死もまた死するものなれば

死もまた死するものなれば

伊豆の寂れた観光地にあるミナカミホテルで、謎めいた行方不明事件が発生する。ホテルの支配人・斯道二束から依頼を受けた探偵・久々湊錠は、偶然知り合った女子高校生・一望寺晴と共に調査を進めていく。しかし、ホテル内で三門夢路の遺体が発見されたことで、事態は異形の怪物が介入する急展開を迎える。謎の姉弟・加古小海、加古るぅも加わり、さまざまな都市伝説の怪異に挑む姿を描いたホラーミステリー。物語の世界観は、KADOKAWAエンターブレインから刊行されたTRPGシステム「クトゥルフ神話TRPG」をベースとしている。「月刊ドラゴンエイジ」2018年12月号から2021年2月号にかけて掲載された作品。

正式名称
死もまた死するものなれば
ふりがな
しもまたしするものなれば
原作者
海法 紀光
原作者
桜井 光
作画
ジャンル
探偵
 
超常現象・UMA
レーベル
ドラゴンコミックスエイジ(KADOKAWA)
巻数
全4巻完結
関連商品
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世界観

本作『死もまた死するものなれば』の舞台は現代の日本だが、地球温暖化による急激な水位上昇の影響で海面が上がり、日本は国土が半分ほどになっている。実は表ざたにされていないが、かつて1999年7月某日、南緯47度9分、西経126度43分の太平洋上に海底神殿(ルルイエ)が浮上を開始。海底神殿が完全に浮上すると、神話存在である旧支配者(グレート・オールド・ワン)「クトゥルフ」が目覚めて世界が終わりを迎えるとされており、人類はなんとしてもこれを阻止せねばならない状況にあった。そして、数千年の時を積み重ねた人類が出した答えは人身供犠で、流(現在の加古るぅ)や杉鎬京ら五人の有力な探索者が見守る中、人身供犠のためだけに生み出され、育てられた少女・加古小海が生贄として海中に投じられた。これによってクトゥルフの封印は成功するかに思われたが、術式は失敗に終わる。クトゥルフは小海自身に降りて邪気はあふれ、時と世界は狂い出す。それに危機感を覚えた五人の探索者たちは世界を守るため、クトゥルフが目覚めきる前に小海を食らい、それぞれの身に摂取することでクトゥルフの力を分割した。その結果、世界は守られたが、流以外の四人の探索者たちは正気を失い、怪神となり果ててしまう。そしてそれ以来、都市伝説的な怪異が世界各地で頻繁に起きるようになる。そのほとんどが、さまざまな神話存在によるものだが、それを理解しているのは探索者のみで、一般人には真実は伏せられていた。また、最近は原種となる神話存在以外にも、人間との交配によって突然変異した神話的存在の変異種が多数確認されている。

あらすじ

ミナカミ様

地球温暖化による急激な水位上昇で、日本の国土は半分になっていた。この影響によって寂れてしまった伊豆の観光地にあるミナカミホテルでは、相次ぐ行方不明事件が発生していた。ホテルの支配人・斯道二束から依頼を受けた探偵・久々湊錠は、真相解明のために訪れた伊豆の地で、いきなり女子高校生の一望寺晴に声をかけられる。晴は久々湊を強引に丸め込み、一方的に探偵の助手になることを決めて、二人でミナカミホテルへと向かう。そこにいたのは、幼さの残る加古小海加古るぅの姉弟、コワモテのヤクザ・権藤玲二、民俗学者・神駕団という四人の怪しい宿泊客たちと、ホテル従業員・三門夢路と支配人・斯道の六人だった。久々湊は、それぞれに話を聞きながら、事件の真相を明らかにしようと動き始める。その夜、降り続いた雨によって自宅に帰れなくなってしまった晴は、久々湊と共にホテルにとどまることとなる。そして晴は、加古姉弟とかかわるうちに彼女たちに同情し、久々湊に二人を助けてあげてほしいと正式に依頼し、久々湊はしぶしぶその依頼を引き受ける。その翌日、ホテルの地下ガレージで三門の死体が発見される。状況的にホテル内の誰かによる犯行である可能性が高く、久々湊は今手元にある情報だけを頼りに、リスクを承知で権藤にはったりをかけるが、うまくかわされてしまう。権藤が部屋を出た直後、聞こえてきた銃声に驚いた久々湊と晴が権藤の部屋へと急ぐと、そこには権藤が変わり果てた姿で横たわっていた。そして何者かの気配に気づいた久々湊が、即座に晴を部屋から押し出し、ドアから遠ざける。次の瞬間、晴が目にしたのは、拳銃で応戦する久々湊が不穏な音と共に床に倒れ込む姿だった。そして倒れた久々湊の体には、あるはずの頭部が失われていた。

