忘却のサチコ

忘却のサチコ

結婚式当日に新郎に逃げられるという苦い経験をした佐々木幸子が、新郎を忘れて失恋を吹っ切るために、美食にハマり、日本各地のおいしい食べ物を探し求める姿を描いたグルメコメディ。「ビッグコミックスピリッツ」2014年37・38合併号から掲載の作品。2018年1月のスペシャルドラマを経て、2018年10月に連続TVドラマ化。2020年1月に再びスペシャルドラマが放送された。

正式名称
忘却のサチコ
ふりがな
ぼうきゃくのさちこ
作者
ジャンル
グルメ
レーベル
ビッグ コミックス(小学館)
巻数
既刊23巻
関連商品
Amazon 楽天 小学館eコミックストア

あらすじ

佐々木幸子は婚約者である俊吾と2年の交際を経て、遂に結婚することとなった。結婚式当日、周囲に祝福されながら、お色直しのために幸子は席を外す。披露宴に戻った幸子は、俊吾の不在に気づくものの来賓に悪いと強引に式を進行させようとするが、母親をはじめとする周囲から制止される。そんな中、知らない子供から幸子へ、俊吾からの手紙が渡される。みんなは新郎のサプライズだと思い、その内容を発表するように急かし、幸子はそれに応えて「サチコ、すまない」との一言だけの言葉を読み上げる。瞬時に状況を理解した幸子は、新郎に逃げられた旨を発表し、来賓に謝罪をして結婚披露宴は終了させる。翌日、何事もなかったように出勤した幸子を同僚たちは遠巻きに心配していた。提出する資料に「俊吾」と書いた付箋を貼ったり、ホチキスで四辺をガッチリ留めた書類の束を見た編集長の白井は、幸子を気遣って早退させ、数日間の休暇を与える。幸子は会社からの帰り道に、足が震えて自ら立つこともままならない状態に、どれほど俊吾のことが好きだったかを認識し、あらためて強いショックを受ける。このままでは生活に支障をきたしてしまうと落ち込む幸子は、とりあえず食事を取るために定食屋に入り「サバの味噌煮定食」を注文する。幸子の前に運ばれた料理を口に運ぶと、今までは気づかなかった味噌煮と味噌汁という味噌の調理法の違いを感じ、ご飯との相性にも感動し、食べることだけに集中している自分に気づく。これにより「俊吾を忘れるためにはおいしいものを食べればいい」という結論に行き着いた幸子は、美食を求める最初の一歩を踏み出す。(エピソード「サバの味噌煮定食」)

幸子のいとこのあゆみが結婚することになった。あゆみは、結婚式当日に新郎に逃げられた事情を知ってるだけに、幸子には無理に式に出席しなくても構わないと伝えるが、幸子は心を込めて祝福したいと、あゆみの嫁ぎ先である香川に降り立つ。そして幸子は、貸切時間内にうどん屋を回ってくれるという「おうどんタクシー」に乗り込み、讃岐うどんで俊吾のことを忘れて祝辞を考えていた。しかし、製麵所タイプのうどん屋を二軒回ったところで、おうどんタクシーの貸切時間が終了してしまう。讃岐うどんのおいしさに触れて感動するものの、未だ「結婚」という単語を口にできない幸子は、あと少しで俊吾を忘れることができそうだと感じ、タクシーの運転手に時間の延長を願い出る。その際、自分が結婚式で新郎に逃げられた旨を運転手に告白し、今回いとこの結婚式で香川に来たことを伝える。その思いが運転手の心に響き、地元民ならではのとっておきのうどん屋を巡る旅が始まる。(エピソード「巡礼!讃岐うどん〈香川〉」)

幸子の大学時代の友人であるジョセリン・トンプソン(ジョゼ)がアメリカから日本にやって来た。幸子はジョゼとの再会を喜び、久しぶりの日本を案内するとはりきっていた。事前に会社の同僚であり鉄オタの小野寺から情報を得て、予約していた岐阜行きの電車の最前列にて美しい景色を堪能する。そして行き着いた飛彈高山でウエルカムスナックとして飛彈牛の串焼きをジョゼに振る舞い、久しぶりの日本で至福のひとときを過ごしてもらうという、幸子のプランは完璧に進行していた。古い街並みを散策し、昼食として飛彈高山の郷土料理である朴葉味噌焼きでジョゼをもてなす。そこでジョゼから「予想どおりでとても楽しい」と感想を告げられ、幸子はショックを受ける。実は「ジョゼの予想を超えたおもてなし」を想定して計画を立てていた幸子は、午後の予定を急きょ変更することを決意し、ジョゼに「予想だにしない満足」を感じてもらうために頭を悩ます。(エピソード「おもてなし大作戦〈飛彈高山〉」)

出張から帰ってきた幸子が編集部に顔を出すと、いつもとは違う雰囲気で編集部内は騒然としていた。というのも、幸子が出張に出ているあいだに配属された新入社員の小林心一が、何かと屁理屈をこねて誰の指示にも従わないと、仕事を教えていた小野寺が編集長の白井に泣きついていた。それに加えて女子社員も、小林からのデリカシーのない発言に対して愚痴をこぼしていた。白井は、幸子を発見するや否や小林の教育係を幸子に頼む。この申し出を幸子は承諾し、さっそくかかってきた電話を小林に取るように指示するものの「忙しいから」という理由で聞き流される。そこで幸子は、「忙しさを理由に仕事を放棄するのは自ら無能であると宣言していることと同義」と小林を諭す。また、幸子の担当作家の姫村光から資料集めを依頼され、「それは作家の仕事だ」と言い放つ小林に対し、「作家には執筆に専念してもらうこと、そして作家の第二の目となり、本人も気づかない切り口で刺激することも仕事である」と伝え、小林を納得させる。そんな中、集めた資料に「愛」をテーマにしたものが多いことを理由に、幸子は小林から「編集者も恋愛上手でなければいけないのか」という質問をぶつけられる。それに対し、幸子は恋愛上手である必要はないときっぱり答えるが、恋愛がヘタそうだと小林に言われ、ショックを受けてしまう。その後、幸子は資料集めを小林に任せて作家の美酒乱香との打ち合わせをするために外出。そこで先ほどの小林からの一言にイラついている自分に気づいた幸子は、このイラつきを忘れるため、目に入ったパスタ屋で「和風スパゲティ大盛り」を注文する。(エピソード「嵐を呼ぶスパゲティ」)

