ダーウィン事変

ダーウィン事変

人間とチンパンジーのハーフとして生まれたチャーリーが、友人のルーシーと共にテロや差別をはじめ人間が抱える問題に向き合う姿を描いたヒューマンドラマ。「月刊アフタヌーン」2020年8月号から掲載の作品。第25 回「文化庁メディア芸術祭」マンガ部門優秀賞、「マンガ大賞2022」大賞を受賞。

正式名称
ダーウィン事変
ふりがな
だーうぃんじへん
作者
ジャンル
ヒューマンドラマ
レーベル
アフタヌーンKC(講談社)
巻数
既刊6巻
関連商品
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あらすじ

観察者

テロ組織「ALA(動物解放同盟)」が、ストラルド生物科学研究所を襲撃した際に保護されたメスのチンパンジー、エヴァは、1匹の子供を妊娠していた。なんとか命を取り留めたエヴァは、半分人間で半分チンパンジーである前代未聞の生物「ヒューマンジー」を出産する。世界初の新生物であるヒューマンジーの赤ん坊は「チャーリー」と名づけられ、アメリカ中西部のミズーリ州にある町、シュルーズヴィルに住むギルバート・スタイン博士と、敏腕弁護士のハンナ・スタインに引き取られて、二人の愛情を受けながら育つ。人間の養父母のもとで15歳にまで成長したチャーリーは、ハンナの勧めで地元の私立校であるシュルーズヴィル高校に通うことになる。人間と同様に言葉を話すものの外見がチンパンジーであるチャーリーは、学校内で奇異の目に晒(さら)され続け、偏見を持つ生徒たちから議論を持ちかけられることもあった。それでも大半の人間よりも冷静で知的なチャーリーは、つねに飄々(ひょうひょう)とした態度で過ごしていた。そんなある日、チャーリーは木から降りられなくなった猫を助けたのをきっかけに、頭脳明晰(めいせき)だが「陰キャ」と揶揄(やゆ)される少女、ルーシーと知り合う。周囲から偏見の目で見られ、時にはトラブルに巻き込まれているチャーリーのことを気にかけるルーシーとのあいだには次第に友情が芽生えていき、チャーリーは初めて学校生活を楽しく感じるようになる。だが、虐げられる動物たちの解放を求めてテロ活動を繰り返すALAが、テロ活動に協力させるためチャーリーを仲間に引き入れようと画策し、ギルバートやルーシーもその動きに巻き込まれてしまう。これらをきっかけに町の人々は、チャーリーとその家族に対する態度を変え、彼の周囲ではさまざまな思惑が交錯するようになる。それでも冷静さと自分の中にある信念と意志を見失わないチャーリーは、テロ・炎上・差別といった人間が抱えるさまざまな問題に、ルーシーたちと共に向き合っていく。

レッド・ピル

世界初の「ヒューマンジー」として生まれたチャーリーは、一人の男子生徒として高校に入学したばかりだが、ルーシーという一人の友人ができたことで、周囲から偏見の目を向けられながらも楽しい学校生活を送っていた。養父としてチャーリーを見守ってきたギルバート・スタインも、彼が平和な日常を送ってくれることを願っていたが、チャーリーは動物解放を掲げるテロ組織「ALA」に目を付けられ、ALAは彼を仲間にしてテロ活動に利用するため、周囲の人間から孤立させようと動き始める。人類はほかの生物よりも高い知性を持ち、文化活動ができると信じている者が多い中で、人間でもただのチンパンジーでもなく、人並み以上の思考力と身体能力を持つチャーリーは、知性を拠(よ)りどころにしてきた人類を超える可能性すら持っていた。そんなチャーリーに興味を抱く者もいれば、その知性と力に目を付ける者、さらには恐れたり危険視して排除しようと目論む者も現れ始める。一方、チャーリーにとって初めての人間の友人となったルーシーは、ギルバートとハンナ・スタインを通してチャーリーの抱える複雑な事情と過去を知る。ギルバートとハンナがチャーリーの人間らしい権利の獲得を目指していると知ったルーシーは、チャーリーにはまずふつうの学校生活を送らせる必要があると考える。まずは身近な女子生徒となじませようと試行錯誤するルーシーの奮闘もあって、今までは彼女以外の生徒と親しくなれなかったチャーリーも、少しずつ一部の生徒と話せるようになっていく。そんな中、チャーリーたちは以前知り合ったALAシンパの少年、ゲイルが、ALAの主張に賛同する活動を校内で始め、ほかの生徒たちとケンカになってしまう。ゲイルはチャーリーが動物側の代弁者として、そして動物と人間をつなぐ存在になって人々に声を届けることを期待していたが、自分をただの1匹の動物でしかないと考えるチャーリーには、その思いは届かなかった。自分の無力さを嘆くゲイルはその夜、彼が運営する「レッドピルチャンネル」の動画配信中に、謎の人物から意味深なコメントを受け取る。

