あらすじ
きみだけに光かがやく暗黒星
幼少期に見た星に魅せられ、宇宙飛行士になるという夢を持つ瞳島眉美は、14歳の誕生日までに幼い時に見た星を見つけることができなければ、夢をあきらめるという約束を両親と交わしていた。誕生日前日、ついに夢をあきらめなければならない悲しみで夜空を見上げていた眉美は、偶然、校内トラブルを非公式に解決しているという美少年探偵団の団長、双頭院学と出会い、自分たちに眉美の願いを依頼するよう勧められる。才能にあふれ、容姿にも恵まれた学たちに若干の嫌悪感を抱いていたことから、眉美は嫌がらせも兼ねて「かつて見た星の捜索」を依頼する。すると学たちはそれを嬉々として承諾し、即座に眉美を、かつてその星を見たという海岸まで連れ出すのだった。それでも星を見つけることができず、やはり夢をあきらめるしかないかと悲しむ眉美だったが、学は出生した時間である夕方まで時間はあると自信たっぷりに言い放つ。そして、昼間に星が見つかるはずはないという眉美に、美少年探偵団の副団長、咲口長広は驚くべき仮説を展開する。
ぺてん師と空気男と美少年
美少年探偵団に入団し、日常的に男装するようになった瞳島眉美は、見た目以外これまでと変わらない日常を送っていた。そんな中、眉美はある依頼を美少年探偵団へと持ち込む。その内容は、登校中に100万円束を落としたサラリーマンからお礼に10万円をもらったが、このお金をどうすればいいのかというものだった。それを聞いた袋井満は、その時にすぐに追い掛けるべきだったと不満を漏らす。実は満の言うとおり、眉美はサラリーマンを追い掛けたものの、彼はまるで疾風のように姿を消してしまったのである。その話を聞いた美少年探偵団の面々は、俄然興味を示す。指輪創作が調べたところ、この10万円はすべて偽札であった。さらに、札の中に何かが仕込まれていることが判明。意を決してお札を切り開いた眉美たちが目にしたのは、髪飾中学校内で開催されているカジノ「リーズナブル・ダウト」への招待状だった。
屋根裏の美少年
その日、美少年探偵団は美少年探偵団事務所として使用している美術室の最終リフォームとして、天井画の制作に取りかかっていた。しかしその最中、天井板の一部が抜け落ちるというハプニングに見舞われる。まるで抜け穴のような、その穴を確認するために瞳島眉美が天井裏に潜り込むと、そこには33枚もの絵画が隠されていた。しかもそれはどれも、名画の中から登場人物だけを排除し、背景だけが描かれたものだった。名画「モナリザ」をベースとした絵画がないことから、どういう基準で絵が描かれているかが判明すれば、作者の正体もわかるのではないかと考えた美少年探偵団のメンバーは、この謎にせまることにする。やがて各々が推理を巡らす中で、7年前に辞職した美術教師の永久井こわ子が描いたものではないかとの結論にたどり着く。こわ子は以前、講堂の巨大絵画から全校生徒の部分だけを「誘拐」するという事件を起こしていた。
押絵と旅する美少年
ある日、瞳島眉美は私立指輪学園中等部の校内で、着物を着た座敷童(ざしきわらし)のような少女に出会う。あまりに凜(りん)とした佇(たたず)まいに思わず見惚れる眉美だが、その容姿からは考えられない罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせられ、テンションが落ちてしまう。そのうえ、なんとか辿り着いた美少年探偵団事務所には、巨大な羽子板にモンスターが造形された押絵が飾られていた。その犯人は恐らく眉美の目撃した座敷童然とした少女にして、咲口長広の婚約者である川池湖滝だろうと断定されるものの、双頭院学たちは湖滝が美少年探偵団に接触してきたこと自体を危険視し、警戒を始める。かつて夏の合宿を湖滝に邪魔され中止に追い込まれたことを原因とした、その警戒ぶりに眉美は興味を覚えるが、一方で学は、湖滝一人では到底運ぶことのできない巨大な羽子板が、どうやって持ち込まれたかという一点だけに関心を寄せていた。
白髪美
川池湖滝から譲り受けたチケットで、瞳島眉美は美術館を訪れていた。眉美と因縁のある運び屋組織「トゥエンティーズ」が、ある絵画を盗んだと話題になっている美術館だった。現在は真っ白なキャンバスだけが展示されている場所で眉美は、強化ガラスの内部にある絵画がどうやって盗まれたのか、さまざまな視点からその方法を推理していく。そんな中、眉美は突然、白髪の女性、掟上今日子に声を掛けられる。しかも今日子は、眉美がつぶやいた一言を聞いただけで謎が解けたと語り、眉美を驚かせる。