ある日、幸子は担当作家の美酒乱との打ち合わせで、美酒乱がローカル文学賞である「土佐いごっそう文学賞」の選考委員に選ばれた旨の報告を受ける。美酒乱は高知への旅費が、美酒乱本人のほかにもう一名分出ることで幸子を誘うものの、選考委員と編集の仕事は関係ないと断られてしまう。しかし、高知の「食」をテーマにした作品の構想があると、美酒乱は幸子に食い下がり、同行を承諾させる。選考会場に到着し、美酒乱は選考会に出席するが、選考会後の懇親会まで7時間もの時間を持て余した幸子は、単身高知の食に関する資料を集めるために会場をあとにする。幸子との食べ歩きデートをもくろんでいた美酒乱は大いに落胆し、仕事に燃える幸子は急きょスケジュールを組む。手始めに高知のあちこちで見かけるぼうしパンを食した幸子は、高知県の食に対して期待を高める。美酒乱の要望である鰹の塩たたき、鍋焼きラーメン、ツガニうどんを食べ、資料として美酒乱のもとへ届けるミッションを完遂すべく幸子は奔走する。(エピソード「龍馬の国の贈り物〈高知〉」)

若手編集者を集め、社会学者の時田カノンがホストを務める「文芸編集者の今」という講演会に、中学館から幸子が出席することとなった。初めて訪れる長野県で、土地勘がない幸子はタクシーで移動しようとするが、乗り場で派手な美女に横入りされてしまう。遅れながらもなんとか会場に着いた幸子は、カノンにあいさつを済ませる。各出版社も次々とあいさつをしていく中に、タクシーを横入りした美女がいた。北斗出版社の小野真由美と名乗る彼女は、実は中学館の入社面接で幸子と因縁がある相手だった。そんな中、編集者たちは、講演会までの時間を用意されたケータリングサービスで旅の疲れを癒していた。長野の特産「おやき」を食べた幸子が満足気な表情を見せていると、実はカノンは作家の姫村のファンで担当編集者に会いたいと思っていたと幸子に伝え、和やかな雰囲気で会話が弾む。その様子を見て幸子にライバル心を燃やす小野は、自慢の美貌を使ってカノンに接触を試みるものの、温め過ぎたおやきで軽いやけどを負ってしまう。そして小野は、幸子に手当てされたうえに、シャツのボタンを掛け違えていることを指摘され、屈辱感に打ち震える。そんな中、小野は出席者の男性編集者に片っ端から色仕掛け言葉をかけ、会の最中は幸子に対して反対意見を威圧的に返すようにせまる。小野は幸子に壇上で恥をかかせることで、入社面接での恨みを晴らそうと企てていたのだ。(エピソード「一触即発!?信州伊那の陣〈長野〉」)

編集長の白井が、ノーベル文学賞作家の村島由依悟から執筆のオファーを取ってきた。村島は「文芸の杜出版」以外では書かないことで有名で、このオファーが実現すれば文芸界では異例の事態となるため、白井は興奮に震えていた。しかし村島から中学館への執筆の条件として、ホタルイカの身投げの写真を撮ってくることを提示されていた。白井と幸子は聞き慣れない言葉に困惑する。しかしこのチャンスを逃すまいと、幸子はホタルイカの本場である富山に向かう。新幹線で富山に到着した幸子は、ホタルイカを食べておくべきだと理解しながらも現地でしか食べられない白エビの誘惑に負けて、白えび刺身丼を食べてしまう。富山湾の海の幸に満足しながらも、ホタルイカの生態を知るために「ホタルイカミュージアム」に赴いた。そこで「ホタルイカの身投げは時間や場所が予測できず、見れたら奇跡」という事実を知ることとなる。任務をまっとうすべく、幸子は釣具屋で装備を整え、一晩中海辺でホタルイカの身投げを待つ。1日目はなんの収穫もなく、そのことを白井に報告し、いつまでも待ち続ける熱意を伝えるが、「1週間が限度」と言われてしまう。翌日、幸子はホタルイカの刺身や白エビのピルピル、ホタルイカとフレッシュトマトのスパゲティなどを食べながら奇跡を待つものの、成果が得られず焦り出す。だが、タイムリミットまで3日にせまった夜、ホタルイカの身投げが起きたとの情報をキャッチする。その場所は幸子が居る海岸から20キロ離れた海だった。車もなくタクシーも捕まらない中、幸子はヒールを脱ぎ捨て走り出す。(エピソード「奇跡的!?ホタルイカを探せ〈富山〉」)

作家の姫村の新刊が30万部を突破する好調な売れ行きで、担当編集者である幸子は編集長の白井から、ご褒美として北海道新幹線のグランクラス(飛行機でいうファーストクラス)に乗って搭乗ルポを書いてほしいと告げられる。鉄道に詳しい小野寺が適任だと一度は断るものの、作家の美酒乱から次回作の舞台が函館だと聞かされた幸子は、取材旅行に誘われるものの同行を断り、一人で搭乗ルポと美酒乱の函館取材を同時にこなすことを決める。当日、グランクラスの豪華な客室や、専任のアテンドに乗り心地のよさを感じながら、車内食の和定食を注文する。軽食ながら豪華な内容に満足しながら、仙台で牛たん弁当を購入。搭乗ルポの取材は順調に進んでいたが、新函館北斗駅に到着した瞬間、白井からの電話が入る。今月号に掲載予定の原稿が落ちてしまい、搭乗ルポを代わりに掲載するため、本日中に原稿を書き上げてほしいというものだった。函館で美酒乱の取材をこなす傍ら、移動の時間を利用して搭乗ルポの原稿を執筆するという、とてもご褒美とは思えないハードなスケジュールの旅となる。深夜、ホテルで自らの原稿を書き上げた幸子は、安堵に包まれるが姫村から電話が入り、明日の午前中に打ち合わせをしたいと告げられる。美酒乱の残りの取材を最短で終わらせ、午前中に東京へ帰るというさらにタイトなスケジュールが幸子に課せられる。(エピソード「電車でゴー!!北の大地のソウルフード〈函館〉」)

