廃村直前の1995年にタイムスリップ
2022年、35日連続で雨が一滴も降らない夏の東京から物語は始まる。異常渇水で、「東京の水がめ」である群馬県青旗ダムが干上がり、27年前にダムに沈んだ青旗村が姿を現す。村の家々が撤去されずに残っていることがメディアで話題を呼ぶが、それには「平成の神隠し」と呼ばれた哀しい事情があった。青旗村の廃村式の日に、小学生3人が行方不明になり、捜索が長引いたために最後まで残っていた家を壊すことができなかったのだ。青旗村出身で行方不明の3人と友人だった雑誌編集者・戸草拓郎は、編集長に命じられてダムの取材に向かう。村は立入禁止だったが、拓郎は囲いを乗り越えて侵入し、我が家を発見。そこで突然頭痛に見舞われ、子供の頃のある出来事を思い出す。そして、学校のチャイムに誘われ、一面のひまわり畑をかき分けて進んだ先は、1995年夏の青旗村だった。
村と共にダムの底に沈んでいた記憶
拓郎は、行方不明になった3人(敷岩二郎、一ノ瀬太一、百瀬ミキ)と一緒に、家出するはずだったことを思い出す。貯金をかき集めているところを父に見つかってしまい、家から出してもらえなくなったのだ。1995年の夏を過ごすうちに、拓郎はいろいろなことを思い出していく。そして、夏休みに入ったある日、4人で川の上流にある滝の裏の「秘密基地」を見つけた時、激しい頭痛とともに決定的な出来事を思い出す。廃村式の前夜、拓郎たち4人は秘密基地に集合し、翌日村を出る予定だった。父に見つかって一緒には行けなかったが、拓郎は夜遅くに家を抜け出した。そして崖の上から、秘密基地で3人が死んでいるのを見たのだ。滝に行ったこと、そこで見たことを両親に言えないまま村を出て、時が過ぎ去るうちに完全に記憶から消していたのだ。タイムスリップした拓郎は、周囲からは小学5年生にしか見えていないが、大人の記憶と体力を持っている。子供の頃は忘れることしかできなかったが、今ならできることもあるはず。拓郎は3人の命を救うことを決意する。
過去と現在をつなぐひまわり畑
タイムスリップの鍵となるひまわり畑は、拓郎たちの担任女性教師・野口が植えたものだと推測されている。「村の最後の風景が荒れ地になった田畑では寂しい」と言った拓郎に、野口先生は、成長の早いひまわりを丘一面に植えることを約束したのだ。1995年と2022年は、ひまわり畑を通ることで往来が可能なことが物語中盤で判明する。ただし、ひまわり畑は決まった場所にあるわけではなく、突然目の前に現れる。そして、時間の流れが違うのか、小学5年生として何日も過ごしたはずなのに、2022年に戻るとわずかな時間しか経っていないという現象が起きる。拓郎は両方の時間を行き来し、かけがえのない友達を救うために奔走する。
登場人物・キャラクター
戸草 拓郎 (とぐさ たくろう)
大手出版社に勤務する雑誌編集者。短髪で背が高い37歳の男性。ダム建設によって湖底に沈んだ青旗村に、子供の頃に住んでいた。猛暑による異常渇水で出現した青旗村を取材で訪れたところ、1995年にタイムスリップし、二度目の小学5年生を過ごす。なお、1995年時点の父は村の駐在所に勤務する警察官だが、拓郎が36歳の時に他界している。あだ名は「拓ちゃん」。
敷岩 二郎 (しきいわ じろう)
小学5年生の少年で、戸草拓郎のクラスメート。坊主頭と太い眉が特徴で、あだ名は「岩ちゃん」。ダム建設関係者が入る長屋に住む。家族は両親と妹のカヨ。巨漢の父親は酒乱で、酒を飲んでは家族に暴力を振るう。暴れる父親を、拓郎が倒したことで事件になり、体の弱い母が働くことになったため、一時は拓郎と絶交していた。しかしその後、何度も拓郎に助けられることになり、和解した。
一ノ瀬 太一 (いちのせ たいち)
小学5年生の小柄な少年で、戸草拓郎のクラスメート。ダム建設関係者が入る長屋に住む。両親はおらず、祖母と二人暮らしをしている。祖母が「孫ちゃん」と呼ぶため、それがニックネームになった。漫画家になるのが夢で、突如すごい力を発揮するようになった拓郎をモデルに『5年1組のスーパーマン』という漫画を描いた。
百瀬 ミキ (ももせ みき)
小学5年生の少女で、戸草拓郎のクラスメート。スナックを経営する美人の母親と二人暮らし。母が交際している中年男性・洞戸が、洋服や玩具、漫画をたくさん買ってくれるが、洞戸のことを嫌っている。
書誌情報
湖底のひまわり 5巻 小学館〈ビッグ コミックス〉
第1巻
(2023-03-30発行、 978-4098615988)
第2巻
(2023-07-28発行、 978-4098624942)
第3巻
(2023-11-30発行、 978-4098626052)
第4巻
(2024-03-29発行、 978-4098626984)
第5巻
(2024-07-30発行、 978-4098630097)