ゆめみせるつの

ミナカミホテルでの事件後、一望寺晴のもとに加古小海加古るぅから引っ越しのお知らせが届く。晴は伊豆から東京に上京し、案内地図どおりに二人の家へと向かう。迷いながらなんとか辿り着くと、二人は亡き久々湊錠の親族を名乗り、探偵事務所を引き継いでいた。晴が呼ばれた理由は、短期間であったが久々湊の探偵助手を務めていた経験者として、サポートしてほしいというものだった。晴は困惑しながらも殺風景な事務所を見渡し、誰にも違和感を持たれない探偵事務所にするべく、的確に指示を始める。小海とるぅが、事務所に足りないものを買い出しに出かけると、晴は一人事務所に残されることになる。事務所を隅々まで見て回った晴は、そこにかすかなタバコのにおいを感じ、確かに久々湊が存在したことに思いを馳せる。その時、ふと部屋の隅に光る何かがあることに気づいた晴は、その布を外し、置物のようなものに手を触れる。すると次の瞬間、視界はぐにゃりと歪み、晴は今いたはずの探偵事務所とはまったく違う、地の底のような薄暗い場所に自分がいることに驚く。そして、何かの鳴き声が聞こえた瞬間、地面から突然芋虫のような怪物・地を穿つ魔の触手が晴に襲い掛かる。

空を仰ぐ

一望寺晴は、加古小海加古るぅに同行し、とある町に都市伝説の調査にやって来た。そこには、人の背丈の倍ほどもあるおばけススキが確認され、話題となっている。電車やバスを乗り継ぎ、田んぼと畑ばかりののどかな町にやって来た一行は、そこでうずくまる少女を目撃する。彼女は恐怖に震えながら父親が蒸発したことを訴えるが、まさに水分が蒸発するかのように消えてしまう。その後、付近一帯に人影がないことを確認し、晴がるぅにうながされるまま暗視スコープで周囲を見ると、そこで巨大な人型の影のようなものを複数確認する。その正体は、肉眼で見てしまうと頭がおかしくなり、死んでしまうことで知られるくねくねだった。三人は、くねくねと遭遇しないようにスコープで確認し、安全を確保しながら移動していく。異常に成長したススキや、現場で見かけた頭が二つあるトンボなどは、まさにくねくねが存在している証だった。通常の大きさを超える巨大な体軀のくねくねに、何か突然変異の原因をつくったものがあるはずと考えた一行は、晴の調査で近隣にある京王大学核物理研究所の存在にたどり着く。晴は二人と共に研究所を訪れると、そこにはまったく人の気配が感じられなかった。しかしエントランスの柱に、所長・美馬下一の死体が縛り付けられているのを発見する。そして次の瞬間、姿を現した研究者・台田独歩から話しかけられ、三人は突然襲われる。

じさい

一望寺晴は、加古小海加古るぅと共に新幹線で東京に向かっていた。しかし東京の手前、品川水上駅で新幹線が車両点検のため停止する。在来線もすべて止まっていることで、晴は駅員の案内で水上バスで東京へ向かうことを決める。水上バスに乗り込んだ晴がデッキに出ると、そこで帽子を目深にかぶった中年男性・雨下次石を目撃する。雨下の手には数取器カウンターが握られており、何かを数えている様子だった。晴はふいに雨下から話しかけられ、この水上バスは乗る乗客と降りる乗客の数が違うことがあると聞かされた晴は、それは何かの事件が起こったのではないかと、雨下の話に食いつく。すると雨下は、大昔は命懸けだった航海が、現代では安全であるといわれることに疑問を呈する。そして、古代文化における「持衰(じさい)」の役割、日本神話のオトタチバナヒメの話などを例に挙げ、海と人身供犠の関係性について語り出す。雨下は自分の話に興味を持ち、まっすぐ海に視線を向けた晴にオトタチバナヒメの姿を重ね合わせ、後ろから静かに近づき、そして晴を海に突き落とそうとする。

