将国のアルタイル嵬伝/嶌国のスバル

将国のアルタイル嵬伝/嶌国のスバル

カトウコトノの『将国のアルタイル』のスピンオフ作品。極東の小国「日薙嶌国」を舞台に、強国に支配された日薙嶌国に帰還した楠昴皇子や武士たちによる、国土を取り戻すための智勇入り乱れた戦いを描く和風ファンタジー戦記。「月刊少年シリウス」2016年3月号から2019年6月号にかけて連載された作品。

正式名称
将国のアルタイル嵬伝/嶌国のスバル
ふりがな
しょうこくのあるたいるがいでん とうこくのすばる
原作者
小林 裕和
漫画
ジャンル
和風ファンタジー
レーベル
シリウスKC(講談社)
巻数
既刊7巻
関連商品
Amazon 楽天

あらすじ

第1巻

極東の島国「日薙嶌国」が大国「大秦国」に敗れ、皇家が滅ぼされて滅亡してから、10年もの月日が流れた。大秦国に支配され「大秦領日薙」となった日薙嶌国は国土も破壊され、日薙人たちは奴隷として使役され、虐げられていた。かつて日薙嶌国皇家の近衛府大将だった明浪速布叉は、明浪速比古と引き替えに生き残った皇太子の帰りを待ち望んでいた。そんな中、大秦領第四州のたたら場に、速布叉が待ち続けていた皇太子の楠昴皇子紅那岐たちを連れて現れる。楠昴皇子は一張も残っていないはずの「東弓」を速布叉に授け、速布叉はすぐに東弓を構えて、ほかの日薙人と共に大秦軍を退ける。この蜂起をきっかけに、楠昴皇子は日薙嶌国再興のために兵を集めるようになり、わずかな期間で大秦軍の砦を攻略して、兵たちの士気を上げていく。しかし、「浄天眼」を持つ速布叉は楠昴皇子が偽者で、正体は名前もない少女だと悟る。その少女は、すでに亡くなった本物の楠昴皇子の遺命を受けた者として、自らが皇太子となって日薙嶌国を再興すると語る。事情を知った速布叉は少女を疑うものの、彼女の計り知れない知略の数々を目の当たりにし、仕えることを決意。こうして速布叉は、日薙嶌国再興の時まで少女が楠昴皇子を演じきることを条件に、戦いに協力すると誓うのだった。

第2巻

復活した秘伝の武具の東弓を手に、楠昴皇子が率いる日薙嶌国軍は大秦国への反撃を開始した。しかしイルハンだけは、大軍勢を抱える大秦国には勝てないと予想し、楠昴皇子に怪しげな取り引きを持ち掛ける。イルハンの狙いは、希少かつ強力な兵器である東弓の入手であったが、それを見抜いていた幡頭弋は、東弓を渡さないとイルハンに念を押す。大秦軍から耶備古たたらの砦が取り戻され、士気を高めた日薙嶌国軍は戦いの準備を始めていたが、楠昴皇子はこの砦を捨てて別の地へ移動すると宣言。明浪速布叉は納得できない長柄戌比古たちを説得し、日薙嶌国軍はある山を目指して移動を開始する。行き先は大秦軍に下った「降」の山人たちが住む里「碓万郷」で、そこには大秦軍に下ったふりをしながら反撃の準備をしていた協力者の眞弓代が、楠昴皇子を待っていた。眞弓代の協力を得て、東弓の火薬の原料となる硝石「焰硝」を確保した楠昴皇子は、眞弓代や速布叉と共に山人を生かした「散り戦」を大秦軍に仕掛けると決意。準備が整った日薙嶌国軍は北浦市場を襲撃し、周囲に火を放たれたことで一度は追い詰められるが、速布叉が率いる東弓の放ち手たちの猛攻で逆転。房張坊有葩らが討ち取ったと知った楠昴皇子はこの地に「風早郷」と名付け、彼女に郷長となるよう命じるのだった。

