竜女戦記

竜女戦記

舞台は3匹の竜が住む、争いの絶えぬ「陀国」。平穏な暮らしをしていた主婦のたかは争いに巻き込まれ、過酷な運命に身をゆだねることとなる。家族を守るため、天下統一を目指す主婦の姿を描いた和風ファンタジー戦記。「このマンガがすごい! 2021」のオトコ編第5位に選ばれている。

正式名称
竜女戦記
ふりがな
りゅうじょせんき
作者
ジャンル
戦争
 
和風ファンタジー
レーベル
平凡社
巻数
既刊6巻
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世界観

本作『竜女戦記』の舞台となる陀国は、パラレルワールド的な戦国時代の日本をもとに、ファンタジー要素を交えた世界となっている。陀国にはかつて竜を駆った三人の竜公子が存在し、彼らは陀国の覇を巡って争い合っていた。しかし、長き戦いに不毛さを悟った竜公子はそれぞれ「蛇」へとくだることを約束し、それぞれが果ての地へと居を移すこととなる。これが「三蛇」の興りとされ、陀国は「白蛇」「黒蛇」「青竜蛇」それぞれが治める国となっている。陀国には竜以外にも猿人や鬼といった人ならざる者が存在し、中には呪法や法力といった不思議な力をあやつる者もいる。陀国の地理は現実の日本を上下さかさまにし、左右反転にした形となっている。この世界観は海外ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作となったジョージ・R・R・マーティンの小説『氷と炎の歌』の影響が非常に強い。作者の都留泰作は、この作品の東洋版を作ろうと思ったのが世界観の基礎であり、本作の世界観を「日本史のテーマパーク」とも語っている。

あらすじ

天下修法

氷向(ひむか)の国に住むたかは、与一郎と結婚し、彼とのあいだに三人の子供を設け、平穏に暮らしていた。しかしある日、氷向の国は氷庫(ひょうご)の白蛇家の襲撃を受ける。氷向の国を治める結堂家当主の結堂氷向守盛信が圧政を行っていたため、氷向の国の農民たちも白蛇家に加勢し、結堂家はたちまち敗北する。たかは父親の美濃義広に逃がされて与一郎と合流し、子供たちと共に桜都に落ち延びる。頼る者もなく、貧しさの中でその日暮らしを始めるたかたちであったが、たかは都で暮らし始めてほどなくして、不思議な夢を見るようになる。自らを魔仏と呼ぶ怪異は、子供たちを生贄(いけにえ)に差し出せば、たかに天下を与えると言うのだ。たかは魔仏の夢を何度も見るが、その申し出を一顧だにせず、逆に魔仏を夢から叩き出す。しかし魔仏の夢は与一郎も見ており、都での暮らしに疲れ果てていた与一郎は、次第に魔仏の言葉に囚われていく。魔仏の存在を怪しんだたかは、何者かの呪法と考え、夜こっそりと周囲を探索し、全裸の奇妙な行者を発見。この行者が災いの原因だと察したたかは、行者を追い払う。しかしその行者の正体は、結堂家の先代当主の勘兵衛その人だった。死んだと思われていた勘兵衛は山々で暮らすうち、法力に目覚めていたのだ。たかに天下取りの相を見出した勘兵衛は、結堂家に戻り、自らの修呪を受けた者を新たな当主に据えると宣言する。魔仏の夢を見て、その言葉に囚われた与一郎はこの言葉にすがり、勘兵衛の修呪を受けようとするが、このままでは子供も与一郎も死ぬと悟ったたかは、勘兵衛の目論見(もくろみ)通り自らが修呪を受け入れ、「天下取りの修法」を手にする。こうして主婦による天下取りが始まるのだった。

木偶(デク)

