概要・あらすじ
行方不明となった溝呂木可南子を探していた夢幻魔実也は、殺人の罪で刑務所に収監されている、彼女の実の父親である溝呂木紅造のもとを訪ねる。紅造も娘の消息を知らなかったが、彼の口から可南子が日本を離れ、外国に渡っている可能性があることが語られる。可南子の捜索のため死人が蘇るという魔の都、上海へと渡った夢幻は、今回もまた夢と現が行き交う事件に巻き込まれていく。
登場人物・キャラクター
夢幻 魔実也 (むげん まみや)
黒いつば広帽をかぶり黒いインバネスコートを身にまとった、痩せ型で背の高い紳士。長い黒髪に切れ長の目をしており、鼻が高く容姿端麗。夢を自由自在に操り、他人の頭の中に入り込むことができる他、他人に幻を見せることや、影を本体から切り離し、分身のようにして操ることもできる。この力を活かし、怪事件に悩むさまざまな人々を助けている。 下宿屋で生活をしており、下宿の娘に身の回りの世話をしてもらっている。特技は手品。
溝呂木 紅造 (みぞろぎ こうぞう)
精神病理学者の男性。前髪が後退しており、額に深いしわがある。何人もの子供の命を奪った殺人鬼として現在は刑務所に入れられており、所内では狂人として取り扱われている。行方不明となった溝呂木可南子の養父で、彼女の行方の手掛かりを求めた夢幻魔実也の訪問を受ける。
溝呂木 可南子 (みぞろぎ かなこ)
溝呂木紅造の養女。黒髪で前髪を目の上で切り揃え、もみあげを長く伸ばしている。ワンピースの上からロングコートを羽織り、手にはハンドバッグを持っている。婚約者の男性がいたが、彼は紅造にライフル銃で頭を撃たれて殺害されている。紅造が殺人鬼として刑務所に入所してからは日本を離れ、現在は上海で自身の素性を隠しながら生活している。
下宿の娘 (げしゅくのむすめ)
夢幻魔実也が寝泊りをしている下宿先で下働きをしている女性。長い黒髪を頭頂部でまとめている。主に和服姿が主体でさまざまな柄の着物を着ているが、外出時には洋服を着用することもある。夢幻の身の回りの世話もしており、勝気で明るい性格から夢幻の世話女房のように振舞う。
院長 (せんせい)
病院を経営する医師の男性で、院内では「院長」と呼ばれている。鼻の下に口髭を生やし、眼鏡をかけてつば広帽をかぶり、ファーの付いた黒いロングコートを着ている。院内での診療の他、野外での診療も行っている。妻とともに見世物小屋へサーカスを見に行った夢を見た後、目が覚めるとベッドに横になっていたはずの妻の姿がなく、そのまま消息がわからなくなってしまった。 妻の行方を捜索するために、夢幻魔実也のもとを訪れる。
浮田 草次郎 (うきた そうじろう)
作家の男性。中分けにして毛先を外側にはねさせた黒髪で、外出時には和服と洋服を使い分けている。かなりの売れっ子で自らも後世に残るような優れた作品を作りたいと考えているが、自分の才能に限界も感じており、思いつめた末に二度の心中事件を起こし、二度とも自分のみ生き残った。その時の体験を綴った作品が「羽根の寝床」「鳥葬」と2作あり、どちらも彼の代表作となっている。 のちに三度目の心中事件を起こし、これは未遂に終わったものの、それからは失踪して行方不明になっている。
美魚 (みお)
海の近くにある日本家屋に1人で住んでいる未亡人。肩までの黒髪で、着物の上から羽織を着ている。夫の墓参りをしていた道中で出会った夢幻魔実也に夫がどういう経緯で亡くなったのかを話すが、首を吊って死んだと言ったり、自ら油をかぶって火をつけて死んだと言ったり、毒を飲んで死んだと言ったりと、まちまちな話をする。その日の夜、家に泊まらせた夢幻の眠る寝室に夜這いを仕掛ける。