見えざるもの

一望寺晴加古小海から協力を求められ、変死体が発見された私立尚友学園に転入生として潜入し、秘密裏に調査を行うことになる。犠牲になったのは3年生の郷木剛で、彼の遺体は全身に文様が描かれた状態で発見された。この事件も怪物が絡んでいるとにらんだ晴は、周囲から情報収集を続ける中で、とある女子生徒の存在を知ることになる。文芸部部長を務める彼女の名は「饗庭紅」。饗庭は品行方正な優等生タイプだったが、一部の女子生徒たちのあいだでは、ひそかに「文芸部の魔女」と呼ばれ、恐れられていた。饗庭に興味を持った晴が詳細を知ろうと奔走していると、連絡先を知らないはずの饗庭から、文芸部の読書会の招待メールが届く。緊張の面持ちで文芸部に向かった晴は、郷木の死に関する饗庭の発言に違和感を覚えつつも、特に何も起こることもなく読書会は終了する。その後、校舎を出た晴は、文芸部の部室から呪文のような声が聞こえ、次の瞬間、無数のスターヴァンパイアが出現。危険を感じた晴は校内を逃げるが、そんな晴を助けてくれたのは、国語教師の杉鎬京だった。杉は現れた怪物の存在を知っているようで、用意していた火炎瓶で応戦し、その後は意識不明となった文芸部員たちを病院に搬送し、てきぱきとその場を収めていく。杉に対して疑問を抱いた晴は彼に何者なのかを問いただすと、杉は自分が元探索者であることを晴に明かすのだった。

事件の真相と過去

真金尽一の協力を得た一望寺晴は、私立尚友学園で起きた一連の事件の首謀者が杉鎬京であることを知る。だが時すでに遅く、杉は連鎖供犠の儀式を完遂し、晴をあざ笑うかのように神話存在の大量発生を成し遂げていた。学内各所で発生した神話存在たちは人間をはじめとするさまざまな生物を食い合い、連鎖供犠はさらに大規模なものとなっていく。そんな地獄のような状況を目の前にした晴は、心が折れて絶望しそうになるが、かつての久々湊錠の言葉を思い出して自分を取り戻し、今自分ができることを精一杯やろうと奮起する。そして助けを求める方喰はこべの手を引き、元気づけながらその場からの逃走を開始する。一方、校庭では自らの力に酔いしれる杉と、駆け付けた加古小海加古るぅが対峙していた。そして杉は、連鎖供犠によって召喚された「凍てつく蒼き炎神(クトゥグア・フリグゥス)」を食べようと、自らも怪神「コメダス・ダモニウム」へと姿を変える。そんな杉に対して、るぅは1999年に杉と加古姉弟たちがかかわることになった、すべてのきっかけとなった事件を語り出す。そしてその言葉によって、杉は忘れてしまっていた過去の記憶を呼び起こすのだった。るぅは、時と世界を蝕む怪物と化してしまったかつての仲間・杉を消し去るため、自らも元の「流」の姿となり、自分の中にある神の力を行使する。時を同じくして、小海は人でないものに姿を変え、晴の前に立ちはだかっていた。そして小海は晴に、意味深な言葉を投げかける。

登場人物・キャラクター

一望寺 晴 (いちぼうじ はるか)

静岡県在住の女子高校生。伊豆にやって来た久々湊錠に声をかけ、彼が探偵と知って興味を抱く。久々湊の目的地であるミナカミホテルまでの道案内をすることとなり、半ば強引に臨時の助手を買って出て、久々湊と行動を共にするようになる。ミナカミホテルでは、相次ぐ失踪事件の調査に同行する中で、子供だけで滞在している加古小海と加古るぅのことを気にかけるようになり、二人を助けてほしいと久々湊に依頼した。依頼料は働いて返すことを久々湊に約束したが、その後久々湊が死亡したことで、小海とるうの二人は久々湊の探偵業を引き継ぐことになる。そして、一望寺晴が二人とかかわるようになり、ふだんなら目にしないような怪物と行く先々で遭遇したり、危険な目に遭ったりすることも多くなる。しかし、死んだはずの久々湊が自らの前に姿を現し、その度に助けてもらっているため、晴にとって久々湊の存在が大きな支えになっている。久々湊とは短期間の付き合いながら、つねに依頼人の味方であることを信条に行動する久々湊の考え方に強く同調し、その考えにのっとった行動を意識している。実は母親を首つり自殺で亡くしており、遺体の第一発見者となった。そのため、その後は悲しさや虚しさ、行き場のない怒りや恐怖から目をそらすようになった。クラスメートの男子から「イチボ」と呼ばれている。友だちの海野美保は「カイノミ」、富筋夕子は「ミスジ」と肉の希少部位と同じ音から、三人合わせて「肉トリオ」「盛り合わせ」といった不名誉なあだ名を付けられていた。