イタリア人作家であるフィオリーナ・ロッシの翻訳権を中学館が買い取り、ロッシが来日することを編集長の白井から告げられる。その際、次回作の構想も兼ねて日本の編集者の日常を密着取材する目的もあることから、幸子が案内役に任命される。ロッシと会った幸子は彼女の日本語のうまさに驚く。翻訳担当の鈴木も同行し、ロッシが幸子の日常を経験したいということで、幸子は中学館までの移動手段に電車を選ぶ。時間的にラッシュ時で、ロッシはコレに乗るのかと驚愕する。つり革にも手が届かない状態で、足を肩幅に開き腹筋に力を入れて波乗りの要領で立つと幸子にアドバイスされ、ロッシは「日本人は電車で体と心を鍛錬している」と誤解する。編集部に到着したロッシと鈴木は、幸子のデスクの横に陣取って仕事ぶりを観察する。椅子の上で正座で電話をしながら、パソコンをあやつり原稿の修正をこなす幸子を見て、これが「ジャパニーズ・ビジネスウーマン・スタイル」と誤解を深める。そんな中、原稿を受け取りに行くために、作家の姫村宅へ向かう幸子にロッシたちもついて行く。渋谷のスクランブル交差点の人混みに、またも驚くロッシであったが、人の流れを先読みし、人混みをすり抜ける幸子を「忍者」と評する。姫村宅に到着したものの、未だ原稿が完成しておらず、当初は姫村の後ろで正座していた一同だが、幸子にうながされて部屋を出る。お茶でも飲みながら原稿を待つと思っていたロッシの予想ははずれ、明かりのない納戸で正座して待つ幸子を見てロッシは理解が追いつかない。そして数時間後、遂に姫村の原稿が完成し、納戸の扉が開かれる。晴れやかな姫村と幸子の表情を見て、これが日本人の信頼関係であると感銘を受けたロッシは、アイデアが閃いてホテルに戻り、すぐに執筆を開始する。無事ロッシからの取材を終えた幸子は、空腹だったことを思い出し、目に入ったピザ屋で「マルゲリータピッツァ」を注文する。(エピソード「シンプル・イズ・ベスト!本格マルゲリータ」)

作家の美酒乱との新掲載の打ち合わせ中、作品の表現をよりリアルにするため、幸子は舞台となる大分への取材旅行に誘われる。しかし効率を考慮して同行を断り、一人で取材をしてくる旨を伝えて幸子は別府へ向かう。別府の七つの「地獄」と評される温泉を一つずつ巡り、その様子を取材していく。幸子は、「地獄」の営業時間が17時までということで、急ぎ足に別府各地に点在する地獄を回っていた。そこへ担当作家の姫村から、鍾乳洞の写真を資料として用意してほしいとの連絡が入る。移動時間まで含めると鍾乳洞と、七つの地獄をすべて回りきることができない。さらに編集長の白井から、明日のノーベル文学賞作家の村島との打ち合わせに、大分産の関サバを買ってくるように命じられる。限られた時間内に取材、鍾乳洞、関サバ購入のすべてをクリアしなければならない幸子の前で、見知らぬ妊婦が倒れてしまう。幸子に三つのうちの何かをあきらめなければならない究極の選択がせまられる。(エピソード「クリアせよ!地獄の緊急ミッション〈別府〉」)

ある日、「月刊さらら」編集部内で、小林が幸子を突然デートに誘った。編集長の白井は、時世によってハラスメントとならないように注意するが、小林の行動には理由があった。小林が担当する作家のジーニアス黒田が、まだ書いたことのない恋愛小説に挑戦しようと考えており、ジーニアス黒田自身が考えたデートプランを実際に体験した取材レポートを頼まれたからだった。ジーニアス黒田は、大ファンであるアイドルの桃乃もぎかの「恋愛小説家と歩く聖地探訪!!」という企画への出演を画策していた。また、自らの初デートの相手はもぎかしかいないと決めており、その時のための参考にもしたいという、不純な執筆動機と取材依頼であった。さらに、「鉄の女、佐々木さんをキュンとさせることが出来れば完璧」という理由から、デートの相手に幸子を指名していた。不純な動機ではあるものの、以前より幸子はジーニアス黒田に恋愛小説を執筆してほしいと望んでいたために、この依頼を承諾する。デート当日、横浜に集合した二人。女子力の高い同僚の橋本に服装をコーディネートされた幸子は非常にかわいらしく、小林を意識させるには十分だった。ジーニアス黒田のデートプランに沿ってまず手をつなぐ二人。ドキドキする小林を気にせず、周囲のカップルを観察し、「手のつなぎ方」の正解を幸子は模索する。その後中華街へ移動し、プラン「中華街でデートの記念を買う」を実行する。売っているチャイナドレスを見て期待を膨らませる小林だったが、幸子が選んだのは、独特のフォルムをした中国の変なかぶり物であった。これを購入しようとした幸子を小林が制し、結局記念品はかぶり物と同じデザインの変なキーホルダーに落ち着く。小籠包を食べ歩きながら、小林は満足気な幸子に思わず見惚れる。水上バスで移動中、ゆれてよろけた幸子を受け止めた小林はさらに幸子を意識し、その思いは加速する。観覧車に乗り込んだ二人だったが、たわいもない会話をする幸子に対し、小林は幸子が元婚約者を今はどう思っているかが気になって仕方がない。そこで次のプラン「観覧車で思いを告げる」を実行するため、小林は正面から肩に手をかけ、真剣なまなざしで幸子を見つめる。(エピソード「大波瀾!?横浜中華ランデヴー」)

