私刑囚 -異常犯罪者の末路-

私刑囚 -異常犯罪者の末路-

謎めいた女性、白城澪は、さまざまな殺人鬼と接触を試み、彼らの心の闇を理解しながらも迷うことなく殺害する。殺人鬼を専門に殺害し、その肉体を食すことに美と喜びを感じる澪の姿を淡々と描いたグロテスクホラー。少年画報社「YOUNGKINGOURS GH」2021年6月号から掲載の作品。

正式名称
私刑囚 -異常犯罪者の末路-
ふりがな
しけいしゅう いじょうはんざいしゃのまつろ
作者
ジャンル
ホラー
 
犯罪
レーベル
YKコミックス(少年画報社)
巻数
全3巻完結
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あらすじ

S岩隆生編

自殺願望のある男性、S岩隆生は、一人で死ぬ空(むな)しさから死への踏ん切りがつかず、自殺願望者が集まるSNSで淋(さび)しさを紛らわせていた。そんなある日、隆生はSNSで知り合った女性と心中しようとするも、殺害時に性的興奮を覚えて射精したことをきっかけに、殺人欲求を持つようになる。美しいまま死にたいと願う若い二人組の女性、会社に不満を持った酔っ払いの女性、有名進学校に通う女子高校生など計11人を殺害する中、隆生は自らのことを「他人の自殺願望を叶(かな)える善人」だと考えるようになっていた。そんな隆生の前に、自殺を考えているという女性、白城澪が現れる。澪の美しさに魅せられた隆生は、会った瞬間から澪への殺意と性欲を止められずにいた。最後の場所だと偽って澪を自室に連れ込んだ隆生は、「実は童貞で、死ぬ前に一度だけセックスをさせてほしい」と申し出る。

T中里沙編

鬱病を患って休職中の夫を殺害したT中里沙は、夫の保険金で悠々自適な暮らしを手に入れる。しかし、里沙は使えば使うほど減っていくお金を前に効率よく大金を入手するため、看護学校時代に同じ班だったM井裕子にも、保険金を目的にした夫の殺害を持ちかける。里沙は、あっさりと話に乗った裕子から成功報酬として保険金の30%をせしめるものの、二人で買い物に行った先で、夫の両親と遭遇してしまう。里沙の夫の両親が夫の死に疑問を持っているらしいことを知った里沙は、裕子と共謀して里沙の夫の両親、そして裕子の夫の両親を人為的に痴呆(ちほう)にさせて監禁し、年金を騙(だま)し取ることを思いつく。しかし、老人の介護に時間を割きたくない里沙は、介護系アルバイト募集サイトを通じて白城澪と出会う。そして、安い賃金で文句一つ言わずに働く澪の姿に、里沙は不気味なものを感じ始める。

K来藤雄大編

K来藤雄大は自分を出来損ないだと自虐していた。そんな中、雄大は人生に希望を持って生きている女性たちを無差別に殺害し、最後は自分も自殺することを思い立つ。通りすがりの女子高校生、メイド喫茶や男装カフェのアルバイト店員などを殺害し、雄大は被害者の首を切り落とし、写真を撮ってSNSに投稿する。この無差別殺人を起こした雄大には悲惨な過去があった。雄大は母親から過干渉されており、暴力と罵倒、性的行為を強いられた劣悪な環境で育てられ、「馬鹿は殺してもいい」と教え込まれていた。しかしその言葉を信じて、学生時代にクラスメイトに危害を加えた際、母親から叱られてしまう。自らの教えを裏切るような行動に母親を強く憎むようになった雄大は、それ以来引き籠もり、自分がクズ人間でニートになったのもすべて母親のせいだと思い込むようになる。この無差別殺人も自分の身元を特定されることで、母親が責任を追及されることを望んで起こした事件だった。そんなある日、被害者の写真を投稿していたSNSに、白城澪から賞賛のメッセージが届く。

