環の影

環の影

天に懸かる巨大な「環」を追いかけて暮らしている影従国が、彼らが持つ特殊な防具「白鎧」の技術を巡る争いに巻き込まれ、多くの国々と共に騒乱の時代へと突入していく。壮大なスケールで描かれたアジアンファンタジー巨編。「少年ジャンプ+」2020年4月から配信の作品。

正式名称
環の影
ふりがな
わのかげ
作者
ジャンル
ファンタジー
レーベル
ジャンプコミックス(集英社)
巻数
既刊1巻
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あらすじ

第1巻

見聞を広めるためにクチヒト帝国を飛び出した青年のアウシは、天に懸かる「」を追いかけて暮らす神秘の小国、影従国までやって来た。「白鎧」という特殊防具の素材を作る技術を持ち、よそ者を警戒する国情のせいで一度は追い払われそうになるアウシだったが、彼を憐れんだ影従国王のグアン・ホウゴの寛大な計らいで、アウシは影従国での滞在を許可される。王妃のダワと彼女の妹であるカマルの世話を受け、心躍らせるアウシをよそに、王宮内の衛兵は異国の白鎧をまとった謎の侵入者の対応に追われていた。グアンの指示で逃げた侵入者を追跡していた衛兵のブランパンヌアは、裂け目谷まで侵入者を追い詰めることに成功するものの、そこで反撃に出た侵入者によって惨殺されてしまう。ブランとパンヌアの白鎧を奪った侵入者は、ブランの白鎧をまとって彼に成りすまし、パンヌアの骸を抱えて影従国の王宮まで引き返すのだった。(第一話「環、落とす影を追う者たち」。ほか、5エピソード収録)

第2巻

殺害された兄のブランの仇を取るため犯人である侵入者を追い、愛犬のペペといっしょに影従国を出たカマルだったが、夜の暗闇の中で極度に心細くなり、亡きブランを思って泣いてしまう。そんな時、1日に1回だけ「」が産み落とす白光が、闇夜を切り裂いて地上へと降り注いで来た。明かりを採るため、白光を回収したカマルの前に、「白鎧」をまとった謎の二人組が姿を現す。コウト総王国の白鎧をまとった二人組は、カマルとペペを捕え、何処(どこ)かへと連れ去ろうとする。周囲を哨戒(しょうかい)している際に、彼らの姿を見届けた影従国の衛兵は、非常事態を伝えるためにすぐさま仲間のもとに引き返すのだった。(第七話「白光取り」。ほか、7エピソード収録)

登場人物・キャラクター

アウシ

クチヒト帝国に住んでいるダンケル家出身の青年。「白鎧」の技術を部分的に応用した、仮面のような特殊な眼鏡を装着している。好奇心が旺盛で感受性も強く、未知のものを見るとワクワクが止まらなくなる純粋な性格の持ち主。実父はクチヒト帝国の高官を務めており、比較的自由が利く暮らしをしていた。生まれつきの全盲でまったく目が見えなかったが、13歳の時に視神経とつながる特殊な眼鏡を父親からもらい、ふつうの人間と変わらない生活を送れるようになった。見聞を広めるために叔父の伝手(つて)を駆使して皇帝の書簡を手に入れ、クチヒト帝国を旅立って、神秘の国、影従国を訪問した。国王であるグアン・ホウゴの特別な計らいで入国を許され、影従国に滞在できる身となったが、到着して間もなく影従国に侵入したドウアンとの争いに巻き込まれ、王妃のダワの妹であるカマルといっしょにコウト総王国へと連れ去られてしまう。観察力が高いうえに勘も鋭いため、物事の裏事情をなんとなく理解できてしまうが、武力や権力を持っていないため、今はただ雌伏の時を過ごしている。

