疾風のまつりごと

疾風のまつりごと

不思議な力を持った少年と少女が、旅を続けるうちにさまざまな場所で出会う出来事を描いた1話完結の連作短編。第二次世界大戦後間もない頃から日本が少しずつ豊かになるまでの時代を背景に、ノスタルジックな雰囲気で描かれるファンタジー。「プチフラワー」1990年7月号から1993年1月号にかけて連載された作品。

正式名称
疾風のまつりごと
ふりがな
かぜのまつりごと
作者
ジャンル
ファンタジー
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概要・あらすじ

戦後間もない頃、ある過疎村に草野喬草野鳩子という兄妹がやって来る。峠のタバコ屋に預けられることになった2人は学校に通うことになるが、三郎をはじめとした村の子供たちは2人と距離を置いていた。一方、喬と鳩子が村に来てから、蓮華が狂い咲きしたり、喬と鳩子が身を寄せるタバコ屋の稲だけが早々に実ったりと、不思議なことが次々と起こるようになる。

これを理由に三郎は喬と鳩子が妙な力を持っているのではないかといぶかしみ、2人が宇宙人だという噂を流すのだった。だが、村の大人たちの間では鳩子を家に招くといいことが起こるとまことしやかにささやかれ、喬と鳩子は多くの人の家を泊まり歩くこととなる。やがていたたまれなくなった喬は、鳩子を連れて別の町へと旅立つ。

喬と鳩子は旅を続けながら、その後もさまざまな人や出来事に遭遇していくのだった。

登場人物・キャラクター

草野 喬 (くさの たかし)

草野鳩子の兄で、小学校高学年くらいの少年。髪と目の色素が薄く、どこか異質な雰囲気を放つ。空中を浮いたり風や海水を操ったり、人や動物に思念を送ったりなど、不思議な力を持っている。その実態は人ではなく、羽が生え鋭い爪を持つ姿のモノ。生ぐさ上人によれば、人の精力を食う者であり、観音である鳩子がそばにいることで、草野喬は飢えることがないのだという。

草野 鳩子 (くさの はとこ)

草野喬の妹で、小学校低学年くらいの少女。身を寄せていたタバコ屋の農作物をいち早く実らせたり、事故による怪我を回避させたり、さらには新たな仕事を舞い込ませたりなどさまざまな幸運を呼ぶ不思議な力がある。生ぐさ上人には「観音」と評され、ご利益があるとしてその力を求められている。

三郎 (さぶろう)

エピソード「疾風の鎮守」に登場する。過疎村に住む少年で、村にやって来た草野喬と草野鳩子を変な奴と言っていぶかしむ。ある日、喬と鳩子が不思議な力を使って遊んでいるところを目撃。その後、村で起きた土砂崩れの現場に現れたと言われる光る子供を喬だと思い、喬と鳩子が宇宙人だという噂を学校中に流す。

(しげる)

エピソード「疾風の鎮守」に登場する。草野喬と草野鳩子が身を寄せることになったタバコ屋の末息子で、18歳で村を出てからずっと都会暮らしをしていた。しかし結婚に失敗し、村に戻って来ることになる。喬と鳩子を優しく見守る存在。

(さき)

エピソード「疾風の鎮守」に登場する。草野喬と草野鳩子が通うことになった学校の女性教師。学生時代に付き合っていた男性と一緒に東京に行く予定だったが、咲自身は地元近くの大学に進学したため、上京を断念した過去がある。子供たちには厳しくも愛を持って接している。

飛田 丈太郎 (ひだ じょうたろう)

エピソード「菫の花咲く頃」に登場する。小説家を目指している男性だが、大学同期生の編集者に作品を酷評されるなど、その実力を認められていない。飲んだくれて橋の下で寝ていたところで草野喬と草野鳩子に出会い、自宅の長屋に連れて帰った。燁子という恋人がおり、燁子が別の男と結婚した後も不倫関係を続けている。

