父の魂

父の魂

日本一のバット職人の息子である南城隼人が、父譲りの根性と天性の才能で野球に邁進する姿を描いた作品。川上哲治や長島茂雄、王貞治などの実在プロ野球選手が多数登場するのも特徴。週刊誌連載で甲子園大会優勝までを描き、物語は一旦完結するが、その後月刊誌に舞台を移して「プロ野球編」が連載された。貝塚ひろしの代表作の一つ。

正式名称
父の魂
ふりがな
ちちのたましい
作者
ジャンル
野球
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概要・あらすじ

昭和25年、非凡な才能を持つプロ野球選手・波原豪は肺病のため成績不振に陥っていた。波原はスランプ脱出のため、妹・南城民子の夫であるバット作りの名人・南城丈太郎にバットを注文する。民子は息子・隼人を連れて会津若松から上京し、出来上がったバットを届けるが、その直後、波原は病院で息を引き取った。

また、報せを聞いて病院に駆け付ける途中で民子も交通事故で命を失ってしまう。おじと母を一度に亡くした隼人は、父・丈太郎、弟子のデブ松らと、会津若松の山中で暮らしていたが、バット工場の経営が苦しくなり、3年後父とともに東京の下町に移転。南城印のバットは、細々ではあるがプロ野球選手の間で評判となっていく。

幼少の頃からプロ野球選手たちと交流し、非凡な才能と気迫を持っていた隼人は、父と同じバット職人か野球選手になるかで悩みながらも成長し、草野球チームから高校野球へ、そしてついにはプロ野球へとその活躍の舞台を拡げていく。

登場人物・キャラクター

南城 隼人 (なんじょう はやと)

昭和25年会津若松で生まれ、3歳の時、父のバット工場移転のため東京に引っ越す。3歳にしてその眼光で長島茂雄を威圧する桁外れの闘志を持つ。また、5歳の時、中学生の王貞治に左打ちをアドバイスするなど、天性の野球の才能も披露。小中学生時代は草野球チーム・百科ジテーンズに参加。一旦は高校進学を諦め、父の跡を継ぎバット職人を志すも、父の死後、中将学園へ進学。 投手として甲子園大会優勝を目指す。打者のバットをへし折るほどの重い球質が特長。さらに、竜道寺住職・城之内輝の指導のもと、空手修行を行い、ついに必殺技・水流投法を編み出す。高校卒業後は会津若松に戻り、父の遺志を継ぎバット職人として暮らしていたが、巨人軍・長島茂雄や川上監督に乞われ、巨人軍の投手として再出発する。

南城 丈太郎 (なんじょう じょうたろう)

主人公・南城隼人の父。隼人には「トウタン」と呼ばれる。折れないはじきの良いバットを作りに命を懸ける日本一のバット職人。頑固一徹。会津若松でバット工場を経営するが、原材料のトネリコの木がなくなるなど、経営難に陥り、東京で再出発を決意する。南城印のバットはプロ野球選手の間で評判になるが、その後、ライバルの東郷運動具株式会社の策略により、同社の下請けとなる。 紆余曲折を経て、南城バット工場を再建するが、持病の心臓病が悪化、ついに命を落とす。高校野球へ進みたいという隼人に猛反対するが、最後は命を賭して「魂のバット」を作り上げ、隼人の野球を許す。一旦決めたことを命がけでやり抜く、父の生き様の精髄である「魂のバット」は丈太郎の死後も隼人の支えとなる。

波原 豪 (なみはら ごう)

主人公・南城隼人の叔父。巨人軍所属のプロ野球選手。非凡な才能を持つが、肺病を患い24連続無安打のスランプに陥る。長い前髪とベルトに着けた鈴がトレードマーク。スランプ脱出のため、妹・民江の夫、南城丈太郎にバットを依頼するが、バットを受け取った直後、帰らぬ人となる。

南城 民江 (なんじょう たみえ)

主人公・南城隼人の母で巨人軍の波原豪選手の妹。波原が南城丈太郎に依頼したバットを届けるために会津若松から上京する。バットを受け取った後に波原が倒れたとの報せを受け、病院に急ぐ途中、交通事故で亡くなる。

