな食事自体しばらくぶりだった遼一は、勢いよく食事を平らげ、感謝と共に自分のことを語り始め、海に行くことが目的で地元群馬から旅を始めたという。温かくきれいな海に行きたいという遼一の言葉に、秋庭は由比ヶ浜に行くことを提案。真奈からの助けを求めるような目に負け、仕方なく秋庭は車で遼一を由比ヶ浜まで送ることを決める。

塩害

小笠原真奈塩害の被害により、とあるトラウマを抱えていた。谷田部遼一トモヤが、塩害の被害を受けた姿を目の当たりにした真奈は、笑っていても突然涙を流すなど、明らかに心が不安定になっていた。秋庭が心配する中、真奈は塩害が始まった当初のことを思い起こしていた。それは冬の初めのことだった。発熱して学校を休んだ真奈は、夜中にテレビの緊急ニュースで世の中が異常事態に襲われていることを知る。通勤ラッシュの時間帯に、東京湾に落ちた白い巨大隕石によって人々がその姿のまま塩と化し、動かなくなってしまったという。その日から帰宅しない両親のことを心配しながらも、真奈は平静を保ちつつ引きこもり生活を続けるが、両親の死を認めたくない気持ちから、あえて両親の携帯電話に連絡を取ることはなかった。異変から2週間後にようやく外出した真奈は、初めて世界が激変していることを実感する。ライフラインは壊滅状態で、どこにも助けを求めることができずに、配給所でもらった食料を消費しながら、2か月が過ぎた頃。女子高校生が一人で住んでいることを聞きつけた男たちが真奈の家に押し入ろうとし、危険を察した真奈は自宅から逃げ出した。そんな中、真奈は再び暴漢から路地裏に引き込まれ、三人組の男に襲われたが、そこを偶然通りかかったのが秋庭だった。秋庭は男たちをあっという間に叩きのめすと、帰るところがないと話す真奈を自宅に連れ帰り、何も聞かずに家に住まわせることにした。一方の真奈もまた、これまでに起きたことを口にするとすべてが現実になってしまう気がしたため、何も考えないように感情に蓋をすることで現実から目を背け続けてきた。しかし、遼一やトモヤと出会ったことで、初めて人が塩になる姿を目の当たりし、塩害の恐ろしさをあらためて知った真奈は、自分の両親もこの被害に遭っている可能性が高いことに絶望する。これをきっかけに真奈は、これまでの経緯を秋庭に語り、ようやく現実に目を向けることができた。そして心の底から涙を流したことで、自分を取り戻した真奈は一度自宅に帰ることを決意する。

関連作品

本作『塩の街 ~自衛隊三部作シリーズ~』は、有川ひろの小説『塩の街』を原作としている。もともとはメディアワークス「電撃文庫」から『塩の街 wish on my precious』のタイトルで刊行され、のちに大幅に改稿されたうえで番外編の短編四篇を加えたハードカバー版『塩の街』が、同じくメディアワークスから刊行された。その後、角川書店「角川文庫」から文庫版『塩の街』が刊行されている。小説『塩の街』は、その後メディアワークス、角川文庫より刊行された有川ひろの小説『空の中』『海の底』と共に自衛隊三部作シリーズとされている。

登場人物・キャラクター

小笠原 真奈 (おがさわら まな)

女子高校生で、年齢は18歳。おとなしい性格で理性的ながら、お人よしなところがあり、見て見ぬ振りができない性質で、困っている人を見過ごすことができない。もともとは両親と三人で南千住にあるマンションで暮らしていたが、ある日塩害が起こり、両親を失ってしまう。その後2か月ほど、配給された食材を消費しつつ自宅に引きこもって過ごしていたが、女子高校生が一人で住んでいるとの噂を聞きつけた複数の男たちに襲われ、自宅から逃げ出した。しかしその後も緊張状態は続き、人間不信になっていた際に再び暴漢に襲われ、偶然通りかかった秋庭に助けられることになった。それ以来、秋庭の部屋に転がり込む形で生活を共にしている。自分の両親に対しては行方不明になっているだけだと理解している。当初は両親の死を実感することが怖く、携帯電話に連絡することもできなかったが、さまざまな人の死を目の当たりにしたことで、考えを改めて後悔するようになる。しばらくはその感情に蓋をして苦しんでいたが、秋庭に胸の内を明かした際に立ち直ることができた。

