百年浪漫ねむり姫

百年浪漫ねむり姫

時は大正8(1919)年、16歳の柚月と村長の跡取り息子の神楽木悠一郎は将来を誓い合い、結婚に向けて秒読み段階にあった。しかし流行り病から逃れるため、二人は悠一郎の母からの勧めで、常花の毒で1年間の眠りにつくが、再び目を覚ました柚月は、衝撃の現実を目の当たりにする。山間の小さな村、神楽木村を舞台に、天真爛漫な少女が運命に翻弄される姿を描く、切なくも心温まる歴史ロマン。「花とゆめ」2020年1号から3号にかけて掲載された作品。コミックス刊行にあたり、描き下ろしのエピソードに加え、短編2作品が収録されている。

正式名称
百年浪漫ねむり姫
ふりがな
ひゃくねんろまんねむりひめ
作者
ジャンル
悲恋
 
和風ファンタジー
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あらすじ

第1巻

大正8年、柚月は険しい山々と大きな川に囲まれた小さな村、神楽木村で暮らしていた。彼女の家柄は、決していいとはいえなかったが、健康で年齢が近いという理由で、代々村長を輩出する名家、神楽木家の跡取りである神楽木悠一郎との結婚が決まっていた。暖かくやさしい人柄の悠一郎との将来のため、柚月は花嫁修業を欠かさず行う日々を送っていた。当時村では、感染力が強く死亡率の高い病が流行し、村人の数は減少の一途を辿っていた。そのため、次期村長である悠一郎と柚月の結婚は、村人たちの大きな喜びとなるはずだった。しかし、柚月の両親が流行り病に感染し、他界したことで状況は一変する。一人遺された柚月を心配した悠一郎は、彼女との結婚を早めようとするが、悠一郎の母は、それに異議を唱える。彼女は村に橋がかかり、流行り病の対策が整うまでの1年間、常花の毒で眠りについて欲しいと二人に懇願し、これが村の総意であることを伝える。悩んだ末、悠一郎と共に常花を飲むことを決心した柚月は、目が覚めたら祝言を挙げようと悠一郎と約束を交わし、眠りにつく。しかし、柚月が目を覚ましたのは、実に100年後の2019年だった。そして、目の前には悠一郎に瓜二つのの姿があった。状況が飲み込めない柚月は違和感を感じつつも、うながされるままに母屋へと向かうと、そこには大きな仏壇があった。そして彼女は、悠一郎が10年前に107歳で亡くなったという衝撃の事実を知るのだった。

登場人物・キャラクター

柚月 (ゆづき)

大正8年当時は16歳の女子。高く結んだポニーテールの髪型に、ブーツと袴を身につけたハイカラさんスタイルをしている。明るくて一途な性格の持ち主。神楽木村で生まれ育ったが、もともと彼女の実家はお世辞にもいい家柄とはいえなかったにもかかわらず、健康で年齢が近いということで、次期村長である神楽木悠一郎のもとへ嫁ぐことが約束された。伯父からもらった西洋の絵本『Sleeping Beauty』が大のお気に入りで、子供の頃から寝る前には何度も繰り返し読んでいたため、その影響を強く受けており、初めて会った時から悠一郎のことを「おうじさま」と感じている。悠一郎とは婚約者として知り合ったが、日頃から仲がよく、彼といっしょになる時のため、身なりや話し方、身のこなしなどの立ち居振る舞いから、知識や教養、礼儀に至るまで一生懸命勉強中。当時、流行していた病気の影響で、村人が減少し続けていたため、次期村長である悠一郎は健康な柚月と結婚し、子供を作るという重大な責務があった。周囲からの期待も大きくなる中、自分の両親が流行り病に感染し、他界する。たった一人残された柚月は、悠一郎から今すぐ結婚しようとプロポーズを受け、結婚を承諾した。しかし悠一郎の母から、村に橋がかかるまでの1年間、常花の毒の力で二人いっしょに眠りについて欲しいと懇願され、悩み抜いた末に常花を飲むことを決断した。だが、彼女が再び目を覚ましたのはそれから100年後のことだった。悠一郎がもうこの世にいないことを知ると、ショックを受けて涙に暮れる。悠一郎のひ孫にあたる悠からは冷たく突き放され、深く傷つきながらも、持ち前の明るさで前を向こうとする。

神楽木 悠一郎 (かぐらき ゆういちろう)