第3巻

第六州を攻略した楠昴皇子は、風早郷を日薙嶌国軍の新しい拠点とするようになった。有葩たちと共に風早郷の守りを固め、東弓の「放ち手」の選出も完了した日薙嶌国軍は、それぞれの役目を果たすべく、大秦軍との戦いに向けて準備を進めていた。しかし、日薙人の叛乱を知った大将軍の炎陶は、その事態にまったく動じることなく放置する。そんな中、兆京室は叛乱鎮圧のため、第四州の一万の兵を率いて風早郷へ向かう。京室の予測どおり、風早郷近くの断崖には、明浪速布叉が率いる東弓の放ち手が待ち伏せをしていた。速布叉たちはすぐに東弓で応戦するが、大秦軍の先鋒は厚い竹束で防御してくる。しかし大秦軍にとっての脅威は東弓だけにとどまらず、崖上からは長柄戌比古らによる高所からの猛攻も降り注いだ。一見、大秦軍を追い詰めたように見えた日薙嶌国軍であったが、京室は敵本陣に向けて別働部隊を山中に放っていた。眞弓代が率いる山人衆の猛攻を耐え抜き、ようやく風早郷に到着した別働部隊であったが、そこには住人がおらず、一人で矢を放つ楠昴皇子の姿があった。別働部隊は単騎で姿を現した楠昴皇子を追うが、有葩が率いる風早郷の農民が田に仕掛けた罠によって、泥に足を取られた別働部隊は身動きが取れなくなってしまう。

第4巻

兆京室が率いる第四州軍の鎮圧に対し、日薙嶌国軍は非戦闘員をも動員して敵軍を撃退した。風早郷を守り抜いた楠昴皇子は第四州を攻略し、日薙嶌国領の越州を奪還。だが、それを聞いた炎陶はひるむことなく、周囲の難民を受け入れた日薙嶌国軍は食料の乏しい地域で飢餓に陥り、自滅するだろうと予見する。しかし楠昴皇子は、この食糧問題を解決するための秘策をすでに用意していた。楠昴皇子はイルハンに命じて大秦国の商人から食糧を買い占め、その資金源として第四州の日薙人たちに命じて、トルキエの品物に似せた皿や織物を量産していた。日薙嶌国軍が食糧を大量に確保する一方で、近くの第五州の大秦人は飢餓に苦しむこととなり、雪解け後には日薙嶌国軍によって第五州が攻略された。事態を知った陶は楠昴皇子のずば抜けた知略を実感し、奪還された領地を明け渡したままで、二通の文を出す。一つは大秦国の本国にあてた書状で、それは大秦領日薙が大秦国から独立し、新たに「日薙将国」を建国するという内容だった。もう一つは日薙嶌国軍あての書状で、楠昴皇子は陶との会談のために、明浪速布叉紅那岐を連れて境乃淡海の瀬織宮へ向かうこととなった。楠昴皇子と初めて対面した陶は、悪魔的頭脳を駆使してある同盟を持ち掛け、日薙嶌国軍を新たなる戦へと誘う。

第5巻

大秦国に反旗を翻した炎陶は大秦国の脅威に対抗するため、楠昴皇子に同盟「大日薙」の結成を提案する。これに対して楠昴皇子は、「主従ではない対等な関係性」という前提で承認した。そんな中、陶に代わって皇太子となった炎馬が率いる大秦国の討伐軍が海を渡り、第二州へ向かっていた。かつての敵と轡(くつわ)を並べることになった明浪速布叉たちは、第四州で激闘を繰り広げた兆京室とも和解する。こうして日薙将国と手を結んだ日薙嶌国は、「大日薙連合」として共に大秦軍を迎撃することとなる。11年前の大秦軍襲来時の体験から楠昴皇子たちは、大秦軍の上陸をなんとしても防ぐべきだと主張。さらに楠昴皇子は、兵力で劣る大日薙が大秦国の大軍勢に対抗するための、東弓以上の新兵器「巨梓磨」を用いた秘策を用意していた。大日薙は大秦軍が上陸する前に巨梓磨と海人衆によって猛攻を仕掛け、一見優勢になったように見えた。しかし、京室が陶を裏切ったことで大日薙の軍勢は混乱し、一気に攻守が逆転して不利になってしまう。痛恨の敗北を喫した大日薙は、首都の金都への撤退を強いられる。一方、上陸に成功した馬は京室を軍師に任命し、大日薙を追って金都へと進軍するのだった。