たかは天下取りの修法を授かったが、そのことを知るのはたかと勘兵衛のみ。表向きは与一郎が、新たな結堂家の当主となる。与一郎とたかは一時期険悪な仲となるが、子供を救うため、二人力を合わせて天下を取ることを誓う。そしてたかは、再び不思議な夢を見るようになる。夢の中で別の人間となっていくのを実感したたかは、勘兵衛にそれこそが「天下取りの修法」だと教えられる。たかは自分の意識を他者の心の中にひそかに潜り込ませ、その者を「デク」にすることで、行動をあやつることができることを知る。初めて力を使ったたかは、偶然にも黒蛇家の女中、お慶の中に入り込むことに成功し、その行動に干渉していく。お慶は黒蛇家の姫の黒姫に近しい人物で、黒姫はいずれは若き帝の妻となることが約束されている。そしてたかは勘兵衛から、修法を使いこなすことで、デクはお慶から黒姫へ、そしていずれは帝へと移動することが可能だと教えられるのだった。

登場人物・キャラクター

たか

与一郎の妻。氷向の国生まれで、与一郎とのあいだに三人の子供を授かる。武家の娘として平穏に暮らしていたが、3年前、氷庫の白蛇家の侵攻を受け結堂家は滅亡。夫と子供と共に、桜都へと落ち延びる。都で暮らし始めて、魔仏が子供と引き換えに天下を与えると約束する夢を見るようになるが、気が強く前向きな性格のたかは、この誘惑を跳ね除けている。しかし、夫の与一郎は魔仏の夢にうなされ、過酷な都での暮らしもあり、次第に正気を失っていく。それが結堂家の先代当主、勘兵衛の仕業だと看破するも、勘兵衛が修呪を授けると布告を出し、心が限界だった与一郎はそれにすがってしまう。勘兵衛の目論見にはまり、このままでは夫と子供も死ぬと確信したたかは、修呪を受け入れ、「天下取りの修法」を手にする。勘兵衛には、女にもかかわらず天下取りの相を持つと評され、修法を授かったことで人をあやつる能力を得る。人をあやつる能力は人の無意識をあやつるもので、天空から雨のように意識を飛ばし、他人の体に意識を潜り込ませることができる。あやつられている者は「デク」と呼ばれ、あやつられている自覚はなく、本人の意を反した行動を取っても、勝手に理由をつけて納得して、自分があやつられているとはまったく思わない。ただし、あまりに突飛な行動を取らせ続けると周囲が怪しみ、その行動を阻止されるリスクもある。作れるデクの数は最大で三人までで、流行り病のように周囲の人間に乗り移らせることもできる。しかしデクが殺されたり、本物の法力を持つ者に祓(はら)われた場合はデクは解放され、最初のデク探しからやり直しをしなければならない。

与一郎 (よいちろう)

たかの夫。結堂家当主、結堂氷向守盛信の庶流の子で、男子がいない美濃家の婿養子としてたかと結婚する。温厚な性格で家族思いながら、情が厚すぎるため弱気なところがある。与一郎自身も自分の弱い部分を嫌っているが、たかからはそういう一面も愛されている。まじめで責任感が強いが、それだけに重圧を抱え込むことが多く、戦に敗れて家族と共に桜都に逃げ込んでからは、家族を支えるためにより一層気負うこととなる。魔仏の夢を見続けたこともあり、次第に心身を疲弊させ、正気を失っていく。たかが身を投げ打って安藤吉備守盛遠から士官の話をもらってくるが、夫婦そろって屈辱的な仕打ちを受けたことで、魔仏の言葉にすがるようになる。そして勘兵衛の目論見どおり、彼の出した修呪を受け入れる。与一郎は自らが修呪を受け入れたと思っているが、勘兵衛が真に目を付けているのは妻のたかで、与一郎をあやつることで、たかに天下取りの修法を得させるのが目的だった。その事実を知るのはたかと勘兵衛のみで、与一郎は自らが修法を得たと思っている。たかが修法を得たあと、勘兵衛に新たな結堂家当主に認められる。本名は「美濃与一郎」だが、当主就任後、勘兵衛の「信春」という名前から一文字もらい「結堂元春」と名を改めている。

勘兵衛 (かんべえ)

