空の境界 the Garden of sinners

空の境界 the Garden of sinners

万物の死を視ることのできる「直死の魔眼」を持つ両儀式と、彼女を慕うごく普通の青年である黒桐幹也が体験するさまざまな事件をオムニバス形式で描いた伝奇物語。奈須きのこによる同人小説「空の境界」のコミカライズ版で、「星海社」ウェブサイト「最前線」にて2010年9月から連載中。原作は奈須きのこ、キャラクター原案は武内崇。

正式名称
空の境界 the Garden of sinners
ふりがな
そらのきょうかい ざ がーでん おぶ しなーず
原作者
奈須 きのこ
作者
ジャンル
怪談・伝奇
レーベル
星海社COMICS(星海社)
巻数
既刊12巻
関連商品
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あらすじ

第1章「俯瞰風景」(第1巻)

1999年の8月になったばかりのある夜。黒桐幹也両儀式の部屋を訪ねていた。彼女は2か月前に目を覚ますまで、交通事故により2年間の昏睡状態にあった。目を覚ましてからそれまでの記憶とのあいだに断絶を感じる式の様子は、家族関係も含めてうまくいっていないようで、幹也は式の心の在り方を案じていた。幹也が帰ってから式は、かつての自分が嗜好していた夜中の散歩へと出かける事にする。目的地は幹也との会話の俎上にあがった巫条ビル。そこは最近、飛び降り自殺が頻発するようになり、時期を合わせるようにして幽霊の目撃情報が噂になっている場所だった。かつての自分の行動をなぞるように、自分らしい行動を繰り返す式はやがて巫条ビルにたどりつくと、宙に浮かぶ幽霊の姿を目撃する。時期は変わって8月の終わり。巫条ビルの事が気になって調査に向かった幹也は、3週間にわたる昏睡状態にあった。伽藍の堂のソファで衰弱する事もなく眠る幹也を横目に、蒼崎橙子の話を聞いた式は、巫条ビルへ赴いて幽霊を倒すか否かの決断を迫られる。そして式は、幹也の目を覚ますために単身、巫条ビルの幽霊のもとへ向かうのだった。

第2章「殺人考察(前)」(第1巻~第2巻)

1995年3月。雪の降る夜の街で黒桐幹也は、着物を着た一人の少女と出会った。それから少しの時が経った翌4月。幹也は有名な私立の進学高校へと入学する。私服での登校も許可される珍しい高校で、幹也は雪の夜に出会った着物姿の少女と再会する。彼女の名前は両儀式。中性的で奇麗な顔立ちに、無駄のない立ち居振る舞いも相まって耳目を集める式だったが、彼女はかたくなに人を寄せつけずにいた。幹也は、そんな式の様子にもめげず毎日のように話し掛け、昼食を共にし続ける。そんな日々の繰り返しが奏功し、式は幹也に対して心を開きつつあった。一方、観布子の街では猟奇的な連続殺人が発生していた。尋常ならざる死体が次々と発見される中、街は不穏な空気を帯びていく。夜中に散歩をする趣味を持つ式は、ある日の散歩中に怪しい人影を見かける。自分でも説明のつかない狂暴な衝動に襲われた式は、追いかけた先で死体に遭遇するのだった。

第3章「痛覚残留」(第2巻~第3巻)

1998年7月の下旬。黒桐幹也は飲み会の帰りに、妹と同じ礼園女学院の制服に身を包み、雨に打たれていた一人の少女と出会う。彼女を放っておけなかった幹也は、少女を部屋へ招き、シャワーと一晩の宿を提供する。明くる日、目を覚ました少女と簡単な食事をしていたところ、テレビからは観布子の街で何者かに引きちぎられたバラバラ死体が発見されたという報道が流れていた。ニュースを聞いた少女は、それまでと様子を一変させ、慌ただしく立ち上がる。そして、丁寧に礼を告げると、もう二度と会いたくないという言葉と共に、幹也が止める間もなく少女は部屋をあとにするのだった。少女がいなくなった部屋をあとに、伽藍の堂へ出社した幹也を待ち受けていたのは、今月の給料が払えないという、雇い主である蒼崎橙子の言葉だった。仕方なく、今月の生活費のために金策をする必要に駆られた幹也は、かつての学友である学人を頼る。学人は快く金を融通してくれたものの、幹也に交換条件として一つの依頼をする。それは湊啓太という後輩が猟奇事件に巻き込まれて連絡が取れなくなっているので探してほしい、という捜索の依頼だった。

第4章「伽藍の洞」(第3巻~第4巻)

