あらすじ
第1巻
天下人となった豊臣秀吉の手によって「お長御殿」に幽閉された織田信長の遺児・お長。彼女の救出を目的として、10年に渡り雌伏の時を過ごしてきた流浪の僧・「天海」は、16歳となったお長が、秀吉に輿入れするために、「お長御殿」を出立したことを知る。この千載一遇の好機を狙い、お長を救い出すことに成功した天海は、お長を菩提寺まで連れていき、自分が信長の創った武器・甦土武を所持する甦土武武者であることを明かす。各地で乱暴狼藉を働く甦土武武者を嫌悪するお長は、一度は天海の存在を否定するものの、人々の笑顔を守るために拳を振るう天海が、他の甦土武武者と違うことを悟り、彼に心を許し始める。互いの心境を語り合っていた最中、秀吉の配下である甦土武武者・神子田が菩提寺を襲撃。お長を連れ戻すため、天海と対峙した神子田は、天海が所持する甦土武「迦楼羅」を見て、その正体が10年前に信長を討ち取ったとされる逆賊・明智光秀であることに気付くのだった。信長殺しの本当の首謀者が秀吉であると告げた光秀は、圧倒的な力をもって神子田を倒す。天下一の「下克上」・秀吉討伐の儀を執行するため光秀は、お長を伴い、秀吉の元を目指すことになる。その道中、お長を取り戻そうと行く手を阻む甦土武武者の一味・黒脛巾組を倒し、長浜の町へと入った一行は、盗賊一家の頭・石川五右衛門と出会う。五右衛門を狙う大名を追っ払い、貸しを作った光秀は、五右衛門を「下克上」の供にすることに成功、秀吉の配下となってお長を狙う伊達政宗を討つために、信濃の松本城に向かうことになる。松本城に入った光秀は、立てこもる1500人の兵を蹴散らし、政宗に対してお長から手を引くように要求する。しかし、この要求を拒否されたうえ、伊達家の家臣・片倉小十郎の提案により、光秀と政宗はお長の身柄を賭け、サシで勝負をすることになってしまう。重臣級の甦土武「夜叉」を操り、縦横無尽のスピードで空を切り裂く政宗に大苦戦を強いられる光秀。敗色濃厚の状況に陥った光秀は、雌伏の10年間で、「迦楼羅」の力を最大限にまで引き出すために会得した体技・般若心拳を解放するのだった。
第2巻
伊達政宗との戦いで明智光秀が発動させた新たなる体技・般若心拳。生気を爆発的に放出し、わずかな間だけ甦土武の力を限界まで引き出したことで政宗を圧倒した光秀は、見事な逆転勝利を収める。戦闘後、片倉小十郎から渡された若返りの薬・変若水を飲んだことで、お長が幼女になってしまうというアクシデントが発生する。そんな薬を渡した理由を問う光秀に対し、小十郎は豊臣秀吉が狙う封印された最強の甦土武「帝釈天」のことと、帝釈天が織田信長の血を色濃く受け継ぐ成人にしか解き放てないことを告げ、伊達家が秀吉に臣従するフリをしつつ、お長の身柄を確保して変若水で若返らせ、帝釈天の解放阻止を狙っていたことを語る。政宗から甦土武「夜叉」を受け取り、再び「下克上」の旅に出た一行だったが、石川五右衛門がその夜叉を盗んで逃亡を図ってしまう。光秀に捕らえられた五右衛門は、秀吉に幽閉された信長の妹のお市を救うために夜叉の力がどうしても必要であると訴える。五右衛門の願いを聞き入れ、帝釈天の封印を解くための血のスペアとして身柄を拘束されていたお市を救うため、諏訪湖に向かった一行は、彼女を守っていた戦国の虎・武田信玄に遭遇する。変若水によって死の国から蘇り、強大な治癒能力を得た信玄の前に大苦戦を強いられる光秀。しかし、光秀と五右衛門を同時に相手にしたことにより、徐々に力を削がれた信玄は治癒力を失い、乾坤一擲のコンビネーション攻撃により敗れ去る。お市の救出には成功したものの、力を使い果たした光秀は、秀吉の配下の襲撃によって、秀吉のもとに連行されてしまう。天下人の身分でかつての友である光秀との再会を果たし、自分の軍門に下ることを命じる秀吉。それを拒否した光秀の命を救うため、お長は秀吉への降伏を選んでしまう。帝釈天を解放するための礎となったお長を救うため、秀吉へと戦いを挑んだ光秀は、己の命を賭けた最後の力「終之構」を発動させて、秀吉を撃滅。帝釈天を湖底へと沈め、甦土武を巡る戦いの因果を終わらせるのだった。
登場人物・キャラクター
明智 光秀 (あけち みつひで)
