世界観
冬の大三角を構成している星のひとつであるベテルギウスが超新星爆発を起こしたことによって、怪獣や宇宙人が来襲するようになった「有紀」を舞台に物語が描かれている。登場する怪獣の姿はさまざまだが、本作『怪獣のテイル』では怪獣が美少女の外見をしている場合があり、それが周囲に受け入れられるという特異な世界観が特徴。怪獣である美少女は、あくまで怪獣としてではあるが受け入れられ、主人公であるマサトをはじめとした一般的な地球人と通常の営みを送っていくことになる。なかには、宇宙人と怪獣がひとつ屋根の下で暮らし、2人の間には子供まで生まれているという例もあり、地球外生命体による侵略というような、SFでいうインベーダーものの一般的なストーリーラインや設定とは大きく異なる世界観を持つ。
作品誕生のいきさつ
本作『怪獣のテイル』は作者F4Uが描いていた落書きが基となっていると、単行本一巻の巻末においてその落書きと共に紹介されている。Webコミック配信サイトである「ウルトラジャンプエッグ」上で連載していた漫画『文化部をいくつか』が2009年2月に連載を終了し、それを受けて次回作の打ち合わせが動き始めるも、何も思いつかない。そのような状態のまま吉祥寺へ向かった作者を助けたのが一巻巻末に収録されている落書きであり、「漫画家にも三度のチャンスが用意されている。その貴重な二度目を落書きに託した」とF4Uは語っている。
あらすじ
人生に喜びを見出すことができず、諦観のなか生きていた怪獣マニアのマサキのもとへ、ある日、空から怪獣の卵が降ってくる。恐る恐る近づいたマサキの目の前で卵が孵り、中からは尻尾の生えた裸の少女が生まれてしまう。驚くマサキを見つめた少女は、マサキのことを「おとーさん」と呼ぶ。少女を家で匿うことにしたマサキは、名前が欲しいという少女にしっぽからとって「テイル」という名前をつける。マサキの両親にも受け入れられ、いよいよ始まるマサキとテイルの日常生活だったが、今度はテイルを譲れと迫る少女、金持円がマサキの前に現れる。言い値で購入するという円の申し出と額の書かれていない小切手を前に、マサキはひとつの決断を下すのだった。
掲載情報
本作『怪獣のテイル』は元々集英社が運営するウェブコミック配信サイト、「ウルトラジャンプWeb増刊 ウルトラジャンプエッグ」にて2009年6月~8月、2009年10月~12月、2010年1月~11月まで更新していたが、「ウルトラジャンプエッグ」が「ウルトラジャンプ」公式サイトと合併したため、「ウルトラジャンプ」本誌へと移籍した。以降は「ウルトラジャンプ」2009年7月特大号、2011年1月、2月特大号、2011年3~8月、10~12月特大号、2012年1月特大号に掲載された。
パロディネタ
本作『怪獣のテイル』には数多くの怪獣に関するパロディネタが組み込まれており、その多くが往年の特撮映画や、ドラマ、アニメをモチーフとしたものとなっている。なかでも「ゴジラ」や「モスラ」、「ウルトラマン」などの円谷英二作品のパロディが数多く見られ、金持円がグランタワー屋上に用意する特撮セットや、スターマンの一族の設定など、パロディ元となった作品を知る人ならば、ピンとくるネタがちりばめられている。円谷作品の他には「タツノコプロ」作品のパロディも多数組み込まれており、それらの作品を元ネタとした登場人物たちの多くが美少女として描かれているのが本作の特徴となっている。
単行本の装丁
各巻のカバー裏には、「怪獣図解」と題された怪獣キャラクターの解剖図と共に簡単な設定解説が描かれている。本編では明確にされていない設定も記載され、カバー裏の設定を読むことで本編中の細やかな描写の謎を解く一助となることもある。
アシスタント
背景スタッフに牛帝と石口十が、2巻表紙からは色彩スタッフとしてコリタが参加している。牛帝は主にWEB漫画で活躍中の漫画家で、過去に「同人王」というWEB漫画が書籍化されている。また、石口十は「ウルトラジャンプ」が主催する第六回ウルトラ漫画賞奨励賞受賞者であり、「ガンダムエース」誌上にて「機動戦士ガンダムSEED Re:」を連載している漫画家である。