(ひとみ)

エピソード「菫の花咲く頃」に登場する。飛田丈太郎と同じ長屋に住む少年。言語障害があるが、歌を歌う時だけは流暢に言葉を発することができる。草野喬と草野鳩子が飛田の家で暮らすことになったことをきっかけに知り合い、鳩子と親しくなっていく。瞳が生まれてすぐに母親が亡くなっており、それが原因で瞳の父に疎まれている。

燁子 (あきこ)

エピソード「菫の花咲く頃」に登場する。昔から飛田丈太郎の恋人だった女性だが、医師の男性と結婚した。結婚後も飛田との不倫関係を続けている。小説が売れるようになった飛田から一緒に逃げようと言われるが、夫との子を宿しており、その申し出を断る。

瞳の父 (ひとみのちち)

エピソード「菫の花咲く頃」に登場する。瞳の父親であり、木場作業員やいかだ乗り、家具職人を兼任して生計を立てている。妻は瞳を生んですぐに亡くなっており、それが原因で瞳に当たり散らすようになった。酒に酔っては瞳に暴力を振るっている。

銀田 由布子 (かねだ ゆうこ)

エピソード「千尋の海の」に登場する。海沿いの町に屋敷を構える銀田家の娘。心臓に病を抱えており、病院と学校に行く以外は屋敷の中でカゴの鳥のような生活をしている。町の漁師の家で暮らすようになった草野喬と草野鳩子と出会い、親しくなるうちに元気を取り戻していく。

(れん)

エピソード「千尋の海の」に登場する。銀田家の屋敷で庭師をしている男性で、額に十字の傷がある。離人症であり、人と話すことはまったくないが、銀田由布子が熱を出して寝込んでいる時には庭の花で部屋を飾り付けるなど、心優しい人物。

銀田 敏樹 (かねだ としき)

エピソード「千尋の海の」に登場する。銀田由布子の伯父。由布子の父親と一緒に興した事業に成功し、由布子の父親を研究室での業務に張り付かせて、代わりに自身が銀田家を取り仕切るようになった。銀田家にやって来るようになった草野喬と草野鳩子を疎んじ、追い出そうとする。

生ぐさ上人 (なまぐさじょうにん)

エピソード「千尋の海の」に登場する。いつも海辺で魚を拾って食いつないでいる浮浪者の男性。町の子供たちにはバカにされ、石を投げられることもしばしば。蓮と交流があり、時々銀田家の食事の残りを分けてもらっている。草野喬を見て自分と同類であると語り、草野鳩子を「観音」と言ってご利益を求める。

音無谷の婆やん (おとなしだにのばあやん)

エピソード「雪童子」に登場する。20年前まで貧困にあえいでいた町に住む老婆で、同じ世代でこの町で生きているのはすでに彼女のみとなっている。雪の中を訪ねて来た草野喬と草野鳩子と知り合い、彼らの世話を買って出る。夫と息子を戦争で亡くしており、彼らのために取っておいた金で畑を買って食いつないでいる。「絹」という名前の娘がいたが、7歳の頃に売り飛ばしてしまった過去がある。

橋本 登 (はしもと のぼる)

エピソード「雪童子」に登場する。橋本家の三男坊。正月に親戚が集まった際、子供たちと一緒に誰も使っていない2階の部屋で肝だめしをした。その際に少年の霊に遭遇し、座敷童に会ったと親族に話すが、誰にも信じてもらえずにいる。その座敷童のことを知るため、音無谷の婆やんのもとを訪れる。

真秀 (まほろ)

エピソード「まほろば」に登場する。旅芝居一座のヤサの一員である少年。ヤサの座員は草野喬と草野鳩子の不思議な力にも臆せず2人を受け入れており、真秀も特に鳩子と親しくなる。東北でヤサに拾われてから同行するようになり、座員を本当の家族のように慕っている。