第6巻

大秦国の討伐軍と「大日薙」の大日薙連合は、日薙将国の首都である金都にて合戦の時を迎える。兆京室の裏切りと兵力の差で圧倒的不利を強いられる中、楠昴皇子はそれを覆すための秘策を用意していた。東弓による攻撃が大秦軍の大軍によって破られ、大日薙が窮地に陥った頃、海では運河が逆流する現象「潮津波」が起こっていた。楠昴皇子はこの津波を利用し、大秦軍の背後にある海から、海人衆と巨梓磨による奇襲攻撃を仕掛ける。しかし、楠昴皇子を大きく警戒し、万に一つの状況に対応する方法を考えていた京室は、兵を即座に退却させるための合図を用意していた。これにより、海からの巨梓磨の砲撃は大秦軍にほとんどかわされてしまう。大日薙はさらなる不利に陥るが、今度は山側から巨梓磨の砲撃が大秦軍を襲う。それは、京室を警戒して対抗策を練っていた明浪速布叉による指示で、楠昴皇子にとっても予想外の一撃だった。大秦軍が浮き足立っている中、速布叉たちは一気に敵本陣を目指して攻め入る。京室は本陣を前線に出して反撃しようとするが、安陽寿の指摘を受けた炎馬は本陣を退却させると決意。しかし退却した馬たちの前に、待ち伏せしていた尹昌許の軍勢が立ちはだかる。

登場人物・キャラクター

楠昴皇子 (くすのきすばるのみこ)

日薙嶌国第98代君主の皐鳳大皇の息子で、日薙嶌国の皇太子。大秦国に敗戦し、ほかの皇族と共に処刑されそうになっていたところを明浪速比古と入れ替わって生き残り、紅那岐たちと共に行方をくらましていた。10年後に明浪速布叉たちのもとへ東弓を携えて帰還し、日薙嶌国再興の兵を挙げて蜂起する。その正体は本物の「楠昴皇子」の遺命を受けた謎の少女であり、本物の楠昴皇子は戦後10年のあいだに薨去(こうきょ)している。ふだんは首もとの宝具「御簾麻流珠」で見た目を偽り、本物の楠昴皇子にそっくりな少年の姿をしているため、正体は速布叉や紅那岐をはじめとする、ごく一部の側近しか知らない。当初は速布叉に疑われていたが、優れた戦略眼と数々の奇策で大秦軍を翻弄し、わずか2日で領土の一部を取り戻したことから彼の関心を得た。さらに、日薙嶌国再興の時まで楠昴皇子を演じ続けること、しくじった場合は命をもって償うことを条件に、速布叉から国の命運を託される。日薙嶌国軍を率いて各地で味方を増やしながら大秦軍と戦い、次々と敵の砦を攻略して領地を奪還していく。兵法はもちろん武器や他国の文化など、古今東西のあらゆる知識を持ち、敵も味方も驚かせる奇策や名案を次々と繰り出す。つねに冷静に策を練って何手先をも見通し、武士たちの特技や地形、天候なども生かしたあらゆる戦術を用いて、何重にも罠を張って敵を翻弄する。

明浪 速布叉 (あけなみの はやぶさ)

日薙嶌国近衛府大将の男性。かつては皇家親衛隊長を務めていた。一人称は「某(それがし)」。右目に「浄天眼」を持ち、特に東弓を用いた遠距離射撃を得意とする射撃の名手として、大秦国からも恐れられていた。日薙嶌国敗戦後は大秦軍の奴隷となり、同じく奴隷となった長柄戌比古たちをなだめながら、10年前に明浪速比古を身代わりにして逃がした楠昴皇子の帰還と、反撃の機会を待ち続けていた。帰還した楠昴皇子から復活した東弓を受け取って蜂起に参加するが、楠昴皇子が偽者の少女であることを浄天眼で見破る。事情を知った当初はとまどい、少女に疑いの目を向けていたがその優れた戦略眼に感心し、本物の楠昴皇子から遺命を受けた彼女に国の命運を託して、日薙嶌国再興の時まで仕える覚悟を決める。それからは浄天眼によって選出した東弓の放ち手を率いて、日薙嶌国軍の主要戦力として活躍する。当初は楠昴皇子の予想外の発言や、真意のわからない行動などに振り回されることが多かったが、次第に信頼を寄せるようになっていく。また、楠昴皇子からも「日薙嶌国一の武士で、この世で最も頼りにしている男」と評されている。「大日薙」締結後の大秦軍との合戦では、近衛府大将として大日薙連合の指揮を任される。

