あらすじ
第1巻(私のバットマン)~第2巻(ポパイと呼ばれた男)~第3巻(香山家の食卓~胴上げを阻止せよ!)
主人公はドラフト一位入団で5年目を迎えた万年Bクラスの東京ロビンズの4番打者、香山雄太郎。年俸1億円のスラッガーだが、性格が少し普通と違う。異常に几帳面なのだ。毎朝ぴったり9時には起床、決まった時間に家を出て、決まった時間の電車に乗り、決まった時間に球場へ。夜11時の電車で帰宅する。夫婦生活の時間さえ毎日午前0時からと決めている。根の生えたような直方体的巨体が特徴。
今、雄太郎は、29打席連続ノーヒットという大スランプにはまり、ファンからブーイングを浴び続けていた。そんな雄太郎の状況を知りながら資産家・万里小路家の3女で、夜遊びが大好きな妻のリカは、毎晩、ボーイフレンドたちと遊び歩く。しかし遊んではいても決して一線は超えないリカに言い寄り、振られたイシミネは、リカのボーイフレンドたちとのきわどい写真を雄太郎に送り付ける。動揺を隠せない香山だが、そのストレスが逆にスランプから抜け出すチャンスになる。(第1巻第1話 私のバットマン)
雄太郎とリカが出会ったのは2年前だった。ロビンズのオーナーが叔父である伝手でリカは選手激励パーティーにコンパニオンとしてアルバイトにいく。そこで雄太郎と知り合うが、最初は腕力だけのスポーツバカだと誤解した。しかし次第に雄太郎の 野球を本気で深く愛している人柄や真面目な性格、懐の深さに惹かれていくのだった。(第1巻第4話 リカの指定席)
大西鉄雄はかつて首位打者に何度か輝いた東京ロビンズのスターだった。いつもパイプをくわえてバッターボックスに立つことからポパイと呼ばれていた。その大西も35歳となり打撃力には衰えが見えたが、性格の明るさとショーマンシップで人気は高い。チームのムードメーカーとして監督の信頼も厚かった。真面目で几帳面、その上堅物で全く派手さの無い雄太郎のプロ野球選手らしさのない生活が気に入らず、4番奪回を宣言する。それからの大西は大活躍、雄太郎も負けじと打棒が爆発し、チームは連勝を続けていく。しかし、活躍し続ける大西に問題が起きる。(第2巻第1話 ポパイと呼ばれた男)
元ジャガーズの選手で今はラジオ野球解説者の仲立から出席を依頼され、雄太郎は「野球人を囲む会」へ。会の世話人で経済界のドン・関越電力の大河原会長に紹介された雄太郎だが、渡すべき名刺を忘れてしまう。しかも祝儀もかたくなに受け取らなかったため、大河原の怒りを買う。謝礼金を受け取れない訳を詰問する大河原に、雄太郎はバットも振らないで金銭はもらえないと答え、とうとう大河原が投げる100球全てを雄太郎が打って見せることになる。(第2巻第9話 バットマンの証明)
食欲が減退し夏バテした大学からのライバル池畑を雄太郎が自宅へ招待する。食欲と性欲を取ったら生きている価値が無いとまで言われる池畑の夏バテはリカの手料理で見事に回復。その噂を聞いた独身の選手たちがリカの手料理を目当てにやってきた。口々にリカの料理を褒める選手たちは雄太郎にも褒めろと言うが、リカに他人の家庭に口を出すなと一喝される。(第3巻第1話 香山家の食卓)
シーズンも終盤を迎えていた。宿敵ギガンデスはリーグ優勝を目前にしていた。今度のロビンズ戦に勝てばリーグ優勝が決定する。ロビンズのオーナー横田十蔵から意地でもホームでのギガンデスの胴上げを阻止しろと命令が下る。負ければ関監督も首にすると言う。雄太郎たちは奮い立ち宿敵ギガンデスとの決戦に臨み、 なんとかギガンデスには勝利したものの、他の球場での試合結果により目の前でリーグ優勝を決められてしまう。オーナーは予告通り、関監督を解任し、新監督を招へいするが、その新監督は誰も予想できなかった人だった。雄太郎たちもこれからのチーム優勝を目指し戦うことを誓いあう。(第3巻第2話~第3話 胴上げを阻止せよ!)