カマル

影従国に住んでいる少女。王妃のダワと衛兵のブランの妹。黒髪のショートカットで、まるで男の子のような服装をしている。男勝りな性格で、自分のことを「オレ」と呼ぶなど、言葉づかいもやや乱暴なところがある。そのため、カマルと出会ったアウシは、しばらく彼女が女の子であることに気がつかなかった。警戒心が強いが、一度打ち解けた相手に対しては、明るく素直な表情を見せる。王宮の衛兵をしているブランを尊敬しており、彼からもらった弓を非常に大事にしている。自分が生まれた際に母親が死んでしまったことから、自分が母親を殺してしまったと思い込み、今なおダワとブランに引け目を感じている。影従国に侵入したドウアンによってブランを殺害されてしまったため、復讐を心に誓って影従国を出るが、その途中でガラ・ブ・ハイムが派遣したランマとガスに捕まり、アウシと共にコウト総王国へ連れ去られてしまう。

グアン・ホウゴ

影従国の94世国王の男性。柔和な顔つきをした黒髪の青年で、穏やかな思いやりのある性格をしており、配下や異国の者に対しても、偉ぶったところを見せない人格者。クチヒト帝国から自国を訪れたアウシのことも、周囲の反対を押し切って王宮に迎え入れていた。白鎧の「白帝」を所持している。

ダワ

影従国に住んでいる王妃。民族的なフードをまとった美しい女性。穏やかな優しい性格をしており、影従国にやって来たアウシを自ら旧家へと案内していた。もともとは庶民の娘で、恋人と結婚して一生を終えるはずだったが、国王のグアン・ホウゴに見初められ、恋人と別れて王宮入りした経緯がある。

ブラン

影従国に住んでいる衛兵の男性。王妃のダワの弟で、カマルの兄。短髪で体格のいい青年で、非常に人当たりがいい努力家。もともとは戦士とは無縁の庶民で、焼き餅屋の弟子として暮していた。ダワがグアン・ホウゴに嫁いだあとに、王宮の衛兵として取り立てられ、「白鎧」を与えられた。ダワのコネによって衛兵になったことを自覚しており、立場に恥じぬ立派な衛兵になろうと日々努力していた。影従国に侵入したドウアンを追跡した際に返り討ちに遭い、殺害されてしまう。

ドウアン

コウト総王国に滅ぼされたザラム王国の残党の男性。白鎧をまとって戦う生粋の戦士である。眉毛がつながった、武骨な面構えをしている。戦いを愛する自由気ままな無頼漢で、目的を遂行するためなら容赦なく他人を殺害できる冷酷さも備えている。ザラム王家の生き残りであるマヒナに仕えており、コウト総王国に滅ぼされたザラム王国を再興するために影従国へ侵入して、彼らが持っている白鎧を片っ端から集めていた。体術と判断力に長けており、戦いのセンスも併せ持つ。ザラム国王のヨンシ・ヤト・ザラムが所持していた白鎧「乱創」を初めてまとった時も、瞬時に「乱創」を使いこなし、軽々とランマを惨殺していた。上位の白鎧をまとった相手に対しても一歩も引かず、白鎧の弱点を突いて首をねじり切って倒すことができるなど、どんな相手でも互角以上の戦いを見せる。影従国に侵入した際に、自分の身分をコウト総王国の使者と偽り、のちの騒乱の種をまいた。

マヒナ

コウト総王国に滅ぼされたザラム王国の王家の最後の生き残りの女性。美しく、凛とした佇(たたず)まいをしている。身分にこだわらない先進的な考えの持ち主で、即断即決を旨とするリーダーシップと高いカリスマ性を誇る才媛。自らを女王と位置づけ、ザラム王国を再興するため、ドウアンに命じて各地の白鎧を集めている。戦闘や斥候、各地の調査を一手に引き受けるドウアンのことを頼りにしており、彼のことは一人の女性として心から愛している。旧ザラム領でカマルとアウシに会い、成り行きから目的を隠して彼らを一行に加えていた。父親であるヨンシ・ヤト・ザラムが遺した白鎧である「乱創」を所持しているが、戦闘に不慣れなため、彼女が「乱創」をまとっても100%の力を引き出すことはできなかった。

バヌ

コウト総王国に滅ぼされたザラム王国の残党の老齢な男性。ザラム王国が在りし頃にマヒナに仕えていた忠臣で、ザラム王国、ひいてはマヒナに対する忠誠心が非常に強い。ザラム王国が滅ぼされてからは野に下り、忸怩たる思いを抱えながら身を隠していた。マヒナが行動を始めたあとに彼女から文を貰い、王国再興のために老骨に鞭打って最後の働きを見せようとしていた。その実直な性格から、マヒナには心から信頼されている。

