あらすじ
悪の科学者と聖女
聖女戦士である楠ミレイは、悪の科学者のノワール=アーノルドと戦いを繰り広げていたが、その最中、巨大隕石の落下によって世界の危機が訪れる。敵も味方もなく、正義と悪は手を取り合って巨大隕石に対抗するが、その余波によって世界は滅亡。ミレイとノワールは辛うじて生き残るが、滅亡世界にたった二人だけとり残されてしまう。危機的状況を前に、ノワールは戦うことを止め、ミレイに人類存続のために二人で子供をつくり、人類復興を目指すことを提案する。強引にせまるノワールに、ミレイは動揺しつつ、人類復興のために彼と友達から関係を始める。ミレイはノワールと宿敵として戦い続けていたが、いっしょに行動するようになって彼の思わぬ一面を知り、少しずつ等身大のノワールと距離を縮めていく。生存者や物資を探すため、滅び去った世界を旅する二人であったが、ある日、ノワールが今までにない奇行を繰り返し、ミレイは彼の言動に疑問を覚える。そんな中、ミレイはノワールが、かつての自分の仲間であるマオと密談しているのを発見。マオとの再会を喜び、未来に対してあらためて希望を抱く。しかし記憶の中のマオと、現在のマオの言動に違和感を覚えたのをきっかけに自分の記憶を振り返ったミレイは、そこに大きな欠落があることに気づくのだった。
愛の行く末
楠ミレイはマオの言動に違和感を覚えるだけではなく、仲間の顔を思い出せなくなっていることに気づく。自分の記憶に疑問を抱きつつも、ミレイは、滅亡世界に生存者がいるのを発見。「ブラン」と名乗ったその少年は、ミレイに対してノワール=アーノルドに騙されていると忠告するのだった。ブランによって自分の記憶がノワールによって植え付けられたかりそめのものだと教えられたミレイは、ブランに言われるまま、彼の手を取り、そのまま姿をくらましてしまう。ミレイがいなくなったことに気づいたノワールは、彼女を取り戻すと決意。実はノワールたちのいた世界は仮想世界であり、とうに滅び去っていたと思われた現実世界の人々は、滅びを回避するために冷凍睡眠していた。ノワールは人類を救うため、そして冷凍睡眠で植物状態となったミレイを助けるため、彼女の好きなアニメを基に構築した仮想世界で「悪の科学者」として彼女と触れ合っていたのである。しかしミレイと触れ合ううちに、本当に彼女を愛するようになったノワールは、ブランにとらわれたミレイを救うため、最後の戦いに赴く。
登場人物・キャラクター
楠 ミレイ (くすのき みれい)
悪と戦う正義少女団に所属する聖女戦士で、年齢は10代半ば。明るい金色のロングヘアで、シスター服を模した戦闘服を身につけた美少女。正義少女団のNo.3で、悪の科学者であるノワール=アーノルドと戦い続けてきたが、巨大隕石の墜落によって仲間も守るべき世界も失ってしまう。辛うじて生き残ったノワールと二人だけの世界で、世界復興の旅をすることとなる。星の善の心の加護を受け、汚染された空気や水を浄化する力を持つ。ノワールのことを悪人と思っているが、顔は「めっちゃ好み」のタイプ。当初は流されるままノワールといっしょに旅をしていたが、ノワールの意外な一面を知ることで、少しずつ彼のことを憎からず思うようになっていく。実は仲間の顔や言動の細かな部分が思い出せなくなっており、記憶の欠落を引き起こしている。マオの言動にも違和感を抱き、自分の記憶に自信を持てずにいる。その正体は意識不明の状態となっている少女「楠ミレイ」。隕石の落下によって激変した世界から生き残るため、冷凍睡眠した市民の一人だったが、精神が目覚めずに肉体も死に瀕しつつあった。「聖女戦士」は彼女が好きだったアニメで、ノワールがミレイの意識を目覚めさせるアプローチとして、そのアニメの設定を流用した仮想世界を過ごしていたのが真実だった。仲間たちの顔が思い出せなかったのも記憶の欠落ではなく、設定しか存在しなかったからである。ノワールのもくろみどおり、設定の世界で感情をゆれ動かすことで、少しずつ意識を覚醒に向かわせていたが、ブランによって再び意識を捕われてしまう。ブランのもたらした都合のよい幻覚によって正気を失うが、ノワールの身を挺した献身によって正気を取り戻し、現実世界でも意識を覚醒させる。
ノワール=アーノルド