雄太郎と池畑が魚のぬいぐるみを着てサッパリビールのコマーシャルに出演することになった。撮影は南洋の島で行われるが2人の表情がチャーミングで無いため、撮影監督は困惑。その撮影の合間に、2人は島の子供たちと野球をし、本来の輝きを取り戻す。(第3巻第5話 南洋のバットマン)
第4巻(愛しのスモーマン~帰って来たアイツ!)~第5巻(マスクマン~お父さんの夢)~第6巻(子豚と勲章~また逢う日まで)~
雄太郎はキャンプ中に突き指し、東京の病院で治療を始める。そこに身長173㎝、体重94㎏の幕内最軽量力士だが獅子奮迅の活躍を見せている関取・北津軽がいて、雄太郎にサインを頼んできた。飛行機の日帰りで相撲を見に行くほどの相撲ファンのリカは北津軽目当てで雄太郎に付き添い病院へ。しかし、ふたりは、恋人と諍いしている北津軽を見てしまう。その原因は先場所北津軽が腰を痛め、小結から陥落したため、婚約発表時期を延期したことにあった。リカは思わず、北津軽に親方や成績を気にして好きな彼女との約束を破る情けない男にはならないでと訴える。(第4巻第1話 愛しのスモーマン)
1992年ペナントレース開幕日トウキョー・ベイ・スタジアムは5万人の観衆で埋まっていた。開幕戦を勝利で飾りたいロビンズは万年最下位のドルフィンズと対戦する。6回まで3点のリードを奪ったロビンズ攻撃で4番雄太郎の打順がまわってきたとき、ピッチャーが雄太郎の大学時代からのライバル、川中洋次郎に交代する。10年に1人の天才投手と言われる川中は予告三振を宣言し、雄太郎はアンダースローの川中の決め球、バッターの手元で沈むシンカーで討ち取られる。しかし、元ロビンズの投手、刈田優から川中がシンカーを投げる時の癖を教えられ攻略の糸口を見出した雄太郎は、川中の決め球狙いの勝負を挑む。(第4巻第4話~第6話 帰って来たアイツ!)
先月、別リーグの覇者ジャガーズからロビンズに移籍してきたばかりの捕手・新城はロビンズの投手陣とまだ呼吸が合っていなかった。今までただ漫然と投げたいように投げていた投手たちは新城の出すサインに頷かず、古川には試合中に殴られてしまう。雄太郎は、なんとか新城をチームに溶け込まそうと、チャンスがあるたびに新城に話しかけていたが、そのたびに無視されていた。新城のその態度は謎だったが、平凡なキャッチャーフライを取り損ねた新城を見た雄太郎は、誰も気づかなかった新城の秘密を悟る。(第5巻第1話 マスクマン)
プロ野球選手を目指していた大友甚平は、社会人野球の飯田電工(株)野球部で投手をしていた。チームの最年長で、もう32歳になる甚平には夢があった。それはプロのマウンドに一度でいいから立ち、思いっきり投げてみたい、ということだった。しかし彼は、監督から引退勧告されてしまう。甚平の息子・公平はサッカーに夢中。その公平がサッカー仲間との練習帰りに自転車で道幅一杯に走ったち、赤信号を無視しているのを雄太郎に注意される。たまたまそこへ通り掛かった甚平は雄太郎に気づき、公平のしつけに文句があるなら決着を野球で付けようと言う。その後、雄太郎の計らいにより、長年の甚平の夢が違う形で実現する。(第5巻第2話 お父さんの夢)
プロ野球選手の使う木製バットの8割は北海道産の高さ10mにもなるアオダモというモクセイ科の落葉高木でつくられる。アオダモは耐久性が高い。普通バットは樹齢70年以上のアオダモで作成される。しかし雄太郎は、樹齢30年前後の若木で作られたバットを望み北海道の日高まで出かけて行く。若木で作ったバットの方が弾力があり、球が良く飛ぶ。ところがアオダモの製材所・大樹産業の社長は森林資源の保護のためと言い、貴重な若木製のバットを売ることを拒否。雄太郎はその貴重なバットを売るのに相応しい人間かどうか、自分という人間をじかに値踏みしてくれと社長に言うと、山中で次から次へとボールを打ち始める。 (第5巻第4話~第6話 THE BAT OB BATSMAN)