(ほたる)

エピソード「焔の小鬼」に登場する。物盗りなどをして生計を立てている少女。白い髪と銀色の目を持ち、その姿のせいで母親に捨てられたとされている。蛍や犬などを呼び寄せたり、手を使わずに石を飛ばしたりできる他、火を操る力も持っている。同じく不思議な力を持つ、草野喬や草野鳩子と親しくなる。

柳田 春樹 (やなぎだ はるき)

エピソード「焔の小鬼」に登場する。子供に対する横暴があれば、たとえ相手が警察であっても激昂する正義感が強い男性。かねてより螢の保護者になることを望んでおり、警察に保護されていた草野喬と草野鳩子のことも引き取る。子供たちに善意を示すのは、自身がかつて浮浪児になる寸前までいった経験があるため。幸子と婚約している。

幸子 (さちこ)

エピソード「焔の小鬼」に登場する。柳田春樹の婚約者の女性で、警察署長を父親に持つ。草野喬と草野鳩子の前で言い争いをする柳田と父親に対して怒号を飛ばすなど、気の強い一面がある。不思議な力を持つ螢を引き取りたいと考えている柳田には一定の理解を示しつつも、柳田の身を案じている。

ケン

エピソード「焔の小鬼」に登場する。螢のもとで物盗りを働いている少年。螢が持つ特別な力に守られながら働くことでうまく共存していたが、同じく特別な力を持つ草野喬や草野鳩子が螢と親しくなるのを見て、自分たちの今後を危ぶむようになる。そして螢を裏切り、決別する。

多岐 (たき)

エピソード「窓から,」に登場する。盲目の陰陽師の少女。人や物を色や気として感じることができ、生きているものは黄色く、死んでいるものは青黒く見える。多岐の母と2代にわたって陰陽師をしているが、邪気のある仕事を続けることに疲れ、やりたい仕事をやらせてほしいと母親に申し出る。

多岐の母 (たきのはは)

エピソード「窓から,」に登場する。多岐の母親で、自らも陰陽師として活動していたが、今はその力を落としている。本来は必要のない祈祷を行って金をせしめるなど狡猾な面があり、それを嫌がる多岐に手を上げようとすることもある。草野喬と草野鳩子にただならぬものを感じ、恐れている。

健次 (けんじ)

エピソード「冬のカナリア」に登場する。14歳の少年で、学校も家庭もどこか空虚に感じながら日々を過ごしている。家は特に金持ちではないが取り立てて不満があるわけでもなく、ただ宙ぶらりんの気持ちを持て余している。行き倒れていた草野喬を助け、喬を記憶喪失だと思った健次の母親の命で、病院へと連れて行った。のちに工場のストに参加していた「節子」という少女に想いを寄せるようになる。

ヒロ

エピソード「冬のカナリア」に登場する。工場の社長を父親に持つ少年。家が金持ちであるため、東京に旅行に行くことを周囲の仲間に自慢している。家の前で寝ていた草野鳩子を自らの家で預かることになり、鳩子のために姉の昔のおもちゃを与えるなど、優しい性格の持ち主。

日出子 (ひでこ)

エピソード「冬のカナリア」に登場する。ヒロの妹で、草野鳩子と同じくらいの年齢。活発な少女で、遊ぶことが大好き。ヒロに鳩子と遊ぶように言われるが、新しい遊びを知らない鳩子に対して疑念を持ち、鳩子を嫌いと言ってしまう。

集団・組織

ヤサ

エピソード「まほろば」に登場する。真秀が属する旅芝居一座のテントのことだが、旅芝居一座そのものも指している。一座は猿舞や田舞を芸としているが、他に占い師も在籍している。座員同士には血の繋がりはないものの、家族のような強い絆で結ばれている。座員たちは、草野喬と草野鳩子が不思議な力を持っていることを知っているが、特に気にすることもなく2人を受け入れている。

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