青髭の城にて

テロ組織「ALA」にあこがれを抱くゲイルから何度もメールを受け取り、彼に目を付けて直接コンタクトを図った人物の正体は、ALAの指導者、マックスだった。ALAに賛同しながらも今までは穏便に活動していたゲイルと、犯罪や暴力を厭(いと)わない過激な思想を持つマックスたちの接触は、束(つか)の間の平和を楽しんでいたはずのチャーリーたちの生活を脅かす、最凶最悪の事件へとつながる。チャーリーを祭り上げるために苛烈さを増していくALAは、ゲイルの純粋な思いを利用し、周囲の人間からチャーリーを孤立させようと、彼らの通うシュルーズヴィル高校を襲撃したのだ。ギルバート・スタインハンナ・スタインが、どんなにチャーリーのふつうの生活を望んでも世界はそれに応えず、人間と動物の問題に渦巻くさまざまな陰謀と願いの中心には、つねに彼がいた。多くの命が奪われた最悪な事件から1週間後、ようやく警察から解放されたチャーリーは学校には登校せず、自宅でギルバートやハンナ・スタインと共に過ごしていた。FBIや周辺住民などから一層注目を集めてしまうチャーリーを匿(かくま)うギルバートとハンナは、シュルーズヴィルの町民たちから厄介者扱いされてトラブルも増えていき、保安官補のフィリップからは別の町に引っ越すよう警告される。学校に来られなくなったチャーリーのことを心配するルーシーは、町民からの嫌がらせやALAの次の一手に立ち向かうべく、あきらめることなく勇敢な行動を見せる。一方、家の近くの森にすら出られなくなったチャーリーは、離れたままでもルーシーとの交流を深めていく中で、心境にある変化が現れていた。以前からALAを潰した方が早いと考えていたチャーリーのもとに、ルーシーを攫(さら)ったマックスからの呼び出しを受け、彼女を助けに向かう彼の思いと行動は、テロリストたちとの直接対決につながっていく。一方、ALAに囚われたルーシーは、以前から疑問を感じていたマックスの動向や言動を探りながら本当の目的を問おうとする中で、彼の恐ろしい野望を知る。チャーリーとルーシーを中心に激化していくALAやウィーガンにまつわる問題は、周囲の人々を巻き込みながら、世界に大きな変化をもたらそうとしていた。