明浪 速比古 (あけなみの はやひこ)

明浪速布叉の息子。10年前に本物の楠昴皇子を逃がすために身代わりとなり、処刑されて亡くなっている。

紅那岐 (くなぎ)

日薙嶌国後宮内侍司尚侍の女性。女官たちのまとめ役を務める。弓の使い手で、帰還した楠昴皇子の側近であり、楠昴皇子の正体や裏事情を知る数少ない人物。つねに笑顔で穏やかな性格だが、優しそうな見た目に反して辛辣な言動が多い。

長柄 戌比古 (ながらの いぬひこ)

明浪速布叉と共に大秦国の奴隷となっていた青年。日薙嶌国の武士で、明るく快活だが頭よりも体が先に動く気性の荒い性格の持ち主。感情に任せた言動や行動が多く、よく速布叉にたしなめられている。楠昴皇子の帰還後は、日薙嶌国軍の奮い手たちをまとめるリーダーとして活躍している。

武内 乃擂亥 (たけのうち のすり)

明浪速布叉と共に奴隷となっていた巨体の男性。日薙嶌国の武士で、速布叉にあこがれを抱き、東弓の放ち手を目指している。日薙嶌国軍では奮い手として活躍していたが、兆京室が大秦軍に寝返った際に巨梓磨の秘密を守るため、その場に残っていた巨梓磨もろとも自爆して命を落とした。

幡頭弋 (ばとう)

日薙嶌国の鍛冶師をまとめる「筒鍛」という職に就く老人。白いひげを生やしている。東弓を製造できる鍛冶師の数少ない生き残りで、大秦国の命令を受け、第四州耶備古たたらで東弓の製造をしている。しかし、裏では楠昴皇子と内通しながら、大秦軍に従うふりをして製造した東弓を不良品にすり替え、反撃の準備をしていた。楠昴皇子たちと合流したあとは、再び筒鍛として日薙嶌国軍に加わる。

眞弓代 (まゆしろ)

大秦国に恭順した日薙人「降」の山人たちが住む「碓万郷」で郷長を務める男性。訛り口調で話す。楠昴皇子に協力するため、大秦軍に恭順するふりをしながら反撃の準備をしていた。日薙嶌国軍を歓迎し、楠昴皇子に東弓の弾薬の原料と、純白の着背長を提供する。それからは山人の兵による「山人衆」の長として、山地からの奇襲を仕掛けるなど、日薙嶌国軍で活躍している。

イルハン

トルキエ将国の商人をしている男性。張巳青の客人として交易に訪れていたが、楠昴皇子の起こした蜂起に巻き込まれ、なりゆきで日薙嶌国軍に協力することになる。かつてトルキエ将国でも使われていた東弓をはじめとする日薙嶌国の技術や文化に強い興味を持ち、製造技術の入手をもくろみ、楠昴皇子に取り引きを持ち掛ける。当初は東弓の弾薬の原料が、他国でしか取れないのを理由に取り引きを持ち掛けるつもりだったが、楠昴皇子が国内でも製造できるように手回しをしていたため、取り引きを一旦あきらめる。その一方で、数々の奇策を繰り出す楠昴皇子に強い興味を持つようになり、日薙嶌国の技術や知恵をトルキエ将国に持ち帰るために行動し、時には商人の立場を生かして日薙嶌国軍に協力している。正体はルメリアナ大陸西方にある四将国の一つ「ブチャク将国」の王子で、40人以上のきょうだいを持つ。日薙嶌国の技術を手に入れることで、将王となった弟から玉座を奪おうとしている。