松永D編

刑事の松永Dの同僚、後藤は、一度逮捕しておきながら立件できずに釈放してしまった白城澪に執着していた。澪の危険性や公安とのつながりを疑う後藤の話に同調した松永だったが、実際は澪に執着する後藤を哀れんでいた。松永は幼い頃、男を連れ込んでは次々と自殺に追い込む母親のもとで生活を送っており、その母親は澪に殺されていた。母の遺体を目の前で食べられるという悲惨な経験をした松永は、それ以来澪に恋してしまう。澪と再会するために警察に入った松永は、澪を発見したあと彼女の身辺を調べ尽くし、澪と再会するために御身形純の親族に関係する事件を起こす。純は松永によって監禁され、親族全員を自らの手で殺害するほどの洗脳を受けていた。松永は、自分の言葉を正義だと刷り込んだ純に労(ねぎら)いの言葉をかけ、白城澪を出迎える場に同席させる。すると純は、松永が澪を招き入れたのは、澪の罪を償わせるためだと考え、彼女を殺そうとする。

登場人物・キャラクター

白城 澪 (しらき みお)

殺人鬼をターゲットにしている、殺人鬼の女性。年齢は58歳ながら肌にハリがあり、どう見ても20代にしか見えない。体に色素をほとんど持たないアルビノで、骨のように白い髪と髑髏(どくろ)のように暗い瞳を持つ。介護業務に手慣れており、自分で動くことのできない四人の老人の世話を手際よく行っている。自宅には判明しているだけでも10数人分の骨と、数百人分の骸(むくろ)が保管されている。死を恐れずに死者を敬わず、殺人鬼の肉体を食らい、その最後の瞬間を見ながら自慰に耽(ふけ)る趣味がある。ただし殺害した相手の写真を自らSNSに投稿して、自己顕示欲や不幸の演出に使う行為には嫌悪感を抱いている。また、さまざまな気化毒を所持しており、相手の体の自由を奪ったり、延命させることができる。一時はS岩隆生やT中里沙を殺害した容疑で逮捕されたが、公安委員会の命令で即刻釈放されている。白城澪が殺害した現場には故意に澪の髪が残されているが、その意図や警察すら解明できなかった事件とその犯人をどうやって澪が知り得たのかは不明。

S岩 隆生 (えすいわ たかお)

H29年に起こった蔵王連続殺人事件の犯人の男性。年齢は23歳。高校生の頃からクラスでは浮いた存在で、S岩隆生自身もダメ人間だと自認している。自殺を考えていたが一人で死ぬ空しさを覚え、自殺願望者が集まるSNSで淋しさを紛らわせていたが、ある時SNSで知り合った女性と心中しようとした。しかし女性を殺害する際に、性的興奮から射精したことをきっかけに自殺願望が消え、代わりに殺人欲求を持つようになった。それ以降、SNSを通じて自殺志願の女性と知り合い、言葉巧みに自宅に連れ込み、性行為に及んだあと殺害している。他人の自殺願望を叶えてあげる救済者だと考えており、いっさいの罪悪感を持っていない。白城澪と初対面した際には澪のあまりの美しさに魅せられ、会った瞬間から勃起し続けていた。SNSでは「降りん」というハンドルネームを名乗っている。

T中 里沙 (てぃーなか りさ)

北西久留米看護師連続殺人事件の犯人で、元看護師の女性。年齢は32歳。冷静沈着で、どんな状況でも的確な判断を下すことができる。働かない男性には存在価値がないと考えており、鬱病を患って休職していた夫を泥酔させ、空気注射を打って殺害した。保険金で億ションを購入したが満足できず、看護学校時代に同じ班に所属していたM井裕子にも夫殺しをそそのかし、殺しのノウハウ料金として保険金の30%を上納させた。夫は生前、夫の両親にT中里沙のわがままがひどいことを相談しており、偶然街中で出会った夫の両親からそのことを指摘された里沙は、夫の殺害が露見するのではないかと危機感を抱く。しかしその後、夫の両親の血液を抜いて脳を酸欠状態にして、人為的に痴呆にしたうえで、生かさず殺さず管理しながら年金を奪い取ることを思いついた。里沙の夫の両親と裕子の夫の両親の世話をするためのヘルパーとして、白城澪を雇った。

M井 裕子 (えむい ゆうこ)

