あらすじ
序章
舞台は1941年のソ連領ウクライナの農村地帯。パイロットの訓練を受けていたナジェジダ・カルサーヴィナ(ナージャ)とイヴァン・シュレスト、医学生のスヴァトスラフ・シェウチェンコ(スラーヴァ)は幼なじみで、青春を謳歌していた。そんな中、キエフの裁判所から、イヴァンの父親が政治犯として処刑されるという知らせが届く。激高したイヴァンは、父親を救うために飛行機でキエフに向かおうとするが、ナージャが体を張ってイヴァンを止め、事なきを得る。しかし、その晩にナージャたちの住む村は突如として空爆を受ける。ドイツがソ連に攻撃を仕掛け、独ソ戦が始まったのである。ナージャは家族を失い、イヴァン、スラーヴァとも離れ離れになってしまう。悲しみに暮れるナージャだったが、ソ連が誇る女性パイロットのマリーナ・ラスコーヴァのラジオ演説に勇気づけられ、女子飛行連隊への入隊を志願する。
ドイツ飛行隊との交戦
悪化の一途をたどる戦局のため、ナジェジダ・カルサーヴィナ(ナージャ)たち訓練兵は、通常よりも短い6か月の訓練を経て実戦投入される。1942年6月、ナージャとレナータ・カラシュニコヴァ(レーナ)の飛行機はドイツ軍の2機の飛行機と会敵し、交戦を開始。なんとか味方の救援によって離脱に成功するが、レーナは重傷を負ってしまう。レーナの戦線離脱により、精神的な弱さを指摘されていたリーナ・スミルノヴァが、新たに飛行隊に編成される。一方、イヴァン・シュレストは、独ソ戦勃発後はドイツに協力し、ドイツ空軍のパイロットとなっていた。機密事項を携えたドイツ機がソ連領内で行方不明となったことから、イヴァンの飛行隊は捜索のために出撃する。敵機発見の知らせを受けたソ連女子飛行連隊も出撃し、空戦が始まる。しかし、ドイツ軍のパイロットであるコニー・クラインを意図せず死亡させてしまったリーナは激しく動揺し、勝手に戦闘から離脱。救援に駆けつけたナージャの決死の行動によってリーナは救出されるが、ナージャは瀕死の重傷を負ってしまう。
リーナの悲劇
リーナ・スミルノヴァの戦闘中の逃亡により、リーナの機体は失われ、ナジェジダ・カルサーヴィナ(ナージャ)も瀕死の重傷を負ってしまう。ライッサ・ベリャエヴァは、司令官のタマラ・カザリノヴァの前でリーナをかばい、リーナが軍法会議にかけられるのを阻止する。一方で、ライッサはリーナを殴打し、その卑怯な行為を厳しく叱責する。のちに発令された護衛の任務で、カザリノヴァはリーナに対し、ライッサの機体を使って出撃するように命じる。リーナは、ライッサの信頼を取り戻すため、機体に傷一つ付けずに戻ってくることを約束した。その頃、病院に収容されたナージャは意識を取り戻し、腕を負傷したレナータ・カラシュニコヴァと共に順調に回復していた。そんな中、病院に見舞いにやって来たエカテリーナ・ブダノワは、二人にリーナが死んだことを告げる。
登場人物・キャラクター
ナジェジダ・カルサーヴィナ
ソ連領ウクライナ出身の若い女性。愛称は「ナージャ」。イヴァン・シュレストとスヴァトスラフ・シェウチェンコ(スラーヴァ)とは幼なじみで、仲がいい。ソ連の女性飛行隊にあこがれてパイロットの訓練を受けており、イヴァンとは飛行訓練でしばしば張り合っている。イヴァンからは好意を寄せられているが、恋愛に疎いためにまったく気づいていない。独ソ戦の始まりによって唯一の家族だった母親を失い、イヴァンとスラーヴァとも離れ離れになってしまう。失意に沈んでいた時、あこがれの女性パイロットであるマリーナ・ラスコーヴァのラジオ演説を聞き、ソ連赤軍の女子飛行連隊に入隊することを決意する。連隊では、荒削りながら空戦の才能があると認められている。一方、仲間のためなら犠牲をいとわない姿勢を危ぶまれることもある。
イヴァン・シュレスト
ソ連領ウクライナ出身の若い男性。ナジェジダ・カルサーヴィナ(ナージャ)とスヴァトスラフ・シェウチェンコ(スラーヴァ)とは幼なじみで、仲がいい。パイロットの訓練を受けており、ナージャと訓練飛行でしばしば張り合っている。ナージャに片思いしているが、彼女にはその思いがまったく届いていない。父親が政治犯として死刑判決を受けたため、ソ連政府に憎しみを抱いている。そのため、独ソ戦の勃発後はドイツに亡命し、ドイツ空軍のパイロットとなった。ドイツの飛行隊では、名前のドイツ語読みの「ヨハン」と呼ばれている。
スヴァトスラフ・シェウチェンコ
