大きい犬

大きい犬

何気ない日常にチラリと顔を覗かせるハートフルかつファンタジックな出来事を優しいタッチで描いた、さわやかな読後感をもたらす不思議な短編集。『このマンガがすごい! 2018』のオンナ編で第9位にランクインしており、単行本化にあたり描き下ろしのエピソードも掲載されている。2013年10月18日と2014年1月30日にWEB上で、「ITAN」21号(2014年8月7日)から24号(2015年2月6日)にかけてと、「キッチュ」7号(2016年12月15日)に掲載された。

正式名称
大きい犬
ふりがな
おおきいいぬ
作者
ジャンル
ヒューマンドラマ
関連商品
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あらすじ

第1巻

高田はインドに移住するという友人から、彼が不在のあいだ、留守番をしてほしいとお願いされた。さっそく友人宅に引っ越した高田は、近所に家と同じサイズのとてつもなく大きい犬が住んでいる事を知る。犬語が使える高田は、他愛ない会話で大きい犬とスキンシップを図り、徐々に彼となかよくなっていく。大きい犬がいる光景が当たり前の日常となっていたある日、友人の誘いで沖縄に行く事になった高田は、その事を大きな犬に話す。しかし高田が沖縄から帰ると、大きな犬は忽然と姿を消していた。数日経っても帰って来ない大きな犬を心配し、眠れなくなった高田のもとに、突然の来訪者が現れる。(エピソード「大きい犬」。ほか、7エピソード収録)

登場人物・キャラクター

高田 (たかだ)

エピソード「大きい犬」「大きい犬・その後」「小さい犬」に登場する。サラリーマンの青年。人より感受性が強く、少し涙もろいところがある。インドでしばらく過ごす事になった友人からの依頼を受け、彼の家で留守番をする事になった。犬が大好きで、それが高じて犬語をマスターしており、犬と自由に意思の疎通を図る事ができる。引っ越したあとに近所に住んでいた大きい犬と知り合い、毎日顔を合わせては挨拶や他愛のない世間話をしていた。大きい犬の事は、心の中で勝手に「ペロ」と呼んでいる。どことなく寂しそうにしている大きい犬の事を気にかけており、たまにソーセージをあげるなどして、交流を図っていた。

(たから)

エピソード「七福神再び」に登場する。ショートカットの髪型をした若い女性。1年前に結婚したばかりだが、半年前に夫の陽介と大喧嘩して新居を飛び出し、実家へ戻って来た。本心では陽介と仲直りしたいと思っているが、根が頑固なため、自分から陽介に連絡する事ができないでいる。そのため、スマホに陽介からのメールが届くのをひたすら待つという、悶々とした日々を送っている。正体を明かした祖父のえびすさまの仲間探しを手伝い、パソコンの購入からインターネットの使い方まで、いろいろなアドバイスをしていた。

幸子 (さちこ)

エピソード「クリスマス幸子」に登場する。眼鏡をかけたOL。浮ついた事が嫌いな母親と二人で暮らしている。母親の影響で家庭でクリスマスを祝った経験がないため、クリスマスに対するあこがれが非常に強い。つねに本音を隠し、明るく振る舞ってしまう不器用な性格をしている。高校生の時にクリスマスイブにケーキを売る臨時アルバイトをして以来、10年間連続でクリスマスイブに同じアルバイトをしていた。母親といっしょにクリスマスを祝いたいという、誰にも言えない思いを抱え続けている。

春野 桜 (はるの さくら)

エピソード「梅・桃・桜」に登場する。郵便局員をしている青年。春野梅、春野桃とは三つ子の兄弟。全員がそっくりな容姿をしている。異常気象に見舞われる地球を離れようとしない父親に付き添い、兄弟のトーイ星に移住する中で、ただ一人地球に残った。日々人が減っていく周囲の環境を寂しく感じつつ仕事をこなしているが、父親が残っているうちは、移住しないと心に決めている。

朝井 みどり (あさい みどり)

エピソード「彼の友達」に登場する。田舎出身の若い女性。シティライフにあこがれて東京で就職した。学生時代からの彼氏であるトンちゃんと同棲している。トンちゃんとの都会暮らしに満足しているが、トンちゃんの話によく出て来る謎の「友達」の存在が昔から気にかかっている。会社の新歓で飲み屋に行った際、その「友達」がトンちゃんといっしょにいるのを目撃してしまい、思わず会話を盗み聞きする。

ホーライ

エピソード「ホーライくん」に登場する。明るく元気一杯の若い青年。とある中学校で給食を作っている。小学校の頃から給食が大好きで、母親に対して、将来は「給食のおばさん」になると宣言するほど、給食に情熱を傾けていた。夢を叶えて給食を作る職に就いたが、生徒の給食に対する反応が薄い事に悩んでいた。女子中学生のスズキツネコから献立に対する苦言を呈されて発奮し、彼女達を満足させるために、メニューを改善しようとさまざまな工夫を重ねる。「給食のおばさん」へのあこがれが強かった事から、おばさんのような口調でしゃべる。

