あらすじ
第1巻
東京出身の高島望は、幼い頃から厳格な父親の敷いたレールの上を走らされる人生に思い悩んでいた。そこで自分一人の力で生きたいと考えた望は、駅に掲示されていたポスターで見て心惹かれた沖縄県の離島、渼母里島に、一人暮らしをするために訪れる。望は渼母里島に着いた途端、目の前に広がる海で工藤星がサメに襲われ、東雲六が素手でサメを退治する場面を目撃する。工藤りさから六が「海河童」と呼ばれる家系の者だと聞き、望は六に興味を抱く。そんな中、りさの運転で民宿へと向かう途中、望は酷い車酔いをしてしまう。そして車を降りた望は、運悪く足を踏み外して崖から海へと落ちてしまう。(エピソード「マムイカミ」。ほか、7エピソード収録)
第2巻
工藤りさは勤務中に、フリーダイビングで足をつって溺れかけていた青年、桜井を助ける。しかし桜井は、その場にいた高島望、東雲六、りさにどうしてもフリーダイビングで25メートル潜りたいのだと訴える。失恋の傷を癒すためだと言い張る桜井だったが、なにかほかに複雑な理由があると悟った六は桜井に協力を申し出る。(エピソード「フリムン」。ほか、9エピソード収録)
第3巻
沖縄県の離島、渼母里島にある、廃屋だった高島望の家が見事によみがえり、望はこれまでお世話になったの島民達にお礼をしたいと考えていた。ヨシミの後押しもあり、望は酒と食事で島民をもてなすが、招待したはずの東雲六がなかなかやって来ない。そんな中、ヨシミは望に対して教員が向いていると話を切り出す。(エピソード「ムチクヮーリーン」。ほか、9エピソード収録)
登場人物・キャラクター
高島 望 (たかしま のぞみ)
沖縄県の離島、渼母里島で、一人暮らしをするために東京都からやって来た女性。裕福な家庭で、厳格な父親によって育てられた。自由に友達と遊ぶ事もできず、父親の敷いたレールの上を走る人生に嫌気が差し、かつて高校生の頃に駅のポスターで見て心惹かれた渼母里島にやって来た。工藤星が海でサメに襲われている場面に遭遇し、助けに入った東雲六に興味を抱く。 その後、崖から誤って転落をした際に六に助けられた事で、なにかと行動を共にするようになる。渼母里島に来てから、日に日に黒く日焼けしていく肌を気にしている。
東雲 六 (しののめ ろく)
沖縄県の離島、渼母里島で生まれ育った青年。渼母里島の自然の中に暮らしている。母親とは死別しており、現在は一人で暮らしている。渼母里島の海河童の家系の出身で、海の中でも視界をクリアにできたり、サメを素手で捕らえたりするなど、人間離れしたスキルを持っている。工藤星や坂田トシオといった島の子供からは「六兄」と呼ばれ慕われている。 たくましく頼りがいのある性格ながら、少々デリカシーに欠けるところがある。崖から転落した高島望を助け、その後はなにかと行動を共にするようになる。困っている人を見ると放っておけないタイプで、望ら周囲を巻き込んで解決に奔走している。
工藤 りさ (くどう りさ)
沖縄県の離島、渼母里島の役場に勤務する女性。工藤星の母親。消防団員の肩書はあるものの、実際は訓練を受けただけの素人で、渼母里島の何でも屋としても活動している。感情を表に出さないクールな性格と、他者を寄せ付けない鋭い眼力の持ち主ながら、面倒見は非常にいい。星が海でサメに襲われた事件をきっかけに高島望と知り合い、その後も島を案内したり、島にまつわる伝承を説明したりと交流を深めている。
工藤 星 (くどう せい)
工藤りさの娘で、小学生。非常にお転婆で、じっとしている事が苦手な女の子ながら、りさには従順に従っている。海でサメに襲われた事件をきっかけに高島望と知り合い、友達になった。泳ぎはやや苦手で、東雲六からレッスンを受けている。同じ年齢の坂田トシオとは、運動や勉強などなにかと張り合うライバルでもある。
りさの父 (りさのちち)
工藤りさの父親。りさ以上に他者を寄せ付けない鋭い眼力の持ち主で、初対面の高島望からは、殺されるのではと怯えられたほど。おぉばあと共に沖縄県の離島、渼母里島で食堂を経営している。
おぉばあ
工藤りさの祖母。年齢は100歳だが、りさの父と共に沖縄県の離島、渼母里島の食堂を経営している。初対面の高島望に対して自分をババァと呼んでほしいとお願いするなど、本気なのか冗談なのかわからない言動を繰り返している。
坂田 トシオ (さかた としお)
工藤星と同じ年齢の、やんちゃでとにかく元気な男子小学生。漁師の父親、坂田年道を尊敬しているが、最近は金にならないからと別の仕事をしている父親に複雑な感情を抱いている。坂田トシオは、年道が病気のため海に潜れなくなっている事を知らない。星とは、運動や勉強でなにかと張り合うライバルでもあるが、勉強面では星よりも明らかに劣る。 一度会っただけの高島望にも気軽に声を掛けるなど、コミュニケーション能力に長けている。
坂田 年道 (さかた としみち)
