概要
1700年代の中国のある村で、糸操り人形を芸として見せる白家に生まれる。白金の兄。家業を極めるための努力を怠らず、より良い人形を生み出すことを目指し、その極致としての錬金術を修めるため、弟の白金とともにチェコ共和国・プラハを訪れる。プラハでは脇目も振らず錬金術の研究に勤しむが、ある日、道で偶然フランシーヌという女性と知り合う。
「獲得した知識はすべて自分たちのためのもの」という錬金術界の潮流に対し、フランシーヌの「自分自身を二の次にしても他人を思いやる」という姿勢に触れ、それまでの自分の有り様に違和感を覚えるようになった。彼女の心優しさに心を奪われた白銀はフランシーヌに求婚し、彼女もそれを受け入れる。
だが、嫉妬に狂った白金によってフランシーヌをさらわれてしまう。2人を追うための旅に出た白銀が、ようやくその居所を突き止めたのは9年後。フランシーヌの生まれ故郷であるクローグ村にたどり着いた白銀は、そこでフランシーヌが重い病にかかり隔離されていることを知る。彼女を治すために錬金術を駆使して万能の霊薬・「生命の水(アクア・ウイタエ)」の元となる柔かい石を作り出そうと決意し、苦難の果てにそれに成功する。
しかし、やっとの思いで作り出した「生命の水」を持って駆けつけた白銀は、フランシーヌ自らが火を放ち死を選んだ場面に遭遇する。後から同じく「生命の水」を完成させてやってきた白金に、白銀は形見として残されたフランシーヌの髪を渡し、生きる目的を失って放浪の旅に出る。その過程で江戸時代の長崎を訪れることとなり、幼き日の才賀正二に出会う。
さらに時を経て、再びクローグ村を訪れ、ゾナハ病に侵された村人たちを発見。生き残っていたルシール・ベルヌイユから、白金が自動人形(オートマータ)の「最古の四人」を使って村人たちを虐殺し、生き残った者にはゾナハ病をばら撒いたことを聞く。白金に対する怒りと、人を楽しませるはずの人形が人間に害をなしたことへの怒りを覚えるが、すでに老境に入った自分に、白金を止める力はないと悟る。そこで白銀は、クローグ村の井戸に柔かい石を投げ込んで「生命の水」を創り出し、自分の知識や白金が作り出した自動人形への憎悪を「生命の水」に溶かすために、井戸へ身を投げた。彼が溶け込んだ「生命の水」を飲んだ人々が自分の妄執に巻き込まれることに対する、深い後悔の念を抱きながらこの世を去る。
この「生命の水」を飲んだ者たちが自分たちを「しろがね」と呼ぶのは、白銀が日本で正二に名付けてもらった日本語読みの名「しろがね」を自身で気に入っていたためである。また、日本で正二と一緒に作っていた糸操り人形は、後に白銀が完成させルシールに託された。この糸操り人形・あるるかんはすべての糸操り人形の原型となる。
なお、井戸の底に最後に残っていた「生命の水」には、白銀の心の一番濃いところが溶けていたと考えられ、それを飲んで最後の「しろがね」となったのは加藤鳴海である。そのため鳴海は、普通の「しろがね」よりもずっと深い白銀の記憶を有することになる。
関連人物・キャラクター
白 金 (ばい じん)
1700年代の中国のある村で、糸操り人形を芸として見せる白家に生まれる。白銀の弟。家業を極めるための努力を怠らず、より良い人形を生み出すことを目指し、その極致としての錬金術を修めるため、兄の白銀ととも... 関連ページ:白 金
フランシーヌ
1700年代、チェコ共和国・プラハの街角でリンゴ売りをしていた少女。フランスのキュベロンにあるクローグ村出身だが、少女時代に口減らしのために人買いに売られ、プラハへとやってきた。プラハで人買いから逃げた後、詳細経緯は不明だが貧民街で多くの孤児とともに暮らすようになる。美しい金髪の持ち主で、自分の髪を売ることで生計を立てているため、基本的にショートカットをしている。 また、貧民街で暮らす高齢者など、弱者への心配りも忘れない。どんなときも笑顔を絶やさない明るい性格だが、かつて面倒を見ていた孤児のひとりが病気になった際、滋養のある食べ物を与えようと卵を盗んだ罪に問われ、肩口には罪人の焼き印が押されている。そうした心優しさから、貧民街の住人からは天使と呼ばれている。 錬金術の研究のためにプラハを訪れた白銀および白金と知り合い、白金に想いを寄せられるが、彼女のすべてを受け入れる覚悟の白銀と恋に落ち、結婚の約束を交わした。