ロビンズのOB長淵博が文化勲章を受章。雄太郎たちも記念パーティに出席した。長淵は戦後まもないプロ野球界で大活躍し昭和の打撃王と呼ばれたスーパースターだった。現役引退後も監督としてリーグ7連覇を達成。現在は野球人というより政治家や銀行家、文化人との交友がメインのVIPだった。だが、講演する長淵の目に客席に座る人々はスタジアムを埋め尽くす観客のように見えていた。講演会後、長淵が足を向けたスタジアムで雄太郎に出会う。熱く名選手だった長淵の思い出を語る雄太郎の言葉に、長淵は自分の本質は野球選手で、今のVIPの姿は仮のものだと自覚する。(第6巻第1話 子豚と勲章)
雄太郎はプロ野球選手ののど自慢大会に出場を求められる。かたくなに出場を拒む雄太郎にリカは音痴を疑う。しかし、雄太郎がようやく出場したのど自慢大会は嵐を呼ぶこととなる。(第6巻第2話 また逢う日まで)
愛する妻リカと気心の知れたチームメイトに支えられ、充実した選手生活を送っていた雄太郎だが、ある日チームの身売りが決定。新オーナーの意向で、万年最下位の「鹿児島サザンクロス」へトレードされてしまう。やる気がないチームメイトたちは、突如やってきた雄太郎に反感を抱くが、野球に真摯に取り組む雄太郎の態度は彼らを少しずつ変化させていく。
彼の活躍により、活気を取り戻した鹿児島サザンクロスは、リーグ優勝に向けて邁進していく。
登場人物・キャラクター
香山 雄太郎 (かやま ゆうたろう)
東京ロビンズに所属するプロ野球選手。チームが誇る4番バッターで、ポジションはレフト。球界一の巨体の持ち主だが、真面目で几帳面な性格で、とにかく細かいことをよく気にする。男気にあふれ、温厚な性格だが、怒らせると怖い。愛妻家で妻の香山リカにぞっこん。趣味は読書。東京ロビンズの中心的存在だったが、新オーナーとなった佐賀田により、万年最下位の鹿児島サザンクロスへトレードされる。 1億円プレーヤーであったことも影響し、移籍当初はチームの中で浮いていたが、野球に真剣に取り組むその姿勢はチームメイトの心を動かす。やがてチームは彼を中心にまとまっていき、リーグ優勝を目指すまでになる。 鹿児島サザンクロス移籍後は、ポジションがレフトからファーストに移った。
香山 リカ (かやま りか)
香山雄太郎の妻。実家は日本でも有数の資産家万里小路家で、親の反対を押し切り、香山雄太郎と結婚した。日本舞踊藤水流の師範代を務め、名取は香世乃。結婚前は遊び人のお嬢様として知られていたが、結婚後は落ち着き、愛する夫を支えている。趣味は車で、走り屋顔負けのドライビングテクニックの持ち主。 大型免許も持っている。
池畑 (いけはた)
香山雄太郎が所属する東京ロビンズの選手で、チームの看板バッター。香山雄太郎とは大学時代からのライバルで親友。彼の妻香山リカのこともよく知っている。球界でも有名なプレイボーイで、女性の噂が絶えない。
大西 鉄雄 (おおにし てつお)
香山雄太郎が所属する東京ロビンズの選手。かつては首位打者にもなったことがあるベテラン選手で、往年のパワーが衰えた現在も、持ち前の明るさとショーマンシップでファンに人気がある。チームのムードメーカーとして、監督からの信頼も厚い。
荒井戸 (あらいど)
香山雄太郎が移籍した鹿児島サザンクロスのコーチ。教え子の嶋村ハジメが香山雄太郎とトレードされて東京ロビンズに移籍してからは、抜け殻のような日々を送っていた。しかし、「優勝を狙う」と宣言した香山雄太郎の情熱に感化され、チームの立て直しに協力する。
