世界観
主人公は武将である石田三成。織田信長、島左近など実在の人物が多数登場するが、常人離れした力の持ち主として描かれている。史実を基本としながら、手にしたものが天下を統一できる大蛇の力というファンタジー要素を物語の中心に据えている。忍者や陰陽師も登場する。
あらすじ
天正五年、戦国の世。近江国の石田佐吉は主君・羽柴秀吉から極秘命令を受けた。近江国南部にある古い神社・曇神社へ赴き、「髑髏鬼灯」というものを手に入れてくるよう使いに出されたのだ。神社に着いた佐吉は、そこの当主である双子の男女・曇芭恋と曇阿国に出会う。人々から忌み嫌われ辛酸を舐めて生きてきた双子は、自分たちが楽しむために策略をめぐらせ、世の中を攪乱する。佐吉は戸惑いながらも主君からの指令を果たすため、渦中に身を投じてゆく。
メディアミックス
2017年の夏に「舞台 煉獄に笑う」として舞台化。また、単行本3、4、5巻の限定版には、作者の原案をもとにしたドラマCDが付属している。
登場人物・キャラクター
石田 佐吉 (いしだ さきち)
近江国石田村出身の男性。羽柴秀吉に仕える小姓。頭は切れるが、真面目すぎて固い性格。それゆえ友人は少ない。秀吉より「三成」の名を貰い受けた。秀吉の密命により、「髑髏鬼灯」を手に入れるために曇神社を訪れた。正直すぎて噓がつけない性格のため他人と衝突することも多いが、彼の実直さが戦乱の世に風を起こし、人々を変えてゆくこととなる。
曇 芭恋 (くもう ばれん)
近江国南部にある曇神社八代目当主の男性。18歳。曇阿国との双子。男女の双子は忌み子だとされ、近隣の者からは不気味がられている。長髪で左目に眼帯を付けている。しつこい性格。端正な顔立ちだが、人々から忌み嫌われて生きてきたため、世の中を恨んでいる婆娑羅者。自らが楽しむためだけに様々な謀略をめぐらせ、周囲に混乱を巻き起こす。
曇 阿国 (くもう おくに)
近江国南部にある曇神社八代目当主の女性。18歳。曇芭恋との双子。男女の双子は忌み子だとされ、近隣の者からは不気味がられている。あきっぽい性格。美しい顔立ちだが、人々から忌み嫌われて生きてきたため、世の中を恨んでいる婆娑羅者。自らが楽しむためだけに様々な謀略をめぐらせ、周囲に混乱を巻き起こす。
鬼平太 (きへいた)
曇芭恋と曇阿国に仕える伊賀の忍者。曇の双子は近江の者に忌み嫌われているので、地元である甲賀の忍者は使っていない。筋骨隆々の巨体だが、俊敏に動き回る。「鬼」と書かれた布を顔に垂らしており、素顔は見えない。
国友 藤兵衛 (くにとも とうべえ)
鍛冶屋集団「国友衆」の頭領。日本に鉄砲が伝来してから、その製造を始めた。代替わりして頭領になったばかりで、もともとは雅(みやび)という名前の少女。争いの絶えない戦乱の世から近江の平和を守るため、熱い覚悟を持っており、一族の者からの信頼も厚い。近江を統べる織田信長に忠誠を誓っている。 曇芭恋と曇阿国の策略により、最初は石田佐吉を敵だと認定していたが、命を救ってもらった後は、彼に恩義を感じている。
国友 勇真 (くにとも ゆうま)
国友勇成の嫡男。端正な顔立ちの美男。国友藤兵衛とは従兄妹の間柄。自分を国友衆の頭領にしようと企む父親と藤兵衛との間で板挟みとなり、悩んでいる。
国友 勇成 (くにとも ゆうせい)
国友藤兵衛の叔父。禿頭に出っ歯の中年男性。息子の国友勇真を国友衆の次期頭領に据えるつもりだった。その立場をかっさらわれたため、藤兵衛を逆恨みしている。彼女を頭領の座から追い落とすため、一族の者を脅して手下とするなど、暗躍している。
大谷 紀之介 (おおたに きのすけ)
