羆撃ちのサムライ

羆撃ちのサムライ

井原忠政の小説『羆撃ちのサムライ』のコミカライズ作品。作画は『蒼太の包丁 銀座・板前修業日記』(原作:末田雄一郎)などで知られる本庄敬が担当。明治初期、まだ「蝦夷(えぞ)」と呼ばれていた北海道を舞台に、五稜郭の戦いに敗れた旧幕府軍の残党、奥平八郎太が、鏑木十蔵の指導のもとマタギとして成長し、狩猟で生計を立てる姿を描いた狩猟ドラマ。リイド社「コミック乱」2022年3月号から2024年6月号まで連載。第54回「日本漫画家協会賞」まんが王国・土佐賞を受賞。

正式名称
羆撃ちのサムライ
ふりがな
くまうちのさむらい
原作者
井原 忠政
作画
ジャンル
幕末
 
ヒューマンドラマ
レーベル
SPコミックス(リイド社)
巻数
全4巻完結
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すべてを失った敗残兵が出会った運命

時は明治2年。旧幕府軍の兵士、八郎太は、兄の喜一郎や友人の佐吉と共に、五稜郭の南西に位置する木古内で新政府軍への抵抗を続けていた。しかし、彼らを率いる伊庭八郎が戦闘中に撃たれて動けなくなり、絶望の中で命を落としてしまう。さらに、榎本武揚が降伏を宣言したことで、旧幕府軍は名実共に敗残兵となってしまう。八郎太は喜一郎や佐吉と共に、新政府軍に一矢報いるべく五稜郭からの脱出を試みるが、その最中に佐吉が膝に銃弾を受けて動けなくなる。八郎太は喜一郎を先に逃がし、佐吉と共に山中で最期を迎える覚悟を決める。しかし、襲いかかってきたヒグマに佐吉が殺され、八郎太は恐怖に駆られて逃げ出してしまうが、ヒグマに追いつめられた八郎太は、佐吉を殺された怒りと、姉から教わった武士の誇りを胸に土壇場で奮起し、ヒグマを撃退する。そして八郎太は瀕死の重傷を負いながらも、偶然通りかかった鏑木十蔵に命を救われる。

自責からの脱却とマタギへの道

十蔵とその妻、喜代に命を救われた八郎太は、佐吉を見捨てて逃げたことに深い自責の念を抱いていた。その後、離れ離れになっていた兄の喜一郎と再会し、新政府軍との戦いで生き残った際には、潔く切腹する覚悟を固める。しかし、八郎太の自暴自棄な行いをよしとしない十蔵は、彼がこれ以上無茶をしないように、自分の猟を手伝うように頼む。八郎太は、せめてもの恩返しとしてその申し出を受け入れるが、ヒグマに襲われた後遺症で視力が低下しており、猟ができるかどうか不安を抱えていた。そこで十蔵は、「穴羆猟」といった待ち伏せ戦法や、小動物を捕らえるための罠の設置など、さまざまな猟の技術を惜しみなく八郎太に伝授する。十蔵の教えを受けた八郎太は、瞬く間に猟師としての才能を開花させ、やがて十蔵も驚くほどの優れたマタギへと成長していく。

変貌したヒグマと八郎太の決断

八郎太が一人前のマタギとして活動を始めてから5年が経った。彼の住む小屋の近くには、「チカプ」と呼ばれるメスのヒグマが2頭の子供と共に静かに暮らしていた。チカプは温厚な賢い性格で、子供たちのために植物や魚を捕ることはあっても、人間やほかの動物を襲うことは決してなかった。しかし、発情期のオスのヒグマがチカプの気を引こうとし、なんと彼女の1頭の子供を殺してしまう。辛うじて難を逃れたチカプだったが、我が子を失った絶望が彼女を一変させた。そして、周囲のすべてが敵であると錯覚するようになり、残された1頭の子供を守るため、人間を含むあらゆる動物を襲うようになる。かつての聡明でおとなしかったチカプを知る八郎太は、彼女がすでに二人の人間を殺し、捕食したことを知る。これ以上彼女を野放しにはできないと、八郎太は苦渋の決断を下し、チカプの駆除を決意するのだった。

登場人物・キャラクター

奥平 八郎太 (おくだいら はちろうた)

猟師を生業とする青年。かつて兄の喜一郎と共に伊庭から剣術と銃の扱いを学び、伊庭が旧幕府軍の志士として立ち上がると、兄や友人の佐吉と共に彼の部隊に参加した。しかし、伊庭の死と旧幕府軍の降伏によって敗残兵となり、喜一郎や佐吉とも離れ離れになってしまう。ヒグマに襲われ重傷を負った際、十蔵に助けられ、彼の教えを受けてマタギとして新たな人生を歩むことになる。左目にはヒグマによる後遺症が残っているが、そのハンデを覆すほどの判断力と銃の腕前を誇る。義理堅い性格で、受けた恩を忘れず、大切な存在は命に代えてでも守ろうとする。一方で、よくも悪くも責任感が強く、八郎太自身の失敗を必要以上に責める悪癖がある。また、討幕を成し遂げた薩摩に対して強い敵意を抱き、のちに喜一郎が新政府軍に降伏したことを知ると、彼を厳しく責めるなど、やや時代錯誤な思考が目立つ。しかし、兄を本気で嫌っているわけではなく、彼へのコンプレックスを自覚しつつ、いつか自分の考えを改めて仲直りしたいと願っている。

鏑木 十蔵 (かぶらぎ じゅうぞう)

猟師を生業にしている男性。かつて「蝦夷」と呼ばれていた北海道の山奥に小屋を構えている。かつて庄内藩の鉄砲方組頭を務めていた。現在は肺結核を患っているが、卓越した狩猟技術は病状を感じさせないほどで、厳しさと優しさを兼ね備えた好漢。ヒグマに襲われて重傷を負った八郎太を救い出し、彼が死に急ぐのを止めるためにマタギとしての道を示した。また、かつて肺結核で死の淵にあった喜代を救い、やがて二人は夫婦となる。喜代からは深く慕われているが、十蔵自身は自らの余命が長くないことを悟っており、死後は八郎太と喜代が結ばれることを願っている。

クレジット

原作

井原 忠政

書誌情報

羆撃ちのサムライ 全4巻 リイド社〈SPコミックス〉

第1巻

(2022-10-27発行、978-4845859658)

第2巻

(2023-06-27発行、978-4845862450)

第3巻

(2024-02-27発行、978-4845865789)

第4巻

(2024-07-26発行、978-4845866700)

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