関連作品
小説
本作『美少年探偵団』は、西尾維新の小説「美少年探偵団」シリーズを原作としている。原作小説版は講談社タイガから刊行されており、イラストはキナコが担当している。ただし、漫画版ではキナコのキャラクターイラストとは異なり、袋井満、指輪創作の髪型が大幅に変更されている。ちなみに「美少年探偵団」シリーズは、西尾維新の小説「忘却探偵」シリーズと世界観を共有しており、本作のエピソード「白髪美」には「忘却探偵」シリーズの主人公である掟上今日子が登場する。
メディアミックス
TVアニメ
2021年4月から、本作『美少年探偵団』の原作である西尾維新の小説「美少年探偵団」シリーズのTVアニメ版『美少年探偵団』が、テレビ朝日ほかで放送された。TVアニメ版でのキャラクター造形は、原作小説版のキナコのイラストに忠実なものとなっており、私立指輪学園中等部の女子制服の形や袋井満、指輪創作の髪型など、漫画版とは細かい差異が見られる。キャストは、瞳島眉美を坂本真綾、双頭院学を村瀬歩、麗を七海ひろきが演じている。
登場人物・キャラクター
瞳島 眉美 (どうじま まゆみ)
私立指輪学園中等部に通う女子中学生。当初は黒髪を長く伸ばして眼鏡をかけ、黒いストッキングを履いていた。しかし、最初の事件解決後はショートヘアにして、男子用制服を身につけるようになる。また壁の向こうに隠れている人物を目視したり、放射線やX線のように本来見えないはずのものまで見えるほど目がいいが、酷使すると20代で失明すると宣告されている。幼少時にとある星に惹かれた経験から、宇宙飛行士になるという夢を持っている。だが、その星がどこにあるのかもわからないまま執着し続けたことが両親の逆鱗に触れ、14歳の誕生日までにその星を見つけられなければ夢をあきらめるよう求められていた。私立指輪学園中等部の屋上で、双頭院学に声を掛けられたことをきっかけに、美少年探偵団にかつて見た星の捜索を依頼した。事件解決後、男装姿で美少年探偵団に入団し、「美観のマユミ」という二つ名を付けられた。
双頭院 学 (そうとういん まなぶ)
私立指輪学園初等部の5年A組に在籍する男子小学生。美少年探偵団の団長を務めている。青毛の短髪で、つむじから2房の触覚のような髪が伸びている。中等部と初等部は校舎が離れているため、放課後にほかの美少年探偵団メンバーと合流するのに時間がかかってしまう。成績が悪いことを自覚しており、馬鹿だと言われても否定しない。しかし美学にはこだわりがあり、言論や行動、物事の考え方のすべては美しくなくてはならないと考えている。美少年探偵団のメンバーからは団長として信頼されているばかりでなく非常に愛されており、双頭院学に負担のかかる作業を強いるようなことが起これば、ほかの美少年探偵団全員からの不興を買うこととなる。瞳島眉美と咲口長広からは「リーダー」と呼ばれ、「美学のマナブ」という二つ名がある。
咲口 長広 (さくぐち ながひろ)
私立指輪学園中等部の3年A組に在籍する男子中学生。美少年探偵団の副団長を務めている。長い銀髪をうなじでまとめている。私立指輪学園中等部では3年連続生徒会長を務めている。演説の名手で、非常に魅力的な美声を持つだけでなく、七色の声色を使い分け、しゃべり方やニュアンス、癖に至るまで完璧な声帯模写を行うことができる。親が決めた婚約者である川池湖滝が小学校1年生なためロリコンと揶揄されることも多いが、咲口長広自身は完全否定している。瞳島眉美からは「先輩くん」と呼ばれ、「美声のナガヒロ」という二つ名がある。
袋井 満 (ふくろい みちる)
私立指輪学園中等部の2年A組に在籍する男子中学生。美少年探偵団のメンバーの一人。赤毛の短髪で、制服を着崩して着ている。絶対にかかわってはいけない生徒ランキングでトップに君臨する不良。しかし家事全般が得意で、特に料理に対しては妥協を許さないという意外な一面がある。瞳島眉美からは「不良くん」、ほかの生徒からは「番長」と呼ばれる一方、「美食のミチル」という二つ名がある。
足利 飆太 (あしかが ひょうた)
