靴ずれ戦線 ペレストロイカ

靴ずれ戦線 ペレストロイカ

速水螺旋人の『靴ずれ戦線 魔女ワーシェンカの戦争』に描き下ろしを加えた新装版。ソ連軍とドイツ軍が争う第二次世界大戦の戦場を舞台に、ロシアの魔女とお目付け役の役人が各地を転戦する姿を描く、オカルティックな要素が満載のファンタジー架空戦記。各話のあいだに第二次世界大戦時に活躍した実在兵器や当時の服装、電化製品などのイラストが解説付きで差し込まれている。「月刊COMICリュウ」2010年12月号から2013年2月号にかけて不定期に掲載された。

正式名称
靴ずれ戦線 ペレストロイカ
ふりがな
くつずれせんせん ぺれすとろいか
作者
ジャンル
第二次世界大戦
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あらすじ

第1巻

ドイツ軍の侵攻により、未曽有の危機に陥っていた1941年7月のソ連。治安機関「NKVD」の役人であるナージャは、祖国を救うために森の奥にある魔女の小屋を訪れ、強大な力を持つ魔女、バーバ・ヤガーの協力を取りつけようとしていた。しかし、共産主義者が嫌いなヤガーは返答を渋り、従軍の条件として、人間には達成困難な無理難題を提示する。ところが、ヤガーのもとで修行していた若き魔女のワーシェンカが陰から協力した事で、ナージャはすべての条件を達成してしまう。このいかさまはすぐに明るみになり、罰として魔女の小屋を追放されたワーシェンカは、ナ-ジャと共に広大なロシアの大地を転戦する事になるのだった。(第0話「バーバー・ヤガーの小屋」。ほか、10エピソード収録)

第2巻

ナージャワーシェンカは、モスクワの西方で友軍とはぐれてしまう。抜け道を探しに行ったワーシェンカを待っていたナージャは、そこで故郷の村から逃げて来た一人の少女と出会う。周囲を探索していたナージャは、森の中で見上げるように巨大な丸太小屋を発見する。警戒するナージャをよそに、少女は丸太小屋へと入ってしまう。ナージャが少女を連れ戻して外に出ると、丸太小屋はドイツ兵によって包囲されていた。少女に対し、拳銃を突きつけるドイツ兵の暴挙に怒ったナージャは、ワーシェンカから教えられていた秘密の名前を大声で叫ぶ。その呼びかけに反応して現れた巨大な熊が大暴れし、ドイツ兵を叩きのめすのだった。(第11話「蜂蜜食らいの家」。ほか、10エピソード収録)

登場人物・キャラクター

ナージャ

落ち着いた雰囲気を漂わせた若い女性。眼鏡をかけ、紫の髪色をしている。ソ連の治安機関であるNKVDに所属する役人で、階級は少尉だったが、のちに大尉まで昇進する。「ナージャ」は愛称で、本名は「ナディア・ソロモノヴナ・ノルシュテイン」。上官や軍人からは「ノルシュテイン」と呼ばれていた。第二次世界大戦中、ソ連に侵攻して来たドイツ軍に対抗するため、当局の命令で魔女の小屋を訪問し、魔女のバーバ・ヤガーの協力を得ようとする。その際、成り行きからヤガーではなく、若き魔女であるワーシェンカを連れていく事になり、各地を転戦する事になる。知的で博識だが少々お堅い性格をしており、非科学的な事象や迷信に不信感を抱いている。そのため、魔女の力を借りる事も本当は快く思っていない。被差別者とされるユダヤ人だが、その出自を決して恥じていない誇り高き共産主義者。戦場で狼藉を働く者は、例え味方であっても容赦せず、裏切り者は銃殺しようとする愛国心の持ち主。銃器の扱いに長けており、戦場では勇猛果敢に戦っていた。その反面、お風呂が好きだったり、敵に捕らえられた時には泣き崩れてしまうなど、デリケートな女性らしい一面も持つ。ワーシェンカのお目付け役となってからは、妖精や化け物といった、この世にあらざるものが見えてしまう体質になった。父親は4年前に亡くなり、母親はファシストが占領した地で行方不明となっているため、現在は天涯孤独の身。