無主別

チャーリーの孤立を目論むマックスたちの起こした事件を通して、チャーリーは大切な養父母のギルバート・スタインハンナ・スタインが殺害され、犯人と疑われたチャーリーは帰る場所を失ってしまう。二人を殺害した本当の犯人がわからぬままに行方(ゆくえ)知れずとなったチャーリーには、一部の団体から懸賞金がかけられ、彼を捜し出すべく警察やFBI以外の人間も捜索を始めていた。チャーリーをテロに利用しようとするテロ組織「ALA」と、ヒューマンジーという存在を忌避する多くの者が入り乱れる中で大切なものを失ったチャーリーは、人間と動物の未来を揺るがす、新たな陰謀に巻き込まれていくこととなる。養父母を亡くしたことで、チャーリーの立場は以前よりもさらに不安定なものとなり、法的な立場はギルバートたちの「所有物」から「無主別」に変わり、ほぼ野生動物に近い扱いと化していた。ギルバートたちの葬儀後、行方知れずのままのチャーリーの今後について話し合うため、リナレスと対面したルーシーは、チャーリーの新たな里親を見つけて彼を預けると言う彼女に反発する。チャーリーのことを心配するルーシーは、研究所の近くにある森で彼と再会するが、彼女のあとをつけていたフィリップにも見つかってしまう。ルーシーは警察にチャーリーを連れていかれるのではないかと警戒するが、フィリップの口から出てきたのは意外な言葉だった。フィリップは最後にギルバートと話した時に聞いたある言葉を伝えたうえで、チャーリーを自分の家で引き取ると言い出す。予想外な提案に驚きながらも、チャーリーを連れていっしょにフィリップの自宅に向かうことになったルーシーは、なんとか検問を潜り抜けたあとに彼の妻、グレイスと対面。グレイスはすぐにルーシーとチャーリーを歓迎しなかよくなったが、後日にはさっそくマスコミがフィリップの家に押しかけ、彼は職場でチャーリーを引き取ったことについて尋問を受け、チャーリーの引き渡しを拒否したフィリップは無期限停職処分となる。そんな中、研究所で定期検査を受けたチャーリーの心と体には、少し前からある大きな変化が訪れていることが判明。一方、ルーシーを人質に取った事件のあとに行方をくらませていたマックスは、以前から匿っているある人物と対面していた。

登場人物・キャラクター

チャーリー

人間の父親とチンパンジーの母親とのあいだに生まれた、世界初の「ヒューマンジー」の少年。初登場時の年齢は15歳。人間と同様に言葉を話し、服を着て二足歩行しているが、顔や四肢を中心とする容姿はチンパンジーに近い。理知的で冷静沈着な性格で、無表情で淡々と話す。人間やチンパンジーよりも優れた身体能力を持ち、訓練された元軍人や警察官が複数人いても、一人で戦うことができるほど。生物学上の父親はデイヴィッド・グロスマンで、母親はエヴァ。アメリカ中西部のミズーリ州にあるシュルーズヴィルの一軒家で、ギルバート・スタイン博士と敏腕弁護士のハンナ・スタインのもとで育ち、二人の愛情を受けながら15歳の頃、地元の私立高校、シュルーズヴィル高校に入学した。チンパンジーのような容姿からつねに注目されているが、偏見を持つ者たちに嫌味や議論を持ちかけられても飄々とした態度で応じている。猫を助けたのをきっかけに同じクラスのルーシーと知り合い、彼女との交流を中心に学校生活を楽しんでいる。幼少期からヴィーガンフードのみを食していたが、特に不満がなく変える理由もないと考え、家でも学校でもヴィーガンフードを中心に食べている。法律上は人間ではなくギルバートたちの「所有物」として扱われるため、警察に捕まった際も押収品として扱われていた。物として扱われるのではなく、一人の人間としての権利を獲得するために、いずれはハンナたちと共に国に対して裁判を起こし、権利を勝ち取ることを目指している。偏見や差別に晒されながらも友人や家族との平和な生活を望んでいたが、テロ組織「ALA」に狙われるようになったことで日常が一変し、一部からはALAの仲間だと誤解されている。ゲイルが学校で起こした事件に巻き込まれるが、彼が襲った生徒の何人かを救助していた。しかし、この事件のあとはますます人間の反感を買うようになり、学校には行けずにハンナたちに匿われていた。のちにルーシーを人質に取ったマックスたちと直接対決することになり、リップマンに勝利して彼女を救出するものの、何者かにギルバートとハンナを殺害されてしまう。帰る場所をなくして行方不明になっていたが、事情をよく知るフィリップに引き取られてからは、彼とグレイスの三人で暮らしている。