シングルマザー作家、新条かつの息子の新条学は明日にせまった「マイモンスタンプラリー」を楽しみにしていた。電車の駅に人気アニメ「マイモン」のスタンプが設置してあり、すべて集めると「冒険の証」がもらえるという企画で、幸子といっしょに回る約束をしていたのだ。しかし、かつは学との会話の中で、何げなく幸子に「仕事とはいえ休みにまで面倒見てもらって感謝している」と自らの思いを口にするが、学は仕事だから幸子が自分といっしょにいてくれていると受け取り、ショックを受ける。翌日、幸子と合流した学は、幸子が作った完璧な工程表を見て感心するものの、「仕事でよく調べものするから計画表を作るのは得意」という言葉を聞き、表情が曇る。さっそくスタンプ台を見つけて列に並ぶ二人。そこで、すぐ後ろの小さな女の子がトイレに行きたいと言い出したのを聞き、幸子は順番をゆずる。のんびりとマイモンのまねをしながらお礼を言う女の子やそれに応える幸子に対し、今日中にスタンプを集めたい学はイラつきを隠せない。移動中の電車内でも焦りから手摺りも持たずにソワソワしていると、急ブレーキに転倒して足をケガしてしまう。駅のホームで手当てをしていると、車両点検のために運転を見合わせているというアナウンスが流れる。学のケガと運行状況を考慮して、幸子から今日はあきらめた方がいいと提案されるが、学は納得しない。実は学は幸子の休日を自分のために使わせてしまうことを申し訳なく思い、今日を最後にしようと考えていたのだ。学の思いを聞くとすぐに幸子は学をおぶり、徒歩で次の駅を目指して歩き出す。どうして自分のためにここまでするか理解できない学に幸子は、自分にとって学は大切な友達であると思いを伝え、学は涙ぐむ。その後、スタンプの制覇には至らなかったが、満足気な二人はコロッケとハムカツを食べ歩きながら、かつとの待ち合わせ場所へと向かうのだった。(エピソード「食べ歩き!マイモン★グルメ!!」)

ギャル作家の川端アリサは幸子と共に、仙台で舞台化されて上演されている自らのデビュー作「優しいオオカミと百年の片想い」を見に来ていた。舞台に感動した二人は、口々に感想を言い合う。そこで幸子から、アリサのノートに書かれた二作目の内容も面白いと評価を受け、アリサは現在の彼氏との実体験であることを明かす。夜に舞台の演出家との対談を控えるだけで、時間があいていた二人は松島を回ることにする。松島は恋愛成就のパワースポットとして有名で、世話になっている幸子に俊吾を吹っ切らせるためのアリサなりのお礼の提案であった。「縁切り橋」と呼ばれる「渡月橋」を渡り、俊吾の思い出を断ち切ろうとする幸子だったが、脚が震えて俊吾の幻覚を見る始末だった。アリサの応援もあり、なんとか橋を渡り切った幸子は次の「出会い橋」と呼ばれる「福浦橋」を渡る。渡った先に居た観光客を俊吾と見まちがえ、幸子は自分の思いの深さを実感する。三つ目の「縁結び橋」と呼ばれる「透かし橋」を渡ることに集中していると、橋の隙間に足を取られて転倒してしまう。アリサは幸子に無理強いしたことを詫び、食事がてらの休憩を提案する。仙台出身のアリサの彼氏であるユキヒロにオススメの店を聞き、「穴子丼」を注文する。おいしい料理を食べたことで幸子の調子も戻り、ラストの「縁結び観音」でアリサは幸子に感謝を伝え、コケシを奉納する。そんな中、ユキヒロから連絡を受け、アリサは悲しみの表情を浮かべて涙を流す。どうしたのか心配する幸子に、アリサからユキヒロが海外へ行ってしまうかもしれないと告げられる。(エピソード「マジ卍☆杜の都の“あげぽよ”縁結び〈仙台〉」)

「月刊さらら」あてに謎の郵便物が届いた。雑誌などから文字を切り取り、あて先として張り付けられたその郵便物を見て、編集長の白井は編集者たちを会議室に召集し、部下たちに白井は説明を始める。この手紙は天才ミステリー作家の溝内史明からの暗号で、溝内の作品を出版するにはあるルールが存在していた。溝内は新作を書き上げると、大小問わずさまざまな出版社に暗号を送り、それをいち早く解明した出版社に新作の出版権が与えられるというものだった。過去作はすべて「白凰出版」から刊行されているが、白井は溝内を担当していた編集者が去年辞めた情報をつかんでおり、今回が出版権を得るチャンスだと考えていた。送付された暗号文と日本地図を確認し、まずは自称「探偵マニア」の小野寺が謎解きに挑むものの、単純な発想しか出ずに白井からも凡庸な意見しか出ない。そこでこれまで沈黙を守っていた幸子が口を開く。溝内の作品を読破している幸子は、過去作のトリックを参考に暗号の内容の一部は方角を示すものだと気づき、手紙の消印が小笠原諸島であること、同封されていた日本地図の小笠原諸島の位置が実際の位置と違うことに着目し、地図上の小笠原諸島の北北西に位置する「下関」が溝内の居場所だと断定する。また、過去作で登場したアナグラムを参考に、漢字を置き換え「壇ノ浦古戦場」と「巌流島」の二択にまで居場所をしぼり込む。溝内と純文学ミステリーをいっしょに作りたいという思いから、幸子はこのチャンスに高揚していた。ルール上、出版権は早い者勝ちとなるため、白井はすぐに幸子を下関に送り、溝内の発見を任せる。下関に着いて探索する幸子であったが、完全に暗号の解読に行き詰まってしまう。とりあえず下関名物「瓦そば」を食べて気持ちを落ち着かせることにする。味と食感の違いを楽しんで幸福感に包まれる幸子は、店員さんから瓦そばの由来を聞かされる。それにヒントを見いだした幸子は、暗号の答えの場所が「巌流島」で、指定の時間までも特定する。巌流島に着いた幸子は、自分と同じ手紙を持ったスズメ書房の鈴木と名乗る男性を発見し、正解を確信する。さらに数人の編集者が集い、終了時間となった。そこにサングラスにニューヨークハットをかぶった怪しい男が現れ、暗号の正解を労われた次の瞬間、第二の暗号が配られる。(エピソード「名探偵サチコ 迷宮の疾走路〈山口〉」)

