あらすじ
サラサの一人立ち
孤児だったサラサ・フィードは、難関で知られる王立錬金術師養成学校を非常に優秀な成績で卒業し、ついに一人前の錬金術師となった。サラサはこれを機に、それまでアルバイトをしていた、師匠であるオフィーリア・ミリスの店から独立し、一人立ちを決意。同期生が卒業祝いのパーティを楽しむ中、サラサはオフィーリアの協力を得ながら、在学中に頑張って貯めた資金で高額な「錬金術大全」を購入したりと、独立の準備を進めていた。そんな中、オフィーリアは、とある物件に目を留める。それは、王都から馬車で1か月もかかる田舎(いなか)「ヨック村」の店舗兼住宅ではあったが、素材を採集しやすいゲルバ・ロッハ山麓樹海のそばという、錬金術師にとって理想的な立地で、何より価格も1万レアと、あり得ないほどの破格値だった。あまりに田舎ということで当初はしぶっていたものの、オフィーリアの後押しと、何かあった際にはフォローするという言葉を受けて、サラサはその物件を契約するのだった。
サラサの店、オープン
王都から馬車で1か月、ヨック村に到着したサラサ・フィードは、さっそく家の手入れを開始。当初はボロボロに見えたこの店舗兼住宅は、「清掃」や「防犯」の刻印が施された、かなりの優良物件であることを知る。そんな中、サラサはとなりの家に住むエルズと知り合い、彼女の厚意で村を案内してもらうことになった。こうして、雑貨屋のロレアや大工のゲベルク、食堂兼宿屋のディラル、そして村長など多くの村人たちに温かく迎えられたサラサは、時に彼女たちの助けを借りながら、てきぱきと開店準備を進めていく。やがて迎えた開店の日、当日こそ客足はまばらだったが、サラサの店の錬成薬(ポーション)の空き瓶を持ってきた客には割引販売をするなどの施策が功を奏し、店は採集者の常連客を増やしていく。これにより持ち込まれる素材も増えたことで、サラサはヨック村から最寄りの町「サウス・ストラグ」へと足を延ばしてみることにした。王都ほどではないにせよ、久々の都会を満喫したサラサは、そこで錬金術の店を開くレオノーラと知り合い、新たな販路の獲得に成功するのだった。さらに後日、ヨック村に戻ったサラサの前に、突然オフィーリア・ミリスが姿を現す。オフィーリアは、剣の稽古を名目にサラサにさりげなく業物の剣をプレゼントしたり、自分の店とサラサの店のあいだで物をやり取りできるよう転送陣を設置したり、サラサの店にあった素材を一括で買い取って、さらに多額の前払い金を置いて行ったりと、ある意味過保護ともいえる行動を繰り返す。実は、サラサのことが心配で仕方がないオフィーリアは、手早く仕事を片付けてわざわざ彼女の様子を見に来たのである。だが、いつもの飄々(ひょうひょう)とした態度と、時に無理難題を押し付ける姿から、サラサにその思いを悟られることはなかった。
アイリスとケイト
錬金術の店の経営が軌道に乗り始めたこともあり、サラサ・フィードはロレアを店員として雇うことにした。それから1週間が経ったある日、採集者の一団が助けを求めて店に駆け込んでくる。採集者は男性二人に女性二人のパーティだったが、そのうちの一人の女性は、左腕と腹部のほとんどを失う大ケガで、さらに毒にも侵され瀕死(ひんし)の状態にあった。助けるには相当の金がかかるというサラサに対して男二人は異議を唱えるが、「ケイト・スターヴェン」と名乗ったもう一人の女性は、必ず支払うから相棒を助けて欲しいと願い出る。その言葉を聞き、同時に彼女の相棒であるアイリス・ロッツェがこんな重傷を負ったのは、そもそもその男二人組のせいだったことを知ったサラサは、口先ばかりでなんの役にも立たない男たちを厳しい態度で店から追い出し、ロレアとアイリスに協力してもらいながら、アイリスの治療に力を尽くす。結果、かつてオフィーリア・ミリスが来た際にたまたま置いていった非常に高価な錬成薬(ポーション)を2本も使うことで、アイリスは一命を取り留め、快復に向かうこととなった。ちなみにこの時かかった費用は、サラサの手間賃を省いても2000万レアと異常に高額で、採集者としてまだ経験の浅いアイリスとケイトは、いきなりとんでもない借金を背負うこととなってしまう。