久々湊 錠 (くぐみ じょう)

探偵を生業とする男性。懐にはつねにライターと拳銃を忍ばせている。ホテルの支配人・斯道二束からの依頼を受け、行方不明事件の捜査のためにミナカミホテルを訪れた。その道中で一望寺晴から声をかけられ、半ば強引に丸め込められて彼女を探偵助手にすることを了承し、晴と行動を共にする。晴からは「探偵さん」と呼ばれている。つねに依頼人の味方であることを信条に行動しており、ぶっきらぼうな言動ながらも人情に厚い。ミナカミホテルでは、短期間で相次いで行方不明となった事件について、ホテルの関係者である斯道と三門夢路、宿泊客の加古小海と加古るぅ、権藤玲二、神駕団に対して調査を開始する。そんな中、幼さの残る小海、るぅを心配した晴から、二人を守ってほしいと依頼され、正式に引き受けることを決めた。その後、三門の死体が発見されたことで状況が一変し、突然現れたディープワン・カエトゥスと遭遇。晴を守りながら応戦したが、ディープワン・カエトゥスに首を落とされて死亡。表向きにはミナカミホテルの事件で行方不明になったとされているものの、実は小海の不思議な力によって人知れず生き返っている。その後は晴のピンチのときに姿を現し、彼女の力となって晴を支える存在となる。この行動は、久々湊を生き返らせた小海にも、正確には把握されていない様子がある。東京には久々湊錠自身の探偵事務所を構えており、情報提供者として真金尽一と丹羽戦の二人に探偵業をサポートしてもらっていた。ミナカミホテルでの捜査の最中、真金と丹羽に、自分に何かあったときは晴の面倒を見てほしいとメールを送った。

加古 小海 (かこ さうみ)

年齢は不明ながら、幼さの残る華奢な少女。加古るぅの姉として振る舞っているが、実際に血のつながりはない。ミナカミホテルにるぅと共に滞在中、一望寺晴、久々湊錠と出会った。ミナカミホテルの事件後、るぅと二人で東京に向かい、久々湊の遺族になりすまして、彼の遺産を相続する形で探偵事務所を引き継いだ。その後は事務所に移り住み、「久々湊小海探偵事務所」を立ち上げて探偵業を始めた。そんな中、晴に連絡を取り、短期間とはいえ探偵助手の経験を持つ彼女を頼るようになった。それからは、さまざまな怪物と対峙することになるが、つねにるぅと晴と行動を共にし、解決に導く。謎多き存在ではあるが、実は1999年7月某日、神話存在の旧支配者(グレート・オールド・ワン)「クトゥルフ」が目を覚ましそうになった際に人身供犠となった存在で、五人の探索者たちが見守る中、海中に身を投じた。しかしクトゥルフの封じ込めに失敗し、加古小海自身にクトゥルフが降りる結果となったため、同席していた流(現在のるぅ)や杉鎬京たち五人の探索者たちによって食べられ、クトゥルフの力はそれぞれに分割されることとなった。そのため、自身の中には六分の一のクトゥルフが存在しており、それを維持するためには、時に神話存在である怪物を捕食することが必要な状態にある。1993年に卒業した私立尚友学園のアルバムに写真が掲載されているが、30年以上経っているにもかかわらず、外見は当時とまったく変わっていない。

加古 るぅ (かこ るぅ)

年齢は不明ながら、小学生くらいに見える少年。加古小海の弟として振る舞っているが、実際に血のつながりはない。ミナカミホテルに小海と共に滞在中、一望寺晴、久々湊錠と出会った。ミナカミホテルの事件後、小海と共に東京にある久々湊の事務所に移り住み、探偵業を営むことになる。それ以来、協力者の晴と行動を共にすることになるが、晴を事件に巻き込んで危険な目に遭わせることに難色を示しており、晴には身を引いてほしいと思っている。かつて1999年7月某日、神話存在の旧支配者(グレート・オールド・ワン)「クトゥルフ」が目を覚ますのを防ぐために、小海を生贄に利用することになったが、その際に探索者の青年「流」として現場に居合わせた。しかしクトゥルフの封じ込めに失敗し、小海自身にクトゥルフが降りる結果となったため、自分を含む五人の探索者全員で小海を食べ、クトゥルフが目覚めきる前にそれぞれの身に取り込み、クトゥルフの力を分割することに成功した。その当時、流は大人の姿だったが、現在はその姿を偽って少年として日常を送っている。自らに宿した神の力が発現する際は、流の姿に戻る。ふだんは物静かで、何を考えているのかわからないところがあるが、神話存在への深い憎しみを心に抱いている。かつて五人の探索者に共通していた「神を殺す」という真の目的を、忘れることなく遂行しようとしている唯一の存在でもある。

