史実に寄り添った真実味のあるフィクション
『フランケンシュタイン』の作者であるメアリー・ウルストンクラフト・シェリー、『吸血鬼』の作者である医師のジョン・ウィリアム・ポリドリ、世界初のプログラマーとして知られる才媛、エイダ・ラヴレスなど、同時代の著名人が数多く登場する。また、「ディオダティ荘の怪奇談義」や「プランタジネット舞踏会」など、史実の出来事も重要なイベントして描かれており、物語に真実味が付与されている。
ヴィクトリア女王の命を狙う「7人の姉妹」
架空の敵対組織として、コサック系の暗殺集団「7人の姉妹」が登場する。構成員は「諦め(アトカース)」「嘆き(ゴーリェ)」「冷血(ジェストーコスチ)」「悲哀(ピェチャーリ)」「執着(プリストラースチェ)」「陰気(ムラーチノスチ)」「憂鬱(ムラーチノエ)」と呼ばれる七人の女性で、赤い編み上げブーツを履き、シャーシュカなどで武装している。また、七人はいずれも回転剣術「月動(ベグーシャヤ・ルナー)」の達人で、上流階級の作法や外国語にも通じている。これらの特技を活用して、舞踏会で踊りながら標的を殺すのが彼女たちの常套手段となっている。指導者である「父(アチェッツ)」の命令で、ヴィクトリア女王を暗殺するために英国へ上陸。構成員の離脱や補充を経て「プランタジネット舞踏会」に潜入し、女王を護衛する立場のエルシィと刃を交えることになる。
時代の常識に抗う女性の物語
ヴィクトリア朝の英国で、特に中流階級は女性を就業させないことがステータスであり、女性は「家庭の天使」であることが求められていた。女性を抑圧するような時代の空気は、働く女性のメアリー・ウルストンクラフト・シェリーにも無関係ではなく、メアリーと時代の常識を振り翳(かざ)す者たちとの戦いにも紙幅が割かれている。
登場人物・キャラクター
エルシィ
コンラッド・ディッペル博士が死体を用いて創造した女性の怪物。高身長で顔は傷だらけで、腿に届くほどのブロンドロングヘアの持ち主。体は包帯に覆われ、赤い編み上げブーツをはいている。口調は片言で訛りが強い。不器用ながら刃物の扱いは得意で身体能力も高く、武装した複数の男性を棒切れで圧倒したり、少女を抱えたまま銃弾を避けたりと、超人の域に達している。その動きは踊るように美しいものの、エルシィ自身は無意識に体が動くと怯えている。また、夜間メンテナンスの必要があり、博士から靴紐と首の包帯には触れないように厳命されている。将来的にプランタジネット舞踏会でヴィクトリア女王の護衛を務めることになっており、その準備としてティモシー・シェリー準男爵の屋敷で働きながら、淑女教育を受けることになった。「エルシィ」の名は教育係のメアリー・ウルストンクラフト・シェリーに与えられたもので、「Little Child」を意味する。メアリーの発案で、表向きは「怪物の役作りに励む舞台女優」として振る舞っている。
メアリー・ウルストンクラフト・シェリー
小説『フランケンシュタイン──あるいは現代のプロメテウス』の作者である黒髪の女性。クールな雰囲気を漂わせているが、感情が昂ると突拍子もない行動に出てしまうことがある。母親は『女性の権利の擁護』を著した才女ながら、世間から哲学的売女と揶揄されていた。同様にメアリー・ウルストンクラフト・シェリー自身も、男性だけに許された神聖な創作行為に手を出した怪物的な女性と批判されている。母親を産褥(さんじょく)熱、夫を事故、三人の子供を病気などで失っている。そのため、末息子のパーシー・フローレンス・シェリーを溺愛し、学費の工面に躍起になっている。義父のティモシー・シェリー準男爵からは、命を吸って生きる怪物と蔑まれている。これは妻子持ちの夫と駆け落ちしたこと、夫の妻子が死んでパーシーが財産の相続人に繰り上がったことが原因で、当人も「死」に生かされている自覚がある。1842年、怪物を恐れぬ女性として白羽の矢が立ち、1000ポンドで名無しの女怪物(エルシィ)の教育係に就任。後年、黒博物館の収蔵品「A Red Boot」の見学に訪れる。実在の人物、メアリー・シェリーがモデル。
クレジット
- その他
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TAKAHIRO , 磯野 圭作
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書誌情報
黒博物館 三日月よ、怪物と踊れ 6巻 講談社〈モーニング KC〉
第1巻
(2022-07-22発行、 978-4065283127)
第2巻
(2022-11-22発行、 978-4065296608)
第3巻
(2023-03-23発行、 978-4065308943)
第4巻
(2023-06-22発行、 978-4065320167)
第5巻
(2023-09-22発行、 978-4065328668)
第6巻
(2023-10-23発行、 978-4065333433)