あらすじ
ある日、フラワーショップ「百花(ひゃっか)」に常連客の都がやって来た。都が来店する際は、顔に酷(ひど)い傷を負っていることが多く、花屋はその理由を尋ねるものの、彼女は笑顔で多くを語ろうとしない。そんな彼女をいつもどおり見送った花屋だったが、彼の裏の顔は狙った獲物を確実に仕留める凄腕のヒットマンだった。そして花屋は、故人であり、かつて都と同居していたヤクザの組長から、彼女を守るように依頼を受けていた。(第一話「赤いゼラニウム」)
登場人物・キャラクター
花屋 (はなや)
フラワーショップ「百花(ひゃっか)」で働く青年。フラワーショップのスタッフは表の顔で、裏の顔は狙った獲物は確実に仕留めるヒットマン。裏社会では伝説的な存在として語り継がれており、一部では都市伝説ではないかと噂されているほど。依頼の方法は「百花」の店頭で、花屋に白い花をオーダーすること。また、花屋が依頼を成し遂げたあとには、殺害現場にターゲットとなった悪党に似合う花言葉を持つ花を散らして去るという、独自の美学を持つ。一般客には丁寧で親切な対応をするが、裏社会の人間には極悪非道な一面を隠すことなく、いっさい情をかけない冷酷な対応をとる。本名や生い立ちなど、すべて謎に包まれている。花屋を知っている一部の者からは、「スノードロップ」とも呼ばれている。
都 (みやこ)
故人であるヤクザの組長の男性と同居していた女性。組長が亡くなったあと、財産を狙った元部下たちの襲撃を受け、たびたび暴力を振るわれ、薬物の投与も受けて拷問されている。組長に供える花を購入するため、花屋が働くフラワーショップ「百花(ひゃっか)」の常連客となっている。組長とは親子ほど年が離れていたが、お互いに純粋に愛し合っており、穏やかに暮らしていた。組長とは金銭目当てで交際していたわけではないため、財産の在処(ありか)は知らない。
三上 加奈 (みかみ かな)
加奈の父と共に暮らす女子高校生。母親が病気のために急死するも、つねに家庭よりも仕事を優先していた加奈の父を恨んでいる。そのため、母親がいなくなってからは自宅には寄り付かず、家出を繰り返している。そんな中、街のチンピラ男性と交際するようになり、騙(だま)されて人身売買の餌食になってしまう。加奈の父と確執があるために言葉遣いも態度も悪いが、本来は親思いで優しい性格の持ち主。
加奈の父 (かなのちち)
三上加奈の父親。妻を病気で亡くしている。家庭はすべて妻に任せ、どんな時でも仕事を優先してきたことから、二人暮らしになった加奈とのあいだにすれ違いが生じている。加奈の友達から彼女が街のチンピラ男と交際していると聞き、そのまま行方不明になった事件を追っている中で、偶然花屋と知り合う。加奈には素っ気ない態度を取ることも多いが、年頃の娘とどう向き合っていいのかわからないだけで、彼女の幸せを心から願っている。
金田 菊花 (かねだ きっか)
高級ナイトクラブでホステスとして働いている若い女性。偶然、フラワーショップ「百花(ひゃっか)」を訪れたことで、花屋と知り合いになる。幼い頃に両親が亡くなり、代わりに育ててくれた姉の金田真理亜を尊敬していたが、姉は横領事件の犯人の汚名を着せられたうえに、事件を隠蔽するために自殺に追い込まれてしまう。姉を自殺に追い込んだ犯人を探すため、夜の世界で働いている。源氏名は「マリー」で、真理亜の名前のもとになっている「マリーゴールド」が由来。
金田 真理亜 (かねだ まりあ)
金田菊花の姉で故人。幼い頃に両親が亡くなったことから、親の代わりに妹の菊花を必死に育ててきた。やっと就職した会社で上司の横領に気づき、本人に指摘したところ、逆に犯人に仕立て上げられてしまう。事件を隠蔽するための濡れ衣を着せられ、菊花に迷惑をかけたくない思いから、電車に身を投げて自殺する。名前の由来は「マリーゴールド」で、菊花にとって思い出の花となっている。
香田 (こうだ)
矢野あかねの婚約者の男性。フラワーショップ「百花(ひゃっか)」の客で、花屋とは顔見知りの間柄。いつもは花を購入していたが、花屋が凄腕のヒットマンだと知り、依頼を持ちかけた。あかねが財前佳王に殺害された証拠があるにもかかわらず、財前は逮捕されながらもすぐに無罪で釈放されたことから、深い恨みを抱いている。
矢野 あかね (やの あかね)
財前佳王の秘書を務めていた女性。香田の婚約者。美しく聡明な人物で、財前からは仕事のパートナーだけでなく、一人の女性としても気に入られていた。それが災いして、結婚前に身体の関係を持とうと財前から強引にせまられ、断ったことから殺害されてしまう。香田との結婚を楽しみにしており、ウエディングドレスも用意していた。
財前 佳王 (ざいぜん よしきみ)
代議士をしている中年の男性。国のトップの官僚たちとも太いコネクションを持っている。財前佳王自身の秘書をしていた矢野あかねを仕事のパートナーとしてだけではなく、一人の女性としても気に入っており、香田と結婚する前に身体の関係を持とうと強引にせまるが、彼女に断られてしまう。自らのプライドを傷つけられたことから、その場であかねを殺害した。一度は逮捕されたものの、財前自身のコネクションを駆使して無罪放免されている。香田からの依頼で、花屋のターゲットとなる。
三輪 (みわ)
ヤクザの若頭のもとで働いている男性。もともとは街のチンピラだったが組長に拾われ、そのままヤクザになった。組長から若頭のもとに就くように命じられたものの、若頭が恩義のある組長を陥れようとしていると知り、思い悩むようになる。また、佳乃というカタギの彼女もできたことから、組を抜ける条件として出された花屋を殺害する計画に加担する。
佳乃 (よしの)
ヤクザの三輪と交際している女性。ファミリーレストランで働いている。勤務中に客としてやって来た三輪に一目ぼれされ、付き合うようになる。まるでアイドルのようなかわいらしい容姿で、明るく穏やかな性格の持ち主。三輪といっしょに幸せな家庭を築くこと夢見ており、できればヤクザの世界と縁を切って欲しいと望んでいる。
アリサ
スナックを経営している女性。フラワーショップ「百花(ひゃっか)」に店内に飾る花をたびたびオーダーしていることから、花屋とは親しい間柄。小学生の息子がいたが、5年前に青信号で横断していた際に、警視総監の息子である渡部浩司が運転していた車にひき逃げされ、そのまま亡くなってしまう。何をしても渡部の背後にある巨大な権力にはあらがえないとあきらめかけていたが、花屋から後押しされる形で、殺害の依頼をすることになる。ただし、息子がいなくなる寂しさを知っていることから、花屋には無理をしないで欲しいとも思っており、複雑な感情を抱いている。
渡部 浩司 (わたべ こうじ)
警視総監の息子。犯罪行為を繰り返している。父親の権力ですべての悪事をもみ消されており、青信号を横断中のアリサの息子をひき逃げして死亡させたり、女性に対して激しい暴行を振るうなど、さまざまな人間から恨みを買っている。人が自分のせいで苦しんでいる姿を見ても何も感じない、極悪非道な人物。アリサが花屋に殺害を依頼したことで、ターゲットとなる。