勅使河原 浩志 (てしがわら ひろし)
屋敷に住む男性。短髪の黒髪で、丸首のセーターの上からジャケットを着ている。人の顔が化物のように見える幻覚に悩まされており、夢にもその幻覚症状が現れるため、ろくに眠ることもできずにいる。将校に追われていた夢幻魔実也を助けたことがきっかけで知り合い、彼に幻覚について相談を持ちかける。幼い頃は女中の清の一人娘の道子と仲が良く、一緒に遊ぶことが多かった。
清 (きよ)
かつて勅使河原浩志の屋敷で女中として働いていた女性で、幼い頃の勅使河原の面倒をよく見て可愛がっていた。痩せ型の体型で、長い髪を旋毛の辺りでまとめ、着物を着た未亡人。勅使河原も彼女のことを気に入り、よく懐いていた。勅使河原と同い年くらいの「道子」という名の娘がいたが、彼女が勅使河原と遊んでいた時に木から転落して亡くなったことを機に、女中を辞めて屋敷を出て行った。
大古木 俊一 (おおこぎ しゅんいち)
大きな日本家屋に住んでいる男性。ウェーブのかかった黒髪で、普段はスーツを着ているが、自宅にいる時は着物姿でいることが多い。橋の上で女給と口論の末、突き落とされて川に落ち、びしょびしょに濡れてしまったところで夢幻魔実也と知り合う。容姿端麗で裕福ゆえに女性にもて、ある2人の女性が彼を取り合った末に、1人の女性と結婚をしたが、振られた方の女性は水に飛び込んで自殺してしまう。
女給 (じょきゅう)
飲み屋で働いている女性。肩までの黒髪で前髪を右に流し、着物の上からエプロンを身に着けている。左目の下の泣きボクロが特徴。大古木俊一と口論していた姿を夢幻魔実也に見られたうえ、その日の夜に彼女が働く飲み屋を夢幻が偶然訪れたことで、彼と親しくなる。
火向子 (ひなこ)
水向子の双子の姉妹。長い黒髪を後頭部で束ねて右目に眼帯をし、着物を普段着として着用している。幼少の頃から霊感が強く、よく祈祷師の真似事をして水向子と仲良く遊んでいたが、ある1人の男性を奪い合った末、火向子がその男性のもとへと嫁いだ。
水向子 (みなこ)
火向子の双子の姉妹。長い黒髪を後頭部で束ねて左目に眼帯をし、着物を普段着として着用している。幼少の頃から霊感が強く、よく祈祷師の真似事をして火向子と仲良く遊んでいたが、ある一人の男性を奪い合った末、火向子がその男性のもとへと嫁いでしまい、水向子は大きな岩を抱いて深い沼で入水自殺した。
化物屋敷の少女 (ばけものやしきのしょうじょ)
近隣の住民から「化物屋敷」と呼ばれている屋敷に棲む少女。黒髪を左右に分けて2つに結び、前髪を目の上で切りそろえ、ワンピースを着ている。かつて「化物屋敷」で火事があり、夫妻と一人娘が焼死したという事件があったが、化物屋敷の少女はこの時に焼死した娘の亡霊である。趣味は人形と遊ぶことで、歌を歌うことが好き。
言霊を吐く女 (ことだまをはくおんな)
黒髪の短髪で、ブラウスの首元にスカーフを巻き、黒いロングスカートをはいた女性。辛く苦しい半生を送ってきたため、世の中を呪い、他人を妬み、人の幸せを憎悪している。口から言霊を出す能力を持ち、吐き出した言霊を操ることができる。言霊を人に取り憑かせて、車の行き交う道路に飛び出させたり、電車がやって来る駅のホームから線路に飛び降りさせたりとさまざまな悪事に利用している。
矢野 浩二 (やの こうじ)
立花美里の恋人の男性。黒髪でつば広帽をかぶり、スーツを着ている。美里とは兄弟のように仲が良く、心を許し合える間柄。最近美里のもとに差出人の名前も住所もない気味の悪い手紙が沢山届いているが、実は矢野浩二こそがその手紙の差し出し人。その目的は、美里の怯える顔が見たいというもので、意図的に筆跡を変えて送り続けていた。