シュルーズヴィル高校に通うアメリカ人の女子。チャーリーのクラスメイト。濃い茶髪のロングヘアで、学校ではパーカーのフードで顔を隠していることが多い。頭脳明晰で成績優秀ながら、コミュニケーションが苦手なた... 関連ページ:ルーシー

エヴァ

メスのチンパンジーで、チャーリーの実母。ストラルド生物科学研究所でとある研究の対象となっていたが、15年前にテロ組織「ALA」が襲撃した際に流産しかけている状態だったため、ALAによってミズーリ州のセントルイスにあるコーンバーグ霊長類研究所に運ばれ、駆けつけたギルバート・スタインたちによる帝王切開手術で、赤ん坊のチャーリーを出産した。幼少期に両親を密漁者に殺され、しばらくはサーカスなどに売られてヨーロッパを転々としたのち、ストラルド研究所に売られて生体解剖用の実験動物となっていた。ほかのチンパンジーとは異なる特異性に気づいたデイヴィッド・グロスマンの研究対象となるが、彼とのあいだにできた子供であるチャーリーを妊娠した詳細な経緯は不明となっている。現在は、定期検査のためにチャーリーが通っているコーンバーグ研究所で引き続き保護されている。ふつうのチンパンジーを遥かに超える優れた知能を持ち、高度な抽象概念を理解し2次方程式を解いたり、ワーズワースの詩を好んで自作もしたという記録もあり、英数字が書かれたカードを使って人間と言葉のやり取りをすることも可能。しかし、チャーリーを出産した負担で脳に障害が残り、これらの能力はほとんど失われて認知能力も一般的なチンパンジー以下にまで低下している。高齢なため運動能力も失って安静に過ごしており、息子のチャーリーともたまにしか対面していない。チャーリーがフィリップの家に移った頃には体が限界を迎えて危篤状態となり、みんなに見守られながら安楽死する寸前に、カードを使って彼らにある事実を伝えた。

ギルバート・スタイン

有名な生物学者でアメリカ人の男性。チンパンジー研究の権威として知られる。妻のハンナ・スタインと共に、養父としてチャーリーを育てた。ふだんは教授として大学に勤めている。愛称は「バート」。15年前、流産しかけていたエヴァが運ばれたコーンバーグ霊長類研究所に駆けつけ、彼女の帝王切開手術も担当した。ハンナと同様にヴィーガンだが、それをむやみに他人に押し付けることはなく、過激なヴィーガン思想を持つテロ組織「ALA」のことも快く思っていない。ミズーリ州出身ではないが、チャーリーを引き取ってからはシュルーズヴィルの中でもチンパンジーの住む環境に近い自然に囲まれた一軒家に引っ越し、彼とハンナの三人で暮らしている。チャーリーのことは本当の息子のように大切に育ててかわいがり、ハンナやリナレスたちと共に、彼が人間と同等の権利を獲得できることを目指している。チャーリーの友人となったルーシーを歓迎し、時おり家に遊びに来る彼女と食事をするなど、交流を深めている。立場が不安定なチャーリーの養父という立場上、フィリップに警告されたり町民から立ち退きをせまられたりとトラブルに巻き込まれることも多いが、それでもチャーリーの意思を尊重し、彼が平和に暮らしてくれることをハンナと共に願っている。マックスがルーシーを人質に取った事件で、何者かによってハンナと共に殺害される。懐メロが好きで、特に「ビートルズ」の楽曲を好む。

