無能の鷹

無能の鷹

外見や振る舞いは「デキる女オーラ」が満ちあふれているが、実際は超無能な鷹野ツメ子と、気弱で自分にまったく自信が持てないでいるが、実際は優秀な鶸田の新社会人コンビを中心にして、人間の第一印象がビジネスにおいてどれほど影響を与えるかというテーマを軸に物語が展開される、1話完結のコメディヒューマンドラマ。「Kiss」2019年8月号から掲載。

正式名称
無能の鷹
ふりがな
むのうのたか
作者
ジャンル
ギャグ・コメディ
レーベル
KC KISS(講談社)
巻数
既刊7巻
関連商品
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あらすじ

就職活動で大手企業では全滅した鶸田は、のちに勤めることになるITコンサルティング・タロンの面接会場で鷹野ツメ子と出会う。鶸田は一目で鷹野を「デキる人」だと直感し、立ち居振る舞いや仕草に見入っていた。しかしそれから1年半後、鷹野は社内ニートになっていた。そんな中、鶸田は教育係の雉谷から、頑張って初契約を取らなければ別部署に回されるとプレッシャーをかけられながら営業先に向かう。鶸田は、初対面の人間から向けられる、自分を値踏みするような視線に臆してしまい、今回も契約が取れなかった。鶸田は会社に戻り、改めて営業職が自分に向いていないのではないかと悩む。一方で、となりの席で鷹野が吞気(のんき)に鳩山にまったく内容のない話をしていたが、たまたま居合わせた鶸田と雉谷も鷹野の話に聞き入ってしまう。その直後、人事部と部長が鷹野を解雇するかどうかの相談をしている場面に遭遇してしまった鶸田は、コーヒーを飲んでいた鷹野にクビになるかどうかの瀬戸際であることを説明する。鷹野に対して鶸田はコンサルタントに必要な能力を説くが、鶸田が苦手とする「優秀な人間だと思われる」能力を鷹野が持っていることに気づく。そして、初対面のみ有効だとしても鷹野となら契約を取れるかもしれないと考えた鶸田は、アポイントを取った会社への営業に鷹野を誘う。こうして無能だが優秀に見える鷹野と、優秀だが対人スキルが皆無の鶸田のコンビが結成され、初契約に向けて動き出す。(エピソード「鷹野登場!」)