登場人物・キャラクター
マサキ
怪獣マニアのニート。魚屋の息子で、煙草が吸える年齢。明確に生きる目標がなく、日々を惰性的に生きていた。コンビニに出かけたある夜、空から落ちて来た隕石卵と遭遇し、中から生まれたテイルに「おとーさん」として認識されたことで運命が変わる。かなめやカオリとは昔なじみで、知り合い。また、カオリとは怪獣マニア仲間でもある。 ニートではあったが人見知りというわけではなく、テイルのために生身で怪獣に立ち向かう勇気もある。金持円からは、DNAは優れており、育児をこなす責任感や優しさを持ち合わせた人物と評されている。
テイル
ある日、空から降ってきた隕石卵から孵った怪獣の子。小学生くらいの少女の外見をしているが、大きな尻尾が生えている。孵化した際に目の前に居たマサキのことを「おとーさん」と認識した。生まれて間もないにもかかわらず日本語をしゃべれたり、食事をしたり、怪獣DVDを見ることができたりと、常識では考えられない適応能力を持つ。 そのため、怪獣に詳しいカオリから「超適応」という能力を持っているとされた。
かなめ
マサキと顔なじみの少女で、銭湯「かめの湯」の娘。長い髪を結い上げたポニーテールの髪型をしている。マサキいわく「がさつな性格で、嫁に行くのが困難な道のりと定められた女」。マサキに対して好意を寄せており、初対面のテイルにマサキの彼女と勘違いして詰め寄ったりした。
カオリ
喫茶店「魔の花」の店長を務める女性。マサキと同じく怪獣マニアで同好の士。黒髪の長髪に大きな丸い眼鏡をかけている。経営している喫茶店は祖父から譲り受けたもので、マサキやカオリのような怪獣マニアが集まる店となっており、常連客が多数いる。たびたび合コンに出かけているのだが、勝率は限りなく低くお持ち帰りされた回数は悲しいほどに少ない。
金持 円 (かねもち まどか)
マサキとテイルが魚屋の配達先で出会った女性。東京都の近郊に巨大な敷地を有していたり、高層ビル「グランタワー」を所有していたりと、常識外の資産家。強い生き物に目がなく、飼い熊であるミーシャを倒したテイルを気に入り、買い取ろうとした。のちに、テイルに対抗して怪獣メカであるセイバーを作らせた。 マサキのことを優秀なDNAを持った男性と見なし、生殖候補の一人と断言している。
あずき
小笠原諸島の沖に位置する姉だけ島に住まう先住民の娘。色黒な肌に、ぼさぼさの長い黒髪の持ち主。長老が大学ノートに書き残した災いの予言を信じて都会へと出てきたところ、空腹から行き倒れてしまい、マサキの両親に拾われて一緒に暮らすことになった。常識の範疇を超えた大食いであったり、突然繭に包まれたりと、人間ではない素振りをしばしば見せる。 作者のF4Uは、南方の島に住む少女だから豆の名前にした、とコミックスの第2巻巻末で語っている。
セイバー
強い生き物が好きな金持円が、テイルに対抗してドイツで作らせた怪獣メカ。普段は超高層ビル「グランタワー」の屋上に作られた特撮セットでテイルと怪獣ごっこに明け暮れている。小学生ほどの体躯ながら、怪獣のテイルに対抗できる頑強なボディや馬力を有しており、ビームを放つこともできる。なお電池駆動のため、一定時間動くと電池切れを起こし、再稼働には充電が必要。 お使いに出ることもあり、途中で遭遇したテイルたちの買い忘れを類推して指摘したりと高度な知能を有している。
イヴ
テイルと同じ人型をした怪獣。銀行に侵入していた金庫破り集団「ワイズ一家」の前に落下した隕石卵から生まれた。孵化した際に目の前にいたミザルのことを「ママ」と呼び慕うようになる。テイルとは異なり、現代の地球に来る前の知識をある程度有しており、怪獣を増やさなければならないという使命感を持っている。ことあるごとに産卵して怪獣を生み出すという困った性質があり、母親代わりのミザルを困らせている。
ロウ