ハンナ・スタイン

弁護士を務めるアメリカ人の女性。ギルバート・スタインの妻。夫のギルバートと共に、養母としてチャーリーを育てた。夫のギルバートと同様にヴィーガンだが、それをむやみに他人に押し付けることはしておらず、過激なヴィーガン思想を持つテロ組織「ALA」のことも快く思っていない。チャーリーのことは本当の息子のように大切に育ててかわいがり、ギルバートやリナレスたちと共に、法の真空地帯にいる彼が人間と同等の権利を獲得できることを目指している。チャーリーの初めての友人となったルーシーを歓迎し、時おり家に遊びに来る彼女と食事をするなど、交流を深めている。チャーリーが学校でルーシーと友人になったのを知った時は誰よりも喜び、それ以降も彼のあらゆる変化や成長を注視しては一喜一憂しており、時には彼を褒めたり母親目線で助言を与えたりしている。マックスがルーシーを人質に取った事件で、何者かによってギルバートと共に殺害される。

エルドレッド

ルーシーの母親。ルーシーと同じロングヘアで、サングラスをかけていることが多い。気が強く、頑固な性格をしている。マックスたちがチャーリーを狙って家を襲撃した事件に娘のルーシーが巻き込まれてからは、テロ組織「ALA」とチャーリーを目の敵にしており、彼女にもチャーリーたちに近づかないよう厳しく言い付けている。学校の役員をしており、チャーリーへの抗議のために署名活動を始めると言い出したこともあった。すべてはルーシーの身の安全を心配しての行動だが、チャーリーに偏見に満ちた悪口を言うために、ルーシーとの仲は悪化している。自然妊娠ではなく人工授精によってルーシーを妊娠・出産したが、精子提供者である彼女の父親には会ったことがなく、写真でしか知らない。

マックス

テロ組織「ALA」の指導者で、アフリカ系アメリカ人の男性。ALA創設者の一人でもあり、テロをはじめとする過激な行動によって、同志と共に動物愛護運動を進めているテロリスト。警察やFBIなどからは「リヴェラ・ファイアーベント」の名で知られる。動物の権利向上のためであれば手段を選ばぬ過激な行動に出ることも多く、敵味方を問わず恐れられている。かつて奴隷制に苦しめられたアフリカ系アメリカ人の子孫で、現在でもあちこちで黒人差別を受けることがあり、これらの事情や過去が動物に人間と同等の権利があると主張する理由の一つとなっている。世界初のヒューマンジーであるチャーリーを組織に引き入れようと狙っており、当初は彼と接触することが多かったが、次第に彼を周囲から孤立させようと目論むようになる。仲間のリップマンと共に行動することが多く、FBIからは彼と共に最重要指名手配リストに加えられている。頻繁にチャーリーやルーシーに会いに来ては、意味深な言葉を残して去っている。チャーリーだけでなくルーシーのことも気に入っており、彼らと会うたびに持論を語り、時には動物や人間を取り巻くさまざまな問題について議論を投げかけている。一見、いつもにこやかで誰にでも好意的に接するように見えるが、本性は目的のためであれば手段は選ばない狂気を帯びた冷酷な人物で、ゲイルの純粋さを利用してシュルーズヴィル高校を襲わせ、多くの命を奪うなど非道な行為も厭わない。リップマンと共に捕えたルーシーを人質に取ってチャーリーをおびき出し、リップマンが敗北したあとは素直に負けを認めて逃亡し、アジトである人物を匿いながら行方をくらましている。チャーリーの養父母であるギルバート・スタインとハンナ・スタインが殺害された事件にもかかわっていると思われたが、彼らを脅すために家に放火した町民の計画を把握していただけであり、実際に二人を殺した真犯人は不明となっている。