ある日、鶸田は午前中から契約が取れるかどうかの大事な打ち合わせに向かうため、資料を読みながら駅で電車を待っていた。今日の相手は製菓会社で、この会議のために資料作りを鳩山にも手伝ってもらった手前、鶸田は絶対に失敗できないプレッシャーを感じていた。電車が到着していることに気づかないほど集中していた鶸田は、電車内の鷹野から声をかけられ乗り込む。電車内でも鷹野から話しかけられるが、鶸田は生返事をしながら会議の内容を確認していた。鷹野が持っていた打ち合わせ先の会社のお菓子を受け取り、遠足気分の鷹野に若干引きながらも鶸田は資料を読み続ける。鷹野から到着を告げられ、視線を資料から上げると、そこは世界の遺産を見て回れる東武ワールドスクエアであった。なんと鷹野は有給を取って遊びにやって来ていたのだ。鷹野は電車内で鶸田も休みか聞いたところ、鶸田が適当に返した生返事で鶸田も休みだとカンちがいしていた。スーツ姿の鷹野を仕事だと思い込んで付いて来てしまった鶸田は、すでに打ち合わせの時間がせまっていることに絶望する。鶸田はすぐに鳩山に報告すると、鳩山が手を回してウェブ会議にしてもらえることとなった。ウェブ会議が苦手な鶸田は戸惑いながらも、鳩山の働きを無駄にするわけにはいかない。さらに不運なことに、相手の社長は対面で直接顔を合わせない相手とは仕事をしないという、こだわりを持っていた。これは先代である父親が電話のみで海外に輸出を決め、大失敗をした経験によるものだった。ウェブ会議のため、カフェを探す鶸田だったが、相手がすでに入室していたため、移動している時間はなく、鷹野にパソコンを持たせてそのまま会議を開始することとなる。鶸田が説明するシステムはわかりやすく完璧だったが、社長はやはり画面越しの人間を信用できずにいた。そこでふと鷹野が気まぐれにパソコンの角度を変えると、鶸田の後ろに東武ワールドスクエアのコロッセオが映る。すると社長は、鶸田が現在イタリアにいるため急遽(きゅうきょ)ウェブ会議に変更となったと勝手に理解する。5分ほどの休憩をはさみ、緊張からお腹を下した鶸田はトイレを探していた。社長がウェブに再入室すると、コロッセオのとなりにあるピラミッドを背景にした鷹野が映し出される。鷹野は鶸田が席を外していると説明し、自分のせいで鶸田がそちらの会社に行けなかったことを謝罪する。そして、おもむろに鷹野はお菓子を取り出し、食べ始める。自社のお菓子を海外にまで持って行っていることに社長は食いつく。さらに鷹野は、鶸田にもこのお菓子を今日手渡したことを告げると、社長はエジプトとイタリアを「となり」と言いきる鷹野のスケールの大きさに驚く。さらに鷹野は今いるテーマパークについて「広いが充分に歩き回れるワールドです」と説明すると、社長は世界を相手に仕事している鷹野に感銘を受ける。そして鶸田がトイレから戻り、鷹野はカメラを戻すと、落としたお菓子を拾ってくれた通りすがりの日本育ちの白人に、お礼にそのお菓子をあげて食べてもらうところだった。その場面をカメラが映し出すと、社長は自社製品に対するイタリア人の反応を知りたい一心から画面越しの距離をもどかしく感じていた。社長は会議に戻った鶸田にいの一番に、さっきの外人のお菓子を食べたあとの感想を求める。鶸田は美味(おい)しいと言った白人の感想をそのまま詳しく伝えると、社長は画面越しでもわかるほどの盛り上がりを見せる。システムの提案だけでなく、語学まで堪能だとカンちがいされた鶸田と、国境を越えて世界を相手に仕事していると思われた鷹野の頼もしい姿に、社長は契約を決める。しかし、満足気の社長とは対照的に、もう絶対に鷹野には振り回されないと決意する鶸田であった。(エピソード「鷹野のWEB会議」)

鶸田は猫用のペット用品を販売している会社への初訪問に備え、先方の社長の右腕となる人物とオンラインでやり取りし、事前に話を進めていた。そこで雉谷から、オンラインで説明されるより「会う」ことで得られる、感情を揺さぶるワクワク感が必要ではないかと指摘される。しかし、これは鶸田が苦手とする分野であるため、今回も鷹野を同行させることにする。鶸田は、先方へ向かう道中で大まかな内容を鷹野に説明するが、「社長の右腕が意志を持ってしゃべる」という認識しかなかったため、鶸田のジェスチャーに合わせて場を盛り上げることだけを頼む。会社に到着して、社長の右腕である右京と鶸田は軽く挨拶し、猫アレルギーの鶸田のために、猫が入って来ない部屋に案内される。社長は自らの飼い猫がいなくなってから、誰に対しても感情を閉ざしてしまったと右京は語る。社長が猫の感情を読み取ることで、この会社は業績を伸ばしてきたことを右京は明かし、社長が心を開かないと、この会社の今後に影響するという現状を鶸田は知ることとなる。社長と対面するも、事務的なスタンスでプレゼンに臨む社長を見て、自分には荷が重すぎると判断した鶸田は、手で「バツ」を作り、感情を揺さぶるプレゼンを中止するジェスチャーを鷹野へ送る。それを受けた鷹野は意味を取り違え、社長へ感情を持って仕事するようダメ出しする。鶸田はその場を取り繕いながら、手で「ハート」と「持ち上げる」サインを作り、「思いやり」を「持った」言い回しにするよう鷹野へ指示を出す。それを受けた鷹野は、同情して欲しいのかと、社長に対して辛辣に詰め寄る。ここで鷹野に見切りをつけた鶸田は一人で話を進めようとするが、鶸田の手の上下の動きで鷹野が口を挟み、社長を持ち上げたり落としたりする。戸惑う社長だったが、気分がコロコロ変わる鷹野を見て、いなくなった飼い猫のようだと感じていた。部屋の外から涙ぐむ社長の様子を見ていた右京は、久々に感情を高ぶらせる社長を見て、鷹野をセラピストだと認識し、社長は鷹野を猫の霊を降ろしたイタコだと認識する。飼い猫のような鷹野の態度に感情を揺さぶられた社長からの「どうすればこの悲しみを乗り越えてまた楽しく仕事ができるのか」という問いに、鷹野は自信満々に「そんなあなたのためにワクワクするプレゼンを心を込めて考えてきました」と言い放つ。最後に「彼が」と付け加え、鷹野は鶸田にパスを出す。涙を流しながら真剣な眼差しの社長を前に、鶸田は青ざめ「感情を揺さぶろうとしてすみませんでした」と心の中で謝罪する。(エピソード「鷹野の人心掌握術」)