立花 美里 (たちばな みり)
矢野浩二の恋人の女性。長い黒髪を後頭部でまとめてポニーテールにし、ハイビスカス柄のワンピースを着ている。浩二とは兄弟のように仲が良く、心を許し合える間柄。最近、差出人の名前も住所もない気味の悪い手紙を沢山受け取っているが、実は立花美里自身がこの手紙の差し出し人。その目的は、わざと怯えたふりをして浩二に心配させ、自身を守る頼もしい姿を見たいというもので、意図的に筆跡を変えて送り続けていた。
蒐集家の男 (しゅうしゅうかのおとこ)
大きな洋館に住み、蝶の蒐集を趣味にしている男性。背が高く大柄で毛髪はなく、ロングコートを着ている。蝶を採集していたところで偶然出会った夢幻魔実也を、自身の住む洋館に招き入れた。洋館のリビングには彼の採集した蝶を標本にした大きな額縁が飾られている。メイドを1人雇っているが、実はこのメイドは彼が採集した蝶が人の姿をとったものである。
千絵子 (ちえこ)
借家で両親と「チーコ」という名のインコと生活している少女。黒髪のボブヘアで、ワンピースやスカート姿でいることが多いが、時々着物を着ることもある。外洋航路の船長をしている千絵子の父親の影響もあり、海を見ることが好き。近所の同年代の少年からは「妾の子」と呼ばれることがあるが、千絵子はその言葉の意味を理解しておらず、そう呼ばれることを不思議に思っている。
千絵子の父親 (ちえこのちちおや)
千絵子の父親。短髪でスーツを着用し、ロングコートを羽織っている。街で小さな会社を営んでいるが、妾に産ませた娘の千絵子には外洋航路の船長をしていると嘘をついている。妾である千絵子の母親の家には月に1、2回通っており、帰った時には千絵子に駄菓子を買ってあげたり、寝る前に嘘の航海の話を聞かせたりと、優しい一面を持っている。
千絵子の母親 (ちえこのははおや)
千絵子の母親。長い黒髪を後頭部で束ね、三つ葉柄の着物を着用している。千絵子の父親の名義で借りている借家で娘の千絵子と「チーコ」という名のインコとともに住んでいる。妾なので、夫は本宅から月に一度か二度しか帰ってくることはなく、まだ幼い千絵子には本当のことを話していない。
千絵子の父親の妻 (ちえこのちちおやのつま)
千絵子の父親の本当の妻。長い黒髪を後頭部でまとめ、着物の上から黒い羽織を着ている。蛇のような目をしており、夫が道で車にはねられて亡くなったことを告げに千絵子の母親のもとを訪れる。生前に夫が妾宅に世話になったお礼として札束を千絵子の母親に差し出し、夫の名義で貸していた借家を今月中に引き払うように言い渡す。
機内 克夫 (きない かつお)
資産家の男性。黒髪で丸眼鏡をかけてつば広帽をかぶり、ベストとスーツを着用している。虚ろな目が特徴的で、1年ほど前に夢で見た女の顔に心惹かれ、それ以来、水溜りやコップの中の水面に彼女の顔が見えるようになってしまった。その彼女の顔とそっくりな顔をした近藤サヨ子に一目惚れする。
近藤 サヨ子 (こんどう さよこ)
バーに勤務している女性。短い黒髪で、唇の右下に小さなほくろがある。勤務中は和服を着ているが、普段着では和服と洋服を使い分けている。夢幻魔実也とは、近藤サヨ子が働くバーの常連客の1人として面識がある。ある日、川べりを歩いていたところ、じっと水面を見つめている機内克夫を見つけ、身投げでもするのではないかと心配して声をかけた。 それがきっかけで強引なアプローチを受け、克夫と付き合うようになった。
那由子 (なゆこ)