斯道 二束 (しどう ふつつか)

ミナカミホテルの支配人を務める男性。5日前に妻が突然姿を消し、その2日後に若い女性客も夜中に姿を消した。警察に捜索を依頼するものの、事件性が薄いことから捜査は開始されず、個人的に久々湊錠に捜査を依頼した。その翌日、ホテルの地下ガレージで、三門夢路の遺体が発見される。さらに、ディープワン・カエトゥスの姿を確認し、一望寺晴、加古小海、加古るぅと協力し、ホテルにあるものを駆使してディープワン・カエトゥスを退治すべく共に戦った。

三門 夢路 (みかど はるか)

ミナカミホテルの従業員の男性。ホテルに滞在中の客の詳細を把握している。ある日、内側から施錠された地下ガレージ内で変死体となって発見され、遺体には複数の切創があった。実は、権藤玲二とつながりを持ち、裏で人身売買に協力していた。権藤と密会するために地下ガレージに行った際、排水溝を潜り抜けてきたディープワン・カエトゥスに襲われ、殺害される。

権藤 玲二 (ごんどう れいじ)

ミナカミホテルに滞在中の男性客。現在は長期休暇中で、ホテルの滞在は12日目。オールバックの強面で、ストライプのスーツを身につけている。子供の頃に世話になった伊豆で、おいしい魚を食べ、酒を飲んで海を眺めるためにやって来たと主張している。その正体は指定暴力団「侠翠会」に所属するヤクザで、懐には拳銃を忍ばせている。寂れた観光地のホテルを狩場にし、女性を中東に売りさばく人身売買を行っている。斯道二束の妻が失踪した日と、女性客が失踪した日に多額の金が銀行口座に振り込まれていることから、一連の行方不明事件にかかわっている可能性があると、久々湊錠に疑われる。久々湊から問い詰められるものの、適当な理由をつけてのらりくらりと疑惑を払拭する。警察も買収済みのため、余裕の笑みを浮かべている。だがその直後、銃声と共に遺体となって発見される。

神駕 団 (じんが だん)

ミナカミホテルに滞在中の男性客。民俗学者を務めている。ホテルの滞在は8日目。長めの髪を後ろで一つにまとめ、眼鏡をかけている。周辺の土地に興味を持っており、特に地元の人々が信仰する漁の神「ミナカミ様」について深い関心を寄せている。ある時、大きな音がしたために権藤玲二の部屋へ向かい、ディープワン・カエトゥスに遭遇して襲われた。部屋から逃げ出し、一望寺晴、加古小海、加古るぅ、斯道二束と合流するものの、ディープワン・カエトゥスに卵を産み付けられた末に、幼生に内臓を食い尽くされて死亡した。

ディープワン・カエトゥス

神話存在「深きもの」の変異種。「水より来たるもの、鱗あるもの、限りなく喰らい、育ち、やがて聳え立つもの」という言葉で表現される。二足歩行の人間型の凶悪な怪物で、魚類や爬虫類の特徴を併せ持った外見をしている。巨大な体軀で、硬質な皮膚と強靭な筋肉を持つため、ふつうの拳銃では傷一つ付けることができず、ダメージを与えるためには最低でも12ゲージのスラッグ弾を必要とする。一方で骨格は非常に軟らかく、排水溝を潜り抜けて移動することができる。古くから土地の人間に「ミナカミ様」と呼ばれていた存在で、加古小海たちには「深きもの」と呼ばれることがある。しかし、実際は深きものが異類婚姻したことによって変異した亜種「ディープワン・カエトゥス」で、もともとの深きものとは異なる。人間の体内に卵を産み付け、カニのような幼生を寄生させることで増殖する性質を持ち、その幼生は宿主の内臓を食い尽くし、殺してしまう。

地を穿つ魔 (しゅど める)

芋虫のような姿の神話存在。「奥底の大穴、地蟲の王、とおりもの」という言葉で表現される。地下から標的の精神を支配し、足止めしたり呼び寄せたりすることができる怪物。この生物の触覚の欠片で作られた呪具「ゆめみせるつの」に触れると、触れた者に悪夢を見せ、運が悪ければ発狂させることもある。頭部が二つに開き、中には花びら状の触手を隠し持っている。