武士の男性。10年前に主君の織田信長を討ち取ったために天下の逆賊とされ、その後の戦いで死んだと思われていた伝説の人物。追っ手の攻撃を逃れて生き延びた後に、流浪の僧・「天海」と名乗り、長きに渡り雌伏の時を過ごしてきた。信長を裏切ったのが友人の豊臣秀吉であることを知っている雄一の人物。右腕に篭手型の甦土武・「迦楼羅」を装着し、織田軍最強の遊撃手として、一騎当千の実力を誇っていた甦土武武者でもあり、迦楼羅から発する高熱によりすべてを溶解し、灰に帰すことができる能力の持ち主。 また、僧として落ち延びていた時期に般若心拳という新しい体術を会得しており、ごく短時間ではあるが、迦楼羅の潜在能力を限界まで引き出すことができる。 家族や愛する人、仲間をすべて失っており、今は人々の笑顔を見るために戦っている。女性が大好きで、お長と一緒に風呂に入ることを夢にするなど、根っからスケベなのが玉に瑕。その色欲を弟子の無垢から咎められている。甦土武の影響を受けていることから、見た目は青年のように若いが、実際はかなり歳がいっており、お長に驚愕されている。 実在した人物である明智光秀がモデル。
お長 (おちょう)
岐阜城の中に築かれた「お長御殿」と呼ばれる特殊な天守に幽閉されていた姫。栗色の髪をポニーテールにまとめた美少女。年齢は16歳。織田信長の遺児で、信長の死後豊臣秀吉の手で岐阜城に連行され、10年に渡る幽閉生活を過ごしてきた。16歳になった日、秀吉に輿入れするために出立したが、その道中で明智光秀によって救出され、ともに「下克上」を目指すことになる。 少々お転婆だが明るく純粋なうえ、人を思いやれる優しい性格をしている。秀吉の配下となって各地で乱暴狼藉を働く甦土武武者に憤っており、同じ甦土武武者の光秀に対しても警戒心を露にするが、光秀の救国の思いを知ったことで、彼を信頼するようになる。封印された最強の甦土武「帝釈天」を解放する鍵として、秀吉に利用されていた。 なお、光秀のことは尊敬しているが、彼の女好きな面には少々辟易している。
豊臣 秀吉 (とよとみ ひでよし)
武士の男性。織田信長の死に乗じてほとんどの甦土武を手中に収め、天下を統一して浪花政権を打ち立てた、戦国最強の甦土武武者。「力こそ全て」を信条としており、力が無ければ何も救えないと考えているリアリスト。背中に装着している甦土武「阿修羅」によってあらゆる方向から雷を落とすことができる。貧農出身であり、艱難辛苦を乗り越えて現在の地位を築いた。 明智光秀とは同じ信長配下の友人同士だったが、日本平定後にすべての甦土武を破壊するという信長の方針を許すことができず、信長を殺害した後に、光秀に罪をなすり付け、自身が天下を取った。封印されたすべての甦土武の頂点に立つ史上最強の武器「帝釈天」を狙っており、封印を解くことができる信長の血縁者のお長とお市を長きに渡って幽閉していた。 実在した人物である豊臣秀吉がモデル。
無垢 (むく)
旅をしている僧侶の男性。明智光秀の弟子で、彼と一緒に行動している。光秀からは「ムっくん」という愛称で呼ばれている。理知的な性格をした至って常識的な人物で、色欲に弱い光秀をたびたび諫めている。戦闘は一切できないが、主に光秀の「下克上」の旅を陰ながらサポートしている。
石川 五右衛門 (いしかわ ごえもん)
全国で大暴れしている天下無敵の大泥棒。大名などの権力者を主なターゲットにしている義賊の男性で、庶民の人気者。飄々としているが凄腕の泥棒で、浪花政権からは単なる盗人の域を超えたレベルで危険視されていた。「この渡世に一切の貸し借り無し」を信条としている。明智光秀とは長浜の町に立ち寄った際に知り合い、彼に借りを作ったことで、豊臣秀吉討伐の旅に同行するようになる。 元は伊賀流隠密の忍で、身のこなしは非常に素早い。過去に命を救ってもらったお市のことを慕っており、武田信玄に捕らわれていたお市を救うために、甦土武・「夜叉」を装着することになる。実在した人物である石川五右衛門がモデル。
織田 信長 (おだ のぶなが)
戦乱によって荒れ果てた日本を平定し、天下泰平の世を作るための覇道にまい進していた武士の男性。故人。強大な武器である甦土武を創り出した張本人で、お長の父親。戦国の世を終わらせた後に、すべての甦土武を廃棄しようと考えていたが、その方針が配下の豊臣秀吉の反発を招き、討ち取られてしまう。実在した人物である織田信長がモデル。
伊達 政宗 (だて まさむね)