長い黒髪をポニーテールにし、ブラウスの上からVネックのセーターを着てスカートをはいた女性。父親はずっと昔から行方不明で、母親と2人で生活をしていたが、母親が長年の闘病生活の末に他界してしまい、現在は他に身寄りもなく1人きりになっている。働いていた腸詰工場が倒産して途方に暮れていたところ、近所の老婆から山の手の屋敷で住み込みの雇用人を募集しているという話を聞き、応募する。
郷田 (ごうだ)
山の手の屋敷で執事を務める男性。背が高く、短髪で前髪を目の上で切りそろえていて、蝶ネクタイを締めて黒いスーツを着用している。鼻の下が長いのが特徴。屋敷に住む雛子の遊び相手を務める雇用人として志願した那由子たちの面接を行う。
雛子 (ひなこ)
山の手の屋敷に住んでいる小柄な少女。黒髪のおかっぱ頭で、着物を着ている。顔色は悪いが眼光が鋭く、目力が強い。遊び相手を探していて、郷田とともに住み込みの雇用人に志願した那由子たちの面接を行う。
北条 (ほうじょう)
夢幻魔実也が寝泊りしている下宿先に入居してきた男性。黒髪で前髪が長く、ワイシャツの上にベストを着ており、痩せ型で頬がこけている。下宿に入居する直前、北条宛てに初老の男性から届けられた大きなカバンを預かっている夢幻にカバンを渡されたが、北条はそのカバンを受け取ることを激しく拒絶。処分をするために川へと向かい、カバンの中に石をたくさん詰めて投げ捨ててしまう。
二子上 (にこがみ)
黒髪で長い前髪を右に流し、スーツを着た男性。妻とともに上海へと向かっていたが、航海中に妻が体調を崩し、意識を失って倒れてしまった。現在は上海のホテルに滞在し、妻を安静にさせたうえで夢幻魔実也に治療を依頼した。
野々村 (ののむら)
病気で床に臥している男性。黒髪の短髪で着物を着ている。寝床の枕元には幼い頃に亡くした彼の母親の亡霊が座っており、その姿は夢幻魔実也にだけ見えている。真面目な性格で、女性関係でのトラブルはこれまでに一度もなく、妻とも良好な関係を保ち続けている。
野々村の細君 (ののむらのさいくん)
野々村の妻。黒髪の短髪で、花柄の着物を着ている。病に臥して寝たきりの野々村が医者に長くはもたないだろうと言われたため、野々村と交流のあった夢幻魔実也の下宿先を訪れ、夫に一目会って欲しいと頼み込む。
料亭の女将 (りょうていのおかみ)
夢幻魔実也が知人の河島と待ち合わせをしていた、川沿いにある料亭の女将。長い黒髪を後頭部でまとめ、着物の上から黒い羽織を着ている。目鼻立ちの整った美しい女性で、普段は女給に配膳、接客の指示をしているが、自ら客をもてなすこともある。夢幻が料亭を訪れた際に出迎えるが、河島の待つ座敷とは別の座敷へ案内し、食事と酒を振る舞って河島から遠ざけるという不審な行動をとる。
河島 (かわしま)
夢幻魔実也の知人の男性で、料亭で夢幻が来るのを待っていた。黒髪の短髪で、ワイシャツにネクタイを締め、ベストを着ている。料亭の座敷で深酒をしてしまい、夢幻と待ち合わせをしていたにも関わらず徳利を手に持ったまま意識を失ってしまう。料亭の女将に別の座敷に連れて行かれていた夢幻に救出されて料亭から逃げ出し、その後、川原で酔いが覚めるまで介抱してもらう。
眠る女 (ねむるおんな)
病院のベッドで眠り続けている女性。ずっと夢を見続けており、夢の中では黒いワンピースを着て、背中から黒い羽根を生やした姿となっている。何度か彼女の病室を訪れ、無意識下で会話をしていた夢幻魔実也に好感を抱いている。夢幻から長い旅に出るからしばらく会えなくなると言われ、彼が再び病室に来てくれる日を待ち続けている。