大正8年当時は17歳の男子。神楽木村で、代々村の長となるのが決まっている名家、神楽木家の跡取り息子。学帽をかぶり、学ランにマントを羽織ったバンカラスタイルをしている。人の心の痛みのわかるやさしい性格のため、村人たちから慕われ、頼りにされている。自分の結婚相手には、健康で年齢が近いということで、同じ村に住む柚月が選ばれた。初対面の際は、緊張した様子の柚月に、白くて小さいお花みたいでかわいいと声をかけた。知り合って以来、柚月とは仲がよく、村人からからかわれる一幕もあった。当時、流行していた病気の影響で、村人が減少し続けていたため、健康な女性との結婚および子供を作ることは神楽木悠一郎にとって重大な責務であり、周囲からの期待も大きかった。そんな中、柚月の両親が流行り病に感染して他界。一人遺されてしまった柚月に、今すぐ結婚しようとプロポーズした。しかし悠一郎の母から、村に橋がかかるまでの1年間、常花の毒の力で二人いっしょに眠りについて欲しいと懇願され、悩みぬいた末に常花を飲むことを決断した。当初は1年間眠りにつくと説明を受けていたが、自分だけがすぐに目を覚ましてしまう。母親のウソをとがめたが、村のために健康な女性と結婚し、子供を産んでもらいたいという母親の言葉には逆らうことができなかった。結局、別の女性と結婚して子供を作ったのちに107歳まで生き、柚月が目覚める10年前に107歳でこの世を去った。

悠一郎の母 (ゆういちろうのはは)

神楽木悠一郎の母親。いつも神楽木村のことを第一に考えている。悠一郎の婚約者の柚月の両親が、流行り病に感染し他界した際、今すぐにでも結婚しようとしていた悠一郎と柚月に対し、異議を唱えた。二人には村に橋がかかり、流行り病の対策が整うまでの1年のあいだ、常花の毒で眠りについて欲しいと懇願した。そして、これは村を担う大事な二人の命を守りたいという、村人全員の総意であることを伝えた。しかし、実際は常花の毒を使って柚月だけを眠らせ、悠一郎を別の女性と結婚させることが目的のウソだった。柚月の両親が感染したことで柚月自身が流行り病に感染し、悠一郎に危険が及ぶことを恐れてのことだった。

(はるか)

神楽木悠一郎のひ孫にあたる男子高校生。2019年の現代、神楽木家で家政婦のヨシエと生活を共にしている。生まれつき体が弱かったため、実の両親からいっしょに暮らすことを放棄され、当時隠居生活を送っていた曽祖父の悠一郎に引き取られた。それ以来、悠一郎のもとで暮らしているが、生前の悠一郎からは、目の前で眠り続ける柚月のことについて、話を聞かされていた。病気のせいで見捨てられたことから、彼女も自分と同じ仲間であると感じていた。そのため、幼い頃はヒマさえあれば柚月のもとへ足を運び、横たわる彼女のそばで眠ることもあった。小さい頃から読書家で、自室には医学書や睡眠に関する本など、難解な本がたくさん並んでいるが、一冊だけ『Sleeping Beauty』の絵本が含まれている。しかし、目を覚ました柚月に対しては、かなり冷たくあたり、悠一郎が死んでしまったという事実も包み隠さず伝えた。表面上は優しさの欠片(かけら)もないように見えるが、それは悠なりの思いがあってのことだった。実は悠一郎が生前、柚月に向けて書き残した手紙を預かっているが、その手紙には柚月の知らない真実が記されており、彼女が傷つくことがわかっていることから、その手紙を隠したままにしている。

ヨシエ

2019年の現代、神楽木家で50年にわたって家政婦を務める老齢な女性。年齢は74歳。いつも和服に割烹着(かっぽうぎ)という古典的なおばあちゃんスタイルで、かわらしい笑顔で気さくな性格をしている。16歳で眠りにつき、100年経って目を覚ました柚月を温かく歓迎し、自分が若い頃に着ていた着物を手渡し、自分の方が年下だから敬語を使わず気軽に話して欲しいと伝えた。

場所

神楽木村 (かぐらきむら)

険しい山々と大きな川に囲まれたのどかで小さな村。村を治める村長には、代々神楽木家の跡取りが就任することが決まっている。大正8年当時、感染力が強く死亡率の高い病が流行し、村人の数が激減していた。隣町から薬や医者を連れて来るには、村を囲む大きな川が弊害となっていた。その川に橋をかけることが決まり、工事が進められていたが、流行り病は働き手である若者にも及び、工事は遅々として進まずに橋の完成まではあと1年はかかるだろうといわれていた。その後、橋は完成したものの村は過疎化が進み、隣町と合併したために100年後の2019年には神楽木村は存在しない。

その他キーワード

常花 (とこはな)

神楽木村に古くから自生する白い花。強い毒性がある。しかし、摂取しても死に至るわけではなく、煎じて飲むと強い睡眠効果が得られることから「時を止める花」とも呼ばれている。悠一郎の母は、毒の効果について1年間眠るだけだと語っていたが、実際はそんなに都合のいいものではなく、摂取すると体の組織すべてが永遠に時を止め、昏睡状態に陥るというものだった。

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