鶸田は次に訪問する予定の会社の情報を確認していた。この会社は自由な社風で知られており、営業担当者もスーツを着用しないらしい。この会社にはクラウドサービスの説明に行くだけだが、社長も同席すると鶸田が雉谷に説明すると、雉谷は会社として格付けされるだろうからスーツで行ったら、逆に目立つかもと無責任なことを言い出す。そこへ鵙尾ら開発部が外回りから帰って来る。服装について鵙尾は「開発系は私服のほうがプロっぽい」という独自の理論を説くが、IT企業としての時流でオフィスがカジュアル化しているのも事実であった。スーツ以外の服を持っていない鷹野に、開発部の面々はそれぞれの私服を貸し与えると、服装に対して顔がまったく似合っていなかった。しかしなぜか気に入った鷹野はHipHopスタイルで、鶸田はスーツで向かうこととなった。先方に到着し、社内へ案内される二人は社員たちが私服の中、鶸田だけスーツという状況に緊張する。そこへ社長が現れるも、フレンドリーな態度とは裏腹に目が笑っておらず、鶸田の緊張が加速する。社長は鶸田のスーツを見てお堅い会社だが、上司の鷹野は自分の会社に服装を合わせてきたのだろうと判断する。その時、鷹野のネックスピーカーからHipHopが流れ出す。社長は音楽を止めるようやんわり注意するも、操作方法がわからない鷹野は、音楽を止めるどころかボリュームを上げてしまう。電源を切ることをあきらめた鷹野は、このまま説明を始めてもいいかと社長に確認する。すると社長は、自社が掲げる「自由」に対する挑発だと受け取り、実力のない者が自由を求める愚かさを思い知らせるため、あえて鷹野の提案に乗る。そして鶸田がクラウドサービスの説明を始めるも、鶸田の言葉は鷹野の音楽にかき消される。そこで鶸田は声を張り上げプレゼンを続けるが、音楽につられて口調がラップ調になってしまう。当然、社長はプレゼンを止めようとするが、鷹野のパーカーのポケットに入っていた音楽プレーヤーが、社長の言葉を録音して繰り返し再生する。話すことに集中している鶸田は、その録音にいちいち反応する。社長は自らの発言をサンプリングして、的確にループさせて音楽に重ねる鷹野を見て戦慄する。しかし、ふざけた口調の割にしっかりしたプレゼン内容から、社長と同席していた二人の社員も鶸田はラップ調でしか話せない人物だと認識し、手拍子とボイスパーカッションで盛り上がる。特殊なプレゼンが進行する中、社長はカジュアルな服装に違和感のある鷹野という人物像に考えを巡らせていた。(エピソード「自由×鷹野」)

登場人物・キャラクター

主人公

ITコンサルティング・タロンに新卒で入社した女性。黒のロングヘアと美しい容姿で、若いながらも落ち着いた立ち振る舞い、こなれたスーツの着こなし、そして自信に満ちあふれた物言いで、誰からも超優秀な「デキる... 関連ページ:鷹野 ツメ子

鶸田 (ひわだ)