ヘル・フレイム・グリズリーの狂乱
アイリス・ロッツェが負ったケガから、サラサ・フィードはその相手がただの獣ではなく、魔物のヘル・フレイム・グリズリーだろうと考えていた。ヘル・フレイム・グリズリーは魔物の中では弱い部類に入るとはいえ、一般人にとっては非常に危険な相手だった。村人が被害に遭うかもしれないと憂慮したサラサは、アイリスとケイト・スターヴェンを伴ったうえで、となりに住む猟師のジャスパーに探索の協力を願い出て、ヘル・フレイム・グリズリーの討伐へと向かった。実は錬金術師は職業柄、危険な地に赴くことも多いため、そのイメージに反して攻撃魔法や剣術に長(た)け、並みの採集者では足元にも及ばないほどの戦闘力を誇る者も少なくない。サラサもその例に漏れず、ヘル・フレイム・グリズリーはサラサにとって、ただ素材を採集する対象というだけの朝飯前の相手であった。ヘル・フレイム・グリズリーを発見したサラサは、不意を突いた飛び蹴りで相手の首の骨を折り、一撃で討伐に成功。啞然とした目で見る仲間たちを前に、サラサは素材採集のため、ホクホク顔でヘル・フレイム・グリズリーの解体に取り掛かる。だがその最中、ヘル・フレイム・グリズリーの目玉が赤く染まっていることから、サラサは「ヘル・フレイム・グリズリーの狂乱」という、厄介な状態に陥っていることを知る。このままでは暴走したヘル・フレイム・グリズリーの群れが、遠からずヨック村に甚大な被害をもたらすことが予見された。1体ならサラサ一人でもどうにかなるが、暴走状態に陥った、少なくとも10体から下手(へた)をすると100体以上の群れが相手となると話は違ってくる。急ぎ村に戻ったサラサは、村長やジャスパーと共にヘル・フレイム・グリズリーの狂乱への対策を練る。近隣を治める領主からの支援が期待できないことから、サラサたちはヨック村の採集者たちの協力を仰ぐことを決意。そのための依頼金には、ヘル・フレイム・グリズリーの群れを倒したあと、その素材をサラサが買い取った金を充てることで話はまとまった。だがその翌日、アイリスがサラサの店に大慌てで駆け込んでくる。聞けば、先日アイリスたちがパーティを組んだ男二人組がヘル・フレイム・グリズリーの脅威を吹聴して回ったため、ほとんどの採集者が村から逃げ出してしまったのだという。サラサは顔色を失うものの、ロレアの悲壮な決意を聞いて、限界まで抗(あらが)おうと満足に睡眠もとらずに準備を続けるのだった。そんな中、ついにヘル・フレイム・グリズリーの襲来を告げる笛の音が鳴り、サラサたちに緊張が走る。そんな彼女たちの前に、アンドレらベテランの採集者たちが、協力のために駆けつける。
関連作品
小説
本作『新米錬金術師の店舗経営』は、いつきみずほの小説『新米錬金術師の店舗経営』を原作としている。原作小説版は、いつきみずほが「小説家になろう」に投稿した作品。KADOKAWA「富士見ファンタジア文庫」から刊行され、イラストはふーみが担当している。
メディア化
テレビアニメ
2022年10月から、本作の原作小説『新米錬金術師の店舗経営』のテレビアニメ版『新米錬金術師の店舗経営』が放送。アニメーション制作はENGIが担当し、監督は博史池畠、キャラクターデザイン・総作画監督は伊藤陽祐が務めている。キャストは、サラサ・フィードを高尾奏音、ロレアを木野日菜、アイリス・ロッツェを大西沙織、ケイト・スターヴェンを諏訪ななかが演じている。