張 巳青 (ちゃん すーちん)

大秦国の軍人で、日薙総督府第四州軍仟人長を務める男性。耶備古たたらでの製鉄の監督をしている。過去の戦いから日薙嶌国の武士に恐怖心を抱いており、奴隷となった日薙人に八つ当たりするように暴力を振るっていた。蜂起した楠昴皇子が耶備古たたらを襲撃した際に、東弓を手に入れた明浪速布叉に狙撃されて死亡した。

洪 富平 (ほん ふーぴん)

大秦国の軍人で、日薙総督府第四州軍仟人長を務める男性。磐牟路の駐屯軍指揮官として、幡頭弋をはじめとする日薙嶌国の鍛冶師たちに命じて東弓を作らせていた。楠昴皇子の計略で砦が崩壊した際に、明浪速布叉に狙撃されて死亡した。

房 張坊 (ふぁん ぢゃんふぁん)

大秦国の軍人で、日薙総督府第六州軍の仟人長を務める男性。炎陶による独自の軍制に不満を抱いており「仟人長」と呼ばれるのを嫌って、部下たちには「軍指揮使」と呼ばせている。北浦開拓地で有葩をはじめとする日薙人の女性を奴隷のように扱い、暴力を振るっていた。北浦市場で日薙嶌国軍の襲撃を受けて追い詰められ、有葩たちに殺害された。

吴 石楼 (うー しーろう)

大秦国の男性軍人で、日薙総督府第四州軍佰人長を務める。房張坊の部下だが、賄賂などによって実力を無視した出世が横行している大秦国の現状をよく思わず、実力主義者の炎陶を尊敬している。日薙嶌国軍の襲撃を受けた際には、陶から授かったトルキエ将国式の戦法を用いて対抗するが、東弓の猛攻を受けて死亡する。

有葩 (あるはな)

第六州北浦開拓地で房張坊に仕えている、日薙人の若い女性。坊から奴隷のように扱われて暴力を受けていたが、北浦市場に日薙嶌国軍が乗り込んできた際、追い詰められた房を仲間の女性と共に殺害。それらの功績を楠昴皇子から評価され、風早郷の郷長になるように命じられた。

炎 陶 (いぇん たお)

大秦国の皇太子だった男性。実力を軽視しがちな父親の戴華帝とは価値観が合わず、実力のない者がのし上がって立場にあぐらをかいている、大秦国の現状を快く思っていない。戴華帝から才能を恐れられ、忌避されていたことから「皇帝に異国の言葉で呪詛をかけた」という濡れ衣同然の口実により、皇太子位を剥奪されて国外に送られた。このため、一部の者からは廃太子呼ばわりされている。ほかの大秦人が見向きもしなかった日薙嶌国に目をつけて戴華帝に領土として求め、一年後には日薙を占領し、大将軍として統治を任されるようになる。ルメリアナ大陸西方に強い関心を持つため「西方狂い」の異名でも呼ばれる。特にトルキエ将国への関心は強く、トルキエ将国を参考にした独自の統治体制・軍事体制を大秦領日薙で採用している。身分や出自よりも個人の実力を重視する実力主義者で、身分を問わず有能な者は平民や日薙人でも高く評価し、無能な者には大秦人でも容赦なく厳罰を下している。のちに大秦領日薙を「日薙将国」と改め、大秦国に代わる新国家の設立をもくろむようになる。当初は楠昴皇子の叛乱を放置していたが、第五州が攻略されてからは実力を認めて会談に招き、大秦本国からの大秦軍に対抗すべく、同盟「大日薙」を結んで手を組むようになる。

シャウラ

トルキエ将国で商人をしている女性。炎陶のかたわらに侍る愛人。陶の才能や人柄に興味を持ち、彼や日薙将国の行く末を冷静に見守っている。一度見た相手の顔は忘れることはなく、「大日薙」締結後に遭遇したイルハンの正体を見破った。

戴華帝 (だいふぁでぃ)