幸子が所属する「月刊さらら」に、ヒットメーカーとして有名な椿が移動してくることとなった。しかも、今まで不在だった副編集長のポストに就くと、編集長の白井より告げられる。椿と幸子の二枚看板で月刊さららも安泰だと喜びの声が上がる編集部であったが、評判とは裏腹に勤務態度も言動もいいかげんな椿を見て一同は落胆する。白井から以前の椿は、幸子並にバリバリ働く編集者だったと語られるが信じられない編集部一同であった。そこにノーベル文学賞候補作家の柴崎ツトムから椿あてに電話が入り、柴崎の大ファンである幸子は椿と共に柴崎宅に赴くこととなる。道中、幸子は「最後の無頼派」と評される柴崎への熱い思いを椿に語るが、到着した柴崎宅はゴミ屋敷と化しており、幸子は困惑する。なんと柴崎は一人では生活もままならない社会不適合者であったのだ。そこで幸子は椿から、勤務時間中は柴崎宅で家政婦として働くように命令を下される。(エピソード「上陸!波乱呼ぶ大型ハリケーン」)

メディアミックス

TVドラマ

2018年1月、本作『忘却のサチコ』のTVドラマ版『ドラマスペシャル 忘却のサチコ』がテレビ東京系列で放送された。同年に連続ドラマ化され、2018年10月から12月にかけて『忘却のサチコ』がテレビ東京系列で放送された。その後、2020年1月には『忘却のサチコ 新春スペシャル』がテレビ東京系列で放送された。制作はテレビ東京とホリプロが担当している。監督はエピソードによって山岸聖太、石井聡一、根本和政がそれぞれ務めている。キャストは、佐々木幸子を高畑充希、俊吾を早乙女太一、小林心一を葉山奨之、白井を吹越満が演じている。

登場人物・キャラクター

佐々木 幸子 (ささき さちこ)

中学館の文芸編集部「月刊さらら」に所属する女性編集者。物語開始時の年齢は29歳。高倉健と菅原文太の大ファン。婚約者である俊吾とは旅先で出会い、2年の交際を経て結婚するはずだったが、結婚式当日に逃げられてしまう。もともと食事は栄養補給のための行為と考えていたが、おいしいものを食べているときは俊吾を忘れている自分に気づき、過去を断ち切るために美食を求めるようになる。非常に責任感が強くまじめな性格で、結婚式当日に新郎に逃げられるといったショッキングなことが起きても、翌日は顔色一つ変えずにふつうに出勤していた。また、作家や仕事関係者と話すときは、電話であっても、椅子の上で正座して深々とお辞儀をして対応している。母親と新条学以外には基本的に誰に対しても敬語で接する。締め切りをはじめ進行に厳しく、俊吾が逃げたと発覚するまで、新郎不在の結婚式を強引に進行させようとしたり、出版社の謝恩会で大物作家である松岡淳二のあいさつの途中であるにもかかわらず、時間が押しているという理由でステージから退場させたりと、融通のきかない一面がある。しかし、編集部では融通がきかずまじめなところが非常に評価されており、いい意味で「鉄の女」「スーパー編集者」と評されている。どんな状況でも締め切りを守らせることから、原稿を落としそうな作家の担当を任されている。効率を最優先し、美酒乱香から取材という名目で旅行の同行を度々誘われているが、作家には執筆に専念してもらいたいと、資料写真は自分一人で撮ってくるというスタンスで同行を断っている。何げにかわいい顔でスタイルもいいため、作家に口説かれることもあるが佐々木幸子自身は相手の下心にまったく気づかず、業務の一環としてとらえているため、恋愛に発展することはない。自宅には俊吾を吹っ切るために彼の写真を遺影とした仏壇を作り、毎日手を合わせて鈴(りん)をリズミカルに鳴らしている。しかし未だに、俊吾から逃げられたショックで「結婚」と「赤ちゃん」という単語を口にすることができない。実はふだんの仕事ぶりからは想像できないほど手先が不器用で、料理は壊滅的。母親からは「コッちゃん」、友人たちからは「さっちゃん」、川端アリサからは「サッチ」と呼ばれている。

俊吾 (しゅんご)

佐々木幸子の元婚約者の男性。幸子の三つ歳上で、幸子と交際当時は、サラリーマンをしていたらしいが詳細は不明。非常に整った顔立ちをしており、幸子との結婚式では幸子の同僚をはじめ、周囲のみんなから「超いい男」「優しそうで仕事も出来そう」と評されている。幸子とは旅先で出会い、2年の交際を経て結婚することになったが、結婚式当日に幸子がお色直しのために席を外したスキに手紙を残して失踪する。その後、出張中の幸子と地方でまれに遭遇するが、場外馬券場で目撃されたり旅館で働いていたり、ゲイバーで働いていたりと行動に謎が多い。

白井 (しらい)

中学館の文芸編集部で「月刊さらら」の編集長を務める中年男性。短髪で眼鏡を掛け、無精髭を生やしている。編集者としては優秀で、ノーベル賞作家の村島由衣悟や、メディアでも活躍している作家の新条かつを担当している。「要するに」が口癖ではあるが、そのあとに続く言葉は全然要せていない。佐々木幸子を部下として評価しており、ほかの編集者では手に負えない事態になるとすぐに幸子に仕事を振っている。一方で、結婚式で新郎に逃げられた幸子が、翌日に平然と出勤してきたもののショックを受けていることを感じ取り、数日間休みを取らせようとするなど優しい一面もある。段取りや進行が苦手で、通常業務以外にも謝恩会の司会や取材の行程など、幸子を頼りにしている。女子社員に対してセクハラじみた発言をすることがあるが、どこか憎めないところがあり、癖の強い部下や作家たちをうまくまとめている。実はゴルフがうまく、村島が主宰を務めるゴルフコンペでは優勝を果たし、村島の出版権を獲得している。機械オンチで会社から支給されたスマホの設定も自分ではできない。社内外の人間からは専ら「編集長」と呼ばれ、本名である「白井」と呼ぶのは副編集長に就任した椿くらい。

美酒乱 香 (みしゅらん かおる)