登場人物・キャラクター
サラサ・フィード
王立錬金術師養成学校を卒業したばかりの錬金術師の少女。名前の欧文表記は「Sarasa Feed」。誕生日は7月8日で、年齢は15歳、身長は153センチ。明るい色のセミロングヘアで、明るく元気で前向きな性格の持ち主。ちなみに15歳は成人年齢だが、サラサは小柄で胸の発育もあまりよくないため、周囲から何かと子供扱いされることが多く、サラサ自身も胸のサイズについては、多少のコンプレックスを抱いている。もともとそれなりに大きな商店の一人娘だったが、8歳の時に両親を盗賊に殺され、それ以来孤児院で育った。その経緯から、盗賊や悪人に対しては容赦がなく、両親が誠実な商人だったこともあって、悪徳商人も嫌っている。孤児院にいた頃は、現実逃避するかのように勉強に没頭し、平民にしてはかなり優秀な成績で王立錬金術師養成学校に合格。10歳の頃には、学校からのさまざまな援助により孤児院を出て自立した。短いあいだではあったが自分が世話になった孤児院には非常に感謝しており、なんらかの形で恩返ししたいと考えている。王立錬金術師養成学校入学後は、その才能を見出され、マスタークラスの錬金術師であるオフィーリア・ミリスの店でアルバイトとして働くようになった。この経験により錬金術の腕を磨き、学校でさまざまな報奨金を得られるほどの成績を収め続けてきた。その後、エリートが集まる王立錬金術師養成学校をほぼ主席で卒業し、オフィーリアの勧めで、王都から馬車で1か月ほど行ったところにある、大樹海のそばのヨック村に錬金術の店を出すこととなった。以来、親切な村人たちと協力しながら、自らの店と村のためにその腕を振るっている。ちなみにかわいらしい少女ながら、王立錬金術師養成学校ではトップの剣術の腕の持ち主で、並みの探索者なら数人がかりでも敵(かな)わない魔物のヘル・フレイム・グリズリーを、一人で簡単に相手することができる。剣術以上に体術を得意としており、スキを突けば、そのヘル・フレイム・グリズリーを飛び蹴り一発で葬ることも可能。
オフィーリア・ミリス
マスタークラスの錬金術師の女性。サラサ・フィードの師匠で、名前の欧文表記は「Ophelia Millis」。誕生日は8月20日で、年齢は不詳。身長174センチ。ショートヘアで背が高く、肉感的なスタイルの美女。さばさばした性格で、ざっくばらんな口調で話す。王立錬金術師養成学校に通っていたサラサの才能を高く評価しており、自分の店でアルバイトとして雇っていた。当初はサラサが王立錬金術師養成学校を卒業したあとは、正式に自分の店に弟子として招こうとしていたが、サラサが一人立ちを望んだため断念し、彼女が自分の店を持つための手助けをしている。サラサがヨック村に錬金術の店を出すことになった際には、自らひそかに現地を訪れて下調べをしたり、心配して様子を見に行ったりと弟子に対して非常に甘いが、サラサの前では傍若無人かつ飄々とした態度で接しており、そのようなそぶりはいっさい見せない。ちなみに攻撃魔法や剣の扱いも巧みで、手練(てだれ)の採集者をはるかに凌駕(りょうが)する腕を持つサラサですら、軽く子供扱いするほどの人間離れした腕前の持ち主。
ロレア