デブ松 (でぶまつ)

南城丈太郎の弟子。南城親子と苦楽を共にする忠誠心に厚い男。隼人にはデブタンと呼ばれる。丈太郎が東郷運動具株式会社の社員になった時は、南城バット工場の看板を一時預かり、会津に帰ったふりをして、東京で焼き芋屋の屋台を引きながら親子を見守った。のちに超一流デパート・織田百貨店の専務取締役になり、父を亡くした隼人の後見人として、隼人の高校入学を後押しする。 隼人入学の後は織田百貨店を辞め、南城バット工場再建に尽くす。織田百貨店の令嬢、織田令子と結婚し、一子・秀人をもうける。

長島 茂雄 (ながしま しげお)

巨人軍所属のプロ野球選手。高校生の時、会津若松の南城バット工場を訪ね、3歳の南城隼人と対面。野球ごっこで隼人の気迫に押され本気で球を投げてしまう。立教大学在学時は、丈太郎の教えとバットで六大学リーグの通算新記録となる8本塁打を放った。また、プロ野球入団後も、金田正一投手を打ち砕くために南城印のバットに助けられるなど、南城親子との関わりが深い。 実在の元プロ野球選手・監督の長嶋茂雄がモデル。

王 貞治 (おう さだはる)

巨人軍所属のプロ野球選手。中学生のとき、実家の中華料理屋「五十番」の出前をしていて、4歳の南城隼人と出会う。隼人からは「50番の次男坊」と呼ばれる。公園で草野球をしていた時、5歳の隼人から右ではなく左で打つようにアドバイスされる。そこに居合わせた毎日オリオンズの荒川選手からも同じ指摘を受け、もともと左利きでもあったため、左打ちに転向する。 実在の元プロ野球選手・監督の王貞治がモデル。

東郷 真樹 (とうごう まき)

東郷運動具株式会社の息子。南城隼人とは4歳の頃からのライバル。人一倍負けん気とプライドが高く、特に隼人に対しては異常なライバル心をむき出しにする。幼少時より草野球チーム「百科ジテーンズ」に所属。のち、中将学園高等部野球部に進み、一年生で唯一レギュラー入りするが、同野球部のこじんまりとしたチームプレイ野球に愛想を尽かし、明智光成がいる大阪の烈風高校に転校。 七色の変化球を武器に甲子園大会で隼人と対決する。隼人と明智の対決の際、折れたバットが右腕に刺さり大けがを負う。高校卒業後、阪神タイガースに入団するが甲子園大会での怪我がもとでバッティング投手にしかなれず、最終的にはチームを去る。 退団後は隼人を倒せる選手を見つけては刺客としてプロ野球に送り込み、打倒隼人の執念を燃やし続ける。

東郷社長 (とうごうしゃちょう)

東郷真樹の父親で東郷運動具株式会社の社長。いち早く工場のオートメーション化を実現してバットの大量生産を行う。バット作りの名人・南城丈太郎をライバル視しており、東京でこじんまり商売を始めた南城バット工場の隣に大きな工場を作る。プロ野球選手の間で評判の南城印のバットに嫉妬し、策略により南城バット工場を自社の下請けにすることに成功する。 丈太郎の天敵だが、じつはその腕に惚れこんでおり、丈太郎が過労で療養が必要になった時は、自社に招いて工場長として厚遇しようとした。

ゴロちゃん

南城隼人の幼馴染でガキ大将。隼人より2歳年上。父親はダフ屋のギョロさんと呼ばれる人物。初対面で隼人と喧嘩するが、公園の噴水で溺れる東郷洋子を、泳げないのに助けようとした隼人に惚れ、以来親友となる。

東郷 洋子 (とうごう ようこ)

東郷運動具株式会社の令嬢で真樹の妹。南城隼人とは幼馴染。やさしい隼人に惹かれ、将来はお嫁さんになると誓う。隼人には洋子タンと呼ばれる。

西本秘書 (にしもとひしょ)