スター星から現代の地球に訪れた、スターマンという正義の一族の少年。怪獣を悪と見なしてテイルたちに襲い掛かるが、その後、平和に人類と共生するテイルたちの姿に固定観念を揺さぶられることとなる。またイヴと出会った瞬間に一目惚れしている。全身をタイツに包んだグレイ型宇宙人のような外見で、テイルに裸だと間違われていた。
オヤジ
魚屋「魚一」の店主で、マサキの父親。いつも羽織りを着て生活している。細かいことを一切気にしない、豪放磊落な性格。マサキがテイルを連れ込んでいた際も、さらには彼女がマサキの娘となったことが発覚した際も、ただ受け入れるだけでなく逆に大喜びしたほど。カーチャンのことを溺愛しており、夫婦仲は現在も熱い。
カーチャン
魚屋「魚一」でオヤジと共に働く、マサキの母親。いつも笑みを浮かべた朗らかな女性で、オヤジと同様に大らかな性格。マサキがテイルを連れ込んだ際もことを荒立てることなく、マサキの娘だというテイルを受け入れて喜んでいた。ちなみにテイルの衣服は、カーチャンが通販で仕入れている。
ドクター
カオリが店長を務めている喫茶店「魔の花」の男性常連客。「独田動物病院」という動物病院を経営している。頭のすっかりはげ上がった老人で、カオリに女王様プレイをされて喜ぶ特殊な性癖の持ち主。マサキやカオリと同じく怪獣に対して造詣が深く、謎の高熱を出したテイルの診断を行った。
姫バア (ひめばあ)
銭湯「かめの湯」で番台を務める老婆。髪を結い上げた小柄なお婆ちゃんで、煙草をくわえ着物を着ている。マサキのことを子供の頃から知っており、「マサ坊」と呼ぶ。周囲一帯のガスが止まった時には、客として来たマサキに薪炊きするための薪を割らせていた。
長老
小笠原諸島の、あずきが住んでいた村の長老。常に大きな仮面をつけており、年齢や性別が判別できない。あずきに村の伝説の数々を言い伝えており、なかでも大学ノートに書き記された「ワシが恐れる伝説全集」はあずきの行動規範となっている。小笠原諸島を離れたあずきのことを案じていて、冬の時期にはあずきの冬服を魚屋「魚一」に宛てて宅配便で送っていた。
ミザル
金庫破りの集団「ワイズ一家」を率いている女性。SMの女王様がつけるようなアイマスクをいつも着用している。キカザルやイワザルとは同じ悪徳施設の出身でみなしご。金庫破りの途中で空から降ってきた隕石卵から孵化した怪獣の少女と目があってしまったため、「ママ」と呼ばれ懐かれることになってしまう。のちに名前を欲しがった彼女に「イヴ」という名前を与えた。
キカザル
ヘッドホンを着用した小柄な男性。金庫破りの集団「ワイズ一家」の一員で、爆薬の扱いをはじめ、銀行の警備システムをダウンさせたりと、一家の技能面を担当している。自分のことを「わて」と呼ぶ独特の話し方をする。ミザルやイワザルとは同じ悪徳施設の出身でみなしご。
イワザル
非常に大柄な体格の男性で、怪力の持ち主。金庫破りの集団「ワイズ一家」では、怪力を利用して金庫を破るなど、パワー面を担当している。基本的に「ガ」や「ギ」といった言葉しか口にしない人物で、言葉数は多くない。ミザルやキカザルと同じ悪徳施設の出身でみなしご。
トラスト
スター星から現代の地球を訪れた、ロウとは別のもう一人のスターマン。スターマンのなかではもっとも怪獣との戦闘経験が多く、体中に傷が刻み込まれている。スターマンの行うことこそが正義だと固く信じ込んでおり、怪獣を凶悪で狂暴な存在と決めつけている。そのため、テイルをはじめとした怪獣たちと共生している地球全体を悪だと断定した。
ミーシャ
金持円が自身の敷地内で飼っている熊。檻に収められておらず、円の家が所有している広大な敷地内で放し飼いにされている。昼食であるシャケが届かず、腹を空かせていたところにマサキとテイルが現れたため、彼らに襲い掛かった。
タックン
空から降ってきた怪獣の卵から孵ったタコ型の怪獣。テイルのものとは比べものにならないほど巨大な卵で、孵化した際もテイルの数倍もある巨大な体躯を有していた。テイルに一目惚れして求愛するも、強引な手管にマサキが怒ったためテイルに火炎放射で撃破された。その後、通常のタコと同じ位のサイズにまで縮み、マサキとテイルによって飼われることになる。