くねくね

神話存在「宇宙からの色」の変異種。「ゆらめくもの、丈高くあるもの、時に聳え立つもの」という言葉で表現される。肉眼ではほとんど見ることはできないが、かすかに地面から立ち上る煙、あるいはくねくねと揺れる人影のように見えることもある。また、赤外線暗視装置では強い反応を示す。もともと、宇宙からの色は「空から降りて地上に来る見えざる色彩」とも表現される神話存在だが、くねくねは通常よりも大きすぎることや、捕食方法も本来の種では見られないため、加古小海らには土地の磁場のゆがみによって突然変異した存在と考えられている。くねくねは、自分を見ている者に対して精神攻撃を行い、人間の命を吸収することで成長し、小さな町なら周囲一帯を廃墟や荒れ地に変えながら、急速に数を増やす傾向にある。命を吸われた人間は、まるで水分が蒸発するように姿が消えてなくなる。

美馬 下一 (みま しもいち)

京王大学核物理研究所の所長を務める中年男性。円系粒子加速器(サイクロトロン)を使った研究グループのリーダーでもある。サイクロトロン稼働の影響により、発生したくねくねの存在に気づき、パソコンに研究したくねくねの記録を綴っていた。その後、1週間ほど研究所を留守にしているあいだに仲間がすべて、くねくねの存在に傾倒した台田独歩のカルト的な考えに妄信し、狂信者の集団と化した。その状況に危機感を覚え、当局への通報を行うべく、2か月に及ぶ全記録をまとめ、サイクロトロンにつながる電源ケーブルを物理的に切断して研究所をあとにしようとした。しかし、それに気づいた台田によって殺害された。死体は研究所の入り口の柱に縛り付けられており、祭壇のようなものが作られている。

台田 独歩 (だいだ どっぽ)

京王大学核物理研究所の研究者を務める男性。独特のカリスマ性を持ち、若くして京王大学の日本有数の設備を任される天才科学者。公私共に挫折を知らない理系エリートだったが、円系粒子加速器(サイクロトロン)稼働によって発生したくねくねの存在を理解できず、古文書を読み漁るうちに、オカルトに傾倒するようになった。それ以来、どんな異常な状況も受け入れるために、自分の認識を書き換えて狂信者となった。台田独歩自身の考えに同調する者たちで周囲を固め、自分の考えに従わない研究者を次々に殺害し、さらに当局へ通報しようとした上司・美馬下一も殺害し、研究所内に死体の山を築いた。その後、誰もいなくなった研究所を訪れた一望寺晴、加古小海、加古るぅたちを、美馬の死体と共に出迎え、襲い掛かる。当初は武器を持って攻撃していたが、その後は手のひらから攻撃魔法のようなものを放つようになる。

雨下 次石 (あめした つぎいし)

海上バスに乗船していた中年男性。帽子を目深にかぶり、手には数取器カウンターを持っており、海上バスに乗った乗客の数と、降りた客の数をカウントしている。偶然乗り合わせた一望寺晴に話しかけ、古代文化における「持衰(じさい)」の役割、日本神話のオトタチバナヒメの話などを例に挙げ、海の危険性や海と人身供犠について嚙んで含めるように説いた。その後、晴にオトタチバナヒメの姿を重ね、船から突き落とそうとしたが、久々湊錠に止められて姿を消した。海上バスでは時折、乗降者数が合わないことがあるが、これは雨下次石自身の手によって海に生贄を捧げていたためである。ただし、つねに記憶喪失状態にあり、自分が生贄を捧げていることすら記憶していない。

方喰 はこべ (かたばみ はこべ)

私立尚友学園の2年B組でクラス委員を務める女子高校生。寮で生活しているが、毎朝早起きして自分で作ったお弁当を持参している。引っ込み思案でおとなしい性格をしている。小学生の頃にいじめを受けた経験があるが、人間不信になることもなく、転入生にも優しく接している。そんな中、転入してきた一望寺晴に不躾な質問ばかりするクラスメートたちの態度について、代わりに謝罪したことをきっかけに晴となかよくなり、食事を共にするなど、いっしょに時間を過ごすようになる。私立尚友学園内で起きた神話存在の大量発生事件に巻き込まれるが、晴に守ってもらったために直接的な被害を受けることはなかった。本の虫ながら、怖い話は苦手。動物好きで、小動物に好かれる性質。

郷木 剛 (ごうき つよし)