ヨック村唯一の雑貨屋の娘。名前の欧文表記は「Lorea」。誕生日は12月23日で、年齢は13歳。身長は150センチで、セミロングヘアを低い位置でお下げにし、おっとりとした性格をしている。読み書きと計算ができ、両親が買い付けで店を留守にしているあいだは、代わりに店番に立っている。都会に強くあこがれており、端切れを使ってリボンを縫ったり、服をアレンジして無理のない範囲で自分なりのおしゃれを楽しんでいる。そのファッションセンスは、王都からやって来たサラサ・フィードにも、王都でも違和感がないほどおしゃれだと評されたほど。同年代ということでサラサと意気投合し、のちに彼女の錬金術の店を店員として手伝うようになる。命を助けるためとはいえ、錬金術師が個人を特別扱いするようなことがあると、錬金術の在り方そのものを左右することになってしまうとサラサが説いた際にも、その本質を理解して同意を示すなど、年若いながら賢明で芯も強い。また努力家で、両親が家を留守にしがちだったこともあって家事も得意としている。ちなみにサラサに比べ、2歳年下であるにもかかわらず胸の発育はいい。
アイリス・ロッツェ
採集者の女性。ケイト・スターヴェンのパートナーで、名前の欧文表記は「Iris Loze」。誕生日は5月21日で、年齢は18歳。身長170センチ。黒髪のロングへアをポニーテールにした凛々(りり)しい外見で、少々堅苦しい言葉遣いをする。騎士爵の称号が与えられた「ロッツェ家」の娘で、父親の姿にあこがれ、幼い頃から棒きれを振り回していた。父親もそんなアイリス・ロッツェの姿に喜び、彼女に剣の手ほどきをしてきたため、今では一般的な兵士を凌駕するレベルの腕前を誇っている。騎士を体現したような父親を見てきたため、誠実で生真面目な、正義を愛する少々武骨な性格に育ったが、本質的には少々抜けており、親しみやすいところがある。実家は飢饉対策のために多額の借金を負っているため、少しでも返済の足しになればと、採集者になった。採集者になって1年ほど経った頃、ケイト・スターヴェンと共にヨック村を訪れてゲルバ・ロッハ山麓樹海に足を踏み入れるが、そこで魔物のヘル・フレイム・グリズリーと遭遇し、瀕死の重傷を負ってしまう。サラサ・フィードのおかげで完全に快復するものの、その際に使用した各種錬成薬(ポーション)の費用である2000万レアの借金を負うこととなった。以来、借金返済のためサラサの家に住み込み、彼女の店の経営に協力することとなる。本来はケイトの主人という立場にあるが、非常に仲のいい友人で、今ではむしろアイリスの方が妹のようにケイトに甘えている。
ケイト・スターヴェン
採集者の女性。アイリス・ロッツェのパートナーで、名前の欧文表記は「Kate Starven」。誕生日は9月21日で、年齢は20歳。身長170センチ。色黒の肌を持ち、金髪のロングヘアをゆるく1本の三つ編みにしている。穏やかな性格の持ち主。アイリスの実家にして騎士爵の称号が与えられた「ロッツェ家」の唯一の陪臣「スターヴェン家」の娘で、人間の父親とブラックエルフの母親のあいだに生まれた。両親はもともと隣国の出だが、異種間での婚姻が難しかったため国を出て、ロッツェ家に仕えるようになったという経緯がある。ケイト・スターヴェン自身、もともとアイリスの従者になるように教育を受けてきたため、礼儀作法や勉学を高いレベルで修めており、どこか抜けているところのあるアイリスとのコンビでは、頭脳労働を担当している。本来ならば、従者としてはそれだけでよかったはずだが、アイリスが武術に強い興味を持ったため併せて戦闘訓練を課されており、卓越した弓の腕を身につけるに至った。またアイリスより身のこなしが素早く、斥候役を任されることもある。実家の借金返済の助けになるためアイリスが採集者になった際に、ケイトもいっしょに採集者としての活動を開始。それから1年ほど経った頃、アイリスと共にヨック村を訪れてゲルバ・ロッハ山麓樹海に足を踏み入れるが、そこで魔物のヘル・フレイム・グリズリーと遭遇し、アイリスが瀕死の重傷を負ってしまう。アイリスはサラサ・フィードのおかげで完全に快復するものの、その際に使用した各種錬成薬(ポーション)の費用である2000万レアの借金を負うこととなった。以来、借金返済のためサラサの家に住み込み、彼女の店の経営に協力することとなる。本来はアイリスの従者という立場にあるが、非常に仲のいい友人で、今ではむしろケイトのほうが姉のように主導権を握っている。