右目に眼帯をしている武士の男性。奥州に君臨する伊達家の当主で、「独眼竜」の異名をとる北の覇王。現在は天下を統一した豊臣秀吉の傘下の大名となっており、名古屋へ向かう途中に駐留した松本城で、明智光秀と遭遇した。誰に対しても不遜な態度を取る、唯我独尊な自信家。今は秀吉に臣従しているが、いつか天下を統一することを夢見ている。 秀吉から甦土武・「夜叉」を拝領しており、足に装着した夜叉を巧みにコントロールし、自在に空を飛翔することができる。お長を賭けた光秀との戦いでは、高速で空を飛びながら鋭い刃で光秀の身体を切り裂き、勝利寸前まで光秀を追い詰めていた。片倉小十郎から「坊っちゃん」と呼ばれ、子供扱いされることを嫌がっている。 実在した人物である伊達政宗がモデル。
片倉 小十郎 (かたくら こじゅうろう)
武士の男性。伊達家の家臣で、伊達政宗の目付け役として仕えている。政宗がいつの日か天下を取ることを信じており、それまではあえて「坊っちゃん」と呼ぶことを心がけている。常日頃から政宗をからかっているが、忠義心は非常に強く、光秀に敗れた政宗をかばい、政宗の代わりに自分の首を取るように進言していた。実在した人物である片倉小十郎がモデル。
武田 信玄 (たけだ しんげん)
武士の男性。屈強な身体をした甦土武武者で、右腕に装着した甦土武・「乾闥婆」で己の生命力を気砲と化して撃ちだすことができる。20年前に病没したが、豊臣秀吉に変若水を与えられて蘇り、諏訪湖の居城でお市を幽閉していた。変若水の効果により、どんなダメージでもすぐに治癒し、再生してしまう。明智光秀との戦いでは高い再生能力によって光秀を大いに苦戦させた。 戦場を愛している根っからの武人だが、普段の生活では鷹揚な性格をしており、囚われの身となったお市にも何かと気を使う優しさも見せていた。実在した人物である武田信玄がモデル。
お市 (おいち)
諏訪湖で囚われの身となっている女性。民を平和を願う、心優しい性格をしている。織田信長の妹で、史上最強の武器「帝釈天」の封印を解くための「血のスペア」として、豊臣秀吉の手で諏訪湖の城に幽閉されていた。秀吉に追い詰められた際に自害したが、変若水を与えられて蘇り、変若水の入った水槽の中で暮らしていた。監視役だが、寂しい生活を紛らわしてくれた武田信玄には感謝の念を抱いている。 実在した人物であるお市の方がモデル。
神子田 (みこだ)
武士の男性で、豊臣親衛隊の黄母衣衆。量産型の槍型甦土武・「青鬼」を扱う甦土武武者。明智光秀によって救出されたお長を連れ戻すため、光秀と戦うことになる。弱肉強食の乱世を愛しており、部下の失態は死を持って償わせるなど、残虐な性格をしている。
集団・組織
黒脛巾組 (くろはばきぐみ)
伊達家に仕え、陰で数々の任務をこなす隠密の衆。伊達政宗の命を受け、お長を連れ戻すために庶民に変装して明智光秀の一行に近づき、襲撃していた。量産型の甦土武を所持する甦土武武者も構成員となっている。
その他キーワード
変若水 (をちみず)
不老長寿の力を宿す甦土武・「人魚」から作られた霊薬。飲んだ者の肉体を若返らせる。「帝釈天」の封印を解くのを阻止するため、片倉小十郎がお長に飲ませていた。信濃にある諏訪湖の湖水もこの変若水で満たされており、お市を狙う侵入者を幼児にし、無力化させていた。
甦土武 (そどむ)
古の霊獣の屍から精製し、使い手の生命力を吹き込むことで神通力を発揮する、織田信長が創りだした史上最強の武器。量産型の甦土武でも、百人力の性能を備えており、この世に5つしかない重臣級の甦土武ともなれば、千人力という破壊的な能力を発揮する。信長の死後、ほとんどの甦土武は豊臣秀吉のものになってしまった。信長の血縁だけが封印を解ける最強の甦土武・「帝釈天」も存在する。
甦土武武者 (そどむむしゃ)
甦土武を所持している侍を指した言葉。いずれも一騎当千の力を持ち、量産型の甦土武を持つ甦土武武者が10人もいれば、城を落とすこともたやすいといわれている。豊臣秀吉が天下人となってからは、各地で甦土武武者の横暴が目立つようになり、民衆を弾圧する恐怖の象徴となってしまった。
般若心拳 (はんにゃしんけん)
流浪の僧として10年間雌伏の時を過ごしてきた明智光秀が会得した体術。命を削るほどの生気を爆発的に放出し、念仏を10回唱える間だけ、甦土武の力を最大限に引き出すことができる奥義。