大秦国の皇帝で、炎陶と炎馬の父親。実力主義者で西方狂いの陶とは価値観がまったく合わず、才能や野心も秘めている彼を忌避している。「皇帝に呪詛をかけた」という濡れ衣を陶に着せて皇位を廃したうえで、北の黒江の地に追放しようとする。その際、陶に黒江ではなく日薙嶌国を領土にしたいと求められ、日薙嶌国を取るに足らない小島として軽視していたため、すぐに認めた。しかし、陶が独立を宣言して大秦国に反旗を翻したあとは彼を逆賊と見なし、皇太子となった馬に討伐を命じる。

炎 馬 (いぇん まぁ)

大秦国次太子で、炎陶の弟。兄の陶を慕っていたが、皇位を廃されて大秦領日薙の大将軍となった彼に代わり、次期皇帝となる皇太子に就いた。陶が大秦国に反旗を翻したあとは、戴華帝の命令によって陶の討伐を命じられ、討伐軍総大将として大軍を率いて日薙将国へ進軍する。実の兄である陶を討つことには大きなためらいがあり、上陸寸前までは使者を送って降伏を勧告しようとするなど、陶と戦わずにすむ方法を模索していた。陶からは「なんの才能も持たない凡夫」と評される一方で、楠昴皇子に少し似ているともいわれている。上陸後は寝返った兆京室を軍師に迎え、日薙将国首都の金都で京室の知恵を借りながら大日薙連合を追い詰める。しかし明浪速布叉の反撃をきっかけに形勢逆転され、安陽寿と共に撤退。その際、陶が差し向けていた尹昌許に人質として捕えられる。

兆 京室 (じゃお じんしー)

大秦国の将軍で、日薙総督府第四州軍を束ねる男性。ひょうひょうとした冴えない風貌だが将軍としては優秀で、特に軍略の才能は炎陶にも高く評価されている。第六州で起こった日薙嶌国軍の叛乱を知り、拠点である風早郷に兵を率いて鎮圧に向かう。日薙嶌国特有の気候の変化を生かしたいくつもの優れた戦略を繰り出したものの、それらを上回る楠昴皇子の戦略の前に敗れる。鎮圧をあきらめて撤退するが明浪速布叉たちに追い討ちをかけられ、身代わりとなった杏碑林に守られて生き残るが、大敗の罰として萬人長に降格された。「大日薙」締結後は日薙嶌国軍と和解し、大秦国からの討伐軍を迎撃する部隊の指揮を任される。しかし、身代わりになって死んだ碑林に報いるために、開戦直後に陶を裏切って炎馬に恭順した。安陽寿から警戒されるものの馬から軍師に任命され、馬に軍略を進言する形で大秦軍の指揮を執るようになる。一度は一瞬のスキをついて大日薙連合を追い詰めるも、警戒した速布叉が仕掛けていた対策によって失敗。本陣を前線に出すように進言するが、楠昴皇子への勝利に固執しすぎて馬の安全を軽視していると陽寿に指摘され、やむを得ず撤退する。

杏 碑林 (しん べいりん)

兆京室を補佐する大秦国の女性軍人。日薙総督府第四州軍萬人長を務める。京室の言動や行動にはよく振り回されているが、数々の戦略を練り出す名将である彼を信頼している。京室と共に日薙嶌国軍の鎮圧に向かうが、敵軍の猛烈な反抗から撤退を強いられる。その際に明浪速布叉の追い討ちから、京室を逃がすために自ら身代わりとなって命を落とした。

尹 昌許 (いん ちゃんしゅ)

大秦軍日薙総督府「耳目」の長官を務める男性。炎陶の密偵として、主に情報収集を担っている。黒い服と帽子をまとった、物静かで冷静な性格の人物で、武人としても優れている。

安 陽寿 (あん やんしょう)

大秦国の軍人で、侍衛親率指揮使を務める男性。炎馬の補佐役として討伐軍に加わり、「大日薙」と戦う。寝返り者でありながら軍師を任された兆京室を快く思わず、警戒している。

荒路差 (あらじさし)

日薙嶌国の海人の男性。関西弁のような訛り口調で話す。海人の兵が集結した「海人衆」を率いて日薙嶌国軍に加わり、海から奇襲を仕掛けたり巨梓磨の放ち手となったりして活躍する。

