概要・あらすじ
ある夜、牛松家で彼女の松田に別れ話を切り出した佐藤清高は、今年の夏に車の免許を取りたいと語る。しかし、山と畑に囲まれた田舎町では近くに教習所はなく、教習所を決められぬまま、清高は松田と別れた。その後、ひとり自転車で暗い畦道を走っていた清高は、突然車にはねられてしまう。そのまま車のトランクに押し込められた清高は、見たこともない建物の前へと連れて来られる。
その建物は、木札に森山中教習所と書かれていた。清高を連れてきた男は、事故の慰謝料として、教習所に無料で入所させてやると語る。彼の口車に乗った清高の、一癖も二癖もある人々に囲まれた森山中教習所での生活が始まる。
登場人物・キャラクター
佐藤 清高 (さとう きよたか)
大学の文学部に所属する20歳の男性。黒髪の短髪で、前髪を右に流している。Tシャツに、ジーパンや短パンを着用することが多い。作家を目指しており、将来は車で旅をする作家になるのが夢。轟木とは高校の同級生で、同じクラスになったときに、一度だけ教室で会話をしたことがある。自転車に乗って帰宅しているときに車にはねられ、いつのまにか連れてこられた森山中教習所に、入所することになった。 あまり深く考えず、思ったことをそのまま口に出してしまう性格。
轟木 (とどろき)
20歳の男性。佐藤清高の高校の同級生。白髪で前髪を真っ直ぐに切りそろえた短髪。ワイシャツにスラックスという服装が多く、ときどきネクタイを締めている。物静かな性格から、清高に一度だけ声をかけられたことがあるだけ。他のクラスメイトからは、一度も声をかけられることがなかった。趣味は読書で、海外小説から護身術の実用書まで、幅広く読んでいる。 喧嘩が強く、高校時代に複数の高校生に絡まれたても、1人で全員返り討ちにした。そこをヤクザの社長に偶然目撃され、それがきっかけでヤクザになった。無免許運転中に、助手席にいた社長から、車の免許を取りにいくよう命令され、森山中教習所に入所することになる。
サキ
森山中教習所の教官。28歳の女性。黒髪の短髪で前髪を左右に分けており、ポロシャツやTシャツに、ジーパンやハーフパンツを着用することが多い。ときどき、日差し避けに帽子をかぶることもある。母親のトキと父親のイイチロー、息子のタカシと一緒に、森山中教習所で生活している。かつて夫に浮気され、それが原因で離婚している。 一時期は死ぬことも考えていた。しかし、既にお腹の中にタカシがおり、彼を出産した後は、生まれ変わったように、子育てを満喫している。
ヤクザの社長 (やくざのしゃちょう)
ヤクザの男性。部下からは「社長」と呼ばれている。白髪で前髪を左に流してセットし、眼鏡をかけている。基本的にスーツを着用しているが、半袖シャツにスラックスというときもある。両肩に刺青があり、シャツの下には防弾チョッキを着込んでいる。外見はごく一般的なサラリーマンに見えるが、極東会というヤクザ組織をまとめ上げる存在。 車を無免許運転させていた部下の轟木が、佐藤清高をはねてしまったため、清高をトランクに押し込んで森山中教習所に連れて行き、そのまま轟木と共に教習所に入所させた。
松田 (まつだ)
佐藤清高の元彼女。黒髪のおかっぱ頭で、前髪を眉毛の上で切りそろえており、ボーダーのシャツにジーパンをあわせたり、ワンピースを着用している。牛松家で清高に振られてしまい、顔中を涙と鼻水まみれにしていた。清高から、教習所に通い始めたというメールが届いたとき、免許が取れたらドライブに行きたいと返信した。別れた後に偶然町で会ったときにも、牛松屋で一緒に食事をしたりと、その後も清高への未練を残している。
トキ
森山中教習所の教官の女性。サキの母親。長い黒髪にパーマをかけており、前髪は目の上で切りそろえている。森山中教習所の教官で夫のイイチローと、娘のサキ、孫のタカシと共に、森山中教習所で生活している。教習の予定がない日は、裏山で農作業をしたり、ダンス教室に通ったりしている。
タカシ
森山中教習所に住んでいる少年。サキの息子。短髪で、ランニングシャツに短パンという服装でいることが多い。森山教習所で、祖父母のイイチローとトキ、母親のサキと共に生活をしている。実技講習中の車の中に隠れ、運転中に突然声を出して驚かせたりするイタズラ好き。昆虫が大好きで、皆で山に行くことになったときは、クワガタを取ると言って、虫籠と虫捕り網を手に張り切っていた。
イイチロー
サキの父親。上唇の上と顎に髭を生やし、黒髪の長髪で、キツめのパーマをかけてモジャモジャにしている。普段はタクシーの運転手として働いているが、ときどき森山中教習所の教官として講習を行うこともある。お得意先であるヤクザの社長とは30年来の付き合い。当時命を狙われていた彼を、タクシーに乗せて助けたことがきっかけで、命の恩人として恩義を受けている。 現在の住まいである森山中教習所には、ヤクザの社長の計らいで住まわせてもらっている。
清高の母親 (きよたかのははおや)
専業主婦の女性。佐藤清高の母親。中肉中背で長い黒髪にパーマをかけている。佐藤家の家事全般をこなしている。清高の父親が、今年の春に会社をリストラされて以来、清高の母親に対して暴力を振るうようになった。そのせいで手首に包帯を巻いたり、顔や腕に痣を作っている。
清高の父親 (きよたかのちちおや)
無職の男性。佐藤清高の父親。恰幅が良く、五分刈りの頭をしている。不況のあおりを受けて、今年の春から大手企業のリストラを余儀なくされ、職安に通う日々が続いている。自宅では何をするでもなくテレビゲームをしており、家族からは腫れ物に触るように扱われている。時折癇癪を起こし、物や清高の母親にあたることがある。
集団・組織
極東会 (きょくとうかい)
ヤクザの社長がまとめているヤクザの組織。轟木もこの組織の一員。30年前、ヤクザの社長を中心に、現在の組織が結成された。主に金貸しの業務を行っており、定期的に組の定例会が行われている。
場所
森山中教習所 (もりやまちゅうきょうしゅうじょ)
普通自動車免許の教習所。以前は私立校で民間人が経営していたが、その後、経営が上手くいかなくなって破綻。当時の経営者に金を貸していたヤクザの社長が、借金のカタに学校を手に入れた。その後、得意先のタクシー運転手であるイイチローが家族と共に住まわせてもらうことになった。現在は非公認教習所として、トキとサキが教官として講習を行っている。 建物には、森山中教習所と書かれた木札の看板が下がっている。ラジオ体操の出席カードを、手書きで書き換えて教習カードとして使用している。建物は以前の私立校のときのままを使用。実技講習は、建物の前の校庭に三角コーンを立て、ラインを引いて講習を行っている。週に一度は、公認中央自動車教習所に遠征に行かせている。
牛松家 (うしまつや)
牛丼屋。佐藤清高が松田に別れ話をしていた場所。2人が食事に行くのは決まってここ。24時間営業で、280円の牛丼の並盛り以外に、豚丼、カレーといったメニューもある。レンガ造りの建物で、店員は襟付きのユニフォームと、牛松家と胸元に大きく書かれたエプロンを着用している。親切、安心、うまい、をモットーにしていると、店内アナウンスで宣伝している。