「僕」と「U」の出会い
20歳の大学生で小説家志望の「僕」は、いつもの通学路を自転車で走っている途中、二人組の少女の一人がトラックにはねられる瞬間を目撃する。その時、無事だったほうの少女は、プレイ中だった携帯ゲームをセーブした後に鞄にしまい、その後、大声を上げて友達のもとに駆け寄った。少女の異様な行動に驚き、疑問を感じながら「僕」はその場を去った。それから数日後、大学への通学途中、自転車の後輪にリコーダーが絡まり「僕」は道路に投げ出された。わずかな時間、意識を失うも無事だった「僕」だが、自宅の鍵をなくしていた。鍵屋に開けてもらい、部屋に入った「僕」は、待ち伏せていた少女にナイフを突きつけられる。「U・U」と名乗った少女は、先日の交通事故で無事だったほうの少女で、「私を見たから連れていく」と言う。ナイフで脅された「僕」は、「U」に促され、彼女の自宅の物置に監禁された。こうして、一週間にわたる「僕」の奇妙な監禁生活が始まるのだった。
コミカライズに至った3つの決め手
本作の作画は『さんかれあ』で知られる、はっとりみつるで作者初の原作付き作品である。2016年5月6日、「コミックナタリー」に掲載された作者インタビューによれば、本作を漫画にしたいと思った決め手は3つあるという。1つ目は「『え、これをコミカライズできるの?』とみんなが驚くような意外性が欲しかったということ」。2つ目は、小説家志望の「僕」のモヤモヤが、自身の20歳の頃と重なり、主人公の「置かれた立場や立ち位置にとても共感できたこと」。3つ目は「プロになれる人となれない人の差は何か」という「原作に書かれたテーマが、今の時代にすごく合っていると思った」こと。原作小説には、プロになれる人となれない人の差について、ひとつの答えが提示されており、「実はクリエイター志望者にとって大事な、すごく普遍的なことが書かれている」ため、「クリエイターを志望したことがあるすべての人たちに読んでもらいたい」という思いが執筆のきっかけになったという。
漫画ならではの表現方法で描く虚実の狭間
30歳になった「僕」の淡々とした一人語りが続く原作小説は、著者・西尾維新自らの体験を綴ったような、フィクションとノンフィクションの境目が曖昧になる異色作である。コミカライズである本作も「僕」の語りであり、虚実の狭間を描いている点は変わらない。しかし、「これは物語ではない」「出来事であり事件だ」という地の文から始まる本作は、小説とは違った導入が採用されている。また、はっとりみつるが原作を読んだ時にイメージしたシーラカンスが随所に登場するなど、原作のいい部分を残しながら、漫画ならではの表現方法で物語を紡いでいる点が、本作の大きな魅力である。
登場人物・キャラクター
僕 (ぼく)
小説家を志望する20歳の大学生。作文やレポート・論文の作成を得意とする。いろいろな文学賞に作品を応募するが、いい返事は一つももらえず、モヤモヤとした日々を送っていた。ある日、少女「U・U」の異常な行動を目撃したことから、彼女の家の物置に監禁されることになる。警察に連絡することは簡単だったが、少女の将来を心配して彼女に従う。なお本作は、30歳になる小説家の男性が、10年前の体験を語っている構成になっている。
U・U (ゆー ゆー)
小学4年生の少女。略称は「U」。下校時に一緒にいた友達が交通事故で死亡した時、プレイしていたゲームをセーブしてから友達に駆け寄るという、不思議な行動を起こす。その時の自分を「僕」に見られていたことに気づき、「僕」の部屋に侵入。ナイフで「僕」を脅し、「本当の私を喋るかもしれないから」という理由で自分の家の物置に監禁して飼う。「おはようございます」「いただきます」などの挨拶を重視しており、「僕」が挨拶を返さないと異常な怒りを見せる。
クレジット
- 原作
- キャラクター原案
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碧 風羽
書誌情報
少女不十分 3巻 講談社〈ヤンマガKCスペシャル〉
第1巻
(2016-05-06発行、978-4063827835)
第2巻
(2016-08-05発行、978-4063828320)
第3巻
(2016-10-06発行、978-4063828603)