中条 (なかじょう)
香山雄太郎が移籍した鹿児島サザンクロスのエース。ポジションはピッチャー。チームのリーダー的存在で、当初は香山雄太郎に反発していた。完封勝利がかかった東京ロビンズとの試合で、審判をだまして香山雄太郎のファインプレーをエラーにしようとした相手チームの監督を殴り退場処分に。 これをきっかけに香山雄太郎と和解。次第に彼を信頼するようになっていく。ワサビが苦手なのか、寿司はいつもサビ抜き。
猿渡 (さるわたり)
香山雄太郎が移籍した鹿児島サザンクロスの選手。ポジションはショート。短距離走のオリンピック候補だったが、ドーピング疑惑で陸上界を追われた過去を持つ。以前はその足を活かしたファインプレーを見せていたが、エラーを繰り返すチームメイトに失望し、やる気をなくしていった。泣き上戸で、一度泣き出すと止まらない。
鳥居坂 (とりいざか)
香山雄太郎が移籍した鹿児島サザンクロスの選手。初期のポジションはセカンド(のちにサードに転向)。極道の世界に身を置いていた時期があり、右肩に入れ墨を入れている。ヤクザだった過去が明らかとされてしまったため、一時は引退も考えるが、チームメイトたちの協力で選手を続けていく決意をする。
有働 大樹 (うどう たいき)
香山雄太郎が移籍した鹿児島サザンクロスの選手。二軍のボス的存在で、怪我のリハビリのために二軍に合流した香山雄太郎と対立する。怪我で選手生命を絶たれた親友が自殺して以来、勝利だけを目指す野球を憎み、一軍でプレイすることを拒むようになった。怪我が完治していない香山雄太郎の代わりを自ら買って出て、一軍に上がる。
嶋村 ハジメ (しまむら はじめ)
東京ロビンズの新監督となった嶋村一雄の息子。もとは鹿児島サザンクロスの選手だったが、香山雄太郎とトレードされ、父が監督を務める東京ロビンズに移籍する。試合に勝つためにはどんな手段もいとわない父親のやり方に疑問を持っている。温厚な性格だが、「坊ちゃん」呼ばわりされるとキレる。
横田 十蔵 (よこた じゅうぞう)
香山雄太郎が所属する東京ロビンズのオーナー。日本一あこぎな不動産王と陰口を叩く者も多い。一時の思いつきで行動することが多く、チームを引っかき回す。本業の不動産の経営改善のため、東京ロビンズをゲームメーカーの社長佐賀田に売り渡す。若い頃、香山雄太郎の妻である香山リカの父に大変世話になっており、娘の香山リカにも頭が上がらない。
伍代 はな (ごだい はな)
香山雄太郎が移籍した鹿児島サザンクロスのオーナーを務める老婆。鹿児島中のホテルや観光会社をたばねる伍代グループを率いる女傑で、亡き夫に代わり、鹿児島サザンクロスのオーナーとなった。香山雄太郎のお尻に一目惚れし、彼に肩入れするようになる。示現流の免許皆伝の持ち主。 また、香山雄太郎の妻香山リカに日本舞踊も習っている。
集団・組織
東京ロビンズ (とうきょうろびんず)
『愛しのバットマン』の登場にするプロ野球チーム。香山雄太郎をドラフト一位で獲得した。ホームスタジアムはトーキョーベイスタジアム。チームとしての実力はそれほど高くなく、Aクラス入りは珍しい。長らく不動産会社を経営する横田十蔵がオーナーだったが、佐賀田が社長を務めるゲームメーカーに身売りされた。
鹿児島サザンクロス (かごしまさざんくろす)
『愛しのバットマン』の登場にするプロ野球チーム。香山雄太郎がトレードによって移籍した。ホームスタジアムは南国球場。5年連続最下位の弱小チームで、選手たちもすっかりやる気を失っている。オーナーは、鹿児島のホテルや観光会社をたばねる伍代グループを率いる伍代はな。