失踪日記2 アル中病棟

失踪日記2 アル中病棟

ギャグ漫画創作のプレッシャーでアルコール依存症になってしまった作者・吾妻ひでおが、精神科の病院に長期間入院して治療を行った経験を描いた自伝的ノンフィクション・コミック。売り上げ30万部のベストセラーで、様々な賞を受賞している『失踪日記』の続編。『失踪日記』の最後のパート「アル中病棟」は治療の途中で終わっていたが、それを新たに入院から描き直し、3期3ヶ月の治療を経て退院までを、ギャグタッチの絵柄でなるべく暗く・重くならぬよう作成したもの。すべて書き下ろしである。

正式名称
失踪日記2 アル中病棟
ふりがな
しっそうにっきつー あるちゅうびょうとう
作者
ジャンル
自伝・伝記
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概要・あらすじ

ギャグ漫画創作の苦しみから生じる鬱状態から脱出するため、酒に走ってしまった漫画家吾妻ひでおは、眠っているとき以外は酒びたりという「連続飲酒」となる。幻覚・幻聴・自殺念慮に襲われ奇行が目立つようになったため、1998年12月26日に家族によって精神科のある病院に入院させられてしまう。そこで吾妻は3期3ヶ月のアルコール依存症治療プログラムを受けることになる。

酒の力を借りずに鬱と戦っていけるかという不安を抱きつつ、他の患者たちを観察しながら、彼の治療は粛々と続く。勉強会やミーティング、各種の断酒会参加を経て、やがて外出許可が下りて自宅へも戻れるようになる。そしていつしか3ヶ月の時が流れ、プログラムの終わりはやってくるのだった。

登場人物・キャラクター

吾妻 ひでお (あづま ひでお)

ギャグ漫画家としてデビューし、可愛い少女のキャラクターが評判で、1980年代前半に「不条理漫画」で一世を風靡した。だが80年代後半に人気は低迷し、失踪を繰り返す(このあたりは『失踪日記』で描かれている)。似顔絵の丸い顔と、実際の顔はかなり異なるが、飄々とした雰囲気は同じ。失踪のころから鬱状態より脱出するため、酒に依存する傾向はあったが、90年代後半に飲酒は日常的になり、ついには眠っているとき以外は酒びたりという「連続飲酒」となった。 幻覚・幻聴・自殺念慮に襲われ奇行が顕著になったため、1998年12月26日に家族によってA病院精神科B病棟(別名アル中病棟)へ入院させられ、3期3ヶ月のアルコール依存症治療プログラムを受けることとなる。 酒の力を借りずに鬱と戦っていけるかという不安に襲われつつも、アルコール依存症の恐ろしさを学ぶ。同時に同期入院者の観察も欠かさず、不思議な人間模様の描写に成功している。勉強会やミーティング、各種の断酒会参加を経て、やがて外出許可が下りて自宅へも戻れるようになり、そして退院の日を迎えるにいたる。 妻からは「おとうさん」と呼ばれる。吾妻日出夫は本名で、書類などに署名する際に、この名前が記されている。吾妻ひでお自身をモデルとしている。

吾妻ひでおの妻 (あづまひでおのつま)

主人公にして作者の吾妻ひでおの妻。本名・年齢は記されていない。1973年に吾妻と結婚し、1男1女をもうけている。結婚当初は吾妻の漫画のアシスタントをしていた。吾妻失踪後、またアシスタントに戻る。吾妻の飲酒癖や自殺念慮を、むやみに動揺せず見守っていたが奇行が顕著になったため、1998年12月26日に吾妻を家族と共にA病院精神科へ連れて行き、アルコール依存症の治療のために入院させる。 入院中の吾妻への面会や差し入れで病院へ行くが、院内の雰囲気が合わずにすぐ帰る、という描写がある。入院して断酒していても、常に吾妻がまだどこかで隠れて飲んでいるのではないかという疑いを捨てていない。

渡鍋 (わたなべ)

吾妻ひでおがアルコール依存症の治療のために入院していた、A病院精神科B病棟(別名アル中病棟)での同期の患者。2人部屋に移った吾妻と同室になった大柄な中年男。もちろんアルコール依存症で、A病院は2回目の入院。吾妻が最初に友人になる患者。粗暴で短気だがいい人(吾妻の評)。 途中で看護長と衝突して強制退院させられてしまう。「お前の手のひらは赤いから、肝硬変で死ぬ」が得意なセリフ。『失踪日記』では渡辺と表記していた。

御木本 (みきもと)

吾妻ひでおがアルコール依存症の治療のために入院していた、A病院精神科B病棟(別名アル中病棟)での同期の患者とされる年齢不明の女性(たぶん40歳以上)。ショートカットで、いつも薄い色のついた眼鏡をかけている。B病棟を「シメてる」と言われる女性(吾妻の評)。 21時半の消灯のあと、ときおり22時ころから食堂(ホール)で彼女主催の集会(ティーパーティー)を開く。アルコール依存症ではなく、どこかの教会から派遣された修道女で、様々な集団に紛れ込んで教会の使命を行使していると噂されている。毒舌家だが教養がある。接触恐怖症。退院する際、そっと吾妻に次の目的地を告げる。 『失踪日記』ではT木女王と表記していた。

大島 (おおしま)