佐々木幸子が編集を担当する中年の男性作家。明るい髪色に髭を生やし、軽薄な印象を与える。現在は美酒乱香自身の代表作「大五郎シリーズ」をはじめとした作品を文芸誌で連載しているが、もともとは官能小説を書いており、新人だった幸子に発掘されて文芸誌に小説を掲載することとなった。のちに小説家として「直本賞」という文芸賞にノミネートされるまでに成長した。担当した女性編集者を口説いて性行為に持ち込もうとするなど、人間性はあまり褒められたものではなく、女癖が悪いと業界では評判となっている。幸子を「取材」と称して度々旅行に誘うものの、美酒乱を執筆に専念させる名目でいつも同行を断られている。奇跡的に幸子といっしょに取材旅行に行くことに成功することもあるが、あくまで仕事の一環としての同行ととらえられているため、色恋沙汰には発展することはない。地方のグルメに詳しく、幸子が単身で取材に行くときにはオススメの店やご当地グルメを教えている。

姫村 光 (ひめむら ひかる)

佐々木幸子が編集を担当する中年の男性作家。黒髪で無邪気な性格の持ち主。代表作である「あかね色の海」は映画化されている。好奇心が旺盛で興味を引くものを見つけると、そのことに集中してほかのことをすぐに忘れてしまう。行ってみたい場所があるとすぐに行動するため、幸子からは「放浪癖」があると思われている。スランプに陥って筆が止まることがよくあり、原稿の完成が締め切りギリギリになることが多い。その度に幸子が姫村の自宅兼仕事場に原稿を受け取りに赴いている。その際、幸子は納戸で電気代節約のため、明かりもつけずに正座で原稿が完成するまで何時間でも待っている。これは姫村に執筆に集中してほしいがための行動だが、姫村光自身はこの行動に凄まじいプレッシャーを感じ、何がなんでも原稿を書き上げることに集中している。実は天然気味で、幸子と共に書店回りの営業に京都まで同行した際にも「書店に直接感謝を伝える」という目的を忘れ、あいさつに赴いた書店で立ち読みしたり、フラリといなくなって金閣寺に行ったりと、無意識に周囲を振り回すことがある。苔の生やし方やヘビの面など、変な本に興味を示す傾向がある。筆が乗っているときは幸子に資料集めを依頼するなど、編集者として彼女に信頼を寄せている。

ジーニアス黒田 (じーにあすくろだ)

引きこもりのライトノベル作家の男性。ネットで書いた小説に火がつき、瞬く間に人気作家となった。SFやファンタジー、ホラーをはじめとしたさまざまなジャンルの作品を世に出し、その作品はゲーム化、アニメ化して幅広く認知されている。ロン毛で120キロを超える巨漢。典型的なオタク気質で、ジーニアス黒田自身も外見にコンプレックスを抱いている。つねに電話はつながらず、人前に姿を現さないことで有名ながら、作品は高い評価を得ており、一般人のみならず有名人にもファンが多い。恋愛小説の執筆を依頼した佐々木幸子からのメールもネット特有のあおりで返し、自らのSNSにやり取りを実況するなど子供じみた一面がある。自宅まで執筆の依頼に来た幸子から好物のおにぎりを差し入れされ、幸子に心を開き、引きこもることをやめるようになる。しかし顔出しNGは続いており、大好きなアイドルの桃乃もぎかとの対談もイケメンである小林心一を身代わりに立てようとするものの失敗し、結局、馬のかぶり物を着用して対談することとなる。世間的には唯一自らの姿を示すものはSNSのアイコンのイラストだけである。握手会では、大きな衝立の中からジーニアス黒田が覗きながら手だけ出してファンと交流するという、掟破りな方法で成功をおさめた。その後、次第に社交性が芽生え、のちに担当編集者となる小林にも心を開くようになる。ジーニアス黒田の母親が訪ねてくる際には幸子に恋人のフリをするように頼んだり、もぎかの好みのタイプがスレンダーな男性だと知ると、幸子と小林に自分を瘦せさせるように頼んだり、握手会の日程を自分の行きたいライブに合わせようとしたりするなど、引きこもり時代から他人に頼るワガママなところは変わっていない。母親は東京で一人暮らしをしているジーニアス黒田を心配しており、つねにジーニアス黒田のアルバムを持ち歩いている。幸子からはジーニアス黒田の作品における文体の温かさは「母親の深い愛情あってのもの」と評されている。母親からは本名である「由紀夫」と呼ばれている。

松岡 淳二 (まつおか じゅんじ)

文芸界の大物作家である初老の男性で、眼鏡を掛けている。白髪頭に口髭を蓄え、和服を着ていることが多い。「紫綬褒章」を受賞している。実はマゾでSMを好む性癖を持つ。佐々木幸子が司会を務める中学館の謝恩会で、あいさつを任されるものの話が長引いたため強制的にスピーチを終了させられたり、過去のサイン会で売れ残った本を集めた雑なサイン本の即売会に参加させられたり、打ち合わせ中に性癖を暴露されたりと、文壇の重鎮であるにもかかわらず、幸子からは雑に扱われている。親子二代でファンという人も多く、世間での知名度は非常に高い。すべての出版関係者が松岡淳二に対して萎縮してしまう中で、幸子だけが明け透けに物を言うために興味を持ち、「道をそれる覚悟」の必要性を説いてSMに誘った。Sの女王様に対して初めは「暴力」だと認識していた幸子に、縄でつるされた状態から「人間の複雑さ」を諭し、融通のきかない幸子の考え方を少し変えた。ファンとの交流を目的に、小林心一の勧めでSNSを始めるものの女性にしか返信していない。

小林 心一 (こばやし しんいち)

中学館の文芸編集部「月刊さらら」に所属する若手男性社員。指示されたことに対して屁理屈をこねて行動しないことから、先輩社員たちに「ゆとり世代」と評されている。もともとの教育係が匙を投げたため、佐々木幸子が仕事を教えることとなった。意外にも、はっきりと物を言い切られると素直に指示に従うが、幸子並に言い切ることが前提となるため、基本的に素直に言うことを聞かせられるのは彼女だけである。一般的に「イケメン」とされる外見と、フランクな物言いから、あいさつに回る書店の女性店員からは人気が高い。幸子と共にあいさつ回りをした際には、冗談混じりのしゃべり方を注意されるものの、見た目のせいで、周囲からは「幸子が小林を虐めている」と見られてしまう。しかし小林は、幸子の仕事振りを尊敬しており、自分のキャラのせいで幸子が憂き目を見たことを反省している。また幸子と共に仕事をすることで、担当となったジーニアス黒田をはじめとするさまざまな作家と交流を深め、編集者として成長していくと同時に、次第に幸子に恋心を抱くようになる。父親は恐竜発掘で有名な古生物学者の小林心太朗で、子供の頃は父親が世界中を飛び回っていたため、いっしょに過ごした記憶がなく、家庭を顧みない父親を恨んでいた。実は食通でいろいろな店を知っており、ハードな仕事明けには幸子といっしょに食事を取ることが多い。