ワーシェンカ

修行中の若き魔女。ワーシェンカは愛称で、本名は「ワシリーサ・プリクラースナヤ・メドヴェージェワ」。明るく元気一杯で、同じ場所にじっとしていられないアクティブな性格。魔女のバーバ・ヤガーの小屋で魔女の修業をしていたが、単調で退屈な日々に飽き飽きしていた。そのため、ヤガーに対して従軍の要請に来たソ連の役人、ナージャの存在を面白がり、ヤガーが提示した無理難題な従軍の条件を達成させようと、魔法を使って陰からナージャを支援する。その事がヤガーにバレてしまい、罰として魔女の小屋を追放され、NKVDの一員としてナージャといっしょに各地を転戦する身となった。ワーシェンカ本人はヤガーの本心を理解しており、外の世界に出られる事を大喜びしていた。魔女としては半人前だが、さまざまな魔法に精通しており、魔法を使って強靭な熊にも変身できる。各地にいる妖精や化け物にも詳しく、それらの知り合いも多い。戦場では「鶏の足が支える小屋の娘ワーシェンカ」という二つ名を度々名乗っていた。

ディッケ・ベルタ

金髪の美しき魔女。ドイツ軍に協力している。親衛隊ヒムラー長官直属のグリム機関に所属している高級中隊指揮官。両耳の先端が尖っているのが特徴。「廃墟の魔女」の二つ名を持ち、魔術を使って黒猫に変身する事もできる。お化け風呂に入っていた際に迷い込んだナージャと出会い、それ以降戦場で幾度となく顔を合わせるようになる。ロシア人やユダヤ人の事を見下しており、「下等人種」「劣等民族」と呼んで馬鹿にしている。ワーシェンカの事も田舎魔女扱いして蔑んでいたが、熊に変身したワーシェンカによって左目を潰され、左手を嚙みちぎられてしまう。それ以来、ワーシェンカに報復を誓うようになった。

バーバ・ヤガー

年老いた魔女。人里離れた森の奥にある小屋に住んでいる。住んでいる小屋はふつうの人間には見つける事ができない。俗世とは無関係な生活を送っており、若き魔女のワーシェンカを自分のもとで修行させていた。ドイツ軍のソ連侵攻後、NKVDが派遣したナージャからソ連軍への協力を要請されるが、自分を虐げた共産主義者が嫌いなため返答を渋っていた。人間では到底達成できない無理難題を従軍の条件としてナージャに叩きつけ、事実上要請を拒否するが、ワーシェンカが密かにナージャを助けたため、すべての条件を達成されてしまった。そのあと、いかさまをしたワーシェンカに罰を与えるという名目で小屋から追放し、外の世界へと旅立たせる。

死人 (しびと)

ロシアの大地に掘られた塹壕を、死してなお守り続けていたソ連の兵士達。ゾンビのように腐敗した姿をしている。迷い込んだナージャを同志として認識し、生前に受けたスターリンからの命令に従い、誰も来ない塹壕をいっしょに死守させようとしていた。一計を案じたワーシェンカが野戦電話で新たな命令を下し、死人を塹壕から出撃させる事に成功する。

ドモヴォーイ

家屋の精霊の男性。人間の老人のような姿をして、暖炉の周りや部屋の隅、地下室などに潜んでいる。概ね人間には友好的で、家族の不幸を予言する事もある。ドイツ軍が占拠している校舎にソ連軍が攻め込んだ際、ドモヴォーイが守っていた事から、攻撃が成功しなかった。そのため、ナージャとワーシェンカが二人で校舎に乗り込んでドモヴォーイを外へ連れ出し、校舎の奪還を成功させた。

ジェド・マロース

ロシアのサンタクロースの男性。マロースは厳冬、寒波という意味を持つ。西欧のクリスマスにあたる新年の1月7日になると、毎年ロシア全土を巡って子供達にプレゼントを配っていた。ソ連に侵攻して来たドイツ軍によって拘束され、孫娘のスネグーラチカを人質に取られたうえで、広大なロシアの大地をどうやって1日で廻っているのかをドイツ兵から尋問されてしまう。ワーシェンカとは昔からの知り合い。

スネグーラチカ

うら若き可憐な乙女。ジェド・マロースの孫娘で、「雪姫」の愛称で親しまれている。ソ連に侵攻して来たドイツ軍によって捕らえられ、マロースの秘密を探るための交渉材料にされてしまう。しかし、ドイツ兵に捕らえられたスネグーラチカはワーシェンカが成りすました偽物だったため、スネグーラチカ本人は無事だった。ワーシェンカとは昔からの知り合い。

聖カシャーン

ロシア正教会の聖人の男性。うるう年の2月29日が聖カシャーンの祝日となっている。聖人だが、災いをもたらす妖怪に近い存在として、多くの人々に恐れられている。ウクライナでソ連軍に包囲されていたドイツ兵から酒をもらった際に、生きて故国に帰りたいというドイツ兵の願いを聞き届け、ソ連軍に対し攻撃を開始する。邪眼から破壊的な威力の光線を放つなど、凄まじいまで戦闘力を誇る。戦場に現れたナージャを守護天使と勘違いして動揺し、そのスキを突かれてワーシェンカに撃退される。

