概要・あらすじ
天河族の長の娘であるサラーナ・フフは、和平のために14歳にして大国、煌燿国の後宮に嫁ぐ。後宮には何十人もの妃嬪がおり、黒髪の人たちの中で、異国から来た白銀髪のサラーナは異質だった。妃嬪たちは、馬に乗り草原を移動しながら暮らす天河族のサラーナを「獣臭い」と侮辱する。照皇太后に拝謁中、銀色狼が紛れ込んできた。それはサラーナが森で拾った狼「アルト」だった。煌燿国で狼は悪疫をもたらすと恐れられており、大騒ぎとなった。ついてきてしまっただけで、連れ込んだわけではないと主張するが、サラーナは捕まり、牢(ろう)に入れられてしまう。初日からこんなことで和平協定はどうなるのかと落ち込んでいると、なぜか皇帝の朱麗から夜伽(よとぎ)の相手に指名される。皇帝の部屋には、檻(おり)に入れられたアルトがいた。朱麗はアルトを殺処分にはせず、しばらく自分の部屋に置き、様子を見るという。サラーナは朱麗からアルトの世話を命じられた。サラーナが皇帝の夜伽に呼ばれたことは、後宮で噂(うわさ)になっていた。皇帝陛下即位式のため、新たな衣を受けとる妃嬪たち。サラーナから衣を取り上げた黄美人が「ここには獣の衣はない」と自分の侍女に衣を着せた。ところが衣を着た侍女は、かゆいと首をかきむしり、皮膚がただれて死んでしまう。「異国の女に皇子を産ませてはならぬ」と衣を渡す役の女官がサラーナの衣に毒を塗ったのだ。見た目の違いや生まれでどうしてそこまで人を憎めるのかと憤りを感じるサラーナ。そして朱麗に毒を塗った女官の腕にあった刺青(いれずみ)の話をしようとすると、朱麗はサラーナに寝台に上がるように命じた。生まれつき右足首が曲がっている朱麗は「国を滅ぼす凶事だ」「皇子にふさわしくない」と言われ、ずっと僧坊に入れられていた。しかし先帝、皇太子が立て続けに崩御し、突然、皇帝に即位することに。新参者の自分には敵味方の把握ができていないため、外にもれないよう寝台で話したいというのだ。刺青の話を詳しく聞いた朱麗は、信用のおける者に調べさせると言った。サラーナは後宮で初めてできた友人のシュナの部屋を訪れる。彼女の故郷、西湖国のお菓子をふるまってもらったのだが、先に食べた侍女のリアが鼻血を出して死んでしまう。サラーナは、また命を狙われたのだった。リアの死を悲しんでいると「野蛮な天河族」「サラーナが殺したのでは?」などと陰口をたたかれる。「異国の女が一人死んだくらいで大騒ぎ。うんざりだわ」と言う黄美人を睨(にら)みつけ、頰をたたいたサラーナ。「自分と違う者には何をしてもいいと思っているの? 踏みつけにされて黙り続けるほど私は大人(おとな)しくない」と啖呵(たんか)を切った。朱麗の部屋に呼ばれたサラーナは、アルトを抱きしめて泣いた。朱麗は「異質なものを排除しようとするこの空気を払いたい」とサラーナに自分の足として動いてもらいたいと協力を求めた。誰も踏みつけにされない世界を望むサラーナは「ともに世界を変えよう」と朱麗に誓うのだった。
登場人物・キャラクター
サラーナ・フフ
天河族の長の娘。14歳。白銀髪で黒の差し色がある。馬に乗り、羊を追って草原を移動しながら暮らす民族。馬と共にあり、女性でも勇ましく、馬に乗って狩りをする。勝気な性格で侮辱されたら黙ってはいられない。素直な性格で、人を信用しやすい。初めて慕った男性が皇帝の朱麗。
朱 麗 (しゅう れい)
煌燿国の第3代皇帝。14歳。まつげが長く、美しい女性もかすむほどに美しい男性。右足首が生まれつき曲がっている。この足は国を滅ぼす凶事だとされ、皇帝に即位する14歳まで僧坊に入れられていた。父と兄が立て続けに亡くなり、兄の子はまだ小さいため、中継ぎで皇帝になる。賢くて優しく、芯が強い。人格者で家臣から慕われ、人の上に立つ者の器を持っている。
黄美人 (こうびじん)
宰相の黄尚書右僕射の孫の女性。権力を持っていて、入宮から才人の上の「美人」の位をもらう。黒髪でおでこにしるしのある整った顔をしている。多くの取り巻きを抱え、人を蔑み、嫌味を言ったり、嫌がらせをしてくる。後宮の管理をし、みんなをまとめている。
鳩 霜那 (く しゅな)
西湖国の姫。貢物を差し出すのが嫌になった西湖国は、反乱を起こしたことで煌燿国の先帝に滅ぼされる。王族は皆殺しにされ、シュナは戦利品として後宮に連れてこられた。金色の髪に透けるような白い肌、青い瞳の美女で、サラーナ・フフの後宮での初めての友達。