卯為彦 (うなひこ)

日薙将国山林局の局長を務める青年。元は日薙嶌国の素朴な牧童だったが、炎陶に才能を買われ、彼に仕えるようになった。

場所

日薙嶌国 (くさなぎとうこく)

ルメリアナ大陸東端の海に浮かぶ小さな島国。1500年前に建国され、自然の多い豊かな国土と地下資源の恩恵で繁栄していた。当初は「化外の島」として大秦国から見向きもされていなかったが、大秦国から追放された炎陶に、皐鳳大皇の崩御に乗じて侵攻され、皇暦1492年に占領された。占領後は皇族が処刑されて日薙皇家は断絶し、国土も開発によって荒れ果てた。また、大秦人に奴隷として酷使される日薙人は「薙奴(ヂーヌー)」と呼ばれて差別されている。占領から10年後に帰還した楠昴皇子の蜂起をきっかけに、日薙嶌国軍として大秦国への反撃を開始する。精強な兵士は「武士(もののふ)」とも呼ばれ、主に東弓を武器として戦う。また、地形に詳しく山岳地帯での戦いを得意とする山人や、海をよく知る船乗りや漁師を中心とした海人など、特異な戦法を用いる兵を集めた「山人衆」や「海人衆」も編成されている。製鉄技術にも優れ、東弓に欠かせない上質な鉄はもちろん、ルメリアナ大陸の西方諸国よりも優れた刀剣を産出している。のちに楠昴皇子によって独立が宣言され、同盟「大日薙」の締結後は、奥州が返還されて島の北半分を領土とするようになった。

日薙将国 (くさなぎしょうこく)

元は日薙嶌国だったが大秦国に滅ぼされ、大秦軍日薙総督府の統治下に置かれた。当初は「大秦領日薙」と呼ばれていたが、のちに大秦国に反旗を翻した炎陶によって「日薙将国」に改められた。占領後は大秦国とは異なる、トルキエ将国を模した実力主義の独自の兵制が採用され、国土を六つの州に大きく分け「六将軍」と呼ばれる六人の将軍によって、それぞれの州が管理、統治されている。首都は第二州にある金都(ペイジャン)。また、大将軍の陶を支える総督府直属の組織として、密偵や情報収集を担う「耳目(アルムー)」などが置かれている。同盟「大日薙」の締結後は島の南半分を領土としている。

大秦国 (ちにりこく)

ルメリアナ大陸東端にある巨大国家。莫大な人口による大規模な農業や畜産を中心に発展し、強大な兵力を生かして領土の拡大を図っている。炎陶によって日薙嶌国が占領されたあとは、領土拡大による繁栄が民衆にも行き渡って生活水準も向上している。その一方で個々の実力や実績を軽視した軍制や方針が多く、私欲のために身分や賄賂を利用してのし上がってきた者が、軍や政治の実権をにぎる傾向にあるため、一部の者からは統率力の低下や弱体化が懸念されている。

風早郷 (かぜはやのさと)

日薙嶌国第六州の西沿岸に位置する、北浦開拓地にある小さな農村で、周囲を深い山と断崖に囲まれた僻地。日薙嶌国軍が房張坊の軍を倒したあと、楠昴皇子によって「風早郷」と名付けられ、郷長は有葩が務めるようになった。以降、防備が固められて日薙嶌国軍の拠点となる。

