概要・あらすじ
荒迪水松女(あらみちみるめ)は蛇神の加護を受け、生した子は家に繁栄をもたらすと言われている荒迪家の娘。しかし、嫁ぎ先の屋鉄長治との間に子供はできず、「夫の世話もせず、私財を溜め込み、側女(そばめ)を子供ごと殺す悪妻だ」という噂がたっていた。戦に負けた屋鉄は討ち取られ、城は加左家の手に落ちた。保護された水松女はすぐに夫の仇である加左家の次男の加左吉次郎宗清に嫁ぐことが決まる。吉次郎の家臣の孫四郎は、「扱いづらい屋鉄の山城と悪名高い蛇女を若に押し付け、嫌がらせをしている。兄君の策略だ」と吉次郎の前で憤る。吉次郎の兄は武勇に秀で、利発な弟の吉次郎を脅威に思っていたのだ。荒迪家から再び屋鉄の山城に嫁いできた水松女。周囲のものは彼女を恐れ、悪く言うものが多かったが、吉次郎は正室として水松女を手厚く迎え入れた。良い部屋を与えられ、いままで世話をしていた馴染みの侍女もつけてくれた。侍女はこれまでの殿との待遇の違いに驚きを見せる。以前、水松女に与えられていたのはあばら屋で、衣類も食料も最小限、生きていくのがやっとだった。自分たちで暮らしを賄い、苦労を共にした侍女たちとは結束が生まれ、彼女たちは水松女の片腕となった。水松女は働き者で賢く、世話好きで領民思い。悪い噂のほんどは屋鉄の側女のものだった。水松女は屋鉄に見つからないよう、畑を作らせ、下働きの者たちの生活の糧にと、薬草の作り方を教えていた。下働きは水松女を慕っていたが、吉次郎が主になった後も、人前で自分に近づかないようにと下働きたちに伝言していた。悪名高い自分に近づくことで、彼らがいじめられることを危惧していたのだ。ある日、畑にいた下働きの源太がつかまり、隠していた畑の存在が今の城の主、吉次郎に知られてしまう。水松女は「すべて自分が命じたこと。処罰は自分に」と申し出る。「主に黙って私腹を肥やしていたのか」と水松女を責める孫四郎に源太は「御方様には一銭も入っていません。わずかな野菜をお受け取りになるだけです」とその疑いを否定した。水松女は伝え聞いた話から、吉次郎のことを聡明で寛大な人物だと思っていた。そのため、城の明け渡しの際も、財や蓄えをすべて差し出し、城の皆に大人しく従うよう指示していたのだ。水松女のおかげで、城の明け渡しが素早く、城の者も無駄に殺されずに済んだ。吉次郎は自分を信用してくれた水松女に「光栄だ」と笑いかけた。そして吉次郎は隠れて作っていた畑のことは責めずに、むしろ推奨してくれた。吉次郎は女ごの水松女の話にも耳を傾けてくれる器の大きい男性だった。そんな中、屋鉄の遺品である腰刀を受け取った水松女は「屋鉄の供養のため一人になりたい」と人払いをする。その夜、水松女の部屋には蛇神が現れる。
登場人物・キャラクター
荒迪 水松女 (あらみち みるめ)
荒迪重郷の娘。荒迪家の娘は土地の蛇神の加護を受け、生した子は繁栄をもたらすと言われているが、嫁ぎ先の屋鉄長治との間に子供はできなかった。屋鉄に絡みつく蛇女などど悪い噂を立てられる。実際は聡明で誠実な女性で、良く気がつく働き者。領民思いで、生活の糧になればと、書物で学んだ薬草の作り方を下働きたちに教える。腰までの長さの黒髪はウエーブがかかっている。蛇女のため、獣には嫌われる。
加左 吉次郎 宗清 (かさ きちじろう むねきよ)
加左家の次男。賢くて強く美しい若武者。寛大で器が大きい人格者。家臣からも慕われている。兄の妨害によりなかなか嫁をもらえなかった。屋鉄長治を討ち取った褒賞に屋鉄の山城を受け取り、荒迪水松女を嫁にもらう。水松女の悪い噂はすべてでたらめだったと気づく。水松女との間に子が生せなければ養子をもらえばいいと思っている。
屋鉄 長治 (やがね ながはる)
荒迪水松女の夫。戦に負け、加左吉次郎宗清に討ち取られる。正室に迎えた水松女に子が生せなかったことを「役立たず」と罵る。水松女を殴ったり、あぶったり、傷つけたりとひどい目に合わせていた。水松女をあばら屋に住ませ、十分な食料や衣類も与えなかった。
書誌情報
悪し妻かたり 3巻 小学館〈フラワーコミックス〉
第1巻
(2020-06-10発行、 978-4098710119)
第2巻
(2021-08-10発行、 978-4098714322)
第3巻
(2022-10-07発行、 978-4098718047)