ヒカノ

コウト総王国の旧ザラム領に住んでいる庶民の女性。マヒナの幼少からの友人で、小さい頃はよくいっしょに遊んでいた。ザラム王国が滅ぼされたあとは、後釜として所領を治めることになったガラ・ブ・ハイムの息子であるランマに目をつけられ、彼の慰み者にされる辛い日々を送っていた。

ガラ・ブ・ハイム

コウト総王国に従う「ブ王家」の当主の男性。ザラム東部を治める総督を務める、知恵者で処世術に長けている。ザラム王家を滅ぼした際の優れた功績を認められ、旧ザラム領東部の総督の座を与えられた。反骨精神の強いザラム人に手を焼いており、逆らった者を容赦なく処刑する恐怖政治によって人々の不満を封じ込めている。出来の悪い王子のランマとガスが、彼の目下の悩みの種となっていた。

ランマ

ガラ・ブ・ハイムの息子。「ブ王家」の王子。金髪で鋭い目つきをしている。冷酷かつ粗暴な性格で、さらに後先のことを考えられない刹那的なところがある。白鎧をまとい、ブ王家のために各地で戦闘や偵察などをこなしている。ガラの命で影従国の人間を生かしたまま連行するという任務の遂行中にも、人質となるべき人間をうっかり殺害してしまうなど、暴力的で軽率な行動を繰り返していた。のちに白鎧「乱創」をまとったドウアンによって焼き殺される。

ガス

ガラ・ブ・ハイムの息子。「ブ王家」の王子。黒い短髪の青年で白鎧をまとい、ブ王家のために各地で戦闘や偵察などをこなしている。冷酷で暴力的な性格だが、兄弟のランマよりは抑制的で落ち着いており、忠実に任務をこなそうとする意識も高め。のちにドウアンと対峙した際に瞬殺された。

ロクト・レエ

コウト総王国の総王を務めている男性。頰や口元にいくつもの傷が刻まれた強面(こわもて)で、頭部が禿げ上がっている。豪胆かつ懐が深い性格をしており、さらに知恵も働く優秀な策謀家にして、稀代の野心家。過去10年でコウト総王国の版図を大幅に拡大した軍事的才覚に優れた人物で、ドウアンによって荒らされた影従国の騒乱に乗じて、クチヒト帝国との開戦を画策し、全世界を手中に収めようとしている。

パンヌア

影従国に住んでいる衛兵の男性。白鎧をまとい、領内や王宮を警護している。影従国に侵入したドウアンをブランといっしょに追跡するが、二手に分かれたところをドウアンに狙われ、首をねじり切られて殺害された。

オウル・ラント

クチヒト帝国の皇帝を務めている男性。性格は優柔不断で弱々しく、争いごとを嫌い、10年前から始まっていたコウト総王国の軍事的台頭を、平和の維持を名目にして完全に放置してきた過去を持つ。ここ最近は、コウト総王国の勢力がクチヒト帝国まで及ぶようになった事実に怯えており、精神的に不安定になっている。辛い現実から逃れるために王宮に若い男女を集め、刹那的な快楽を求める乱痴気騒ぎを繰り返していた。

ジユナ

クチヒト帝国の十三嶺将軍を務めている男性。頰に傷のある歴戦の戦士で、国を思う愛国者。皇帝であるオウル・ラントの友人でもある。過去10年にほぼ何もせず、コウト総王国の勢力拡大を許してしまったオウルの責任を問うて厳しい讒言(ざんげん)をしたが、激昂したオウルに首を切断され、殺害されてしまう。

ヨンシ・ヤト・ザラム

コウト総王国に滅ぼされたザラム王国の国王を務めていた男性。マヒナの父親で、白鎧「乱創」の本来の所持者。カリスマにあふれ、「乱創は武器いらず」を信条としていた。ひとたび「乱創」をまとうと凄まじい戦闘力を発揮し、単騎で白鎧がいる大軍を鎧袖(がいしゅう)一触にし、すべてを焼き尽くすほどの力を見せていた。コウト総王国がザラムに侵攻して来た際に命を落とす。