しかし嫉妬に狂った白金に拉致され、ヨーロッパを放浪させられる。4年ほど後、生まれ故郷のクローグ村に流れ着くが、当時としては根治不能の病にかかってしまう。 病の蔓延を恐れたクローグ村の住民によって隔離されていたところ、後を追ってきた白銀と再会。再会を喜びつつも、白金との逃避行の間に彼と過ごした時間もあるため、何もなかったことにして白銀と生きていくことはできないと判断し、自ら隔離されていた小屋に火を放つ。彼女の病を治すために白銀が作りだした霊薬・「生命の水(アクア・ウイタエ)」の服薬を拒否し、自らの髪を形見として残し、そのまま焼死。その髪は、白銀と同様に「生命の水」を作り出していた白金に手渡される。 白金が作ったフランシーヌ人形は、当然のことながらフランシーヌを模している。また、人買いに売られることを免れたフランシーヌの妹は、ルシール・ベルヌイユの母親である。ルシールの娘として生まれたのがアンジェリーナで、さらにその娘がエレオノールである。フランシーヌ、アンジェリーナ、エレオノールの容姿が似ているのは、こうした血縁関係にあったからである。
才賀 正二 (さいが しょうじ)
江戸時代の長崎で「乙名頭取」を父として生まれた。幼名は「成瀬正二郎」。次男であるため、父親の仕事に同席することは許されていない。少年時代に、医師として来日した老境の白銀(オランダ人のジャコブ・インと名... 関連ページ:才賀 正二
関連キーワード
クローグ村 (くろーぐむら)
フランスのキュベロン地方に存在した、北西から冷たい潮風が吹き付ける質素な村。5月の収穫を祝う祭の日に、白金がフランシーヌ人形を笑わせるため、自動人形の「最古の四人」であるアルレッキーノ、パンタローネ、ドットーレ、コロンビーヌらを使って村人を虐殺した。生き残った者は銀色の煙によって最初のゾナハ病患者となり、後に白銀が訪れるまで6年の間、死ぬこともできずに苦しみの中で生きながらえていた。白銀によって村の井戸の水が「生命の水(アクア・ウイタエ)」に変えられたことで、ルシール・ベルヌイユを始めとした「しろがね」たちが誕生した。 この村で生まれた「しろがね」のルシール、マリー、タニア、ミッシェル、アルメンドラ(イヴォンヌ)、フウ・クロード・ボワロー、モンフォーコン、カストルらは「最古のしろがね」と呼ばれている。ただし、ルシールの娘であるアンジェリーナや、ナイア・スティールを含む「O」の数人もこの村で「しろがね」になった者たちである。この村はその後「しろがね」たちの拠点となり、「生命の水」を生み出す「柔らかい石」を巡って自動人形たちと500回以上も凄絶な戦いが繰り広げられた。拠点となっている館の地下は最先端の技術が取り入れられた司令部となっており、その壁には絵が上手かったタニアが描いたフランシーヌ人形の肖像画が飾られている。 この村は、チェコ共和国プラハに売られたフランシーヌの出身地で、白金に捕らわれたフランシーヌが数年の放浪の後、辿り着いた地でもある。フランシーヌはこの地で命を落とすことになるが、その23年後に白金が「最古の四人」を使って村人を虐殺したのは、フランシーヌを失ったことで歪んだ復讐心を持ったためでもある。また、「しろがね」の拠点になっている館は、大昔にこの地の領主が住んでいたもので、そこを改装して白金とフランシーヌが住んでいた。
転送 (だうんろーど)
人間の脳に格納されている情報をすべて電気信号に変換し、他人の脳に移し替えることで人格を移動させられるというもの。老いた白金が、自身が溶けた「生命の水(アクア・ウイタエ)」を子どもに飲ませることでディーン・メーストルに人格を移動させたが、この方法では完全な記憶の継承が不可能なため、才賀勝の体に乗り移る際にこの転送を用いようとした。「しろがね-O」や「O」にもこの転送の技術が用いられている。 転送には3段階あり、第1段階が記憶の転送、第2段階が人格の転送、第3段階が記憶と人格を関連付けて組み合わせるという課程を経て、完全に別の体に自身を移すことができる。物語登場時の勝は第1段階まで転送された状態で、黒賀村で才賀正二の希釈された「生命の水(アクア・ウイタエ)」が溶けた血を飲み、正二の記憶を体験したことがきっかけとなり、白金の記憶を取り戻した。