私立尚友学園の3年生で、文芸部に所属していた男子高校生。学内で全身に文様が描かれた状態で、遺体となって発見された。遺体の口腔内から喉にかけて猫の死骸が詰め込まれていたが、その事実は、ごく親しかった生徒だけに遺族から伝えられた。

饗庭 紅 (あいば くれない)

私立尚友学園の2年E組に在籍する女子高校生。文芸部に所属しており、部長を務めている。私立尚友学園に転入してきた一望寺晴が、自分に興味を持っていることを知り、彼女を文芸部の読書会に招待した。腰まで伸ばしたロングヘアで、右目尻にほくろがある。幻想文学をこよなく愛し、全国高校文芸コンクールで2年連続入賞という実績を残しており、プライドが高い一方で、実は自己評価は低い。校内の女子生徒たちからは、「文芸部の魔女」と呼ばれて恐れられている。文芸コンクールで受賞してからは言動が一変し、受賞した当時と今では雰囲気がまったく違っている。この世ならぬ風景にあこがれを抱いており、選ばれた者にしか見えない風景を目にしたいという願望が強いが、文学界の巨匠にあこがれるあまり、自らの才能に絶望している。巨匠が見ていたであろう風景を見たいがため、オカルトの世界に足を踏み入れた。そんな中、幻想文学書「黄衣の王」を何者かにより供与され、この中に記載されている連鎖供犠による召喚魔術を実施するように仕向けられ、私立尚友学園内で起きた神話存在の大量発生事件を引き起こすきっかけをつくった。これによって召喚されたスターヴァンパイアに血を吸われ、救急搬送されることとなるが、大事には至らなかった。

スターヴァンパイア

神話存在「スターヴァンパイア」の変異種。星の形をしているため、別名「星の精」とも呼ばれる。通常は可視光線に対して透明のため、姿を目視することはできないが、血を吸ったときにのみ姿が浮き出る。人間に飛びつき、血を吸うことで捕食する。私立尚友学園の文芸部部室で何者かに召喚され、大量に姿を現した。通常のスターヴァンパイアよりも体が小さいため、杉鎬京には、私立尚友学園に出現したスターヴァンパイアは変異種だと考えられている。

杉 鎬京 (すぎ こうけい)

私立尚友学園で国語の教師を務める男性。学内では文芸部の活動や饗庭紅の行動に注視している。そんな中、転入してきた一望寺晴が文芸部の動向について調べていることに気づき、声をかけた。その後、スターヴァンパイアと遭遇し、逃げ場を失った晴を助けてスターヴァンパイアの被害に遭った生徒を病院に搬送するなどして、その場を収めた。その際、晴に自分が探索者であることを明かした。1999年7月某日、神話存在の旧支配者(グレート・オールド・ワン)「クトゥルフ」が目を覚ますのを防ぐため、加古小海を生贄とする作戦が行われた際、探索者として現場に居合わせた。だが、クトゥルフの封じ込めに失敗し、小海にクトゥルフが降りる結果となったため、世界を守る目的で自分を含めた五人の探索者全員で小海を食べ、クトゥルフが目覚めきる前にそれぞれの身に取り込んだ。これにより、クトゥルフの力を分割することに成功した。ちなみに1993年に尚友学園の卒業アルバムに教師として写真が掲載されているが、30年以上前にもかかわらず今も外見は当時と変わっていない。実はクトゥルフの力を取り込んだことで怪神「コメダス・ダモニウム」となり、すでに精神にも異常をきたしている。そのため、かつて流(現在の加古るぅ)をはじめとする探索者たちと交わした、「神を殺す」という目的も忘れている。実は、饗庭に幻想文学書「黄衣の王」を供与し、饗庭が連鎖供犠による召喚魔術を実施するように仕向けた張本人でもあり、これによって呼び出した神話存在に人を食わせたうえで、それを殺すことで連鎖供犠を自動化しようと考えていた。その最終目的は、より多くの生贄を捧げることで旧支配者に比肩する力を持つ神話存在を召喚し、クトゥルフの時と同様に「神を食う」ことである。

真金 尽一 (まがね じんいち)