トルキエ将国

国土の殆どを砂漠と草原に覆われた遊牧民の土地であり、世界の富の9割がそこを通ると言われる商隊の街道(キャラバン・カラヨル)と海の街道(デニズ・カラヨル)とが交差した、交通の要衝が位置する商業国家でもある。トルキエ将国の軍事・行政を司るのは、十三人の将軍(ヴェズイール)と呼ばれる者たち。 その上席に大将軍(ビュラクバシャ)がいる。徹底した能力主義社会であり、上位に立つ者は常に功績才能に豊かで、人格の高潔なることを求められる。国内13の州は、それぞれを十三人の将軍(ヴェズイール)が統治。国政の全ては週3日開かれる将軍会議(デイワーン)にて決議される。また、トルキエ将国及び、その祖を同一とする四将国のムズラク将国・クルチェ将国・ブチャク将国・バルタ将国、計5つの将国を総称して大トルキエと言う。 この代表らが集う唯一の会議であり、大トルキエにおける最高決定機関である大トルキエ将軍会議(ビルリキ・トルキエ・デイワーン)と言うものがある。この四将国がバルトライン帝国の勢力拡大に伴って、宗主トルキエ将国に叛旗を翻したことで内乱を引き起こしたが、四将国の将王(スルタン)の総入れ替えをマフムートが成し遂げたことによって大事にならずに済んだ。

その他キーワード

浄天眼 (しずあまつのまなこ)

明浪速布叉の右目に宿った特殊な目で、千里眼のような能力を持ち、遠方なども見渡せる。浄天眼の力により、速布叉は宝具で姿を偽っている楠昴皇子の正体を見破った。

東弓 (あずまゆみ)

日薙嶌国製の特殊な火縄銃で、トルキエ将国など西方諸国からは「シャルクヤイ」と呼ばれている。雷のような轟音を響かせて敵を射抜くなど強力だが、現存していた東弓は日薙嶌国の敗戦時に破却されたため、幡頭弋をはじめとする日薙嶌国の鍛冶師のみが製法を知る、希少な兵器となっている。明浪速布叉を中心とする東弓の使い手は「放ち手(ぶちて)」とも呼ばれるが、うまく使いこなすには綿密な訓練と技術を要する。10年前は水に濡れると使えなくなるなど、天候の影響を大きく受けるという弱点があったが、幡頭弋によって改良が重ねられ、雨の中でも使えるようになった。弾薬には硝石「焰硝」をはじめとする、特殊な製法を用いた鉱物が使用されている。それらは本来、西方との交易なしには得られない鉱物ばかりだったが、楠昴皇子が考案した新たな製法によって、交易なしでも日薙嶌国内で生産することが可能となった。

巨梓磨 (おおあずま)

日薙嶌国製の大砲。大秦国と大日薙連合の戦いにて初めて使用されたが、実は東弓よりも前に作られていた、東弓の原形ともいえる秘伝の兵器。東弓と同様、その製造法は日薙嶌国の鍛冶師のみが知り、他国に製造法が漏れぬよう厳重に守られている。

大日薙 (だいくさなぎ)

叛乱を起こした日薙嶌国と、炎陶によって建国された日薙将国のあいだで締結された軍事同盟。日薙将国と日薙嶌国の連名による独立宣言を受けた大秦国からの侵攻に備えるため、陶によって提唱された。陶は当初、トルキエ将国とその周辺の四将国で採用されている「大トルキエ体制(将国制)」とよく似た主従関係を前提に、同盟を持ちかけていた。しかし、陶の企みを察知して警戒した楠昴皇子がこれを拒否し、日薙嶌国領の背後にある奥州の返還と対等な関係性を要求したため、最終的に互いに対等な条件の同盟として締結された。これによって日薙嶌国軍と日薙将国軍による連合軍「大日薙連合」が結成され、共に大秦軍と戦うことになった。

クレジット

ベース

将国のアルタイル (しょうこくのあるたいる)

ルメリア大陸はバルトライン帝国とトルキエ将国、港湾都市国家や花の都共和国などが、それぞれ独自の文化文明を築きながら併存する架空の世界。その大陸の覇権を狙って動き出す帝国に対し、主人公が決死の覚悟で立ち... 関連ページ:将国のアルタイル

書誌情報

将国のアルタイル嵬伝/嶌国のスバル 7巻 講談社〈シリウスKC〉

第1巻

(2017-01-17発行、 978-4063906769)

第2巻

(2017-06-23発行、 978-4063907162)

第3巻

(2017-12-08発行、 978-4065103142)

第4巻

(2018-03-09発行、 978-4065110485)

第5巻

(2018-07-09発行、 978-4065119471)

第6巻

(2019-02-08発行、 978-4065145081)

第7巻

(2019-09-09発行、 978-4065164778)

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