秋庭 (あきば)

元航空自衛隊二等空尉の男性。百里基地に配属されていた。現在は塩害により、素性を隠して新橋にあるアパートの一室で暮らしている。高い身体能力と幅広い知識、判断力の持ち主で、現状は光熱関係の保守管理や配給の警備などの日銭仕事をして生計を立てている。ある日、路地裏で小笠原真奈が暴漢に襲われていた際に助けたために、真奈と二人で暮らすことになった。基本的にぶっきらぼうでそっけないところがあるが、照れ屋で人一倍正義感が強い。人に優しくするときはなぜか怒るくせがある。真奈とは、あくまで緊急避難的に生活を共にしているが、いつ塩害で被害に遭うかわからないため、深入りしないように一線を引いて互いの過去の話をしたことはない。しかし、真奈が自らの過去を打ち明けたことを機に、同居人としてだけでなく真奈がかけがえのない存在となる。航空戦技競会を三連覇するなど、輝かしい記録を持つ。

谷田部 遼一 (やたべ りょういち)

巨大なリュックサックを背負った男性。純朴な性格をしている。年齢は26歳。地元の地図と簡単な日本地図だけで群馬から自転車で旅を始めたが、途中で自転車が壊れてしまい、そこからは徒歩で旅を続けている。きれいで温かい海に行くことが旅の目的だが、西新橋までたどり着いたところで疲労で倒れてしまい、小笠原真奈に助けられた。東京の海はきれいではないと聞き、別の海を目指すことにするが、空腹に気づいた真奈にうながされ、秋庭と知り合う。食事をごちそうになったあと、秋庭の運転する車で由比ヶ浜まで送ってもらえることになったが、車の中でも巨大なリュックを大切そうに抱えていた。リュックの中身は実は大量の塩で、塩害で変わり果てた姿となった幼なじみの海月だった。交際中の彼氏との結婚も決めていた海月が、自分が塩になりかけていることを知った時、初めて谷田部遼一への気持ちに気づき、遼一のもとを訪れた。最期は遼一と過ごしたいという海月の思いを受け留め、遼一自身も海月への気持ちを伝え、一瞬だけ恋人同士になったのち、海月は亡くなってしまう。彼女が亡くなる直前に交わした約束を果たすため、塩になった海月を背負って海を目指し、真奈と秋庭の協力もあり、海月を由比ヶ浜の海に帰すことができた。世界で起こっている塩害の怪現象は、自分たちが恋人同士になるために起きたのではないかと語り、この異変がなければ自分と海月が結ばれることはなかったと感じている。その後、遼一自身も塩となった。

トモヤ

囚人服を着た青年。老けて見えるが、年齢は20歳前後。秋庭が運転していた車を脅して止め、六四式自動小銃を手に乗り込んだ。同乗者の小笠原真奈を人質に取って車を走らせ、秋庭の住む部屋に押し入った。もともとは仲間とつるんで悪さばかりしており、警察に逮捕されて服役していた。しかし塩害が起こり、危機感を持った刑務所では囚人をどんどん殺すことが決まる。1年程度の微刑ながら命を絶たれる順番が自分にせまったことを知った時、自分も塩害に侵されていることに気づいた。それでも独房から出してもらえず、孤独なまま死んで行くことに恐怖を覚え、運動時間で外に出された際に見張りの自衛官から銃を奪って逃走した。最初に車を止めた時、秋庭の身体能力の高さに気づき、秋庭には強い警戒心を抱いた。しかし真奈に対しては、口移しでお茶を飲ませろと要求したり、真奈の体を弄ぼうとしたりした。だが、トモヤ自身の塩害がことのほか早く進み、あっという間に体が動かなくなる。悪ぶっているが、学生時代に思いを寄せていた女性・横山ユウコに暴言を吐いたことを今でも後悔しており、真奈への態度の中にユウコへの思いをにじませていた。そんな中、死への恐怖に苛まれ、最後には真奈に優しくしてほしいと涙ながらに懇願したが、もはや目も見えなくなった頃に自衛隊員に取り押さえられ、どこかへと連れて行かれた。