ダルナ
ヨック村唯一の雑貨屋を営んでいる商人。ロレアの父親。黒髪に長身で、朴訥(ぼくとつ)とした雰囲気をまとっている。サラサ・フィードがロレアに初対面で高額な錬成具(アーティファクト)をプレゼントした際には、すぐにお礼の品を持って挨拶に訪れるなど、誠実で穏やかな人物。また、サラサがロレアを自分の店で雇おうとした際、王都などの相場よりはだいぶ安く、それでもヨック村においては破格の金額を提示した時には、もっと賃金を下げて欲しいと願い出たりと、バランス感覚にも優れる。その人柄はサラサにも信頼されており、町で自身の仕入れのついでにサラサから預かった素材の売買を代行したりと、ダルナ自身もサルサといい関係を築いている。
エルズ
ヨック村で、サラサ・フィードの錬金術の店のとなりの家に住んでいる中年女性。ジャスパーの妻。少々ふくよかな体型で、快活な性格をしている。ヨック村にやって来たサラサが初めて出会った人物で、サラサに村のことを教えたり村の中を案内したりと、何かと親切に世話を焼いている。宿兼食堂の女将(おかみ)ディラルとは幼なじみなだけでなく、夫のジャスパーが狩ってきた動物の肉をディラルのところに卸していることもあって、持ちつ持たれつの関係を築いており、非常に仲がいい。体を使ったコミュニケーションが強烈で、何かと人の背中をバンバン叩(たた)く癖があり、これはディラルを相手にするとさらに激しくなる。
ジャスパー
ヨック村で猟師を生業としている中年男性。エルズの夫。サラサ・フィードの錬金術の店のとなりの家に住んでいる。大柄な体格で黒髪に口ひげを生やした、精悍(せいかん)な顔立ちをしている。職業柄、ヨック村に住む村人の中ではもっとも戦闘能力が高く、荒事においては村長にも頼りにされている。
ディラル
ヨック村唯一の宿兼食堂の女将を務める中年女性。ガッシリした体型で、豪快な性格をしている。サラサ・フィードのとなりの家に住むエルズとは幼なじみで、彼女の夫で猟師のジャスパーが狩ってきた動物の肉を買い取ったりしていることもあって、持ちつ持たれつの関係を築いており、非常に仲がいい。体を使ったコミュニケーションが強烈で、何かと人の背中をバンバン叩く癖があり、これはエルズを相手にするとさらに激しくなる。
ゲベルク
ヨック村で大工を生業としている初老の男性。白髪交じりの短髪で口ひげと顎ひげを蓄えており、年齢のわりにがっしりした体型をしている。その腕は確かで、サラサ・フィードにベッドの作成を依頼された際も、急ごしらえにもかかわらずガタつき一つない立派なものを作り上げ、その丁寧な仕事ぶりはサラサから「王都でも通用するレベル」と絶賛されたほど。家具程度なら一人で作るが、家の柵や塀など大きな作業が必要となる際には、村の若い男たちを動員して事に当たり、その親方気質で多くの人に慕われている。美的センスにも優れており、サラサに錬金術の店の看板を依頼された際には、その強面(こわもて)からは想像もつかない、柔らかな印象のかわいらしいものを作り上げた。
村長
ヨック村の村長を務める老人。少々ヨボヨボしており、外を出歩く際には杖(つえ)が手放せないが、エルズにも「まだまだくたばりそうにない」と評されるほどには元気がある。穏やかでのんびりした好々爺(こうこうや)で、新たにヨック村で錬金術の店を開くことになったサラサ・フィードのことも快く迎え入れた。ヨック村や村人のことを愛しており、その立場上、村内では非常に顔が広い。
アンドレ