入院中の青年

負傷した青年の兵士。モスクワ西方の軍病院に入院していた。ケガは順調に回復しているものの、冬に心を閉じ込められており、つねに無表情かつ無感情。彼に一目ぼれしたワーシェンカが毎日献身的な介護をしていたが、それ対して何の反応も示さなかった。ワーシェンカが冬の象徴となっていたマースレニツァ人形を焼き、春を呼び込んだ事で、再び心を取り戻す。のちに戦線に復帰するが、あえなく戦死する。

大きな鎌を携え、骸骨のような姿をした不気味な化け物。性別は不詳。亡くなった者の魂を何処かへ連れ去る稼業をしている。ワーシェンカとは昔からの知り合い。ドイツ軍とソ連軍が血みどろの戦いを繰り返すロシアの大地を跋扈(ばっこ)し、ナージャやワーシェンカとも度々顔を合わせる事になった。ワーシェンカに対し、この戦場では昔とは比べ物にならないケタ外れの稼ぎがあると語っている。戦死した入院中の青年の魂を連れ去ろうとした際に、ワーシェンカによって制止される。

ルカ・スメルティッチ

南からやって来た異国人の男性。ロシア西部の森を根城にして周辺諸国から荒くれ者を集め、自分達が面白おかしく楽しむだけの戦争をしている。森に迷い込んだナージャやディッケ・ベルタを捕らえて、無理やり仲間に加えようとしていた。正体は「ヴルダラク」という、東欧で言い伝えられる真っ黒な人狼で、ナージャを救出するために現れたワーシェンカと死闘を繰り広げる。

巨大な熊

とてつもなく大きなオスの熊。木々の上に頭が出るほどに巨大で、人間の言葉も理解できる神聖な存在。ワーシェンカは、現在では人々から忘れ去られてしまったこの熊を指す古い言葉を知っており、ナージャに事前に伝えていた。ドイツ兵に囲まれたナージャはこの言葉を叫んで巨大な熊を呼び寄せ、ドイツ兵を撃退していた。

ルサールカ

水辺に棲んでいる精霊の女性。不幸な死を迎えたり、呪われて死んだ女性がルサールカになるとされている。人間を水中に引きずり込み、命を奪うという不吉な存在。政治委員の男性を救出するために川に飛び込んだナージャを殺そうとするが、ナージャがかわいかったため心変わりし、呪いをかけて水中で飼おうとしていた。

ユーリィ

パルチザンの頭目をしている男性。「勝利のユーリィ」と呼ばれている伝説的なリーダーを務める。ベラルーシの収容所に入れられていたが、ナージャとワーシェンカの活躍で脱走に成功した。ワーシェンカを魔女と知りつつ食料やタバコを無心したり、さらには抱こうとするなど、なかなか図太い性格をしている。正体は聖人の「聖ゲオルギィ」で、「勇者エゴーリィ」を名乗り、追って来たドイツの戦闘機を槍の一撃で撃墜していた。狼を自由に使役する事もできる。

チョールト

猫のような耳と尻尾が生えた小さな悪魔。性別は不詳。酒やタバコ、音楽、あらゆる悪徳やいたずらを好む。ワーシェンカとは昔からの知り合いだが、彼女からも厄介者扱いされている。ナージャを捕らえ、生かす代わりに面白い話をさせ続けるといういたずらもしていた。意外に義理堅い一面も持ち、面白い話をしてくれた礼として、ドイツ兵に囲まれていたナージャとワーシェンカを助けていた。

ポルードニツァ

精霊の一種。性別は女性。夏の真昼時に姿を現し、人々の首をひねって頭痛を起こし、鎌を振るってなぎ倒す。軍人のラザレフに好意を抱いており、裏切り者としてソ連軍に捕まった彼を助けるために、ソ連軍が占拠した街で暴れていた。ワーシェンカの助けを得て、ラザレフと遠くの地へ駆け落ちする。

ラザレフ

軍人の男性。もともとはソ連軍の伍長だったが、ドイツ軍の捕虜となってしまい、生きるためにドイツ側で戦っていた。ソ連軍によって解放された拠点にいた事から裏切り者扱いされ、裁判にかけるために監禁される。ポルードニツァが自分を救出するために暴れている事を知っていたが、生きるために仲間のロシア兵を手にかけてきた自責の念から、助かる事は考えていなかった。ワーシェンカの説得に応じ、ポルードニツァと遠くの地へと駆け落ちする。

