日本に似た国家「八洲国」と術者たち
本作の舞台は、現代日本に似た国土と文化を持つ国家「八洲国」。この国には「秘術」と呼ばれる超常的な力をあやつる「術者」が存在する。彼らは古くから、その秘術の有用性を時の為政者に示すことで、自らとその一族の存続を図ってきた。こうして術者と国家は、切っても切れない運命共同体となる。しかし時代と共に術者の数が増え、秘術の体系化が進むにつれて、国家権力からの分離独立を目論む「不染派」が台頭し、「術者独立革命」と呼ばれる抗議活動が起こる。その結果、皇紀2579年に八洲国の中に、術者が主権を持つ「龍下まれびと特別行政区」、通称「東仙郷」が誕生する。東仙郷は「天傍台閣」と呼ばれる独自の機関によって統治されており、「祠部省」に所属する術者が治安維持の任に当たっている。しかし現在、禍獣の被害が拡大したり、天傍台閣の一部と民間企業の癒着が目立つなど、各所で怪しい動きが表面化する。
人間社会に害をもたらす禍獣
人間を含む動植物を無差別に襲い、八洲国の社会に甚大な悪影響をもたらす怪異は、「禍獣」と総称されている。禍獣には二つの発生源が存在する。一つは「穢れ」と呼ばれる瘴気(しょうき)を媒介に自然発生するタイプ、もう一つは「渡來口」と呼ばれる異世界へのゲートを通じて人間の世界に現出するタイプである。いずれの禍獣も、生者に宿る霊力を奪うことで生き延びる習性を持ち、取り込んだ霊力の高さに比例して強力になる傾向がある。中には人間に匹敵する知性を持った個体も存在する。なお、天傍台閣祠部省では、禍獣が保有する霊力や凶悪性、社会への悪影響の度合いに基づき、「甲」「乙」「丙」「丁」「戊」「己」「庚」「辛」「壬」「癸」の10段階に分類されている。
天傍台閣の後継者争いに絡む陰謀
藤哉は、天傍台閣祠部省中部方面隊に所属する術者である。彼は部下の帯刀雪晴や鳴海召炳と共に、日夜禍獣との戦闘任務に従事していた。そんな中、藤哉は従兄であり天傍台閣監察院の次席監察官を務める詠逸之丞から、秘密裏にある依頼を受ける。それは、失われた御神刀の奪還任務だった。任務を遂行する過程で、藤哉は渡來口の封印に用いられる護符の原料を発見し、最近頻発する禍獣の大量発生が何者かの仕業ではないかと疑念を抱くようになる。やがて、一連の事件の背後に潜む陰謀が、龍守家の次男、暁仁が所属する昭陽派と、三男の旺士郎が所属する爽籟派による、天傍台閣の後継者争いに端を発していることが明らかになる。
登場人物・キャラクター
龍守 藤哉 (たつもり とうや)
天傍台閣祠部省中部方面隊の三支部に所属する術者の青年。年齢は26歳。霊気を込めた剣技「神隠二十四剣第三式・踏花風塵」や、周囲に雷を放つ祕術「天淵派神通術第一式・天閃」など、強力な技を自在にあやつる。その戦闘力は非常に高く、大型の禍獣とも単独で渡り合えるほどの実力を誇る。ふだんは冷静沈着で用心深いが、時おり大胆で人を食ったような一面も見せる。その正体は、天傍台閣の宗主を代々務める龍守家の四男。しかし、庶子であるため周囲から軽んじられ、特に次男の暁仁からは公然と虐げられている。藤哉自身もこの理不尽な境遇に強い憤りを抱き、一族と天傍台閣に対して一矢報いる機会を虎視眈々(たんたん)と狙っている。
帯刀 雪晴 (たてわき ゆきはる)
藤哉に仕える術者の青年。年齢は24歳。藤哉と同じく天傍台閣祠部省中部方面隊第三支部に所属している。空間から小型の刀を具現化する秘術を得意とし、尋問の際には脅しの手段として用いることもある。藤哉に対しては絶対の忠誠を誓っており、ふだんの温和な物腰からは想像できないほど、彼に敵意を向ける者には冷徹な一面を見せる。古武術道場を営む帯刀家の五男で、長兄の風麿の推薦により藤哉の従者となった。その忠誠心は時に行き過ぎ、何かと藤哉の世話を焼きたがる悪癖があり、本人から煙たがられることもある。時おり、「前世で軍馬だった記憶がある」と真顔で語ることがあるが、その真偽は定かではない。
書誌情報
天傍台閣 3巻 集英社〈ジャンプコミックス〉
第1巻
(2024-12-04発行、978-4088842622)
第2巻
(2025-05-02発行、978-4088845036)
第3巻
(2025-10-03発行、978-4088847153)







