概要・あらすじ
山岳写真家深町誠は、カトマンドゥの怪しげな登山用品店でマロリーの遺品と思われるカメラを発見し、カメラの発見者がビカール・サンと名乗る謎の日本人であることを知る。帰国した深町は男の正体がエヴェレスト登山隊で事件を起こし、消息を絶っている天才クライマー羽生丈二であることを知り、羽生の生い立ちから、彼の人生の軌跡を追い始める。
登山に取り憑かれ、愛も欲望も削り落とした孤高の存在である羽生に魅せられた深町は、再度、カトマンドゥに向かい、羽生の冬季エヴェレスト南西壁無酸素単独登頂の撮影に挑むことになる。
登場人物・キャラクター
羽生 丈二 (はぶ じょうじ)
49歳。天才的なクライマー。すべての中心が登山で、それ以外の価値をほとんど認めない。初登頂に固執し、他人を寄せ付けず、他人を思いやることもできない。初めて自分を慕ってくれたザイル・パートナーの岸文太郎の墜落死から、孤立を深めていく。1985年のエヴェレスト遠征で事件を起こし、消息を絶つ。 カトマンドゥに不法滞在を続け、エヴェレスト南西壁無酸素単独登頂を目指した偵察登山中にマロリーの遺体を発見。カメラを持ち帰る。日本人であることを隠し、シェルパとして働きながら高地順応するためビカール・サンの偽名を使う。「毒蛇」の意味を持つこの名前は羽生→「ハブ」→「毒蛇」の連想であろう。
深町 誠 (ふかまち まこと)
『神々の山嶺』の語り手。山岳写真家。40歳。カトマンドゥでマロリーが1924年のエヴェレストアタックに持っていたカメラと同じ「ヴェストポケットオートグラフィック・コダック・スペシャル」を入手し、ピガール・サンこと羽生と出会う。
アン・ツェリン (あんつぇりん)
老シェルパ。エヴェレストに2度登頂した経歴を持つ。東京山岳会のエヴェレスト遠征にも参加するが滑落して重傷を負い、羽生に命を救われる。羽生のエヴェレスト南西壁無酸素単独登頂を支援する。
岸 文太郎 (きし ぶんたろう)
羽生を英雄視して青風山岳会に入会した若者。山岳会で孤立する羽生を慕い、ザイルパートナーとなるが、北アルプス屏風岩で滑落、ザイルが切れて墜落死してしまう。この事故後、羽生は青風山岳会を退会。
岸 涼子 (きし りょうこ)
岸文太郎の妹。兄の死にかかわる羽生の手記を託されている。羽生に想いを寄せているが、その恋は実らずに終わる。
長谷 常雄 (はせ つねお)
羽生より3歳若い単独登攀の天才クライマー。羽生とは対照的な明るく爽やかな性格の持ち主。世界で初めてマッターホルン北壁の冬季単独登攀に成功し、世界的クライマーとなる。アイガー北壁単独登攀にも成功。羽生と同じく東京山岳会エヴェレスト遠征隊に参加。南東稜から登頂を果たす。 その後、K2で雪崩により死亡。
ナラダール・ラゼンドラ (ならだーるらぜんどら)
故買商。コータムから盗品の仏具とカメラを買い取り、「サガルマータ」に転売する。そのカメラがマロリーの物だと知って、大きく儲けようと画策するが、後に羽生と深町を支援することになる。かつてはグルカ兵として戦い、ヴィクトリア勲章を授けられた誇り高き戦士。
伊藤 浩一郎 (いとう こういちろう)
羽生が16歳の時に入会した青風山岳会の会長。深町の取材に、入会当時の羽生は根性だけはあるが体力に欠ける鈍重で自分勝手な男と見られていたが、3年後には完璧登攀の才能を開花させ、日本有数のクライマーの仲間入りを果たしたと語る。後に羽生をエヴェレスト遠征に推挙。
井上 真紀夫 (いのうえ まきお)
青風山岳会で羽生のザイルパートナーを何度も組んでいる。深町の取材に、山にのめり込み、貧困にあえぎ、ルサンチマンをたぎらせていた羽生について語る。自己負担金が調達できず、山岳会のヒマラヤ遠征に参加できなかった羽生は井上を強引に谷川岳一ノ倉の難所である鬼スラ(鬼殺しのスラブ)の冬期登攀に誘う。 初登攀に成功した2人だったが、井上は羽生の心ない発言に傷付くことになる。
多田 勝彦 (ただ かつひこ)
登山用具メーカーグランドジョラスの社員。青風山岳会を辞めた羽生をフリーのテスターとしてスカウトした。羽生とザイル・パートナーを組み、夏のアルプス3大北壁を登攀する。
水野 治 (みずの おさむ)
羽生がアドバイザーとして勤めた登山用具店岳水館店主。
瀬川 加代子 (せがわ かよこ)