ポロ

エピソード「小さい犬」に登場する。チワワのオス。沖縄に移住した高田の友人のペット。遊ぶ事とお散歩が大好き。愛らしい容姿で、周辺住民の人気者になっている。自分の体が小さい事にコンプレックスを抱いており、小さい事を馬鹿にされると、必要以上に吠えてしまう。浜辺周辺で暮らす大きい犬の事をライバル視し、顔を合わせる度に吠えていた。本心では、大きい犬となかよくなりたいと思っている。

大きい犬

エピソード「大きい犬」「大きい犬・その後」「小さい犬」に登場する。2階建ての家と同じサイズの大きな柴犬。性別はオスで、特に名前はない。穏やかで気さくな性格をしている。体は大きいが、かなり小食で、トイレに行くのもまれ。高田の引っ越し先の近くにあった住宅街の空き地に住んでおり、30年ほど前から静かに座り続けている。犬語を喋れる高田とは、通勤前と帰宅時の時間に挨拶を交わし続け、適度な距離感で交流していた。高田の沖縄旅行に触発されて旅立ち、紆余曲折を経て沖縄で暮らすようになる。高田からは「犬さん」と呼ばれていた。高田の心の中では「ペロ」という名を勝手に付けられており、旅立ちの際に高田からその名前をもらう。沖縄では付近の住人から「タロー」と呼ばれていた。

高田の友人

エピソード「大きい犬」「小さい犬」に登場する。ロン毛をした青年。高田の親友。あちこちを気ままに旅している自由人。インドにあこがれを抱いており、現地で3年ほど暮らす事を決意した際、そのあいだの留守番を高田に依頼する。のちに沖縄へ移住し、そこで飼い犬のポロと暮らしていた。

裏のおばさん

エピソード「大きい犬」に登場する。おしゃべりな中年の女性。大きい犬が住んでいる空地の裏の家に住んでおり、かれこれ30年ほど大きい犬にご飯をあげている。高田が大きい犬の事を聞きに自宅へと出向いた際は、息をもつかせぬマシンガントークで高田を圧倒していた。同じような家ばかりが並ぶ住宅街では、大きい犬の存在がいい目印になるとも語っていた。

裏のおばさんの飼い犬

エピソード「大きい犬」に登場する。裏のおばさんの飼い犬。ごくふつうの犬で、性別は不詳。おとなしい性格で、おばさんの家の前でいつも寝ている。まくしたてるようにしゃべるおばさんがうるさい事を認識しており、大きい犬の話を聞きに来た高田に対し、おばさんがうるさい事を謝っている。後日、突然いなくなってしまった大きい犬の事を心配していた。

えびすさま

エピソード「七福神再び」に登場する。見た目はごくふつうのお爺さんだが、その正体は七福神の一人であるえびすさま。長年人間として暮らしていたが、妻の七回忌の席で家族に正体を明かす。再び七福神として活動する事を目指しており、不慣れなインターネットを駆使して、別れたかつての仲間である神様を探していた。孫娘の宝以外は誰も彼の正体を信じず、家族会議では一度診察させる事も検討されていた。

大黒さん

エピソード「七福神再び」に登場する。七福神の一人。右手に小槌、左手には大きな袋を持っている。性別は男性。過去に七福神の解散を提案した張本人だが、内心では七福神として再び活動したいと思っている。街中を歩いているところを宝が偶然発見し、えびすさまの説得によって再び七福神として活動するようになる。えびすさまからは「大ちゃん」と呼ばれていた。

陽介 (ようすけ)

エピソード「七福神再び」に登場する。長髪の青年。宝の夫。半年前に宝と大喧嘩し、怒った宝が実家に帰ってしまったため、今は新居で一人暮らしをしている。宝とは似た者同士で頑固な面があり、自分から彼女への連絡は一切していない。七福神の助力で背中を押された宝と再会し、元のさやへと納まる。

三田 (さんた)

エピソード「クリスマス幸子」に登場する。非常に明るい性格の青年。クリスマスイブに幸子が臨時アルバイトをしているケーキ屋に、同じく臨時で入ったアルバイトで、ずっとサンタの格好をしていた。のほほんとしているが、実は勘が鋭いタイプ。アルバイト終了後に幸子を誘い、もらったケーキをいっしょに食べる事を持ち掛ける。幸子の本当の気持ちを聞き出したあとは、母親といっしょにクリスマスを祝う事を勧めていた。

幸子の母親 (さちこのははおや)