吾妻ひでおがアルコール依存症の治療のために入院していた、A病院精神科B病棟(別名アル中病棟)での同期の患者。スキンヘッドで巨漢の40歳の男性。しばしば御木本女王様の近くにいる。アルコール依存症のために、妻が子供を連れて逃げてしまった過去がある。面倒見は良いが、そのせいで他のクセのある患者からストレスを加えられたり、騙されたりする。 『失踪日記』ではK竹さんと表記していた。

浅野 (あさの)

吾妻ひでおがアルコール依存症の治療のために入院していた、A病院精神科B病棟(別名アル中病棟)での同期の患者。ハゲて目付きの悪い中年男で、少額の寸借詐欺の常習犯として描かれている。整理整頓がまともに出来ず、夜中に相部屋の病室の真ん中で立ち小便をする。吾妻はこの男を嫌っている。 吾妻が退院するより前に、別の病院に移ってしまう。『失踪日記』ではA川と表記していた。

杉野 (すぎの)

吾妻ひでおがアルコール依存症の治療のために入院していた、A病院精神科B病棟(別名アル中病棟)での同期の患者。元板前の小柄な男で、目はすこしつり上がって描かれている。名前と年齢は不明。やたらと自信満々で偉そうなため、吾妻に非常に嫌われている。

小林 (こばやし)

吾妻ひでおがアルコール依存症の治療のために入院していた、A病院精神科B病棟(別名アル中病棟)での同期の患者。メガネをかけ、いつもニヒルな笑いを浮かべているように描かれている、50歳の男性。「AA(アルコホーリクス・アノニマス)」という、依存症者同士が断酒を誓い合う集会での名(アノニマス・ネーム)は「クール」。 『失踪日記2 アル中病棟』では、「基本スペックが高い人間」という程度の描き方だったが、『失踪日記』ではM田と表記し、「頭が良くて体力もあり面倒見もよく高給取り」、というべた褒めの記述であった。

鈴木 (すずき)

吾妻ひでおがアルコール依存症の治療のために入院していた、A病院精神科B病棟(別名アル中病棟)での同期の患者。特撮映画『ゴジラの息子』に登場する子供の怪獣「ミニラ」にそっくりな男性なので、そのようなあだ名がついていた(名付け親は白鳥ナース)。年齢・名前不明。 どうしても酒が止められず、ずっとA病院にいる。「これからは、1から10までやり直して真人間になります」が口癖で、まわりの入院者たちがみんな真似をする。『失踪日記』ではN村と表記していた。

クマさん

吾妻ひでおがアルコール依存症の治療のために入院していた、A病院精神科B病棟(別名アル中病棟)での同期の患者。太った中年男で、糖尿病だが、夜中にカップ焼きそばを大量に食べたりする。年齢・姓名不明。何度も断酒するが、そのつど再飲酒(スリップ)してしまい、病院にいる。 基本的に温厚だが、ときどき感情を露わにする。「MAMU」と呼ばれる、アルコール依存症者のための社会復帰技術習得センターに通っている。

岡山 (おかやま)

吾妻ひでおがアルコール依存症の治療のために入院していた、A病院精神科B病棟(別名アル中病棟)に勤務するベテランナース。美人で茶髪のショートヘアーに描かれている。年齢・名前不明。いつも患者たちを優しく見守るが、ときどきみっちり長い時間お説教をする。基本的にナースはズボン着用。

看護長 (かんごちょう)

吾妻ひでおがアルコール依存症の治療のために入院していた、A病院精神科B病棟(別名アル中病棟)に勤務する看護師長。メガネをかけ太り気味な、大柄な男性。年齢・姓名不明。昔からアルコール依存症の治療に非常に熱心で、多くの体験を積んでいる。あまりにも断酒の意志がない反抗的な人間は、強制退院させたりする。 『失踪日記』ではK泉と表記していた。

(うつ)

『失踪日記2 アル中病棟』に登場する架空存在。吾妻ひでおの心のなかに存在する「鬱」を具象化したもの。縦に長い山のような、スライムのような「ゆるキャラ」っぽい容姿をしている。縦長の目の下に漢字で「鬱」と書いてある。唐突に吾妻の横に出現し、彼の不安を増大させる。

集団・組織

断酒会 (だんしゅかい)

『失踪日記2 アル中病棟』に登場する集団。「アルコール依存症者が体験談を語り合い、共に酒をやめ続けることを目的とした集まり」である「自助グループ」の1つ。アメリカ由来の「AA(アルコホーリクス・アノニマス)」という「自助グループ」が先にあったが、そちらがキリスト教の影響が強すぎて日本の風土・習慣に合わない面が多かったため、「断酒会」が作られた。 基本的に、参加者が体験談を話す。依存症者の家族が参加することも多い。吾妻ひでおは断酒会のほうが性に合っていると感じる。

場所

A病院精神科B病棟 (えーびょういんせいしんかびーびょうとう)

吾妻ひでおがアルコール依存症の治療のために入院していた場所。3期3ヶ月のアルコール依存症治療プログラムが用意されており、1期(1~2週間)で外出禁止にして身体内からアルコールを抜き、2期で6週間の任意治療を受け(教育や断酒会参加など)、3期の4週間で退院に向けて自主準備をするというもの(一時帰宅も許される)。 物語の途中で、アルコール依存症患者が減少していることを理由に、吾妻たち32人は、他の精神病患者も入院している「新館C病棟」へ引っ越すことになる。吾妻ひでおと西原理恵子の対談集である『実録あるこーる白書』の中で、A病院は三鷹市にある「医療法人碧水会長谷川病院」であることが明記されている。 日本初のアルコール依存症治療専門の精神科である「久里浜病院」の流れをくむ。

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