フランス革命をテーマにした復讐劇
本作は18世紀のフランス革命をテーマにしており、身分制度の不条理がまかり通る社会が生々しく描かれている。当時のフランスでは、貴族やそれに取り入る小悪党が平民を虐待し、労働者たちは耐え難い不満を抱えていた。国王ルイ16世と王妃アントワネットは民に対して慈しみの感情を持っているものの、「自分たちがいてこそ民が存在できる」という考えを持っているため、ジュストにとって二人は破壊すべき国の象徴であり、許しがたい存在だった。妹のマリーに起こった悲劇をきっかけに狂気じみた憎しみに囚われたジュストを中心に、さまざまな人物たちが血塗られた革命に関与していく。
フランスの破壊を目論むジュスト
時は1787年、フランス。ジュストは、愛する妹のマリーが製紙工場主の平民、ゼラミールに嫁ぐ幸せを心から願っていた。しかしゼラミールはマリーを裏切り、自らの保身のため、若い処女に執着するブランジ男爵に、マリーを売り渡してしまう。ブランジに暴行を受け、首に焼き印を刻まれたマリーはその場から逃げ出すが、心に深い傷を負ってしまう。ゼラミールとブランジの残虐行為に激怒したジュストは、自らの智謀と美貌を活かして二人を欺き、最終的には捕らえて惨殺するが、マリーの心の傷は癒えることはなかった。その後ジュストは、マリーを傷つけたのはゼラミールやブランジだけでなく、フランスという国そのものであると考えるようになる。そしてフランス王家の象徴である、ルイ16世を打倒することを決意する。
フランス革命の火種を撒く
ルイ16世、さらにフランス王家の打倒を目指すジュストは、貴族に取り入るために意図的に馬車を暴走させ、無関係な市民を死なせたデュルセ医師の存在を知る。そしてジュストはデュルセを殺害し、彼が持っていた招待状を手に入れ、王侯貴族が集まる仮面舞踏会に潜入し、従者のジャン・チュイリエと共に革命の火種を生み出そうとする。そんなジュストの行動に、弁護士のロベスピエールが目を付ける。デュルセ医師の事件を調査しているロベスピエールはジュストの関与を疑っていた。そして彼が革命のためにフランス国民を扇動しようとしていることを知り、その行動を危険視する。ロベスピエールは、ジュストの危険な野望を阻止しようとするが、調査の過程で知り合ったジャンとの対話を通じて、ジュストの非道とも言える行動の背後にあるのが、妹への深い愛情によるものであることを理解し、ジュストの真意を知ることになる。
登場人物・キャラクター
サン=ジュスト
フランス革命の中心人物として暗躍する青年。年齢は19歳。その美貌と冷酷さから「死の天使長」と称されている。不器用な一面を持ち、従者のジャンの助けがなければ車いすを完成させることもできない。金で爵位を買った家に生まれるが、ジュスト自身は貴族を嫌悪している。実の妹、マリーが貴族によって傷つけられ、廃人同様になったことから、貴族だけでなく、貴族に取り入ろうとする者や、貴族や聖職者を優遇するフランスという国そのものへ、強い敵意を抱くようになる。そして、あらゆる手段を使って現体制を破壊し、民衆の手で新しい国を築こうとしている。目的のためには狡猾な策略や残虐な行為にも手を染めることを厭わない一方で、内心では優しさを捨て切れず、ジャンからは無理をしていると心配されている。実在の人物、ルイ・アントワーヌ・ド・サン=ジュストがモデル。
ジャン・チュイリエ
ジュストの従者を務めている青年。年齢は20歳。ジュストが唯一心を許す存在であり、ジャン自身もジュストとマリーの兄妹を深く慕っている。生真面目な性格で、人の内面を見抜く能力に優れ、ロベスピエールからもその人柄を高く評価されている。8歳の時に両親を相次いで亡くし、引き取られた叔父夫婦からひどい虐待を受けて絶望し、自ら命を絶とうとした。だが、その場に居合わせたジュストによって救われ、マリーが自らの髪を売って得た金で叔父夫婦から買い取られ、自由の身となった。それ以来、ジュストとマリーのために献身的に尽くし、マリーが心神喪失状態になってからは、ジュストの野望を支える役割を果たしている。しかし、ジュストの非道な行いを肯定しているわけではなく、彼がかつての優しい性格に戻ることを願っている。
作品
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花林 ソラ
原作
書誌情報
断頭のアルカンジュ 全5巻 コアミックス〈ゼノンコミックス タタン〉
第1巻
(2022-05-20発行、 978-4867203873)
第2巻
(2022-10-20発行、 978-4867204337)
第3巻
(2023-03-20発行、 978-4867204870)
第4巻
(2023-08-19発行、 978-4867205587)
第5巻
(2024-01-19発行、 978-4867206096)