ゲイル

シュルーズヴィル高校に通うアメリカ人の男子。テロ組織「ALA」の熱烈な支持者。ALAこそが「歴史の正しい側」にいると考え、「レッドピル・ゲイリー」のハンドルネームで動画配信チャンネル「レッドピルチャンネル」を運営しており、ALAに賛同的な動物解放の意見・主張をチャンネル内でも配信している。チャーリーが入学した初日に、クラスメイトと揉(も)めている彼が皮肉を返したのを見て以来、チャーリーを気に入っている。ALAの活動が激化していくと共に、校内で動物解放を訴える活動を穏便に始めたものの、ALAやヴィーガンを嫌う同級生たちとトラブルになる。この際にチャーリーに対して、唯一のヒューマンジーとして動物側の代弁者となるよう訴えかけたが、自分を特別な存在ではなくただ1匹の動物としか考えない彼には、その思いは届かなかった。自分の無力さを痛感する中で以前からあこがれを抱いていたマックス、リップマンと接触したのをきっかけに、純粋な思いを彼らに利用され、やがてALAの過激な活動にも参加するようになる。のちに武装してシュルーズヴィル高校を襲撃し、生徒たちの命を無差別に奪うという最悪の事件を起こす。この様子はマックスたちによってネット配信され、警察に取り囲まれたところで発砲しようとするが、間一髪でチャーリーに蹴飛ばされたのちに逮捕された。

リップマン

テロ組織「ALA」の指導者で、アメリカ人男性のテロリスト。米陸軍に在籍歴のある元・士官で、仲間からは「少佐(メイジャー)」と呼ばれていることがある。中東への戦争に従軍し殊勲十字章を授けられるなど優秀な兵士として活躍していたが、除隊後に当時の部下を連れてALAに加入。主にマックスと行動を共にしており、FBIからは彼と共に最重要指名手配リストに加えられている。テロ活動に手を染めている現在も、軍人として得てきた知識や技術は衰えておらず、軍人目線の言動も多い。同志であるマックスの秘める危険性や本当の野望を知り尽くしたうえで、動物解放の悲願を叶(かな)えるために協力し合っている。マックスと共にチャーリーを狙い、チャーリーを孤立化させるべくさまざまな事件を起こしている。マックスと共にルーシーを人質に取った際に、近くの森でチャーリーとの直接対決となるが、部下をすべて倒されたうえに両腕と右足を折られて敗北。ルーシーの危機に駆けつけたフィリップたちによって逮捕されたあとはFBIに引き渡されたが、ALAについてはいっさい口を割ることなく、森林戦に敗れたことでチャーリーの危険性を再認識し、早急に捕らえるようFBIに警告している。

リナレス

下院議員を務めるアメリカ人の中年女性。家畜動物も含めた動物の市民権獲得を掲げながら次の選挙の当選を目指しており、その足掛かりとして世界初のヒューマンジーであるチャーリーの人権獲得を実現しようと後見人を務め、ハンナ・スタインに彼を預けたうえでさまざまな形で協力・援助をしている。よくも悪くも政治家らしい考えや合理的な考えを持つため、フィリップからは快く思われていない。一方でチャーリーのことでさまざまな援助を受けているハンナにとっては頭の上がらない人物であり、彼の未来のために互いを利用し合うつもりで協力し合う相手となっている。ハンナとギルバート・スタインの死後はチャーリーの新たな里親を探していたが、自ら引き取ると名乗り出たフィリップに預けることになり、議員としての知識や人脈を活用して協力している。