田野 ケンタ (たの けんた)

若手の男性作家。中学館での担当編集者は初めは小野寺だったが、途中から小林心一に引き継がれた。福井県出身ながら、なぜか関西弁を使う。「人生はなんでも経験」という美学を持っており、田野ケンタ自身が締め切りを守らずに、原稿を落とすことも一つの何かのネタととらえている。原稿を落とし、出版社の人たちに迷惑をかけることになっても、田野自身は少しも気にしていない。そのため、出版社の一室にカンヅメにされたり自宅に張り込まれたりするが、その度に逃亡を図っている。学生時代は陸上部に所属しており、そこで培われたスキルを逃げ足に生かしている。立ちはだかる人間の股のあいだをスライディングで抜けるなど、運動神経は非常に高い。一度逃げれば全力を尽くして県外にまでも逃げ切るが、自らのSNSに写真をアップするなど詰めが甘い。中学館からの逃走は、佐々木幸子にすぐに阻止されて連れ戻されている。

小野 真由美 (おの まゆみ)

北斗文芸社に勤務する女性編集者。本当は佐々木幸子が所属する中学館を就職活動の第一志望にしていた。しかし、入社時の面接で幸子と同じグループに割り振られてしまい、幸子の奇抜な受け答えが面接官の白井に大受けし、小野真由美自身のアピールがうまくできずに落ちる形となり、幸子を逆恨みしている。容姿端麗で派手な服装を好み、男性をあやつる能力は高い。仕事相手であっても男性であれば色仕掛けでなんとかできると考えている。しかし仕事では幸子に一段劣るため、何かにつけて張り合うものの裏目に出て一方的に敗北感を味わっている。実は元陸上部で、長距離走には自信がある。アイドルグループ「七色流星α」の大ファンで、メンバーのミランを推している。

ジョセリン・トンプソン

アメリカ人女性で、眼鏡を掛けている。ブロンドのロングヘアで、ウエーブがかっている。いかにも外国人観光客がお土産に買いそうな「JAPAN」のロゴの服を好んで着ている。通っていた日本の大学で佐々木幸子と出会い、友人となる。大学卒業後はアメリカに戻り、大学院に進んで現在は研究者として働いている。日本語が非常に堪能。まじめで几帳面な性格で、腰から曲げてお辞儀をするなど言動やノリが幸子と似ている。久しぶりに来日した際に幸子と6年ぶりに再会し、日本のすばらしさを再認識する。物語の途中からは三重県に居を構え、そこで知り合った男性と結婚して研究者を続けている。ちなみに夫の名前は「春棋(しゅんご)」で、幸子の元婚約者「俊吾」と同音のため、結婚式でスピーチを頼まれた幸子は心の傷と向き合うこととなる。日本の文学や食文化に精通しており、その知識量は「ジョゼの予想を超えるおもてなし」計画を立てていた幸子を大いに悩ませた。

新条 学 (しんじょう まなぶ)

白井が担当するシングルマザー作家の新条かつの一人息子。眼鏡を掛けており、髪を七三に分け、誰に対しても丁寧に話す。牛乳とオムライスが好物で好きな色は青空色。テレビ番組「ピタゴラスイッチ」の大ファンである。テレビや雑誌に引っ張りだこな母親が、自分を構ってくれないことを寂しく思っている。かつからの頼みで、白井が新条学を一日預かることとなった。その際同行した佐々木幸子と知り合い、なかよくなる。かつからの愛情は深く、一日預けるだけにもかかわらず息子に関する資料を大量に白井あてに送っている。初めは人見知りからなかなか距離感が縮まらなかったが、公園で共通の趣味である読書をして時間を過ごし、絡んできた悪ガキを幸子が追っ払い、苦手な牛乳を無理に飲んでくれた姿を見て心を開いていく。幸子となかよくなってからは夏祭りに行ったり、学校の勉強を見てもらったり、好きなアニメの電車スタンプラリー企画に参加したりと、いっしょに過ごす時間が多くなる。しかし、かつの何げない一言から、幸子は仕事で自分と接していると認識して心を閉ざしかけるが、幸子の思いを聞いてさらに信頼関係を築くことになる。ちなみに幸子が母親以外で敬語を使わない相手でもある。

川端 アリサ (かわばた ありさ)

新進気鋭のギャル作家。初登場時は女子高生だったが、現在は大学に進学している。薄い髪色で、「いかにも」な服装の今時のギャル然とした外見をしている。実は帰国子女であり英語が堪能で、国語も得意だがほかの教科は壊滅的。担当編集者である佐々木幸子に勉強を教えてもらって、なんとか大学に合格した。作品は恋愛ものが多く、川端アリサ自身の実体験をベースとしているため、リアリティあふれる内容が若者を中心に人気を集めている。だが常識が欠乏しており、デビュー前に中学館の新人賞に応募した際には、作品を大学ノートにギャル文字で書いた状態で送り、募集要件を何一つ満たしていなかった。しかし、たまたま幸子の目に留まり、内容に光るものを見いだされ、新人作家として発掘された。ギャルらしく言葉づかいが軽いが、本人は至ってまじめである。付き合っている男性とうまくいかなくなると筆が止まり、幸子に泣きつく。幸子に公私共に世話になっているが、よくも悪くも素直な性格なことから憎めないところがある。流行に非常に敏感ながら、アリサ自身は流行を追いかけているつもりはなく、「誰もやってないことをやって、どーんと待ち構えておく」という持論を持つ。その考え方は、若作りを無理に行っていた現代の浮世絵師の藤川翠風に感銘を与え、アリサの作品の装丁を担当してもらうこととなる。ちなみに、賞のために大学ノートで送られた作品は、校正して活字化された「通常版」と、ギャル文字手書きのノートのままの「原文版」の二種類が出版され、舞台化までされている。原稿の納品は幸子のLINEに送られてくるが、小説以外の連絡もふつうに送られてくるため、作品のみを選別する作業を要する。LINE以外でも大学ノートや、コピー用紙で作品をおさめることもある。渋谷では有名で顔も広く、センター街を歩くと次々に街の若者に声を掛けられる。