ヨック村を拠点に活動している採集者の青年。年齢は33歳。金髪のショートヘアで、額にスカーフを巻いており、気さくな性格をしている。採集者としてはベテランの域に入り、ギル、グレイという青年と三人で組んで仕事をしている。また面倒見もよく、跳ね返りの多い新人採集者のことも、それとなくフォローしてあげている。これまで長いあいだ世話になっていることもあって、ヨック村への思い入れは強く、村が「ヘル・フレイム・グリズリーの狂乱」の脅威にさらされた際にも、逃げずにギルやグレイといっしょに村のため戦うことを選んだ。採集者としての長い経験から高い戦闘能力を有しており、ヘル・フレイム・グリズリーに対しても、ギルとグレイとのコンビネーションで優れた戦果を上げる。
ヘル・フレイム・グリズリー
熊に似た姿の魔物。一般的な熊よりも大柄で体毛が赤く、毒のある鋭い爪を備えた腕が4本あり、口からは火を吐く。獣に類する動物と比べると圧倒的に危険な存在だが、魔物の中ではそれほど強くはない部類に入る。とはいえ、ふつうの人間がかなう相手ではなく、初見で挑んだ採集者のアイリス・ロッツェは、ほかに仲間が三人いたにもかかわらず、左腕を切断され、腹部をごっそり失う重傷を負ったほど。火の力を宿す石「火炎石」を好んで食べるが、十分な量が確保できなくなると、まるで理性を失ったかのようにふだんの縄張りを離れ、集団で暴走を始める「ヘル・フレイム・グリズリーの狂乱」と呼ばれる状態となり、場合によっては近隣の村や町に大きな被害を及ぼすことがある。狂乱状態に陥ると、ふだんは白い眼球が赤く染まるため、そこで判別することができる。
場所
王立錬金術師養成学校
国で唯一、錬金術師の国家資格を取ることができる学校。錬金術師は生活に欠かせない錬成薬(ポーション)や錬成具(アーティファクト)を作成できるが、その需要に供給が追い付いていないこともあって、国は錬金術師の育成に力を入れている。そのため王立錬金術師養成学校には、平民はもちろん孤児すらも入学が可能で、入試で必要な知識は無料で貸し出される教本で学ぶことができ、受験費用も無料。さらに成績優秀者には、学費免除、奨学金、試験ごとの報奨金なども用意されており、勉強のみに集中できる環境が整えられている。その分、競争率は非常に高く、試験も難しい。特に裕福な貴族などは専用の優秀な家庭教師を付けていることも多く、並大抵の努力では競争に打ち勝つことはできない。また、入学後の定期試験も厳しく、規定の得点に達していなければ、身分を問わず容赦なく退学となり、入学から5年後の卒業時には、生徒数は当初の10分の1にまで減少しているほどである。サラサ・フィードはそんな環境の中、孤児出身という身分ながら、ほぼ主席で卒業することとなった。「ほぼ」というのは、定期試験などでは爵位によって点数に下駄が履かされることが慣例化しているため、名目上はサラサは毎回3~4番手の成績で、トップになったことはなかったからである。ちなみにこのような環境の中、サラサは勉強とアルバイト漬けの日々を送ったため、学校では親しい友達ができなかった。
ヨック村
王立錬金術師養成学校を卒業したサラサ・フィードが、錬金術の店を構えた村。王都から馬車で1か月ほどかかるゲルバ・ロッハ山麓樹海のそばにあり、村人のほとんどは農業で生計を立てている。かなりの田舎で、正式名称は「ヨック村」だが、最寄りの町「サウス・ストラグ」までは馬で2~3日ほどかかる距離ということもあって、サウス・ストラグにおいてもその名はまったく浸透しておらず、「大樹海の小さな村」と補足説明を入れることでようやく認識してもらえる程度。ただし、ゲルバ・ロッハ山麓樹海が近いこともあって採集者には人気で、ヨック村を拠点に行動している採集者も少なくない。なお、ヨック村を含む近隣を治める領主はあまり有能ではないため、大きな問題が起こっても外部からの助けは期待できず、村人たちの自助努力で対応することを余儀なくされている。