概要・あらすじ
大正14年(1925年)、良家の子女が通う東邦星華女学院。在学生の小笠原晶子は、許婚の岩崎荘介の迂闊な言葉に密かに怒りを覚え、野球で男子と対決しようと決心する。晶子は親友の鈴川小梅達に声をかけ、女性だけの野球チーム桜花会を結成した。野球のルールすら誰一人知らない中、少女達の戦いが始まった。
登場人物・キャラクター
鈴川 小梅 (すずかわ こうめ)
おかっぱ頭で、梅の髪飾りが特徴の少女。初登場時14歳。東邦星華女学院に在学中。家は麻布十番商店街で洋食屋すず川を営み、自らも料理や給仕を手伝っている。朗らかで人当たりが良く、頼まれると嫌と言えない性格。同級生で貿易商の令嬢・小笠原晶子とは特に気が合っている。晶子が許婚の岩崎荘介の迂闊な言葉に反感を持ったことがきっかけで、学院内に女子のみの野球チーム桜花会が結成された。 これに巻き込まれるように捕手として加わり、晶子とバッテリーを組む。調理の手伝いをしているせいか力があり、男性用のバットを振り回すことができる。反面、速球にはなかなか慣れなかった。実家で調理人を務めている紀谷三郎とは許婚の間柄。
小笠原 晶子 (おがさわら あきこ)
東邦星華女学院に在学。初登場時14歳。貿易商を営む裕福な小笠原家の令嬢で、周囲でも評判の美貌の持ち主。友人達からは「お嬢」と呼ばれている。気が強くやや我儘な性格。許婚となる岩崎荘介の迂闊な言葉に反発し、女性だけで野球を始め、男性を負かそうと決意する。これがきっかけで学院内に女子だけの野球チーム桜花会が結成される。 司令塔役川島乃枝の指示によって投手を務め、最も気の合う鈴川小梅とバッテリーを組む。球は遅いが、回転を抑える特訓をすることで「魔球」を身に付ける。
川島 乃枝 (かわしま のえ)
東邦星華女学院に在学。眼鏡をかけた少女。初登場時14歳。同級生の小笠原晶子が学院内に女子だけの野球チームを作ろうという動きが出ると、いち早く加わり、桜花会の結成の中心人物の一人となる。ポジションは左翼外野手。頭脳明晰で理論派のため、桜花会では司令塔役となる。晶子と鈴川小梅をバッテリーとするなど、メンバーの素質を見極めて編成したり、敵チームの情報収集に走るなど、八面六臂の活躍を見せる。 また金属バットのような先端的な用具を次々に開発してマッドサイエンティストぶりも発揮する。
石垣 環 (いしがき たまき)
東邦星華女学院に在学。初登場時14歳。常に和装で身を包み、凛とした口調で一見近寄り難く、周囲からは「氷の女王」などと呼ばれていた。実は極度の人見知りで、人と交わるのが苦手なだけ。桜花会結成の際は、幼馴染の宗谷雪に引っ張られるように加わる。ポジションは中堅外野手。雪からは「たまちゃん」と呼ばれているが、本人はこう呼ばれることを好んでいない。 観察力に優れ、現実的でしっかりした計画を立てることができる。小説を書くことが好きで偏奇館先生(永井荷風)に憧れている。
宗谷 雪 (そうや ゆき)
東邦星華女学院に在学。初登場時14歳。明るく社交的で、クラスでは級長をつとめている。桜花会結成の際は、いち早く加わり桜花会の結成の中心人物の一人となる。ポジションは右翼外野手。石垣環とは幼馴染で、彼女を「たまちゃん」と呼ぶ。家は宗谷呉服店を営んでおり、桜花会のユニフォームを作る。一見おっとりとしているが、結成当初から内心野球に燃え、朝香中等学校との決戦では「鏖(みなごろし)」と書かれた鉢巻を締めて試合に臨む。
月映 巴 (つくばえ ともえ)
東邦星華女学院に在学。初登場時14歳。月映静の双子の姉。静と共に端正な顔立ちだが、それゆえに人形師の父から遠ざけられ、寮住まいをしている。薙刀(なぎなた)の名手であり、凛とした佇まいで、学院内でも憧れの的。しかし、校内では誰とも交わることはなかった。桜花会結成の際は、静と共に加わる。そのきっかけは、鈴川小梅の温かい性格に憧れ、彼女に近付きたいとの思いからだった。 ポジションは三塁手で、手裏剣を応用した投法を駆使して投手もつとめる。
月映 静 (つくばえ しずか)
東邦星華女学院に在学。初登場時14歳。月映巴の双子の妹。静と共に端正な顔立ちで、寮住まいをしている。巴を「姉さま」と呼んでいる。ショートヘアーの巴とは対照的に髪を伸ばした女性らしい恰好をしている。桜花会結成の際は、巴と共に加わった。ポジションは遊撃手。自分と巴は、父が作り上げた一対の人形だという思いがあり、野球を始めたことをきっかけに、巴が鈴川小梅をはじめ周囲と打ち解けていくと、嫉妬に似た複雑な思いを抱くようになる。
菊坂 胡蝶 (きくさか こちょう)
東邦星華女学院に在学。初登場時13歳。鈴川小梅達の一年後輩。桜花会結成の際は、憧れの先輩・月映巴に誘われて加わった。ポジションは一塁手。芸者の母親から日本舞踊を習っており、バランス感覚が優れている。また背が小さいため、打席に立つと投手にとって非常に投げにくい。