羽柴秀吉に仕える小姓の男性。石田佐吉とは同郷の出身で、彼の数少ない友人。根が単純で気の良い男だが、そのぶんガサツで単細胞だとも言える。冷静で真面目な佐吉とは正反対の性格。
百地 丹波 (ももち たんば)
伊賀の三大上忍のうちの一人。百地家の当主の男性。たった一人で、何十人もの敵を倒す超人的な力の持ち主。性格も冷酷で残忍な、根っからの殺し屋。情けを持たず、快楽主義的な殺人を好む。両耳に小さな鈴をぶら下げているが、それも敵に有利になるよう音で、自分の位置を知らせるためにわざと付けている。外見は若く見えるが、年齢は六十代。
服部 半蔵 (はっとり はんぞう)
伊賀の三大上忍のうちの一人。服部家の当主の男性。白髪の老人。服部家は密かに徳川家康と通じている。
藤林 長門守 (ふじばやし ながとのかみ)
伊賀の三大上忍のうちの一人。藤林家の当主。総髪に鋭い目つきの男性。
百地 桜花 (ももち おうか)
百地丹波に仕える腕利きの忍者「八咫烏」のうちの一人。もとは捨てられ子の孤児で、伊賀の出身ではない。外見は小柄な少女だが、忍びとしての能力は高い。
百地 海臣 (ももち かいしん)
百地丹波に仕える腕利きの忍者「八咫烏」のうちの一人。短髪の男。丹波に仕えてはいるが、崇拝まではしておらず、「クソジジイ」呼ばわりしたりもする。きつい性格で口も悪い。暗殺が専門で、音もなく標的に近づいて始末する。偶然から織田信雄に金で雇われることに。
百地 一波 (ももち いちは)
百地丹波に仕える腕利きの忍者「八咫烏」のうちの一人。鼻筋に横一文字の傷を持つ男。戦乱で虐殺された一家の生き残りだったところを、丹波に拾われた。
百地 浯衛門 (ももち ごえもん)
百地丹波に仕える腕利きの忍者「八咫烏」のうちの一人。相撲取りのような太鼓腹で禿頭の巨漢。
百地 鈴太郎 (ももち りんたろう)
百地丹波に仕える腕利きの忍者「八咫烏」のうちの一人。長髪の男性。鎖鎌を武器に闘う。従兄弟の百地獅々丸とのコンビネーション攻撃が得意。
百地 獅々丸 (ももち ししまる)
百地丹波に仕える腕利きの忍者「八咫烏」のうちの一人。毛のついたフードを常にかぶっている。爆薬を使う。従兄弟の百地鈴太郎とのコンビネーション攻撃が得意。
百地 亜瑚 (ももち あこ)
百地丹波に仕える腕利きの忍者「八咫烏」のうちの一人。可愛い顔立ちの女性。糸を自在に使って敵を攻撃する。糸で色々な物を操ることもできる。丹波を盲目的に崇拝している。嫉妬深いため、丹波の興味の対象である石田佐吉に対して、異常な敵対心を燃やす。
百地 秋水 (ももち しゅうすい)
百地丹波に仕える腕利きの忍者「八咫烏」のうちの一人。ドレッドヘアに顔面全体を包帯で覆っている。無口な男性。土の中を自由に動き回るのが得意。
芦屋 弓月 (あしや ゆづき)
「弦月」の名で京の遊廓につとめる遊女。裏の顔は日本一の情報屋。石田佐吉が髑髏鬼灯を探していることや、呪大蛇の伝説についてなど、何でも知っている。曇芭恋と曇阿国のことも、幼いころからよく知っている。陰陽師である芦屋家の家系である。
安倍 晴鳴 (あべの せいめい)
陰陽師である安倍家の家系の男性。まだ若いが、術の才能はピカイチ。陰陽師の中でも安倍家と芦屋家は古来より因縁がある。安倍家は大蛇を封じる役目を持つが、芦屋家は大蛇に付き従う。敵対している芦屋家の屋弓月の前に現われたが、心中では何やら企んでいるようである。
島 左近 (しま さこん)
戦国の世に名を轟かせる武将。筒井家の鬼神と呼ばれる。本名は島清興(しまきよおき)。顔面に大きな刀傷を持つ。石田佐吉と偶然に知り合い、行動を共にするようになる。彼の人柄に、天下人としての可能性を感じ取り、「兄さん」と呼ぶ。忍者と対峙してもひけをとらぬ戦闘力の高さを誇る。