東郷社長の秘書。眼鏡にちょび髭、左ほほの大きなホクロが特徴。社長へのゴマスリに命を懸けており、南城親子を目の敵とする。「社長にいいつけてやる~ゥ」が口癖。

三ツ星 竜太 (みつぼし りゅうた)

着流しに長ドスを持つヤクザ。元プロ野球の花形選手だが、栄光に酔いしれ、練習をさぼったために挫折。殺し屋竜の異名を持つヤクザに身を落とした。東郷社長に雇われ、東郷の社員でありながらバットを作ろうとしない南城丈太郎を脅す。丈太郎の部屋に押し入った際、波原豪の形見である「鈴のバット」を縦真っ二つに斬ってしまう。

谷丘 みどり (たにおか みどり)

南城隼人の同級生で草野球チーム「百科ジテーンズ」監督・谷丘鉄心の娘。学校でホームランを打った隼人を見込み、父のチームに入れようとする。中学生になると、隼人に好意を寄せるようになる。

谷丘 民夫 (たにおか たみお)

東郷運動具株式会社のバット職人。ウスノロの谷丘、略してノロ谷とあだ名される。手は遅いがバット作りへの激しい情熱と才能の持ち主。東郷社員時代の名人・南城丈太郎に自身の二代目とまで見込まれ、厳しく指導される。

谷丘 鉄心 (たにおか てっしん)

髪結いの亭主で、南城隼人や東郷真樹が所属した草野球チーム「百科ジテーンズ」の監督。戦争で左目と右足を失い、プロ野球選手の道は絶たれたが野球への情熱を捨てきれずに草野球チームに打ち込む。「野球は科学」と言い、四角いバットをはじめ数々の変型バットでチームの強化を図る。息子の民夫を一人前のバット職人に仕立て上げた南城丈太郎に惚れこむ。 城之内輝に頼まれ、彼の私設チームのコーチとなり、のちに中将学園野球部の監督となる。

ダフ屋のギョロさん

南城隼人の幼馴染ゴロちゃんの父親。ダフ屋を稼業とし、任侠道に憧れる一本気な男。南城親子の隣人。

城之内 輝 (じょうのうち てる)

サングラスをかけた若い男で竜道寺の住職。中将学園大学部出身。チームプレイに徹するこじんまりとした日本的野球を否定し、本物の野球チーム結成を目指す。そのために南城隼人ら有望な中学3年生を9人集めて勉強合宿を敢行。高校野球の名門・中将学園へ入学させ、私設チームを作り、野球部の乗っ取りを計画する。 空手の達人であり、隼人を空手で鍛え上げ、野球のための反射神経を養う。

団 哲也 (だん てつや)

中将学園大学部の空手部に所属。空手四段の猛者。中将学園野球部乗っ取りのために集められた南城隼人ら9人を従わせるための見張り役。

佐野 拳 (さの けん)

城之内輝の中将学園野球部乗っ取りのために集められた一人。「ケンカ屋佐野」の異名を持つ。南城隼人に徹底的にやられてから、隼人を兄貴と慕う。中将学園野球部では捕手を務め、隼人の女房役となる。

織田 令子 (おだ れいこ)

超一流デパート織田百貨店の社長令嬢。デブ松が同デパートの専務を務めていたころ婚約する。織田デパートを辞めたデブ松を追いかけ、押しかけ女房となる。一度は父に連れ戻され、明智光夫のフィアンセとされるが、その意志は固くついにデブ松と結ばれる。

織田社長 (おだしゃちょう)

超一流デパート織田百貨店の社長。デブ松の器量を見込み、専務に引き上げた人物。会社を辞めたデブ松を追いかけ、令子が家を飛び出した後は二人の仲を引き裂き、自社の明智光夫と令子を結婚させようとする。最終的には令子の意志の固さに負け、娘を勘当することにより、デブ松との仲を認める。

椿 竜太郎 (つばき りゅうたろう)

中将学園高等部・野球部の監督。中将学園大学部空手部のOBで空手の達人でもある。城之内輝と背恰好が似ており、東郷真樹に同一人物だと疑われる。空手では独自に編み出した「水流の形」を得意技とする。

明智 光夫 (あけち みつお)