ペペ

カマルの飼い犬。足が6本生えている非常に珍しい「六つ脚犬」。性別は不明。カマルにとてもかわいがられており、のちにブランの仇を取るために旅立ったカマルに連れられて、影従国を出ることになった。カマルがランマとガスに襲われた時に、貴重な種であるという理由で、カマルといっしょにコウト総王国に連れ去られた。

場所

影従国 (けいじゅうこく)

星を取り囲む「環」の影を追いかけて暮らしている神秘の国。環から降り注ぐ白光を固体化する技術を持ち、白鎧を発明した国でもある。そのため、国王であるグアン・ホウゴが所持する「白帝」をはじめ、国内にはまざまな種類の白鎧が存在しており、選りすぐりの衛兵が白鎧をまとって守りを固めている。これらの白鎧の存在が、小国に過ぎない影従国に対し、諸外国が手を出せない大きな理由となっている。一年中、環の影を追って白光を集める暮らしを維持するため、国王をはじめとする国民は、船のような姿をして車輪が付いた巨大な移動都市に住んでいる。また、国の機密を守るため、異国の人間が移動都市に立ち入ることは固く禁じられている。

クチヒト帝国 (くちひとていこく)

サシン大陸の7割を支配している巨大国家。帝都はタハトで、現皇帝はオウル・ラントが務めている。世界でもっとも栄えている国だが、ここ10年はオウルの無為無策のせいもあり、経済力、軍事力共にコウト総王国に肉薄されている。クチヒト帝国の一強が崩れたことが、ここ最近の世界情勢が不安定になった原因になっていた。

コウト総王国 (こうとそうおうこく)

ズトウ大陸とウシン大陸のほぼ全域を支配下に置き、世界で2番目に栄えている王国。王都はコハブで、現総王はロクト・レエが務めている。10年前までは「コウト王国」と呼ばれるウシン大陸の南半分を治める国に過ぎなかったが、軍事的才覚に恵まれたロクトがここ10年で大幅に版図を拡大した。

ザラム王国 (ざらむおうこく)

かつてズトウ大陸を支配していた王国。国王はヨンシ・ヤト・ザラムが務めている。ヨンシが白鎧の「乱創」を所持するなど、軍事的に精強であったが、6年前にコウト総王国の侵攻を受けて滅んでしまった。しかし、コウト総王国の勢力下に置かれて数年が経った今もなおザルム人の抵抗は止まず、この地を治める総督であるガラ・ブ・ハイムの頭を悩ませている。

その他キーワード

白鎧 (はくかい)

影従国が発明した鎧(よろい)。人体を頭から手足の指先まで、皮のようにぴったりフィットする素材で覆う特殊な鎧で、装着した人間に強大な運動能力と防御力を与える。そのため、白鎧をまとった人間にはふつうの人間では到底太刀打ちができず、同じく白鎧をまとった人間でないと立ち向かえない。顔の部分に目のような器官が存在するが、目の数が多いほど白鎧も強力になっていく。ただし、白鎧の戦闘力は、まとった人間の能力にも左右されるため、戦いに不慣れな人間が強力な白鎧をまとったとしても、下位の白鎧をまとった手練(てだ)れに勝つのは難しい。人体を離れた白鎧は、宝石のような小さい球体に変化するため、持ち運びは非常に簡単。

(わ)

星を一周している謎の巨大な「環」。環は大地に大きな影を落とし、太陽の位置により移動していく。北半球では夏至にもっとも南に、冬至にはもっとも北へと移動する。影従国の国民は移動都市で暮らしながら環の影を追い、サシン大陸からズトウ大陸を一年中移動する「影追い」を続けている。

白光 (はくこう)

「環」から産み出される謎の光。白光は環の影を通り、1日1回だけ地上へと降り注ぐ。影従国の国民は「影追い」をしながら白光を集め、特殊な技術で「白光固形」を生成して白鎧を作っている。白光を固形にする技術を持つ国は、世界で影従国ただ一国しか存在しない。

書誌情報

環の影 1巻 集英社〈ジャンプコミックス〉

第1巻

(2020-03-04発行、 978-4088822501)

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