そのこともあってか、村人や古くからヨック村を拠点とする採集者たちの団結は固く、郷土愛も強い。一方、サラサが錬金術の店を構えてからは、その利便性から新参者の採集者が多く訪れるようになったが、彼らとってはそこまでの強い思い入れはない。ちなみに、以前はヨック村にも錬金術の店があったものの、店主が老齢で腰を痛めてしまい、息子に引き取られていったため廃業してしまった。サラサが店を開くことになったのは、かつてあったその錬金術の店の跡地である。店主の引っ越しに伴い家具などはなくなっていたものの、錬金術に必要な錬金釜や風呂は残されており、また「清掃」や「防犯」の刻印も施されていたため、綺麗(きれい)な状態に保たれた非常にいい物件だった。
その他キーワード
錬金術大全
全10巻からなる本。錬金術すべての技術が記された、錬金術師の道標となる存在で、「錬金術の入門にして最奥」と評される。「錬金術大全」自体が特殊な錬成具(アーティファクト)となっており、錬金術師でなければ読むことができず、ふつうの人には白紙にしか見えない。また、錬金術師であっても読むには制限があり、「錬金術大全」の各巻に記されたものをすべて作成することで錬金術師としてのレベルが上がり、次の巻が読めるようになるという仕組みになっている。そのため、高位の錬金術師に本物かどうかを鑑定してもらう必要があったりと扱いが難しく、「錬金術大全」は全10巻で750万レアと非常に高額。これは、一般的な家一軒を買ってなお余りある金額となっている。その高額さゆえに、新米の錬金術師は数巻ずつ買い足していくのが一般的で、一気に10巻まとめて購入する者は稀(まれ)である。なお、サラサ・フィードはオフィーリア・ミリスが無償で鑑定をしてくれたこともあって、10巻セットを500万レアという破格値で購入することとなった。一般的に、3巻までの内容をすべて熟(こな)してレベル4になれば錬金術師としては初級クラス、6巻まで熟してレベル7になると中級クラス、9巻まで熟してレベル10になると上級クラスと見なされる。ちなみに、サラサ・フィードはオフィーリア・ミリスの店で働いていたこともあって、王立錬金術師養成学校を卒業した時点で、すでに3巻終了間際の状態にあった。なお、10巻だけはほかの巻に比べて異常にぶ厚いが、それは難易度の高いものに加え、まるで役に立たない雑多なものも含めて、1~9巻には記されなかったすべての錬成具が記されていることがその理由である。そのためオフィーリアも、ほかの巻とは異なり、10巻のすべてを熟すのは「ただのバカ」だと語っている。オフィーリアのように上級クラスのさらに上のマスタークラスになるためには、10巻の中でも重要な特定の錬成具を作成することに加え、秘密の条件が課せられている。
採集者
素材が採取できる場所に赴き、それらを集めて売ることを生業とする者。素材を採取できるのは危険な場所であること、また素材には獣の内臓などが含まれることもあって、採集者には戦闘の心得のある者が多い。その性質上、素材を買い取ってくれて、傷を癒す錬成薬(ポーション)などを提供してくれる錬金術師とは共存共栄の関係にある。
クレジット
- 原作
-
いつき みずほ
- キャラクター原案
-
ふーみ
書誌情報
新米錬金術師の店舗経営 6巻 キルタイムコミュニケーション〈ヴァルキリーコミックス〉
第3巻
(2022-10-07発行、 978-4799216910)
第4巻
(2023-05-08発行、 978-4799217658)
第5巻
(2024-03-08発行、 978-4799218747)
第6巻
(2024-09-06発行、 978-4799219508)