看護学校時代のT中里沙と同じ班に所属していた女性。里沙からは、頭がお花畑で自分ではなにも考えられない馬鹿だと見下されている。里沙が高級ブランド品に身を包んで裕福に暮らしている様子を見て、同じように楽しく暮らしたいと、夫を殺害して保険金を不正に手に入れる方法を聞き出した。金遣いが荒いため、そのことで夫とよくケンカしていた。里沙はM井裕子の金遣いの荒さから早めの処分を検討されていたが、里沙の夫の両親を人為的に痴呆状態にしたあと、M井裕子の夫の両親も同じ方法で痴呆にして年金を奪い取ることを思いついた。里沙からは「ゆっこ」と呼ばれている。

K来藤 雄大 (けーきとう ゆうだい)

新座池田校女子学生および外神田無差別殺人事件の犯人の男性。母親から過干渉されており、期待に応えられなければ暴力と罵倒、期待に応えても性的行為を強要されるなど、一般的な家庭とはかけ離れた環境で育てられた。その中で「馬鹿は殺してもいい」と教えられていたため、学生の頃、K来藤雄大に嫌がらせをしたクラスメイトの耳をハサミで切り落とし、消火器で殴りつけた。しかしその際、母親から叱責されたことがきっかけで、自分への教えを裏切った母親を強く憎むようになった。その後、引き籠もるようになってからは母親に対し、過去の性的虐待を暴露すると脅しては金銭を要求している。また、その金で買ったエアガンで、猫などの動物を殺害することに興奮するようになっていく。自分がクズになったのもニートになったのも、すべて母親のせいだと思い込んでおり、雄大自身は何一つ悪くないと主張している。自分という人間を産み出した責任を母親に取らせるためと称して、人生に希望を持っている女性を、無差別に殺害してはSNSで拡散させている。これで身元を特定され、母親が責任を追及されることを望んでいる。SNSの投稿に賞賛のメッセージを送ってきた白城澪と知り合い、澪を殺害しようとする。

松永 D (まつなが でぃー)

北区一族連続殺人事件の犯人で、刑事を務める男性。幼少期に母親からのネグレクトを受けており、母親が男性を連れ込んでは自殺させるという環境で育った。母親が最後に家に連れて来た女性、白城澪の姿をよく覚えており、幼かった松永Dの目の前で澪が母親の目玉を食べる場面をはっきりと記憶している。澪が初恋の相手で彼女と再会するために警察に所属し、5年前に澪を見つけてからは身辺を調べ尽くした。恋人の御身形純に対して、「ドス黒く汚い奴らの糞(くそ)みたいな悪意を敏感に感じ取れるようになれ」と話したうえで、純の父親が臓器売買などの罪を犯していたことを暴露した。その後、身内の犯罪に気がつかなかった罪を償わせるとの名目で、純とその両親、親類縁者までを次々と裸にして風呂に監禁し、拷問と洗脳を繰り返して行なった。この事件は、松永が澪と再会するために引き起こしたものである。

御身形 純 (おみがた じゅん)

北区一族連続殺人事件の被害者で、唯一生き残った女性。父親が経営している病院で医師を務めている。松永Dとは恋人関係だったが、松永から御身形純の父親が臓器売買などの罪を犯していたことを明かされたあと、風呂場に裸で監禁されて拷問と洗脳を執拗(しつよう)に受けた。贖罪(しょくざい)の名目で、親戚一同を純自身が殺害し、一族の血肉を犬のような格好で食べ続ける行為をせまられた。松永が白城澪を自宅に招いた際には服を身につけることを許され、松永が澪を憎んでいると考えて彼女を殺そうとする。

後藤 (ごとう)

刑事を務める男性。一度は白城澪を逮捕したものの、公安からの命令で釈放する。その釈放に納得できない後藤は、澪が何十人もの人間を殺害したことを信じて疑っておらず、再会と再逮捕を誓っていた。澪が殺人鬼に敬意を払っていると看破したあと、妻と娘が殺害されている現場を幻視して、大いに動揺することとなる。公安委員に所属する五人のうち、誰かと澪がつながっているのではないかと推測している。松永Dや同僚からは「カミソリ後藤」と呼ばれている。

書誌情報

私刑囚 -異常犯罪者の末路- 全3巻 少年画報社〈YKコミックス〉

第2巻

(2022-07-14発行、 978-4785971878)

第3巻

(2023-06-15発行、 978-4785974152)

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