桜見 鏡子 (おうみ きょうこ)
東邦星華女学院に在学。初登場時13歳。鈴川小梅達の一年後輩。桜花会結成の際は、憧れの先輩・月映巴に誘われて加わった。ポジションは二塁手。手足が長く、おっとりしているように見えて俊敏で守備に長けている。
アンナ・カートランド (あんなかーとらんど)
東邦星華女学院の英語教師。金髪の女性。明るく大らかな性格。時々あやしい諺を使っては生徒達に突っ込まれている。小笠原晶子によって女子だけの野球チームを作ろうという動きが出た際には、彼女達を応援し桜花会の結成のために尽力。鈴川小梅達をバックアップする。
岩崎 荘介 (いわさき そうすけ)
銀行家・岩崎家の跡取り息子。坊主頭の男子。朝香中等学校に在学し、野球団主将をつとめている。ポジションは投手。貿易商を営む小笠原家の娘・小笠原晶子の許婚。友達思いで悪い性格ではないが、男は仕事、女は家庭という旧態然とした思想の持主。晶子に対して迂闊な発言をしたことによって、彼女や鈴川小梅達が野球を始めるきっかけを作ってしまう。
北見 弘一 (きたみ こういち)
朝香中等学校に在学。坊主頭で厚い唇が特徴。野球団で捕手をつとめ、岩崎荘介とバッテリーを組んでいる。荘介が許婚の小笠原晶子に迂闊な発言をしたことがきっかけで、彼女達が結成した女性だけの野球チーム・桜花会と対戦することになる。試合前、情報収集のために「平塚魔子」と名乗ってやって来た川島乃枝と会い、お互いに惹かれ合う仲になる。 対戦では鈴川小梅達の桜花会メンバーの力を冷静に見据え、手加減せずに迎え撃つ。
永井 荷風 (ながい かふう)
実在の小説家永井荷風がモデル。伸ばした髪を後ろで束ねた男性。文豪であるとともに日本一の吝嗇(りんしょく)家として名高い。鈴川小梅の実家が営む洋食屋すず川に、毎週土曜日午後一時十五分きっかりに現れる。小梅達が結成した女性だけの野球チーム桜花会が、資金集めのために開く茶会に誘われる。石垣環の憧れの人。
紀谷 三郎 (きたに さぶろう)
短髪の若い男性。鈴川小梅の実家が営む洋食屋すず川で料理人をしている。小梅の父から「天才」と呼ばれる腕の良い料理人で、将来は小梅の婿として迎えられ、跡を継ぐことになっている。穏やかで心優しい性格。小梅を「お嬢さん」と呼んでいたが、やがて「小梅さん」と呼ぶようになった。本作では苗字は登場しない。
柳 一馬 (やなぎ かずま)
志葉中等学校に在学する坊主頭の、男子学生。野球団に所属し、ポジションは一塁手。同僚の高原伴睦が勘違いで鈴川小梅に惚れてしまったことがきっかけで、桜花会と練習試合をすることになる。冷静で頭が切れる。
高原 伴睦 (たかはら ばんぼく)
志葉中等学校に在学する男子学生。野球団に所属。岩崎荘介の友人。思い込みの激しい性格。偶然鈴川小梅の落としたハンカチを拾い、当時女学生の間で流行していた告白の方法と勘違いして、彼女に交際を申し込む。これがきっかけで桜花会は練習試合ができることになったが、小梅は家庭や学校での立場が悪くなってしまう。 本作では下の名前は登場しない。
小倉 矢八郎 (おぐら やはちろう)
乾物屋から身を起こした男で、日用品から武器弾薬まで売り捌く財界の立役者。初登場時87歳。小笠原晶子を可愛がっている。晶子や鈴川小梅が結成した女性だけの野球チーム・桜花会の資金集めの茶会に招かれた。
尾張 紀子 (おわり のりこ)
東邦星華女学院に在学し、新聞部に所属。「終わりを記す者」と呼ばれているらしい。鈴川小梅達が結成した女性だけの野球チーム・桜花会を取材し、志葉中等学校との練習試合や、朝香中等学校との対戦に同行する。
塚原 須磨子 (つかはら すまこ)
東邦星華女学院に在学し、新聞部に所属。先輩の尾張紀子と共に、鈴川小梅達が結成した女性だけの野球チーム・桜花会を取材する。尾張の命令によって、志葉中等学校野球団の偵察に行く。
バーバラ・マクレガー (ばーばらまくれがー)
東邦星華女学院の学院長。シスターであり、来日して院長をつとめている女性。温和な性格で、鈴川小梅達が桜花会を結成することを認め、朝香中等学校との野球の試合には職員達と共に応援に訪れる。後に桜花会のことを記した手記を残す。
集団・組織
桜花会 (おうかかい)
鈴川小梅達が東邦星華女学院に作った女性だけの野球チーム。名目上は桜花と欧化をかけて、西洋文明の積極的普及を図ることを目的としている。石川環が発案し、英語教師アンナ・カートランドの協力で学院から承認を得た。
クレジット
- 原作
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神楽坂淳