ITコンサルティング・タロンに勤務する青年。鷹野ツメ子とは同期入社。役職はコンサルタントの一段下のアソシエイトである。データから問題点や実情を読み取る能力に長(た)け、その解決策も提案できる。それが自社にとって利益にならない提案でも惜しみなく相手に伝える誠実な性格の持ち主。また、鷹野が打ち込んでいるExcelを横目で見ただけで、瞬時に暗算してしまうほど計算能力が高い。しかし立ち振る舞いや、弱気な性格と自信のなさから相手に舐(な)められやすく、新規の契約を取ろうと奮闘するも鶸田自身の提案を受け入れてもらったことはない。そんな中、鷹野の話術とデキるオーラに期待して、新規獲得の営業にコンビで挑むこととなる。当初はプレゼンには取引先に渡す「一般用」と、馬鹿でも読める「鷹野用」の2種類の資料を作成して持っていたが、鷹野が漢字を読めずピンチに陥ることもあり、のちに鷹野には手ブラでプレゼンに参加させるようになる。営業先では、一見仕事ができそうな鷹野が、鶸田を「自分より優秀だ」と紹介することで、スムーズに提案を受け入れてもらえるようになる。雉谷が鶸田の教育係を任されているが、基本的に放任な雉谷の指導法を通じて、自分の働く会社は新人を育てる気があるのか、と疑問を抱くようになる。胃腸が弱い体質で緊張するとお腹を下してしまう。ウェブ会議を苦手としていたが、鷹野のせいで散々な目に遭いつつも結果を残したことで苦手意識を克服する。猫アレルギー持ち。

雉谷 (きじたに)

ITコンサルティング・タロンに勤務する男性。鷹野ツメ子と鶸田の先輩にあたり、鶸田の教育係を務めている。事勿(なか)れ主義で、仕事に対して手の抜き方がうまく「それなりに頑張る」というスタンスで仕事している。鶸田から相談を受けても、自分に面倒なことや責任が問われそうな内容だと察知すると、誰かに丸投げしてしまうため、鶸田からは信頼されていない。AI(人工知能)やRPA(ロボットによる作業自動化)が目立ってきた現代社会に危機感を覚え、将来的に雉谷自身の仕事がなくなることを心配している。しかし、ふだん馬鹿にしている鷹野を社内ニートの先輩として、未来の自分を重ねて見るようになり、仕事をしなくても会社に居座るメンタルを見習うようになる。それと同時に、仕事をしなくても出社すれば報酬として給料が発生する、会社員というシステムに疑問を抱くようになる。

鳩山 (はとやま)

ITコンサルティング・タロンに勤務するベテランの男性。生真面目な性格で、自動化できる面倒な打ち込み作業も自らやっている。要領はよくないが、それをカバーするほどに作業が速い。また、鳩山自身の要領の悪さを自覚しているため、他人からの指摘や意見も素直に受け入れる。不幸にも鷹野の教育係を任されるが、仕事において褒める部分を見つけようとしたり、鷹野にも成功体験を積ませようとしたりと、彼女にもできそうな仕事を自らの業務の合間を縫って日々探している心優しい人物。会社からは大きなプロジェクトを任されている。

鵙尾 (もずお)

ITコンサルティング・タロン会社の開発部に所属する女性。社内では私服で勤務している。ポケットに直接ティーパックを入れており、それを使ったお茶を他人に勧めるほど自由奔放に振る舞っている。いい意味で面倒くさがり屋なため、業務を簡略化するシステムの開発に長けている。昔から楽をするためには努力を惜しまない。仕事では書類で説明するより、まずプロトタイプを作って相手に見せるというスタイルを取っている。高校時代には板書をノートに記すことを面倒くさがり、携帯電話で写真に撮ってネットに上げてクラスメイトと共有していた。大学時代はデータの分析手順を自動化するため、システム構築を勉強していた。新しいシステムの問題点や使用感を探るために、ITをまったくわからないレベルの人間を探していたところ、鷹野に目をつけてテストユーザーになってもらう。新しいシステムを使うことにより、意外な人が意外な才能を発揮する事例を数多く見てきた経験から鷹野にも期待していたが、途中で飽きて居眠りしていた鷹野を見て「ただのクズ」と認識するようになる。

書誌情報

無能の鷹 7巻 講談社〈KC KISS〉

第1巻

(2020-04-13発行、 978-4065192306)

第2巻

(2020-10-13発行、 978-4065211250)

第3巻

(2021-05-13発行、 978-4065215425)

第4巻

(2022-01-13発行、 978-4065265062)

第5巻

(2022-09-13発行、 978-4065290514)

第6巻

(2023-05-12発行、 978-4065314401)

第7巻

(2024-01-12発行、 978-4065344194)

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