天狗の兄弟のスローライフを描く
本作の舞台は、都内だが自然が残る「日本昔ばなし」のような農家。天狗の飯綱家の当代である飯綱基は、14歳のときからずっとここで暮らしている。天狗の家系は14歳の1年間、俗世を離れて隠遁生活をするというしきたりがある。ニューヨークに住む、基の弟・飯綱オンは、14歳の誕生日を迎えると同時に来日、兄と共に暮すことになる。農家での暮らしは囲炉裏やかまどなどがある素朴なものであり、食べ物もほぼ自給自足。天狗の兄弟は、稲を刈り作物を採集し、手間をかけて料理を作るというスローライフを送る。
自然の恵みを使った様々な料理が美味しく描かれる
食材となるのは、米や野菜はもちろん、野草、ゆず、山菜といった自然の恵み。オンの1年間の隠遁生活に合わせ、四季折々の料理が登場する。ちなみに、1巻が秋、2巻が冬というふうに、季節ごとに単行本1冊が刊行されており、出版時期とマンガの中の季節も合わせているという。登場する料理は、かまど炊きの「おにぎり」というシンプルなものから、クルミとグラニュー糖、水だけで作る「キャラメルミルク」、ふきのとう、ゼンマイ、ベーコンほかで作る「山菜のケーク・サレ」といったおしゃれなものまで、バラエティに富んでいる。また、料理の過程と手順を丁寧に描いている点も特徴である。
天狗会連盟の存在と天狗の末裔たち
作者・田中相は、魔女のような男性を描きたいと思い、主人公を天狗にしたという。オンは「天狗パワー」に憧れているが、現代の天狗たちは、ほぼ普通の人間と変わらない。特殊能力といえば、基と暮らす犬のむぎと話ができることぐらいだが、それも15歳までである。天狗たちは、白峰家、比良山家、愛宕家、鞍馬家、大峰家、飯綱家からなる「天狗会連盟」に管理されており、14歳からの1年間隠遁生活をするというしきたりも連盟からの指示である。ほかにも大晦日(おおみそか)に行われる「鬼迎え」の儀式や、夏の「天狗まつり」といった、天狗独特の風習があり、天狗の末裔たちを結びつけている。
登場人物・キャラクター
飯綱 オン (いづな おん)
ニューヨークに住む、天狗の末裔の少年。14歳。元気で明るい性格でピンク色の髪が特徴。飯綱家の当代・飯綱基の弟。天狗の家系のしきたりで、1年間隠遁生活を送ることになり、日本にいる基を訪ねる。基が住む、日本昔ばなしのような農家に面食らうが、次第に素朴で自然な生活に馴染(なじ)んでいく。「天狗の神通力」に憧れており、基の背中に生える羽根をものすごくうらやむ。
飯綱 基 (いづな もとい)
天狗の末裔である飯綱家の当代の青年。29歳で、飯綱オンの兄。穏やかで冷静な性格をしている。天狗界に久しく現れなかった羽根を持った天狗である。天狗の家系のしきたりに従い、14歳のときに先代である祖母がいる東京某所で隠遁生活を送り、その後跡を継ぐ。料理が得意で無類の食いしん坊でもある。隠遁生活が長いため機械には疎い。
書誌情報
天狗の台所 5巻 講談社〈アフタヌーンKC〉
第1巻
(2022-09-22発行、 978-4065291511)
第2巻
(2023-02-21発行、 978-4065305614)
第3巻
(2023-09-22発行、 978-4065329740)
第4巻
(2024-05-22発行、 978-4065354612)
第5巻
(2024-10-22発行、 978-4065375389)