悪の組織を率いるマッドサイエンティストの男性。銀髪赤目の涼しげな風貌をした美青年で、傲岸不遜な態度を取る。当初は世界征服を目指していたが、巨大隕石の衝突によって征服するべき世界がなくなったため、楠ミレイと結婚して子供を増やし、思わず征服したくなるような理想郷を創ろうと考えるようになった。星の悪の心の加護を受けており、生物、無機物問わず汚染して、怪人を作り出すことができる。また、科学者であるために頭がよく、機械の扱いも得意。教育と力の制御のために、今までの人生の大半をつぎ込んできたが故に友達がおらず、満足に遊んだこともなかった。そのため、ふだんは偉そうな言動が多いが、感動したり、楽しんだりした際には素直にそれを口にする無邪気な一面もある。マオと合流後は、隠れて二人で密談をしていたり、滅亡した世界の裏でひそかに暗躍していたりと謎の多い行動を繰り返している。フランス語と英語が混ざったチグハグな名前「ノワール=アーノルド」は、本名ではなく芸名。科学者であることは真実だが、悪の組織を率いているというのはウソ。すべては植物状態となったミレイを助けるため、演じていた「設定」であり、彼女が好きなアニメをモチーフに仮想世界とキャラを作り、それらを使って彼女の精神をゆさぶって意識を覚醒させようとしていた。滅びつつある世界や、意識のサルベージを試みたが何度も失敗したことで焦りを感じており、ミレイを救うことに強い情念を感じている。しかし、彼女と過ごすうちに彼女に恋するようになり、純粋に彼女を救いたいと思うようになる。本来は冷静沈着で責任感が強い性格で、ノワール=アーノルドとしての振る舞いは不本意で恥ずかしいと思っている。ただしマオによれば、すごいノリノリだったとのこと。
マオ
聖女戦士を助ける星ネズミ。黄色の毛並みで、額と尻尾の先に星のマークがある。巨大隕石の衝突後も生き残っており、人類復興のため、ひそかにノワール=アーノルドと接触し、女性の扱い方を教えている。楠ミレイたちの活動を助ける存在で、彼女たちとは長い付き合い。しかし、ミレイに隠れてノワールに接触していたり、ミレイの記憶している過去の言動に比べて若干ぶっきらぼうになっていたりと、全体的に違和感を覚える存在となっている。その正体はノワールと同じく現実世界の人間。現実世界ではヒゲを生やした高齢の男性で、科学者としてノワールのサポートを務める。聖女戦士のアニメのマスコットキャラクターをアバターにして仮想世界に干渉し、ノワールに助言している。ノワールと違って仮想世界に深く潜っていないため、行える干渉は限定されるが、その分システムでモニタリングして、さまざまな情報を把握できる。ブランにミレイがさらわれた際にはマオの巨大化したアバターを使い、彼女の救出に一役買う。その後ブランの精神のサルベージに成功した際には、彼にアバターが引き継がれ、ブランがマオのアバターを使ってしゃべるようになる。
ブラン
滅亡世界に生き残った謎めいた少年。黒髪のダークな雰囲気を漂わせた人物で、汚染された世界にもかかわらず、生身で行動することができる。楠ミレイの目の前に現れ、ノワール=アーノルドの目の前で彼女をさらう。滅亡世界が仮想世界だと知っており、彼女を仮想世界の深部に創ったミレイにとって都合のよい世界へと引きずり込む。その正体は冷凍睡眠したまま死亡した病弱な少年の意識。ノワールが過去に彼の意識をサルベージしようとするものの失敗し、肉体が朽ちてそのまま死亡してしまう。肉体が死んだあとも仮想世界の深部に意識だけの形で残り、ノワールを憎み、ミレイの意識の覚醒を阻んでいる。もともと病弱で、孤独なまま死んだために極端に孤独を恐れ、それが転じてノワールへの憎しみの原動力になっている。そのため、ミレイが正気を取り戻したあと、狂乱するもののミレイに説得され、そのまま現実世界に帰還する。現実世界の体はすでにないため、マオの使っていた星ネズミのアバターを使って会話をしている。帰還後は電子世界でしか活動できないが、孤独から解放されたため、かなり温和な性格となっている。
場所
滅亡世界 (めつぼうせかい)
巨大隕石の衝突で滅び去った世界。すべての人間が死滅し、生き残っているのは星の加護を受けた楠ミレイとノワール=アーノルドの二人のみ。大気も水も汚染され、生身の人間は生きていけない環境となっているが、星の加護を受けた者は、辛うじて生存できる。実はノワールが植物状態となったミレイを救うために創り出した仮想空間であり、隕石の落下によって荒廃した現実世界そのものをモデルとしている。現実世界では荒廃した環境を生き伸びるために人々は冷凍睡眠をしているが、ほとんどの人間は眠りから目覚めず、そのまま滅びに向かって眠り続けている。ノワールとマオは冷凍睡眠から目覚めた数少ない人類で、人々を救うため、さまざまな試みを行っている。
書誌情報
滅亡世界で悪の科学者と愛を育まないといけないようです 全2巻 KADOKAWA〈MFコミックス ジーンシリーズ〉
第1巻
(2020-01-27発行、 978-4040642932)
第2巻
(2020-08-27発行、 978-4040647494)