最果てから、徒歩5分

最果てから、徒歩5分

女性誌、青年誌をメインに執筆している糸井のぞの代表作の1つ。「死出ノ岬」とも呼ばれている自殺の名所、志手ノ岬から徒歩5分の場所にある、海の見えるオーベルジュ・ギルダが舞台。宿泊もできるレストランのギルダには、自殺志望者が多く訪れるが、おいしい料理とスタッフたちとの会話が死を思いとどまらせていく。崖っぷちで苦悩する人々が、生きる道を選び、再生していくヒューマンドラマ。みんなから慕われ、周りを癒している店のマネージャー、夕雨子の過去に迫るところが見どころの一つ。新潮社「月刊コミックバンチ」2020年6月号から2021年8月号まで掲載。2022年10月にテレビドラマ化されBSテレ東で放送された。また、彼らのその後を描いた『【番外編】最果てから、徒歩5分-REOPEN-』(2022年11月26日配信)も電子書籍限定で発売された。

正式名称
最果てから、徒歩5分
ふりがな
さいはてからとほごふん
作者
ジャンル
ヒューマンドラマ
 
自殺
レーベル
バンチコミックス(新潮社)
巻数
全2巻完結
関連商品
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最果ての地を訪れる人々の人間模様を描くヒューマンドラマ

自殺の名所の近くに店を構えるオーベルジュ・ギルダには、上司にいびられているサラリーマン、不倫が発覚した有名女優、三角関係に悩む女性、熟年離婚を切り出された芸能記者など、絶望をかかえ、死にたいと考えている客が多く訪れる。そこで働くスタッフたちはみな変わり者で、客の話を聞き、思ったことを素直に口にする。その内容は、押しつけでも、説教でもなく、その会話でなぜか癒された客は生きる道を選び始める。自殺をテーマにした作品だが、スタッフたちのやり取りが飄々としていて、コミカルなため、話が暗くなりすぎることはない。客との物語は1話完結だが、そこで働く従業員たちの事情が後半の話に繫(つな)がる作りになっている。

死ぬために志手ノ岬にやってきたすもも

この物語は、幸田すももが、オーベルジュ・ギルダを訪れるところから始まる。何をやってもダメな子と、ずっと母から抑圧されて育ったすももは、言い争いになって母を突き飛ばしてしまう。頭から血を流している母を見て、生死の確認もせずに家を飛び出したすもも。自ら命を絶つ前に、憧れのアイドル「ユココ」に会いたいと、すももは志手ノ岬を訪れる。駅前で、ランチを当店でと息吹に誘われ、オーベルジュ・ギルダの扉を開けると、店のマネージャーの白石夕雨子が男性客に刃物を突き付けられていた。すももが夕雨子を見た瞬間、彼女が成長した「ユココ」だと確信する。

大森沙良の出現により波乱が巻き起こる

すももは男の刃物をつかみ、体をはって夕雨子を守る。死を迷っているすももに、ギルダで働いてはどうかと提案する夕雨子。すももはしばらくギルダでお世話になることに。すももが「ユココ」のファンだと知った息吹は、アイドル時代の話を夕雨子にしないでほしいとすももに話す。夕雨子は当時の記憶をなくしており、息吹は無理に昔を思い出させたくなかった。そんな中、大森膳の娘、大森沙良がギルダにやってくる。膳が勤めていたレストランのオーナー夫婦が亡くなってしまい、膳は沙良を養子として引き取って育てていた。沙良は夕雨子と膳の仲を疑い、夕雨子の過去について、調べ始める。

登場人物・キャラクター

幸田 すもも (こうだ すもも)

派手なメイクをした若い女性。髪色はシルバーで、毛先をピンクと紫のグラデーションにしている。毒母に悩まされて育つ。母からずっと「お前はダメだ」と責められ続け、自分の好きな服が何かもわからない。喧嘩(けんか)して母を階段から突き飛ばしてしまい、生死の確認もせずに家を飛び出す。生きていても死んでも最悪なのに変わりはないという考えを持っている。実は真面目で周りに気を使うタイプ。子供時代からアイドル「ユココ」の大ファンで、彼女は心の支えだった。死ぬ前にユココに会いたいとオーベルジュ・ギルダを訪れる。

白石 夕雨子 (しらいし ゆうこ)

オーベルジュ・ギルダのマネージャーの女性。もの静かで優しく美しい。首に刃物を突き付けられても、怯(おび)えることなくニコニコと普段どおりに振る舞う。世間の話題に疎く、浮世離れしたミステリアスな女性。お客さんの話をよく聞き、癒しながら選択肢を増やしていく。海岸に流れ着いて倒れていたところをギルダのオーナーの真澄に拾われた。昔の記憶をなくしている。

息吹 (いぶき)

オーベルジュ・ギルダのオーナーの孫の男性。左目の下にホクロがある。顔が良く、コミュニケーション能力も高い。毒舌で思ったことを口にする。以前はホストをしていた。その時の源氏名は蔵人(くらうど)。子供の頃、親から勉強しろ、医者になれと言われるのが嫌で、祖父母のいるギルダによく避難していた。アイドルのユココが両親とギルダを訪れたことがあり、息吹はその時、ユココに会っている。ユココは息吹にとって初恋の人。

大森 膳 (おおもり ぜん)

オーベルジュ・ギルダのシェフの男性。さまざまなジャンルの店で修行をつんだ凄腕(すごうで)の料理人。客をうならせる料理を作る。ギルダのオーナーだった息吹の祖父、テツに初めて料理を教わり、その影響からか多国籍の料理を作れる。メガネをかけていて、物腰の柔らかい男性。新人のすももにも優しく接する。

大森 沙良 (おおもり さら)

大学生の女性。小学生の頃、飲食店を営む両親が自分を残して心中してしまい、当時従業員だった大森膳に引き取られる。膳と膳の母と三人で暮らしていた。相手の気持ちにはお構いなしに、自分が聞きたいことを聞く。押しが強く、少し身勝手な性格。膳のことが好き。

場所

オーベルジュ・ギルダ

自殺の名所と言われる志手ノ岬から徒歩5分の場所にある、海の見えるオーベルジュ。オーベルジュとは、宿泊もできるレストランのこと。オーナーは息吹の祖母、真澄。真澄は夫のテツと共にこの店を切り盛りしてきたが、夫が他界し、数年後に店を改装。真澄は旅に出ると言って、白石夕雨子に店を任せる。フランス料理を提供しており、料理が美味しいと評判で、ランチ時は近所の奥様方で賑(にぎ)わう。自殺の名所に近いことから、事情をかかえた客が多く訪れる。お金がない場合、ギルダでは代金の代わりにその人の一番大事な物を預かるというシステムがある。代金を持ってきたら、預かっていたものを返却する。

書誌情報

最果てから、徒歩5分 全2巻 新潮社〈バンチコミックス〉

第1巻

(2020-11-09発行、 978-4107723291)

第2巻

(2021-08-06発行、 978-4107724090)

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