集団・組織
ワイズ一家
ミザルが率いる金庫破りの窃盗集団。ミザル、キカザル、イワザルの3人で構成されている。メンバーは3人共にみなしごで、補助金が目当ての悪徳施設で物心もつかない頃から育てられた過去を持つ。サーカスに売られそうになった前夜、15歳で施設を抜け出し、以降は金庫破りをして糊口を凌いできた。
スターマン
スター星に存在する一族の名前。正義の使者を自称し、凶悪で狂暴な怪獣と日夜戦い続けている。そのため、自分たちこそが正義だと堅く信じており、そのことに疑いの欠片も持っていない。ロウの他にもトラストという兄をはじめとした兄弟が存在し、兄弟をまとめて「スターマンズ」と呼んでいる。
場所
魔の花 (まのはな)
カオリが店長を務める喫茶店。元々はカオリの祖父が経営していたが、彼はカオリが就職活動を始める段階で隠居を決め込み、カオリに店を譲った。店長のカオリが怪獣マニアということもあり、常連客にも怪獣マニアの人間が多く存在する。のちに、怪獣との戦いの中で店舗が破壊され閉店に追い込まれるが、金持円がオーナーとなることで「グランタワー」屋上に2号店を開店した。
魚一
マサキの実家の魚屋。マサキの両親が経営しており、店舗は住居と一体化している。それほど大きな店ではないにもかかわらず、品揃えは非常に充実しており、冷凍庫の中にはテイルと同じ程度の大きさの冷凍マグロも入っていた。
独田動物病院 (どくたどうぶつびょういん)
喫茶店「魔の花」の常連客、ドクターが経営する動物病院。怪獣に造詣の深いドクターが経営しているということから、テイルが原因不明の高熱を出した際に駆け込んだ。その際、テイルが超高熱の火炎を吐き出したために、屋根に大穴が開いてしまった。
かめの湯 (かめのゆ)
マサキたちの家の近所にある銭湯。タックンが空から降ってきた時に起こった騒動によりガス管が破裂し、付近一帯のガスの供給が止まったせいで風呂に入れなくなったマサキとテイルが訪れた。姫バアという老婆が店番をしている。マサキが子供の頃からボロかった。
グラーフ・ツェペリン改 (ぐらーふつぇぺりんかい)
金持円の実家である金持財閥が所有する輸送艦の名前。ドイツにはかつて同名の航空母艦が存在していたが関係性は明らかになってない。特務輸送艦でありながら、フラットな甲板に航空機やヘリを乗せた空母の形をしている。ドイツで開発されていたセイバーを日本へと輸送した。
グランタワー
金持円がオーナーを務める超高層ビルの名前。屋上にセイバーとテイルが怪獣ごっこを行うための特撮セットが用意されており、2人は毎日のように遊びに明け暮れている。特撮セットの建物は、すべて現実と同じ素材が使用されており、強度も現実の建物と同じように作られている。また、倒壊した店舗に代わって新規に作られた喫茶店「魔の花」が屋上に建造されている。
その他キーワード
超適応
テイルが生まれた時から身に付けていた能力。カオリが命名した。孵化した直後から日本語を話すことができたり、マサキが見ていた怪獣DVDに影響されて火炎を吐くことができるようになったりと、常識では考えられない適応能力のことを言う。
ビリオンキャノン
セイバーに搭載されている熱線砲。グランタワー屋上に設置されている特撮セットの高層ビルを、一瞬で両断してしまうほどに強力で高温の熱線を放つ。その反面、一発撃つごとに10億円という非常に高額な費用を必要とする。本来ならばコスト的に連発などできないが、金持円が常識外の資産家であるためにそのデメリットは無視されている。
隕石卵
冬の大三角を構成する星のひとつであるベテルギウスが、超新星爆発を起こしたことによって現代の地球に飛来した怪獣の卵のこと。まるで卵が意志を持っているかのように、示し合わせたように地球へと飛来した。テイルやイヴのような人型をした怪獣の他に、タックンのようにタコの形の怪獣など、さまざまな種類の怪獣がこれから生まれる。