福助

福助

伊藤静のデビュー作で初単行本化作品。平成の日本を舞台に、所有者に幸福をもたらす「福助の木箱」に翻弄される人々の姿を描いたファンタジック・ホラー。公式にホラーと銘打たれてはいるが、大切なものを守ろうとする人間の強さと、つい超常の力に頼ってしまう人間の弱さを描いた、ヒューマンドラマとしての側面も強い。講談社「モーニング」2006年53号から2007年11号、2007年32号から42号にかけて連載。2010年1月4日にテレビドラマ版『福助』がフジテレビ系列で放送。福助を深澤嵐が演じている。

正式名称
福助
ふりがな
ふくすけ
作者
ジャンル
怪談・伝奇
 
和風ファンタジー
レーベル
モーニング KC(講談社)
巻数
全2巻完結
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幸福の神様を封じた「福助の木箱」を巡る二つの物語

本作は、千晶を主人公とする第一部と、草野圭太と草野文の夫婦を主人公とする第二部の、二部構成となっている。どちらの物語にも共通して登場する重要なアイテムが幸福の神様・福助を封じ込めた「福助の木箱」である。この木箱は福助人形が描かれた煙草の箱ほどの大きさで、所有者に幸福をもたらすという伝説がある。その起源は江戸時代まで遡ることができる。当時、木箱を所持していた叶福助こと彦太郎は呉服屋として成功を収めた。木箱は彼の墓に埋められたが、明治時代に墓荒らしに暴かれ、とある神社に祀られることとなった。昭和20年(1945年)の空襲でその神社が焼失し、焦土の中から多田節が発見。節は戦後、初めて行われた富籤(とみくじ)で一等に当選している。節が亡くなった時点で、木箱は細工を施した本の中に隠されており、遺品整理をしていた千晶に受け継がれた。第一部のクライマックスで木箱は行方不明となったが、それから5年後を描く第二部では草野夫妻の手に渡り、新たな騒動を巻き起こすことになる。

幸福の神様を祀る怪しげな福助神社

福助神社は幸福の神様・福助を祀る神社で、人里から離れた山の上に総本宮を構えている。周辺には「福助塚」と刻まれた無数の塚が点在し、異様な雰囲気を醸し出している。長い階段の先にある境内には大量の福助人形が並べられており、狛犬と獅子が置かれるべき場所にも福助人形を模した像が配置されている。本殿に相当する建物には、福助人形に酷似した「御守(おもり)」と呼ばれる指導者が鎮座し、福助人形を模した姿の信者たちに下知を下している。境内には信者たちが雑魚寝するための生活空間や、謀反を企てた者を閉じ込める地下牢も設置されている。また、最重要施設として「福助の木箱」を安置する御神殿が設置されている。これは事実上の座敷牢で、御神殿の内部に掘られた井戸の底には歴代の福助の骨が散らばっている。

幸福になるために他人を不幸にする者たち

事実上のカルト教団である福助神社の指導者である御守は、昭和20年の空襲で失われた「福助の木箱」の行方を血眼になって探している。そのやり口は悪辣で、第一部のクライマックスでは大きな事件を巻き起こすことになる。第二部では元信者から得た情報を基に一般人が木箱を手に入れようと躍起になり、不法侵入や誘拐などの犯罪に手を染める様子が描かれている。全編を通じて、他人を不幸にしてでも自らの幸福を追い求める人間の姿が克明に描写されており、真の幸福とは何か、真の不幸とは何かを問いかける作品となっている。

登場人物・キャラクター

福助 (ふくすけ)

「福助の木箱」に胎児の姿で封じられた幸福の神様。木箱のヒモを解くと誕生し、すぐに這い回れるほどの赤子の姿に成長する。前世の記憶を引き継いでおり、この時点で会話ができる。性格は少年のように無邪気で、時には悪戯をすることもあるが、人を傷つけるようなことはしない。願いを叶える力が備わっており、富をもたらしたり、天候をあやつったりすることもできる。手の施しようがないほどの致命傷を治療することも可能だが、基本的には死者を蘇らせることはできない。また、力を行使するたびに老いてしまう。青痣を治療する程度の軽い願いでも5歳ほど年を取り、大きな願いを叶えようとすれば、たちまち老人になってしまう恐れもある。死亡すると骨だけを残して木箱へ還り、胎児の姿で再誕の時を待つことになる。産まれた時点では裸だが、10歳程度までに白装束を身にまとうようになる。その声や姿を認識できるのは、基本的に木箱のヒモを解いた者と、その血縁者のみ。写真にも映り込むが、実体と同じく前述の条件を満たした者しか目視できない。また、明言はされていないが、赤子をあやしている描写があり、乳児であれば福助を認識できる可能性がある。物質に干渉することも可能で、食事を楽しむこともできる。ただし、木箱の近くにしか存在できず、抵抗しても木箱に引き寄せられてしまう。なお、赤子の頃から白髪で、福助人形とは似ても似つかない整った容貌の男性へと成長する。力を使って体が急成長するときだけ、筋張った恐ろしい姿に変貌する。

千晶 (ちあき)

「福助の木箱」を所持していた多田節の孫娘。ポニーテールの髪型にしている。10年前に火事で両親を失い、節と二人で暮らすようになった。現在はイラストレーターとして働いている。信也という男性の子供を孕んでおり、出産を望んでいるが、国家試験の邪魔になるとして距離を置かれている。平成18年(2006年)7月3日に唯一の血縁者である節が死亡し、天涯孤独の身の上となった。節の遺品整理をしている最中に、細工を施された本の中から木箱を発見し、その封を解いて福助を再誕させる。間もなく体調を崩して母子共に危険な状態に陥るものの、福助の力で持ち直し、他者には姿すら見えない福助と共に生活を始めるようになる。当初は福助の不思議な力の恩恵を受けて喜んでいたが、力を使う度に福助が老いていくことが気になり、力を使わないように約束させた。やがて、木箱を巡る争いに巻き込まれてしまう。

草野 圭太 (くさの けいた)

妻の草野文と共にマンションで暮らしている会社員の男性。ツーブロックの髪型にしている。フレンチブルドッグのような外見の室内犬・ブッチを飼育しており、ブッチをかわいがることで、子宝に恵まれない寂しさを紛らわせていた。文との体外受精に成功したこともあったが、安定期を前に流産してしまった。草野圭太の母親も孫を熱望しており、子供を産めない文の陰口をこぼすこともあった。圭太はそんな母親に苦言を呈して文を守っていたが、不幸にも「産めないと知っていたら結婚を認めなかった」という母親の言葉が文の耳に入ってしまう。やがて、文は三行半を用意して家を出て行ってしまうが、ブッチが交通事故に遭ったことを知って帰宅。この際、ブッチが咥えていた「福助の木箱」の封を夫婦で解いて福助を再誕させると、その不思議な力によってブッチは一命を取り留めた。その後、福助を鎹(かすがい)として文との関係は改善し、福助を我が子のようにかわいがるようになったが、木箱を狙う何者かによって文が誘拐されてしまう。

書誌情報

福助 全2巻 講談社〈モーニング KC〉

第1巻

(2007-04-23発行、 978-4063725940)

第2巻

(2007-11-22発行、 978-4063726459)

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