羽柴 秀吉 (はしば ひでよし)
石田佐吉の主君である武将。織田信長に仕えている。佐吉に「三成」という名を授けた。不器用だが実直でまっすぐな佐吉を信頼しており、大蛇と髑髏鬼灯の件に関しては、彼に一任している。
黒田 官兵衛 (くろだ かんべえ)
羽柴秀吉に仕える武将。一族はその昔、大蛇に深く関わりがあったらしい。そのため、官兵衛にも大蛇の力を宿す「大蛇の器」の資格があるようである。
織田 信長 (おだ のぶなが)
容赦のない決断力と圧倒的な兵力で「魔王」と恐れられる武将。無能な者は、実の息子であっても切り捨てるシビアさを持つ。天下を手に入れるために大蛇の力を欲している。大蛇の力を手に入ために必要な、三つの巻物のうちの一つを所持しているという噂。
織田 信雄 (おだ のぶかつ)
織田信長の子息。信長の息子なのに無能なボンクラだという評判。本人もそれを気にしており、父の役に立つために伊賀を攻め落とそうと計画している。
多羅尾 光俊 (たらお みつとし)
織田信長子飼いの忍者。甲賀出身の男性。華奢な外見だが能力は高く、信長から直々に命を受ける。同じく信長の側近である森蘭丸からは、嫉妬混じりで敵視されている。
荒木 村重 (あらき むらしげ)
摂津国・有岡城の城主。数々の武勲を収める強者の武将。織田信長に長年仕えていたが、彼の狂気が恐ろしくなり、反旗をひるがえした。大蛇の力を手に入れるために必要な、三つの巻物のうちの一つを所持しているという噂である。
曇 旭 (くもう あさひ)
曇神社七代目当主。曇芭恋と曇阿国の母親。女手一つで双子を育てていた。太陽のように明るく人々に愛されていたが、十年前に過労による病で死去した。
タヌキ
曇神社に棲みついているマヌケな顔をした野良狸。曇芭恋と曇阿国は名前をつけると情がわいてしまうと考え、「タヌキ」と呼んでいる。
集団・組織
曇 (くもう)
大蛇退治の役目を代々背負っている一族。近江国南部の曇神社を社としている。『曇天に笑う』では十四代目当主が、明治時代を舞台に活躍する。
その他キーワード
煉獄 (れんごく)
極楽と地獄の間にあり、罪を犯した者が償いのために苦しむ場所と言われている。曇芭恋と曇阿国の双子は、近隣の者から忌み子として嫌われ、「煉獄者」と呼ばれて蔑まれている。
呪大蛇 (のろいおろち)
本作の中で近江地方に伝わる伝承に出てくる伝説の魔物。三百年に一度よみがえり、全てを滅ぼすと言い伝えられている。大蛇の持つ力は強大であり、それを得た者が天下を制すると言われている。
髑髏鬼灯 (どくろほおずき)
呪大蛇につながる重要な手がかりとされているもの。実際にどういうものなのかは不明。大蛇の力を得て天下を制するため、羽柴秀吉や徳川家康、石山本願寺、伊賀の三大上忍、織田信長と、多くの者が血眼になって探し求めている。
大蛇の器 (おろちのうつわ)
大蛇の力を宿す資格のある者のこと。その者が「復活の章」「操りの章」「封印の章」という三つの巻物を手にしたときに、初めて大蛇の力が手に入る。
三大上忍 (さんだいじょうにん)
伊賀を統括する、服部家・藤林家・百地家の御三家の呼び名。近隣諸国を手中に収める織田信長に従わず、独立を保ち続けている。
ベース
曇天に笑う (どんてんにわらう)
琵琶湖に浮かぶ監獄、獄門処。そこに罪人を送るための橋渡しを担当する曇三兄弟の成長を描いたファンタジー作品。『曇天に笑う』完結後、舞台を300年ほど遡った戦国時代にした『煉獄に笑う』が連載された。 関連ページ:曇天に笑う