フィオリーナ・ロッシ

イタリアの児童文学作家の女性。つねにサングラスを掛けている。イタリア人ながらカタコトの日本語と、なぜか英語を交える。実はクレー射撃の元オリンピック候補選手でもある。フィオリーナ・ロッシ自身の新作のインスピレーションを得るために度々来日している。中学館が翻訳権を買ったために、来日の際は佐々木幸子が同行することが多い。典型的な「日本大好き外人」で、イタリアで日本のことを勉強し、ずっとあこがれていた。ロッシの希望で幸子の日常に同行した際には、満員電車で人混みに揉まれたり、姫村光の原稿を納戸で正座して待たされたりするなど、散々な目に遭っている。しかし、ロッシ自身は非常に満足しており、日本人は忍耐力を日常的に鍛え、人混みをすり抜ける「ニンジャ・ウォーク」を誰しもが使えると誤解したまま執筆した。その作品が大ヒットし、再度来日した際には、前回と違う角度で座禅体験や参拝の体験をした。その結果、大仏を合体ロボ化したフィギュアが初回特典として付属された新作もなぜかヒットした。幸子はこの大仏ロボフィギュアが、「修行の成果」だと評している。また、浅草下町を題材にしているブロガー「ヨシ坊」と、幸子の三人で浅草を散策した時には、生来の負けず嫌いに火がつき、いく先々で射的やサウナでヨシ坊と張り合うものの結果は引き分けに終わる。

椿 (つばき)

中学館の文芸編集部「月刊さらら」の副編集長に就任した中年男性。背が高くひょうひょうとした雰囲気を漂わせている。前部署の「コミックストーム」で、主力作品すべてを立ち上げた実績を持つ。編集部内で見かけることはほとんどなく、勤務時間内もほぼ外出している。コミックストーム時代からその行動は変わらず、「ヒットメーカー」と評される一方で、「仕事はできるけどいい加減で人付き合いも悪い変人」とも評されている。残業や徹夜が当り前の出版業界で、17時以降は校正も見ずに定時で退社する。新人時代の指導員(教育係)は現編集長の白井で、今と違って昔はバリバリと働いていたらしい。昔の働きぶりは白井から「今の佐々木幸子みたいな感じ」と評されている。部下の仕事のチェックも適当で、指示やアドバイスもなく、自分で考えて直せという放任スタイル。そのため部下は、どう直せばいいかわからず途方に暮れることが多い。柴崎ツトムとは、たまたま通っていた歯医者で出会ってなかよくなった。作家に寄り添うのが非常にうまく、どんなに人付き合いが苦手な作家とも自然に打ち解けられる。

柴崎 ツトム (しばさき つとむ)

ノーベル文学賞候補の男性作家。世間から「最後の無頼派」と評されるほど作品に対する評価は高く、佐々木幸子も中学生の頃に柴崎ツトムの代表作である「シルエット」を読み、大ファンになった。しかし、世間の評価とは裏腹に、柴崎自身は典型的な社会不適合者で、一軒家に居を構えているものの、家の中は天井付近までゴミが積み上がっている。また世間知らずで、虫歯の治療にどのくらいの治療費がかかるのかも知らなかった。歯医者で手持ちのお金が足りずに困っていた際に、たまたま居合わせた椿にお金を借りて事なきを得た。身長は低く、三頭身で小動物のような外見をしている。過去に雇っていた家政婦が辞めてから、生活がままならない状態を見兼ねて椿から幸子を家政婦として使うように提案される。過去に数々の名作を輩出しているにもかかわらず、作家としての創作意欲はあまりない。自らの作品にも関心は薄く、ゴミ部屋で代表作「シルエット」の原稿が発見された際にも、「もう本になってるから別にいらない」と思い入れも執着もない様子である。一方で、他人から見たらゴミに見えるものを子供の頃から大切に保管している。期限や行動を他人のペースに合わせることができないため、誰かと何かをするのが苦手。ただ、唯一自分にペースを合わせてくれる椿には心を開いている。好物はうどん。お酒を飲むとキャラが変わり、そのときの発想を作品にするという創作スタイルを取っている。

書誌情報

忘却のサチコ 23巻 小学館〈ビッグ コミックス〉

第1巻

(2014-12-26発行、 978-4091866707)

第2巻

(2015-04-30発行、 978-4091868800)

第3巻

(2015-08-28発行、 978-4091871756)

第4巻

(2015-11-30発行、 978-4091873378)

第5巻

(2016-02-12発行、 978-4091874696)

第6巻

(2016-05-30発行、 978-4091876164)

第7巻

(2016-08-30発行、 978-4091877345)

第8巻

(2016-11-30発行、 978-4091892393)

第9巻

(2017-03-30発行、 978-4091894021)

第10巻

(2017-06-30発行、 978-4091895349)

第11巻

(2019-03-29発行、 978-4091896391)

第12巻

(2019-09-30発行、 978-4098604098)

第13巻

(2020-01-30発行、 978-4098605293)

第14巻

(2020-06-30発行、 978-4098606429)

第15巻

(2020-12-25発行、 978-4098607891)

第16巻

(2021-06-30発行、 978-4098610495)

第17巻

(2021-11-30発行、 978-4098611898)

第18巻

(2022-05-30発行、 978-4098613380)

第19巻

(2022-12-12発行、 978-4098614813)

第20巻

(2023-05-30発行、 978-4098617081)

第21巻

(2023-12-27発行、 978-4098626212)

第22巻

(2024-04-30発行、 978-4098627981)

第23巻

(2024-10-30発行、 978-4098630585)

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