エピソード「クリスマス幸子」に登場する。眼鏡をかけた主婦。幸子の実母。夫とは幸子が幼い頃に離婚しており、女手一つで幸子を育てあげた。頑固な性格をしており、浮ついた事が大嫌い。そのため、家庭ではクリスマスを祝った事がない。三田の言葉に触発された幸子から「子供の頃から家でクリスマスをしたかった」と言われ、いっしょにクリスマスを祝っていた。

春野 梅 (はるの うめ)

エピソード「梅・桃・桜」に登場する。眼鏡をかけた妻帯者の青年。春野桜、春野桃とは三つ子の兄弟。一人息子がいる。異常気象に見舞われた地球を旅立ち、家族や桃といっしょにトーイ星へ移住した。地球に残った春と父親に向けて、梅と桃のボトルフラワーを送っていた。

春野 桃 (はるの もも)

エピソード「梅・桃・桜」に登場する。妻帯者の青年。春野桜、春野梅とは三つ子の兄弟。全員がそっくりな容姿をしている。異常気象に見舞われた地球を旅立ち、妻や梅といっしょにトーイ星へ移住した。地球に残った春と父親に向けて、梅と桃のボトルフラワーを送っていた。

桜の父親 (さくらのちちおや)

エピソード「梅・桃・桜」に登場する。眼鏡をかけた物書きの中年男性。無口で物静かな性格で、最近は終日花の世話をしている。春野桜、春野梅、春野桃の父親。亡くなった妻が好きだった、庭にある桜の木を守るため、異常気象に見舞われる地球に残り続けている。いっしょに残った桜に対しては、早くトーイ星に移住するように促していた。

長野 (ながの)

エピソード「梅・桃・桜」に登場する。落ち着いた雰囲気を漂わせた上品な老婦人。春野桜が勤めている郵便局を訪れては、トーイ星に移住した息子に頻繁に荷物を送っていた。数年後、自らもトーイ星へ移住する事を決意し、桜にその事を伝える。

トンちゃん

エピソード「彼の友達」に登場する。はにかみ屋の若い男性。在宅で絵を描くアルバイトをしている。朝井みどりとは学生時代から付き合っており、今は東京でみどりと同棲している。生まれ育った地元を愛していたが、どこにいても絵は描けるという理由で、上京を果たした。人付き合いは苦手だが、学生時代からとても仲のいい「友達」が地元におり、みどりに対してその事をよく話していた。

トンちゃんの友達 (とんちゃんのともだち)

エピソード「彼の友達」に登場する。帽子をかぶった男性。トンちゃんの学生時代からの親友。田舎の沼周辺でトンちゃんと語り合っていた。きゅうりが大好物。上京してトンちゃんと飲んでいた際に、「大事な皿」を割ってしまったと語っていた。人嫌いで社交性に欠けるトンちゃんの事を心配しており、「シャカイに関わっていかないと」と諭す。トンチャンとの会話を盗み聞きした朝井みどりは、彼の正体をなんとなく察していた。

スズキ ツネコ

エピソード「ホーライくん」に登場する。クールな雰囲気を漂わせた女子中学生。給食のメニューに記載されていた「ラビゴットソース」の事を聞くために給食室を訪れ、ホーライに対し、中学生向けではない給食への苦言を呈した。食べる事が好きだが、家では父親のきつねがお揚げの料理ばかりを作るため、不満が募っている。ホーライの給食に対する情熱を見た事で、スズキツネコ自身も「給食のおばさん」にあこがれるようになる。きつねからは「ツネちゃん」と呼ばれていた。

きつね

エピソード「ホーライくん」に登場する。狐の姿をした男性。スズキツネコの父親。コンコン給食センターを経営している。お揚げが大好きで、家ではいつもお揚げの料理を作っている。ツネコの通う中学校の給食室の担当を賭け、ホーライと料理勝負する事になった。お揚げの中に現金を入れて勝負に勝とうとするなど、目的のためなら手段は選ばない。ツネコに泣かれた事で、これまでの態度を反省する。

集団・組織

七福神

エピソード「七福神再び」に登場する。宝船に乗っている神様。「えびすさま」をはじめ、「大黒さん」「弁財天」「福禄寿」「寿老人」「毘沙門天」「布袋」という七人の神様で構成されている。いっしょにいた頃は気ままに旅をしたりお祭りをするなど、とてもなかよくやっていたが、大黒さんの提案によって解散に至った過去を持つ。家族に正体を明かしたえびすさまが尽力した事により七人が再び集い、再結成までこぎつけた。

場所

トーイ星

エピソード「梅・桃・桜」に登場する。地球によく似た、より穏やかな環境をした惑星。異常気象で荒れ続ける地球に見切りをつけ、新天地を求める人々が続々と移住を始めている。すでにかなりの数の人々が暮らしており、著しい発展を見せている。地球との距離が相当に離れているため、到着までは3年もかかる。

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