私立指輪学園中等部の1年A組に在籍する男子中学生。美少年探偵団のメンバーの一人。外巻きにした金色の短髪で、制服のズボンを二分丈のショートパンツにしている。陸上部のエースでもある。足利飆太よりかわいい女子は校内に存在しないと言われるほど顔が整っており、非常に美脚でつねに生足でいるため、学園の女子生徒のスカート丈が長くなり、黒ストッキングを履く原因になったとされている。また、幼い頃に両親が離婚し、これまでに3度の誘拐を経験するなどなかなか重い人生を歩んでいる。瞳島眉美からは「生足くん」と呼ばれ、「美脚のヒョータ」という二つ名がある。
指輪 創作 (ゆびわ そうさく)
私立指輪学園中等部の1年A組に在籍する男子中学生。美少年探偵団のメンバーの一人。黒髪短髪で、私立指輪学園の経営母体である指輪財団の後継者にして、事実上の理事長として知られている。非常に無口で無表情ながら、双頭院学だけはその表情で指輪創作の意思を汲み取ることができる。また、富裕層であることはただ運がよかっただけであると謙虚な姿勢を見せる一方で、美少年探偵団への依頼達成のためなら躊躇なくヘリを手配するなど、金に糸目をつけないところがある。瞳島眉美からは「天才児くん」と呼ばれ、「美術のソーサク」という二つ名がある。
麗 (れい)
非合法の運び屋組織「トゥエンティーズ」のリーダーを務める女性。長身で非常にグラマラスな体型で、長い金髪をポニーテールにしている。仲間を何より大切にしており、仲間が人質に取られた際には依頼を反故(ほご)にすることも厭(いと)わない。双頭院学からは「麗人二十面相」と呼ばれている。
札槻 嘘 (ふだつき らい)
髪飾中学校に通う男子中学生。生徒会長を務めている。カジノ「リーズナブル・ダウト」の支配人で、ぺてん師でもある。リーズナブル・ダウトに関係する作業を行う際には薄い色の髪をオールバックにし、大人びて見えるように化粧をしているが、登校時などは前髪を下ろしている。非常に治安の悪い髪飾中学校を完全に統率しているが、野心が強く、私立指輪学園中等部をも手中に収めようと画策している。リーズナブル・ダウトにおいて一定額以上の勝ちを収めた客が出た場合は、ステージ上で、札槻嘘自身と対決するイベント「オープン・ザ・ゲーム」を開催するが、イカサマを仕込んでいるため、敗北したことがない。民間軍事企業と不可視の黒衣のモニター契約している疑いがあり、その関係からトゥエンティーズと取引している形跡がある。また、「チンピラ別嬪隊」という組織のリーダーであることが匂わされている。
永久井 こわ子 (とわい こわこ)
かつて私立指輪学園中等部で美術教師を務めた女性。外巻き癖のある薄い色の長髪を下ろしたままにしている。写生大会と称して生徒たちを無断で海外に連れ出したり、校舎を勝手に改造するなど数々の奇行で知られ、変わり者として現在も職員のあいだで伝説の存在となっている。逮捕されていてもおかしくない反社会的人格の持ち主とされているが、芸術家としての実力は本物のため、その行動のほとんどは隠蔽されていた。しかし7年前、私立指輪学園中等部から美術課程が削除されることを知って、「美術を教えない学校に子供をいさせるべきではない」として、永久井こわ子自身が描いた講堂の巨大絵画から、全校生徒の部分だけを「誘拐」したとされる。
川池 湖滝 (かわいけ こだき)
私立指輪学園初等部の1年A組に在籍する女子小学生。咲口長広の婚約者。おかっぱの黒髪に着物を着ており、一見すると非常に美しい容姿で座敷童のように見える。しかし非常に毒舌家で、不良男子のような言葉遣いでしゃべる。そのため瞳島眉美からは「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、放つ言葉は薔薇の棘」と評されており、美少年探偵団のメンバーからは「悪魔」と呼ばれている。かつて美少年探偵団への入団を希望したが、双頭院学から直接断られた。高貴な生まれだが家が没落したため、着ている着物は母親が残した唯一の遺品となっている。のちに眉美とは友人関係となる。
掟上 今日子 (おきてがみ きょうこ)
美術館で瞳島眉美と出会った女性。ミディアムボブヘアの白髪で、眼鏡をかけている。トゥエンティーズが窃盗したと噂されている絵画の展示跡を見に来ており、どうやって盗難防止ガラスを傷つけずに絵画を盗むことができるのかを推理していた。プロジェクションマッピングを知らず、浮世離れした一面がある。
集団・組織
美少年探偵団 (びしょうねんたんていだん)