山岳写真家である深町誠の元恋人。加倉典明に心変わりする。
加倉 典明 (かくら のりあき)
瀬川加代子を深町から奪ったアウトドア・ライター。冬の一ノ倉沢で雪崩に巻き込まれて死去。
和賀 良一 (わが りょういち)
羽生が参加した東京山岳会エヴェレスト遠征隊の隊長。
岩原 久弥 (いわはら ひさや)
長谷常雄の遺稿集『天上の岸壁』を出版した渓流社の編集者。かつて冬季未踏だった谷川岳一ノ倉沢滝沢の重太郎スラブに挑むが、後から登ってきた長谷に抜かれ、初登を奪われ、一時は長谷を憎んでいた。
北浜 秋介 (きたはま しゅうすけ)
長谷常雄のK2遠征時のカメラマン。
工藤 英二 (くどう えいじ)
深町が参加したエヴェレスト遠征隊の隊長。
宮川 (みやがわ)
岳遊社のアウトドア雑誌の副編集長。
マニ・クマール・チェトリ (まにくまーるちぇとり)
カトマンドゥの登山用具店サガルマータのチェトリ族店主。深町が店で購入したカメラの事情を知りたがったことから価値のある物と考え、ホテルの従業員を使って盗み出させる。
ダワ・ザンブー (だわざんぶー)
アン・ツェリンと並ぶ伝説のシェルパ。エヴェレストに3度登頂している。アン・ツェリンに羽生を託され、エヴェレスト南西壁無酸素単独登頂に協力する。
ドゥマ
アン・ツェリンの娘。正式な結婚はしていないが、事実上の羽生の妻。2人の間には1男1女の子供がいる。
コータム
グルン族のポーター。盗んだ仏具と「マロリーのカメラ」をラゼンドラに売る。岸涼子を誘拐した一味。
タマン・ムガル (たまんむがる)
ブータンからの難民。岸涼子を誘拐した一味のボス。
モハン
岸涼子を誘拐した一味。
ジョージ・マロリー (じょーじまろりー)
モデルは同名のイギリスの登山家。エヴェレスト初登頂に3度挑むが、3回目の1924年、アーヴィンと共にエヴェレストで消息を絶つ。1999年に遺体が発見されるが登頂に成功したのか否かは謎のままになっている。「Why do you want to climb Mount Everest?(なぜエヴェレストに登るのか?)」という問いに「Because it's there(それが、そこにあるからだ)」と答えた。 (日本では「なぜ山に登るのか」「そこに山があるからだ」と意訳されてきた)。
アンドリュー・アーヴィン (あんどりゅーあーゔぃん)
モデルは同名の登山家。1924年、マロリーのパートナーとしてエヴェレスト初登頂に挑むが、マロリーと共に消息を絶つ。
ノエル・オデル (のえるおでる)
モデルは同名の登山家。1924年、マロリーの第3次エヴェレスト遠征に参加。頂上アタックメンバーには選ばれず、地質調査を行う。マロリーとアーヴィンの最後の姿の目撃者。
チャールズ・グランヴィル・ブルース (ちゃーるずぐらんゔぃるぶるーす)
モデルは同名の軍人。英国グルカ連隊准将。マロリーが参加した1922年の第2次、1924年の第3次エヴェレスト遠征隊隊長。マラリアで離脱し、副隊長のエドワード・ノートン大佐が隊長となる。
ハワード・サマヴィル (はわーどさまゔぃる)
モデルは同名の登山家。英国第3次エヴェレスト遠征隊隊員。第1次アタック隊員となるも登頂を断念。
エドワード・ノートン (えどわーどのーとん)
モデルは同名の軍人。陸軍大佐。ブルース准将を引き継いで英国第3次エヴェレスト遠征隊の隊長となる。第1次アタック隊員となるも登頂断念。
ハリス
モデルは同名の登山家。英国第4次エヴェレスト遠征隊隊員。登頂には失敗するが、アーヴィンのピッケルを発見した。
ウェジァ
モデルは同名の登山家。英国第4次エヴェレスト遠征隊隊員。登頂には失敗するが、アーヴィンのピッケルを発見した。
エドモンド・ヒラリー (えどもんどひらりー)
モデルは同名の登山家。ニュージーランド出身。1953年の英国エヴェレスト探検隊に参加。テンジン・ノルゲイとエヴェレスト初登頂に成功。
テンジン・ノルゲイ (てんじんのるげい)
モデルは同名のチベット人シェルパ。1953年の英国エヴェレスト探検隊に参加。ヒラリーとエヴェレスト初登頂に成功。
場所
エヴェレスト
『神々の山嶺』の舞台となる世界最高峰。
カトマンドゥ
『神々の山嶺』の主な舞台となる都市。ネパールの最大の都市、首都。エヴェレストの玄関口で、世界的な登山、トレッキングのメッカ。