織田百貨店大阪支社長だったが、デブ松と入れ替わりに専務取締役に就任。プライドが高く、爬虫類のようにしつこい男。織田社長に娘の令子との結婚を命じられアプローチするも、令子に嫌われて断られる。烈風学園の明智光成の兄。

明智 光成 (あけち みつなり)

大阪の烈風高校野球部の強打者。バカか天才か分からない怪物。いつも異常なほど大量の涎を垂らしている。三休老師の弟子で、隙の無い空手の構え「水流の形」を体得している。「水流の形」を応用した明智流水流打法を使う。

三休老師 (さんきゅうろうし)

伊賀大善寺の住職。老人ながらその後ろ姿は巨岩に見えるほど隙が無い。隙の無い空手の構え「水流の形」の創始者で、椿竜太郎、明智光成の師匠。伊賀山中の滝修行を通じて南城隼人に無心の境地を教え、「水流の形」を開眼させる。

林 洋市 (はやし よういち)

長身、長髪のプロ野球選手で、ハワイでの猛特訓を経て阪神タイガースに入団。東郷真樹の打倒隼人の刺客。バットを短く持ち、グリップの裏で球を打つ「ビリヤード打法」を使う。また、対水流投法として、東郷印の特製短バットを使用する「短バット打法」の技を持つ。

根津 小助 (ねづ こすけ)

中日ドラゴンズ所属の投手で東郷真樹子飼いの秘密兵器。愛嬌のある小柄な選手で、打った球がすべて投手に帰ってくる「ブーメラン秘球」を投げる。

集団・組織

中将学園 (ちゅうじょうがくえん)

良家の子女が通う名門私立校。小学部から大学部までの一貫教育を行う。高等部野球部は甲子園大会出場の常連だが、一度も優勝経験はない。城之内輝は中将学園野球部を日本的野球の典型と考え、私設野球チームを作り、野球部乗っ取りを図る。

その他キーワード

魂のバット (たましいのばっと)

『父の魂』に登場する「父の魂」の文字が刻まれたバット。名人・南城丈太郎が、一子・隼人に男の生き様を示すために作る。丈太郎はバットを完成させたあと、野球をやりたいという隼人を許し、その代り命を懸けろと言い残して絶命する。

水流投法 (すいりゅうとうほう)

『父の魂』に登場する必殺技。南城流水流投法とも呼ばれる。隙の無い空手の構え「水流の形」を体得した南城隼人が独自に編み出した投法。グッと腰を落とした異様に低い体勢から、後ろに反り返り、全身のバネを利用して投げる。余りの威力に打者のバットは必ず折れてしまう。

鈴のバット (すずのばっと)

『父の魂』に登場するバット。名人・南城丈太郎が、義兄波原豪のスランプ脱出のために作った。波原の死後、愛用の鈴とともに形見として南城バット工場に置かれる。ヤクザ・三ツ星竜太に真っ二つにされたことにより、バット作りの意欲を失っていた丈太郎の、第二の鈴のバット製作のきっかけとなる。

明智流水流打法 (あけちりゅうすいりゅうだほう)

『父の魂』に登場する必殺技。烈風高校の明智光成が使う打法。隙の無い空手の構え「水流の形」をバッティングに応用したもの。バッターボックスで異様に腰を落とした低い構えから打つ。南城隼人の水流投法と対決し、ピッチャーフライに打ち取られる。その時に折れたバットが東郷真樹の右腕に刺さり、真樹の選手生命を奪う。

ビリヤード打法

『父の魂』に登場する必殺技。林洋市が使う。バットを短く持ちグリップの裏でビリヤードを突くように打つ。バントを警戒する野手の意表をつく打法。

短バット打法 (しょーとばっとだほう)

『父の魂』に登場する必殺技。林洋市が使う。南城隼人の水流投法を打ち崩すために開発した打法。東郷真樹が開発した異常に短いバットを使い、水流投法によるバット折りを防ごうとする。

ブーメラン秘球 (ぶーめらんひきゅう)

『父の魂』に登場する必殺技。根津小助が使う。マウンドでジャンプして空中回転の後に投げる。バットに当たると必ず投手のところに帰ってくるのでブーメランと名付けられた。

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