あらすじ
第1巻
ある日、校舎の陰でしゃがみ込み、まるでタバコのように棒付きキャンディをくわえている恵比澤銀平の姿を目撃した染井千草は、一つのことに気づく。恵比澤は見た目がすでにチンピラそのものであり、そのイメージが周囲に間違った恵比澤像を作り上げる原因となっていたのである。そこで染井は恵比澤に対し、昨日読んだ2000円もした本の受け売りで、自らの本質を見出すためには、ただ探すよりも、自分がなりたい姿を認識し、それに近づいていくことが重要であると説く。そして今度は、同じく昨日読んだ1300円する本に書いてあった内容を実践するため、スケッチブックを取り出して、恵比澤があこがれるもの、続いて一番大事なものを書くようにとうながす。その後、長い時間をかけて恵比澤が仕上げたのは、きっちり描き込まれたバイクと、幼稚園児が描いたような両親の絵だった。それを見た染井は、彼が元ヤンの両親のもとで十分な愛情とヤンキーとしての思想を受けながら育ったが、恵比澤自身はヤンキーの道に進まなかったのだろうと推察。そして、恵比澤の本質はチンピラなどではなく、ケンカの相手は自分のみ、己と向き合い己を探し、己を高めようとする新ジャンルの「悟り系ヤンキー」であると分析する。(PAGE2「スケッチブックの実存」。ほか、8エピソード収録)
登場人物・キャラクター
染井 千草 (そめい ちぐさ)
高校生の女子。黒髪ロングヘアの、清楚で物憂げな雰囲気を漂わせた知的美人で、周囲からも「オーラがある」「姫みが高い」「千草という名前にすら気品がある」ともてはやされている。実は人から褒められることが大好きで、これはすべて周囲の期待に応えようとする虚栄心から作り上げたものである。実際はちょっと理屈っぽいことを除けばふつうの庶民で、脳内ではつねに、さまざまな事象に軽いノリでハイテンションにツッコミ続けている。また「千草」という名前も、単に響きがいいというだけで、親の実家の近くのラーメン屋の店名から取ったものである。一方で、自分を装うことについては徹底しており、どれほど感情を揺さぶられることがあっても泰然とし、内心はともかく、周囲にはその様子をいっさい見せることはない。また屁理屈をこねるのが非常に得意で、染井千草自身のイメージも相まって、口先で人を丸め込むのがうまい。ある日、誰もいない教室で自分に新たに「薄幸の美少女」というキャラクター性を追加しようかと考え、中二病丸出しのセリフを口にしたところ、その姿を恵比澤銀平に目撃されてしまう。その際、恵比澤に「メメント・モリ」の思想を語ってどうにか煙に巻くが、これをきっかけに彼に尊敬され、教えを請われるようになる。以降、恵比澤からの称賛を求めて積極的に哲学知識を仕入れ、その思想を独自に解釈して彼に伝えていく。「ヤべぇ」「パねぇ」「マジで」という数少ない語彙で会話を組み立てる恵比澤が、何を言おうとしているのか理解できる数少ない人物で、恵比澤の生態をまとめたマニュアルを作って、友人となった月島幸子たちに渡している。
恵比澤 銀平 (えびさわ ぎんぺい)
染井千草と同じ高校に通う同級生の男子。ショートヘアをピンピンと跳ねさせ、非常に目つきの悪いチンピラ然とした風貌をしている。入学早々、暴力沙汰で停学処分を受けたことにより学校内にその名を知られ、周囲からは遠巻きにされている。ただしこれは誤解で、あまりに周囲にチンピラ扱いされることをきっかけに、本当の自分は何者なのかと自分探しの旅をするために学校を無断欠席したことで停学処分を受けたのが真相であり、恵比澤銀平自身はその外見に反してまったく暴力的ではない。ちなみに、その後も自分探しは続けており、染井に「メメント・モリ」の思想を教わったことをきっかけに、哲学の考え方からなら本当の自分が見つかるのではないかと、染井に自分探しの協力を依頼する。基本的に無口なうえ語彙が乏しく、「ヤべぇ」の一言でさまざまな意味・感情を表現するため、何を言いたいのかよくわからないところがある。口癖は「ヤべぇ」のほか、「パねぇ」「マジで」で、ほとんどの会話をこれのみで成立させている。
月島 幸子
染井千草と同じ高校に通う同級生の女子。空手部に所属している。ショートヘアでつねにジャージを身につけた、スポーティな少女。非常にポジティブな性格だが単純で思い込みが激しく、基本的に人の話を聞いていない。また、考えるより先に体が動いてしまうタイプで、何かにつけて空手技で恵比澤銀平のことを吹っ飛ばしているが、ほとんどにおいてこれは誤解に基づくものである。長峰小雪や眼鏡をかけた少女といつも三人で行動を共にしており、のちに染井とも親しくなる。周囲には「サッチ」と呼ばれている。
長峰 小雪
染井千草と同じ高校に通う同級生の女子。ボブへアで頭にヘアバンドをつけ、かわいらしい顔立ちをしている。周囲にヤンキーと見られている恵比澤銀平に非常に怯えており、何かと理由を付けては空手部の月島幸子をそそのかして、恵比澤を亡き者にしようとしている。かつてSNSに、綴りも文法もめちゃくちゃな英語交じりのポエムをいくつも投稿し、ひどくからかわれた過去があり、英語に対して激しいトラウマがある。幸子や眼鏡をかけた少女といつも三人で行動を共にしており、のちに染井とも親しくなる。周囲には「ミネコ」と呼ばれている。
花森 ふみか
染井千草と同じ高校に通う女子。演劇部に所属している。黒髪をポニーテールにした明るく活発な少女で、染井にとっては中学からの先輩にあたり、当時から彼女を演劇の道に誘っていた。演劇の筋が非常にいい人のことを「ガチのスジモン」と評するなど、基本的に言葉の使い方が独特。