怪しい無衣の行者。やせ細った老齢な男性で、たかと与一郎に魔仏の夢を見せた。その正体は、たった一代で牢人から成り上がった希代の大英傑にして、先代の結堂家当主「結堂勘兵衛信春」その人。30代の頃、主家を放逐され家族と共に諸国を浪々としている際、一人の無衣の行者と出会う。行者に天下取りの相があると言われた勘兵衛は、己の三人の子供を差し出し、「天下取りの修法」を授かる。それからは修法の力もあって順調に成り上がり続け、銀砂川と犬吠平の戦いで勝利し、当時傾きかけていた青竜蛇家を建て直したうえで、それぞれの戦いで勝ったことにより、生贄に捧げた子供のうち二人を取り戻す。この功績をもって英雄と称えられ、副将軍の座にまで上り詰めるが、そこで焦りと欲に目がくらんだ勘兵衛は、竜をあやつる力を持つ帝の「竜杖」に手を掛けてしまう。これによって帝の信頼を失った勘兵衛は天下を取る野望も断たれ、蟄居(ちっきょ)する身となる。生贄にした最愛の娘も救うことができず、今も後悔し続けている。蟄居後はすべてに失望し、周囲の制止を振り切ってたった一人で深山に入り込み行方不明となる。山での暮らしで法力に目覚め、現在は自分に天下取りの修法を与えた無衣の行者と同じく、天下を統一できる者を探している。桜都に落ち延びようとしていたたかにその素質を見出し、勘兵衛自身の野望を受け継がせるべく、彼女に天下取りの修法を与える。

黒姫 (くろひめ)

黒蛇家の姫。黒玉のごとき美しい肌を持つ見目麗しい女性で、穏やかで優しい性格をしている。父親の黒蛇公の意向を受け、近い将来、青竜蛇家の若き帝のもとに嫁ぐことが決まっている。

お慶 (おけい)

黒姫のお付きの女中。色黒の肌を持つ若い女性で、たかの修法によって乗っ取られ、最初のデクとなる。だが、当時のたかは修法の使い方をまだわかっていなかったため、お慶の体で何度も黒姫の世話を失敗している。自分があやつられているとは露知らず、失敗は自分のせいだと感じて自殺しようとするが、たかにあやつられた結果、自殺を思い留まる。

美濃 義広 (みの よしひろ)

たかの父親。結堂家に仕える七番家老で、かつては武家として働いていた。しかし、国人衆を鎮圧するための戦いで両腕を失い、現在は往年の凛々(りり)しさは見る影もないほど弱々しい姿となっている。結堂家に仕えてきたが、結堂氷向守盛信の圧政には諫言(かんげん)を繰り返し行っており、白蛇家の戦いで結堂家が滅亡に瀕した際も仕方ないことと受け入れている。たかたちを逃がすため殿を務め、両腕がないにもかかわらず敵兵の前に姿を現し、啖呵(たんか)を切って頭突きを食らわす。

安藤 吉備守 盛遠 (あんどう きびのかみ もりとお)

武条家の都詰家老を務める男性。岩のようなゴツゴツとした顔で、不細工な自分の容姿を嫌っている。元は結堂家に仕える筆頭家老で、一時期はたかと結婚していた。しかし、たかの目つきを嫌って離縁を言い渡し、代わりにたかの妹のおれいを妻にしている。あまりに身勝手な言い分だったが、身分の差もあり美濃家はやむを得ず受け入れた。白蛇家との戦いでは、所要で桜都を訪れていたために難を逃れる。その後、早々に武条家に寝返り、自分を頼ってきた結堂家の若君を武条家に売り渡している。下品で卑劣な性格をしており、桜都に落ち延びたたかを睡眠薬で眠らせ、慰みものにする。また、たかの夫の与一郎の士官にも口利きすると約束したが、その仕事は小姓がやるような刀持ちだった。夫婦そろってなぶり者にしたあと、与一郎にたかを慰み者にしたことを伝え、与一郎に消えぬ心の傷を刻み込む。

結堂 氷向守 盛信 (ゆいどう ひむかのかみ もりのぶ)