私立指輪学園中等部の使用されていない美術室を美少年探偵団事務所として活動している探偵団。双頭院学が団長を務め、咲口長広、袋井満、足利飆太、指輪創作が所属している。私立指輪学園中等部内のトラブル全般を解決する、非公式、非公開、非営利の自治組織を謳(うた)っているが、ほぼすべての校内トラブルの元凶であるともいわれている。団則として「美しくあること」「少年であること」「探偵であること」「チームであること」が掲げられている。瞳島眉美が美少年探偵団に依頼した事件の解決後、眉美もメンバーに加わった。
トゥエンティーズ
非合法の運び屋組織。麗がリーダーを務める。クライアントである民間軍事企業に依頼され、瞳島眉美がかつて目にして強く惹かれたという星の秘密にせまらないようにと、彼女のことを10年間監視し続けていた。眉美が14歳の誕生日をもって天体観測をあきらめるという情報を得ており、本来ならばその日を最後に眉美の監視を終了するはずだった。しかし、美少年探偵団が星の秘密を探ろうとしたため、眉美と、彼女を護衛していた双頭院学を誘拐した。
場所
私立指輪学園中等部 (しりつゆびわがくえんちゅうとうぶ)
指輪財団を経営母体とした、私立指輪学園に属する学校の一つ。イオニア式の柱があるギリシャ建築を組み込んだ西洋風の城を思わせる外観をしており、非常に荘厳な校舎となっている。美術課程が7年前から廃止され、現在使用されていない美術室は改築され、美少年探偵団が事務所として使用している。また、瞳島眉美が双頭院学と出会った屋上は、本来立ち入り禁止となっている。
美少年探偵団事務所 (びしょうねんたんていだんじむしょ)
私立指輪学園中等部の使用されていない美術室を改築した、美少年探偵団の事務所。内部にはシャンデリアがつり下げられ、多くの美術品が展示されているが、その多くが指輪創作によるレプリカとなっている。また、ベッドやソファなども持ち込まれており、とても校内にあるとは思えない豪華な一室となっている。
リーズナブル・ダウト
私立指輪学園の近くにある髪飾中学校の第二体育館。毎週日曜の深夜に開催されているカジノ場。高額の金銭が賭けられており、そのレートもラスベガスに匹敵するほど。設備も本格的で、ディーラーたちのテクニックも、およそ中学校のイベントで行われるようなレベルではない。ただでさえ治安が悪い髪飾中学校の中でさらに危険な場所とされ、特に女子は決して近づいてはいけないとされている。
その他キーワード
不可視の黒衣 (ふかしのくろご)
札槻嘘がリーズナブル・ダウトおよびオープン・ザ・ゲームでイカサマに利用している、文楽などで見られる黒子の衣装。民間軍事企業が開発したもので、身につけると一瞬で他人から見えなくなる。現在も開発中で、実装実験の最中とされる。
講堂の巨大絵画 (こうどうのきょだいかいが)
私立指輪学園中等部の講堂の舞台に飾られている、壁一面を埋めるほどの巨大な絵画。永久井こわ子が私立指輪学園中等部に赴任した当初、1か月にわたって講堂を占拠して描き上げた。講堂の巨大絵画は講堂内部が描かれており、合わせ鏡が作った無限回廊のような情景となっている。本来は絵の中に立ち並ぶ全校生徒も描かれていたが現在はその姿はなく、こわ子が辞表を提出した直後、絵の中の全校生徒が「誘拐」されたといわれている。当時は絵がすり替えられたのではないかと話題になったものの、講堂の入り口より遙かに巨大な絵をどうやって秘密裏にすり替えたのかという点で、不可思議な犯罪として語り草となっている。
オープン・ザ・ゲーム
カジノ「リーズナブル・ダウト」において一定額以上の勝ちを収めた客が、ステージ上で、支配人である札槻嘘と対決するイベント。挑戦者は獲得したチップ全額を賭け金とし、負けるとすべて没収される。しかし勝利した場合は、リーズナブル・ダウトの経営権を譲渡されるが、イカサマを仕込んでいるためにこれまで勝った者はいない。
クレジット
- 原作
- キャラクター原案
-
キナコ
書誌情報
美少年探偵団 5巻 講談社〈KCx〉
第1巻
(2016-09-07発行、 978-4063808742)
第2巻
(2017-02-07発行、 978-4063809053)
第3巻
(2017-08-07発行、 978-4063809411)
第4巻
(2018-06-07発行、 978-4065118269)
第5巻
(2019-09-06発行、 978-4065170281)