入江 慎吾 (いりえ しんご)

科学捜査研究所の技官を務める男性。秋庭の友達を自称しているが、その難のある性格から秋庭は入江慎吾を信用していない。自己肯定感が高く頭脳明晰ながら、目的のためには手段を選ばないタイプで、冷淡な一面を持つ。東京が塩害の被害に遭い、自衛隊の指揮系統が壊滅状態となったことで、総監部や司令部が設置されていない駐屯地を掌握しようとし、まんまと立川駐屯地司令の肩書きを手に入れた。塩害と白い隕石の因果関係について疑念を抱いていたが、これまで何を提言してもことごとく握りつぶされてきた。しかし、立川駐屯地指令の肩書きを手に入れたため、秋庭を巻き込んで大規模テロという名の対塩害作戦を画策している。塩害に関しては、旧約聖書内にあるソドムとゴモラの話を引き合いに出し、隕石を見ること自体が感染の引き金になっている可能性を示唆。さらに、東京湾に降ってきた隕石がなんらかの生命体であり、地球で増殖を始めているのではないかと語り、このままでは地球が5年経たずに未知の生命体に乗っ取られることを危惧している。

その他キーワード

塩害 (えんがい)

人間が塩に変わる怪現象のこと。日本全土で突如として始まったこの現象は、関東圏の人口を三分の一まで減らし、人々の生活を破綻させた。表向きは原因も予防法も不明となっており、いつ我が身に起こるかわからない恐怖との共存が、生き残った人々にとっての日常となっている。町中に元人間の残骸である塩の柱が無数に取り残されているが、雨風で削り取られた塩の柱はオブジェのように林立する白い柱となっている。ある日の午前8時半頃、東京湾羽田空港沖の埋め立て用地に巨大な白い隕石らしき物体が落下。全高500メートルにも及ぶこの物体は、世界的規模の流星雨によってもたらされたものであり、日本全土に同様の小隕石が落下した。それとほぼ同時刻、各地を塩害が襲うこととなった。被害に遭ったのは、東京だけで500万人とも600万人ともされており、全国ではどれほどの被害を受けているのかはわかっていない。塩害被害者の中には、多数の政府要人も含まれており、内閣および各省庁も機能していない。臨時政府は存在するが、ライフラインは壊滅状態で電話はつながらず、国営テレビのみが放送を続けている。白い隕石の主成分は塩化ナトリウムで、巨大な塩の結晶であることが判明している。この隕石と塩害の因果関係は正式には立証されていないが、隕石の飛来と塩害の発生はほぼ同時であり、すべてはこの隕石が原因となっていると考えられる。また隕石を視認できる地域と、できない地域で塩害の広がる速度が違うこと、さらには初日の塩害被害者の中に視覚障害者が一人も含まれていなかったことなどから、この隕石を見ることが感染源となっている可能性がある。また、海外でも同様の流星雨が観測されており、塩害の被害は世界中で甚大なものとなっている。

クレジット

原作

有川 ひろ

書誌情報

塩の街 〜自衛隊三部作シリーズ〜 4巻 白泉社〈花とゆめコミックス〉

第2巻

(2022-10-05発行、 978-4592221128)

第3巻

(2023-04-05発行、 978-4592221135)

第4巻

(2023-11-02発行、 978-4592221142)

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