結堂家の二代目当主を務める男性。大英傑といわれた勘兵衛の嫡男だが、結堂氷向守盛信自身は凡夫以下の器量しかなく、氷向の国を治めているが、圧政によって国を疲弊させている。周囲の諫言にも耳を貸さず、遊び惚(ほう)けていたために農民の一揆を招き、白蛇家の侵略を許す結果となる。白蛇家の侵攻に合わせて、隠密部隊が彼の居城を強襲し、ぬたうなぎ公のもとに囚われの身となる。しかし、政情の変化でぬたうなぎ公に解放され、桜都に帰還する。結堂家の旗印となっているが、実態は家族、兄弟を見捨てて命欲しさに自分だけ帰って来ただけに過ぎない。結堂家に帰還した勘兵衛からもすでに見限られており、勘兵衛に新たな当主として、たかの夫の与一郎が指名される。与一郎を足軽風情と見下しており、彼の当主任命を最後まで反対し、当主の席に居座り続けるという暴挙に出る。もともと放蕩三昧で評判が悪く、当主の座に居座り続けたため、周囲から見放されて孤立し、処刑寸前まで追い込まれたところで、やっと自らが危機に陥ったことに気づき命乞いする。与一郎に命だけは助けられ、放逐される。

場所

陀国 (だこく)

「三蛇」の納める地。六芒星に囲まれ、修呪が封滅された不毛の地で、南北に縦長に広がる土地を持つ島国となっている。東には広大な大陸である東華が存在し、500年前に大陸より渡って来た三人の竜公子が三蛇の興りとされており、現在はそれぞれが治める地は北から「北蛇州」「中竜蛇州」「南蛇州」と呼ばれている。三蛇の家は、500年前に不戦の誓いを結び、以降、現在まで長きにわたってその誓いを守ってきた。しかしそれぞれが蛮族の平定を行った昨今、その力の矛先はお互いへと向くようになり、各国の緊張は限界に達しつつある。

東華 (とうか)

陀国の東にある大陸。かつては「翠」と呼ばれた王朝が栄えていたが、大陸南端より起きた奴贄(ぬし)の大反乱により滅び去った。修呪の方陣を組み上げることで、米麦の生育を助け、繁栄を誇っていたが、王朝の滅びと共に方陣も崩れ去り大飢饉が発生。竜公子たちが都を脱した際には、陸にも海にも億万の死体が積み重なる滅びの地となっていた。

その他キーワード

竜公子 (りゅうこうし)

翠の最後の皇帝、万統帝の三人の公子たちの総称。竜をあやつる力を持ち、それぞれが「白竜」「黒竜」「青竜」を従えている。500年前、翠が滅亡した際に都から脱する。安住の地を求めて各地を放浪するが、東華にはすでに安住の地がないと察した三人は、海を渡り陀国へとたどり着く。陀国にたどり着いた竜公子は大聖無陀の仏光に灼(や)かれ、竜たちが傷を負う。竜公子は竜の傷を癒やしたのち、些細(ささい)な理由で仲たがいを始め、それぞれが竜王を名乗り、陀国の領土権を主張し始める。当時、陀国は女皇の統べる国であったが、圧倒的な力を持つ竜の力には抗(あらが)えず、三竜王のお互いがお互いを潰し合う戦争に巻き込まれ徐々に滅びに近づいていく。公子の長子の青竜王は長き争いに不毛さを悟り、陀国の女皇に愛と謝罪を語り、それを女皇が受け入れたことで争いは終わりを迎える。青竜王の説得で二人の竜王もそれぞれ争いをやめ、白竜王は北へ、黒竜王は南へ、それぞれ居を移す。それに満足した青竜王は王であることを止め、蛇へとくだり、「青蛇ノ将」と名乗るようになる。白竜王の子孫は「白蛇公」、黒竜王の子孫は「黒蛇公」と名乗るようになり、これが世にいう「三蛇」の興りだとされる。三蛇家の子孫は、女皇の鶴家の名のもとに二度と争わない「不戦の誓い」を結んだ。この誓いが現在まで500年の長きにわたって効力を発揮し、三蛇が争いを防いできた。しかし近年は各国の緊張度が高まり、冷戦のような様相を呈している。

書誌情報

竜女戦記 6巻 平凡社

第5巻

(2022-09-24発行、 978-4582288353)

第6巻

(2023-10-20発行、 978-4582288360)

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