久々湊錠の仲間の一人で、アウトドア系ハッカーの男性。バックパッカーで、世界中を旅して各地の郷土料理のレシピを収集しているが、探偵からの依頼を受けて情報を提供する情報屋としても活動している。情報収集能力に長けているが、どちらかといえば足で情報を得ることを信条としている。丹羽戦とコンビを組むことで広範囲にわたる情報収集にも対応している。久々湊とは、ミナカミホテルの行方不明事件の調査に向かった時以来、2か月間連絡が取れなくなっているため、緊急事態と判断している。久々湊からの、自分にもしものことがあったら一望寺晴の面倒を見てほしいという言伝を実行すべく、晴に連絡を取った。晴に対して、久々湊が伊豆で死んだのかどうかの確認と、久々湊の探偵事務所を乗っ取っている者たちに心当たりがないかを確認した。そして晴から答えを聞いて、晴がウソの下手な子だということだけは理解した。その後、晴から個人的に緊急調査の依頼を受け、文学書「黄衣の王」に記載されている儀式の詳細についてと、加古小海という人物について調査した。

丹羽 戦 (たんば さきもり)

久々湊錠の仲間の一人で、インドア系ハッカーの女性。コンピューターに向かう際は、椅子の上に体育座りの姿勢で座るという、独特のスタイルを取る。基本的には部屋にこもり、栄養ドリンクとジャンクフードを無限に消費している。真金尽一とコンビを組むことで、自分にはない機動力を手に入れている。久々湊とは、ミナカミホテルの行方不明事件の調査に向かった時以来、2か月間連絡が取れなくなっているため、緊急事態と判断している。久々湊からの、自分にもしものことがあったら一望寺晴の面倒を見てほしいという言伝を実行すべく、真金を通じて晴に連絡を取った。かつて自室を襲撃された経験があり、それからは週一で道場に通っている。

場所

ミナカミホテル

伊豆にある寂れた宿泊施設。高台に建っているため、地球温暖化による水位上昇で国土が半分になった現在も、その影響は最小限に留まっている。だが、雨が降ると水位が上がり、高台までの道が水没するために陸の孤島状態となる。戦国時代、北条氏の配下・江川氏が建設した枝城で、戦前には財閥所有のお屋敷として使用された建物。支配人を務める斯道二束の妻が突然行方不明になったことをきっかけに、若い女性客が夜中に姿を消す事件が続発。その後、従業員の三門夢路が変死体で発見される。

京王大学核物理研究所 (けいおうだいがくかくぶつりけんきゅうじょ)

くねくねの存在が確認された土地にある大学の研究施設。近隣では、最近人の背丈を上回る異常な大きさのおばけススキや、頭が二つあるトンボの存在が確認されている。京王大学核物理研究所にある円系粒子加速器(サイクロトロン)の稼働が磁場を大きく狂わせる原因をつくっており、くねくねの発生や突然変異を引き起こすきっかけとなっている。天才研究者の台田独歩が暴走し、所長の美馬下一が台田の狂気に気づき、当局への通報を行おうとしたが、台田によって殺害された。その後、爆発事故が起きるが、神話存在にかかわることは秘匿され、一般に報道されることはなかった。

私立尚友学園 (しりつしょうゆうがくえん)

東京都内にある男女共学校。学内で3年生の郷木剛が、全身に文様が描かれ、遺体となって発見されるという事件が発生。報道規制によって事件の詳細は明らかにされなかったが、神話存在がらみの事件が起きた可能性が示唆された。その調査のため、一望寺晴が静岡から転入生として潜入し、秘密裏に調査を行った。その後も、神話存在のスターヴァンパイアの発生により、複数の生徒が救急搬送される事態となったが、騒いでいるのは校内の学生だけで、問題を公にしたくない学校側の意向により、世間では大した騒ぎにはならなかった。しかし、これをきっかけに杉鎬京が引き起こした神話存在の大量発生により、結果的に死者53名、行方不明者15名を出す大事件となった。この事件は大きなニュースとなったが、神話存在に関して触れられることはなく、それからも噂になることすらなかった。

その他キーワード

探索者 (たんさくしゃ)

なんらかの事態をきっかけに、古き神にして旧支配者(グレート・オールド・ワン)である「クトゥルフ」をはじめとするさまざまな神話存在について知る者たち。世界の裏にうごめく真実の一端に気づき、さらなる真実を追い求めようとしている。探索者になるには相応の素質が必要で、それぞれに特殊な能力を持っていたり、本人も気づかない呪いをその身に受けていたりすることが多い。

クレジット

原作

海法 紀光 , 桜井 光

協力

モンスターラウンジ

書誌情報

死もまた死するものなれば 全4巻 KADOKAWA〈ドラゴンコミックスエイジ〉

第1巻

(2019-06-08発行、 978-4040731513)

第2巻

(2020-03-09発行、 978-4040735733)

第3巻

(2021-03-09発行、 978-4040740195)

第4巻

(2021-03-09発行、 978-4040740201)

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