坂田トシオの父親で、本職は漁師。腕のいい漁師として沖縄県の離島、渼母里島では有名な存在だったものの、トシオには儲からないからと言って漁師をやめて、観光客向けのダイビングガイドとして働いている。実際は病気のために海に潜れなくなっているのだが、トシオをがっかりさせたくない気持ちから打ち明けられずにいた。明るくノリのいい性格の持ち主。
勝じい (かつじい)
沖縄県の離島、渼母里島の組合長を務める高齢の男性。ゆずの祖父。かつて息子でゆずの父親を海で亡くし、その死に東雲六の母親がかかわっていた事から海河童を嫌っている。
ゆず
勝じいの孫娘。夫は中学時代の先輩、陽一で、年齢は23歳。海で父親を亡くしてから島の外で暮らしている。妊娠中のため、今を逃したらしばらく里帰りできないと、陽一と共に10年ぶりに渼母里島を訪れた。海河童を嫌う勝じいの手前、東雲六とは仲が悪いふりをしているものの、実際は軽口をたたき合うなど良好な関係を築いている。
陽一 (よういち)
ゆずの夫で、中学時代のゆずの先輩だった。現在は仕事に追われて気が立っているものの、本来は穏やかで優しい性格の持ち主。沖縄県の離島、渼母里島から街にやって来た事で不安を抱えていたゆずを、支え続けて来た。勝じいとはそりが合わない。
ヨシミ
沖縄県の離島、渼母里島の小学校で、工藤星や坂田トシオの担任を務める女性教師。独身で、年齢は34歳。適当な性格の面倒くさがり屋だが、優れた洞察力を持つ。
浦部 (うらべ)
沖縄県の離島、渼母里島を訪れた都会暮らしの男性。ふだんはサラリーマンとして激務をこなしている。しかし仕事ばかりで家庭を顧みなかったため、妻の浦部洋子に愛想をつかされて出て行かれてしまう。荷物を整理している際、かつて新婚旅行で渼母里島を訪れた浜辺に、洋子と共に大切なものを埋めた事を思い出し、復縁するために一人で掘り起こしにやって来た。 しかし予想外の暑さに疲弊し、高島望と東雲六にいっしょに捜索をしてくれないかと依頼した。過労で目は充血し、あまりに恐ろしい形相をしていたために、坂田トシオには本土から逃げて来たヤクザと勘違いされていた。
浦部 洋子 (うらべ ようこ)
都会で暮らす浦部の妻で、休みなく朝から晩まで働いている夫を心配していた。そんな中、ストレスの溜まった浦部に酷い言葉を掛けられ、まったく家庭を顧みない彼に愛想をつかして実家に帰った。かつて新婚旅行で沖縄県の離島、渼母里島を訪れており、その際に浦部と共に砂浜に宝物を埋めた。
下戸 将平 (したど しょうへい)
沖縄県の離島、渼母里島を訪れた青年。小さい頃から両親の期待に応えるために勉強ばかりして生きて来た。必死に就職活動をして大企業からの内定を受けたものの、不況のあおりを受けて卒業直前に内定を取り消されてしまう。その後も懸命に就職活動をしたが、内定はもらえなかった。渼母里島が「神様の島」と呼ばれている事を知り、神様に文句を言おうと衝動的にやって来た。 渼母里島内で深酒をして、森に入ったところで高島望と共に野生のイノシシに襲われ、東雲六に助けられる。その後、望や六といっしょに神様がいると言われているカンヤールの滝を目指す。
宇木 せいか (うぎ せいか)
研修旅行のため、都会から沖縄県の離島、渼母里島を訪れた女子高校生。非常にまじめな性格ながら、融通の利かないところがあり、同じ班になったほかの生徒から目の敵にされ、一人で行動させられていた。シングルマザーの家で育ち、弟と妹の世話をしていたため、家事は人並み以上にこなせる。高島望と東雲六に偶然出会い、そのまま三人でおぉばあの家に宿泊する事になる。
桜井 (さくらい)
沖縄県の離島、渼母里島を訪れた大学生の青年。昔から成績が悪く、周囲からもよく大学に入れたものだと疑問視されるほどだった。桐山光が所属するフリーダイビングサークルからの勧誘を受け、活動をしていくうちに光に恋心を抱くようになったが、正式に告白する前に光が死去してしまう。生前、フリーダイビングで25メートル潜れたら告白をしようと決めていたが叶わなかった。 自分の気持ちに区切りをつけるために渼母里島を訪れ、再挑戦する事を決意し、東雲六のフォローを受けて挑戦する。
桐山 光 (きりやま ひかる)
桜井と同じ大学に通っていた女性で故人。大学のフリーダイビングサークルの中心メンバーで、桜井から好意を抱かれており、桐山光本人も彼の気持ちに気づいていた。桜井が告白をする前に事故に遭い、命を落とした。
場所
渼母里島 (みもりじま)
沖縄県の八重山諸島に浮かぶ離島。東京から2000キロ離れた位置にあり、豊かな自然が手つかずで残っている。古くから「神様の島」と呼ばれており、観光ポスターのキャッチコピーにもなっている。しかし、実際は「あまりにも遠いので、到着する頃には仏様になっている」という話が由来となっている。
その他キーワード
海河童 (うみがっぱ)
沖縄県の八重山諸島にある離島に古くから住む家系の事。水上集落を作るなどして海と共に生活し、泳ぎや天気予測など特殊な能力や知識を持つ。それぞれの離島に存在し、東雲六は渼母里島の海河童。島民の生活を支えているため、「島の守り神」とも呼ばれ、大切にされている。