デイヴィッド・グロスマン

天才生物学者でアメリカ人の男性。ノーベル賞確実と言われていたほどの人物だが、人嫌いで秘密主義者なため、同じ分野の学者ともほとんど顔を合わせていなかった。以前はカリフォルニア州のエスコンディードにあるストラルド生物科学研究所で、エヴァをはじめとする動物の研究に勤(いそ)しんでいた。研究の過程でエヴァとのあいだにできたチャーリーの生物学上の父親でもあるが、彼とは直接会ったことがなく、失踪前に研究データを破棄していたため、彼女とのあいだにヒューマンジーを生み出そうと思った理由や目的も謎に包まれている。実は裏でストラルド研究所の違法実験についてテロ組織「ALA」に告発し、証拠となるデータと多額の報酬を提示したうえで、研究所の襲撃とエヴァの保護を依頼していた張本人でもあり、その事実はマックスなど一部の者にしか知られていない。ただし、エヴァがヒューマンジーを妊娠していることまではマックスたちに知らせておらず、研究所でそのまま出産させずにALAに保護させた理由も謎に包まれている。チャーリーやエヴァの秘密をよく知る、彼にとっての重要人物であるが、マックスたちにエヴァの保護を依頼してからは行方知れずで、手を尽くして捜索しているALAにもその居場所は不明のままとなっている。

フィリップ

シュルーズヴィル警察の保安官補で、アメリカ人の中年男性。箱入り娘として育った妻のグレイスと、シュルーズヴィルの一軒家で二人暮らしをしている。愛称は「フィル」。少々ぶっきらぼうながら、本来は家族思いで何事も筋を通そうとするまっすぐな性格をしている。シュルーズヴィルの顔役を務めるロニーとは旧友。まだ5歳だった頃のチャーリーが原因で起こったある事件で友人が負傷したため、以前から彼のことを危険視し、学校に通うようになった彼を尾行・監視している。その事件が公にはならないまま闇に葬られたため真相は知らなかったものの、ルーシーやギルバート・スタインたちとの交流を繰り返すうちにチャーリーへの認識を改めていき、ギルバートの死後は自分の立場が危うくなるのを覚悟したうえでチャーリーを引き取ることを決意する。これ以降はグレイスと共にチャーリーを匿いながら、三人で暮らしている。かつては一人娘がいたがすでに亡くなっており、娘が使っていた部屋は新たな家族として迎えたチャーリーの私室として使われている。

グレイス

フィリップの妻で、アメリカ人の中年女性。昔から箱入り娘として育った苦労知らずなため、かなり奔放で楽天的な性格をしている。夫のフィリップよりも明るく陽気で、よく彼のことを振り回しているものの夫婦仲は良好。テレビでも有名なチャーリーのことは以前から気に入っており、フィリップが彼を引き取る決意をした時も歓迎し、チャーリーと初対面した時もとても喜んでいた。チャーリーやフィリップを通してルーシーとも親しくなり、いっしょに買い物に出かけたこともある。

集団・組織

ALA (えーえるえー)

動物の解放を求めるテロ組織。主にアメリカを拠点に活動している。正式名称は「動物解放同盟」を意味する「Animal Liberation Alliance」。所属する活動家たちはガイ・フォークスの仮面を付けて現れる。人間に虐げられる動物の解放を求めると共に、過激なヴィーガン思想を持ち、ヴィーガン以外の人々にもそれを訴えかけようとしている。ストラルド生物科学研究所を襲撃した15年前までは素人集団であり、この事件以降は目立った活動もなく身を潜めていた。しかし、チャーリーが15歳にまで成長した現在は組織の一新に伴って活動が活発化・過激化しており、ニューヨークでの爆破テロやシュルーズヴィル高校の襲撃をはじめ、さまざまなテロ事件を起こしている。15年前と比べて元軍人のリップマンのように鍛え抜かれたプロの戦闘力を持つ者や、訓練を積み捕まっても口を割らない者も増えているなどテロ組織としての力も増しているため、警察やFBIも捜索に手を焼いている。

書誌情報

ダーウィン事変 6巻 講談社〈アフタヌーンKC〉

第1巻

(2020-11-20発行、 978-4065213988)

第2巻

(2021-05-21発行、 978-4065233146)

第3巻

(2021-11-22発行、 978-4065257784)

第4巻

(2022-04-21発行、 978-4065279465)

第5巻

(2023-03-23発行、 978-4065310267)

第6巻

(2023-11-22発行、 978-4065336878)

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