イリヤ・ムーロメツ

髭を生やした巨漢の男性。ロシアの叙事詩に登場する伝説の英雄で、同じく叙事詩にうたわれる英雄達と共にさまざまな敵と戦っている。数日にわたって戦い続けられるなど、とてつもないタフさを誇る。時には貧民とも飲み明かす庶民のヒーロー的な存在。ドイツ軍に侵攻されたロシアの大地を守るため、ナージャやワーシェンカに混じり、塹壕掘りの手伝いをしていた。ワーシェンカとは昔からの知り合いで、彼女からは「ムーロメのイリヤ」と呼ばれている。のちに不死身の戦士であるコシチェイを倒すため、武器を手に取り死闘を繰り広げる。

コシチェイ

死の国から現世に蘇った屈強な男性。「不死身のコシチェイ」と呼ばれる巨漢の戦士で、ソ連軍と戦わせるためディッケ・ベルタが現世に呼び戻した。命を別の場所に隠しており、肉体的損傷をどれほど受けても死ぬ事がない。イリヤ・ムーロメツと死闘を繰り広げるが、卵に擬態していた命がナージャに食べられてしまい、不死身ではなくなったため、イリヤに敗北する。

ソロヴェイ・ラズボーイニク

人に似た化け物の男性。両腕が翼になっている。チェルニーゴフとキエフを結ぶ森に棲み、旅人から金品を奪うなどの悪事を繰り返している。さえずりによって草木を枯らす事もできる。とある大木に隠されたコシチェイの命を守っており、現場までやって来たナージャとワーシェンカの妨害をしていた。

キーラ

モスクワで暮らしている老婆。ナージャと同じアパートに住んでおり、昔からの知り合い。久しぶりに会ったナージャに対し、開口一番「まだ死んでなかったのかい」と言うなど、かなり口が悪い。身内に頼れる人間がいないため、疎開せずモスクワにとどまっている。正体は「キキーモラ」と呼ばれる、老婆の姿をした妖精。主に災いをもたらす存在で、やかましい音を立てて住人を驚かし、不幸を告げる。ワーシェンカと会った際は、お互いが人外である事を瞬時に見抜いていた。

聖パラスケーヴァ・ピャートニツァ

聖人の女性。小アジアで殉教した乙女で、名前は金曜日を意味する。乙女の庇護者で、花婿探しの手助けや恋敵への呪いも聞き届けてくれる。自身の日である金曜日に働く事は彼女への侮辱となるため、働いた者には容赦ない罰を下す。ディッケ・ベルタから噓の依頼を受け、ワーシェンカを呪って瀕死の状態に追い込んでいた。

ズメイ・ゴルイニチ

ロシアの叙事詩に登場する三つ首の竜。性別は不詳。「ズメイ」とは東欧やスラヴ圏に伝わる竜を意味する言葉。伝説の英雄「ドブルイニャ・ニキーチチ」と戦った事で知られている強大な竜の眷属で、ベルリンへの侵攻を果たしたソ連軍とワーシェンカを亡き者にするため、ディッケ・ベルタが召喚した。イリヤ・ムーロメツやユーリィ、ゴーレムらの攻撃によって倒される。

ゴーレム

動く巨大な人形。性別は不詳。民族的な鎧を着た兵士の格好をしており、兜の前面にはユダヤの印が刻まれている。プラハでドイツ軍に捕まり、ベルリンの施設に閉じ込められていたが、巨竜のズメイ・ゴルイニチが暴れた事で施設が破壊され、自由の身となった。ユダヤを守護する役割を与えられており、同じ施設に捕らわれていたナージャを助け出している。

アウグストフ

ソ連の軍人の男性。階級は大佐。ナージャが大学生の頃からの友人で、ナージャからは「ワロージャ」と呼ばれていた。帰省後に音信不通となり、第二次世界大戦の最中にナージャと3年ぶりの再会を果たす。正体は「ウプィリ」と呼ばれる、東欧で言い伝えられる吸血鬼で、ナージャと逢瀬を重ねた末、死の世界へ引きずり込もうとしていた。

集団・組織

NKVD

ソ連の内務省。ナージャとワーシェンカが所属している。「内務人民委員部」の頭文字を取り、NKVDと呼ばれている。国内の治安維持、国外での情報収集、工作などを任務としており、警察や国境警備、消防までを傘下に持つ巨大組織。スターリン時代の弾圧では実行機関となり、強制収容所の運営もしていた。終戦後の1954年以降は「KGB」に改名されている。

その他キーワード

マースレニツァ人形

キリスト教定着以前にルーツを持つ、ロシアの古い祭り「マースレニツァ」で使われている人形。冬を司っており、入院中の青年の凍てついた心を解き放つため、ワーシェンカによって焼き払われる。人形が焼かれたあとは、ワーシェンカの思惑通りに春が訪れた。

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