ソ連領ウクライナ出身の若い男性。愛称は「スラーヴァ」。ナジェジダ・カルサーヴィナとイヴァン・シュレストとは幼なじみで、仲がいい。医学を志しており、よく医学書を読みふけっている勉強家。独ソ戦の勃発に伴う混乱で、一時生死不明となる。のちに、医学生として戦場での医療行為にあたりながら、生き別れとなった親友たちを捜していたことが判明する。
マリーナ・ラスコーヴァ
ソ連空軍の女性で、階級は少佐。大戦以前から著名な女性パイロットであり、ナジェジダ・カルサーヴィナ(ナージャ)のあこがれの存在だった。ドイツの奇襲によって独ソ戦が勃発した際、ソ連全土の女性たちに結束を呼びかけるラジオ演説を行った。その演説により、ナージャは女子飛行連隊に入隊する決意を固めた。実在の人物、マリーナ・ラスコーヴァがモデル。
レナータ・カラシュニコヴァ
ソ連空軍の若い女性で、愛称は「レーナ」。ナジェジダ・カルサーヴィナ(ナージャ)とは同期で入隊した。体力的にはほかの隊員に劣っていることから、自分を部隊の足手まといだと思っている。ナージャと偵察飛行中にドイツ機と遭遇して交戦し、腕に重傷を負ったために戦線を離脱した。
リディア・リトヴァク (りーりや)
ソ連空軍の若い女性で、愛称は「リーリヤ」。身長は150センチで、小柄な体型をしている。ナジェジダ・カルサーヴィナとは同期入隊したが、パイロットとしての実力は突出している。一見物静かながら、軍規違反にもかかわらず軍服におしゃれを施すなど、こだわりの強い勝ち気な性格をしている。理不尽な上官の命令に反抗し、怒りを買うことも多い。同期のエカテリーナ・ブダノワとは仲がいい。実在の人物、リディア・リトヴァクがモデル。
エカテリーナ・ブダノワ (かーちゃ)
ソ連空軍の若い女性で、愛称は「カーチャ」。ナジェジダ・カルサーヴィナとは同期で入隊した。パイロットとしての技量は女子飛行連隊の中でもトップクラスで、リディア・リトヴァクに次ぐ実力を誇る。明るく面倒見のいい性格で、周囲からは慕われている。対照的な性格のリディアとはなぜか馬が合い、仲がいい。実在の人物、エカテリーナ・ブダノワがモデル。
タマラ・カザリノヴァ
女子飛行連隊の司令官を務めるソ連空軍女性。ナジェジダ・カルサーヴィナたちの上官にあたる。厳格な性格で、上層部の意向を受けた理不尽な命令も厭わなく実行する。それゆえ、上官にも遠慮のない批判をするリディア・リトヴァクと衝突し、容赦ない暴力で制裁を加えたこともある。実在の人物、タマラ・カザリノヴァがモデル。
ライッサ・ベリャエヴァ
ソ連空軍で女子飛行連隊の隊長を務めている若い女性。厳格で規律を重んじる性格で、部下にあたるエカテリーナ・ブダノワから名前を呼び捨てにされるたび、「隊長」と付けるように激怒している。戦闘中に敵前逃亡したリーナ・スミルノヴァを厳しく指導する一方で、過剰な罰を与えられないように司令官のタマラ・カザリノヴァに進言するなど、部下を思いやる気持ちが強い。任務で自分の機体を使うことになったリーナに対し、失った信頼を命懸けで取り戻すように命じた。実在の人物、ライッサ・ベリャエヴァがモデル。
リーナ・スミルノヴァ
ソ連空軍の若い女性。以前は教師を務めていた。繊細な性格なことから、軍人向きではない。ドイツ偵察隊と交戦中、敵パイロットのコニー・クラインを意図せず死亡させ、動揺のあまり独断で敵前逃亡し、自機からパラシュートで脱出した。ナジェジダ・カルサーヴィナの捨て身の行動で生還するが、自らの機体を失うという失態を演じる。隊長のライッサ・ベリャエヴァからは、その行動を厳しく糾弾され、司令官のタマラ・カザリノヴァから、ライッサの機体に乗って出撃することを命じられる。ライッサからの信頼を取り戻すため、機体には傷一つ付けずに戻ってくることを約束した。しかし、任務中に不時着した際に軽微な傷が付いたことに絶望し、拳銃自殺を遂げた。第二次世界大戦中のソ連女子飛行連隊の最初の犠牲者となった。実在の人物、リーナ・スミルノヴァがモデル。
コニー・クライン
ドイツ空軍の少年。パイロットとして未熟なため、同僚のイヴァン・シュレストには見下されている。しかし純真で快活な性格から、徐々にイヴァンの心を開かせていく。イヴァンらと共に初出撃した際に、ソ連女子飛行連隊と交戦した。自機が撃墜されたためにパラシュートで脱出するが、リーナ・スミルノヴァの乗る機体が彼を避けるのに失敗し、プロペラに接触して惨死を遂げる。その死は、イヴァンが敵への憎悪を強める要因となり、動揺したリーナが戦闘から離脱するきっかけにもなった。