1998年3月。黒桐幹也は高校の卒業式を迎えていたが、中学時代からの友人である学人と、これから通う大学まで同じ事から、二人は卒業の実感が湧かずにいた。卒業式の後の打ち上げに出席する前に、幹也は一人、昏睡したままでいる両儀式を見舞うため病院を訪れる。幹也は2年間、毎週欠かす事なく彼女の見舞いを続けていたのである。1998年5月。学人から展覧会の入場券を押しつけられた幹也は、会場に足を運ぶ。鑑賞しながら歩いていた幹也は、順路の途中で奇妙な路地を見つける。気になった幹也が奥へと足を向けると、そこは人形ばかりが展示されている空間だった。まるで生きているかのように精巧に作り込まれた人形に、幹也は目を覚まさない式の姿を幻想する。制作者に強い興味を抱いた幹也は、学人に入場券を融通した人物に出会い、出展者の名刺を譲り受ける。そこには伽藍の堂蒼崎橙子と書かれていた。業界では曰く付きの人物として有名だという彼女に会うために住居を調べ上げ、幹也は建設途中で放棄された廃ビルを訪ねる。そこには橙子がいたが、にべもなく立ち去るように促されてしまう。このままでは二度と会えなくなるという直感に襲われた幹也は、とっさに雇ってほしいと申し入れるのだった。

第5章「境界式」(第5巻)

体中を病に冒された巫条霧絵は、病室で孤独に過ごしていた。そんなある日、自分の部屋を訪ねて来る人物がいた。部屋を間違えたのかと思った霧絵だったが、その人物は開口一番、霧絵の名前を告げると、続けて自由になるもう一つの体がほしくはないか、と尋ねるのだった。別のある日、別の場所で不良達によって日常的に乱暴をされている浅上藤乃だったが、その日は特にひどかった。バットによって背中を強打されたせいか、呼吸がおかしく、体をうまく動かせずにいる。病院へ行こうにも理由を告げられない藤乃が困り果てていると、そこに一人の男が現れる。背骨に亀裂がある、と告げた男は続けて、藤乃に治してほしいかと問いかける。その男に出会った彼女達は、男に対して何者なのかと、まったく同じ問いを投げかけていた。男は、自身が声を掛けた者達に、魔術師荒耶宗蓮と名を告げていたのだった。

第6章「矛盾螺旋」(第5巻~)

1998年10月下旬。奇妙な狂言強盗が発生していた。空き巣狙いの窃盗犯が目を付けたマンションの一室に侵入したところ、一家の死体が放置されていたと慌てて警察に駆け込んだのだ。窃盗犯をともない現場に駆けつけた警察官だったが、奇妙な事に一家は健在で死体はどこにもなかった。未遂という事で窃盗犯はそのまま逮捕され、事件は狂言強盗として処理される。日課である夜中の散歩を続けていた両儀式は、偶然から不良によるリンチに遭っていた臙条巴を助ける。人を殺したという巴に助けを求められた式は、隠れ家として自分の部屋を提供する。なし崩し的に始まった共同生活の中で、巴は式へ特別な感情を抱くようになる。彼女に迷惑を掛けたくないと思う反面、自身の犯した殺人が一向に報道されない中、共同生活のやめ時を見いだせないでいた巴は、ついに自分が母親を殺した事を式に告白するのだった。1998年11月7日。黒桐幹也蒼崎橙子の勧めで通っていた長野の寮制自動車学校より観布子の街へと帰って来た。カゼでダウンしていた橙子が珍しく幹也に語ったのは、彼女が協会に属していた頃の友人の話だった。台密の僧という経歴の、地獄のような男というその魔術師に、危険だから近づくなと忠告する橙子。しかし部屋をあとにした幹也は、部屋の外でぼう然と立ち尽くす。写真に写っていた男と幹也は既に2年も前に出会っていたのだった。

登場人物・キャラクター

両儀 式 (りょうぎ しき)

黒髪ショートカットの少女。「直死の魔眼」と呼ばれる、万物の死を視る事の出来る能力を持つ。自分の事を「俺」と呼ぶなど、男性的ではすっ葉な言葉遣いをする。実家である両儀家の特徴として、解離性同一性障害(いわゆる二重人格)を患っており、一つの肉体に両儀式という人格のほかに、両儀織という男性の人格を有していた。しかし、遭遇した交通事故が原因で2年間も昏睡状態に陥った事が原因で「織」の人格は消失し、代わりに両目に「直死の魔眼」が宿る。男性らしい口調は「織」のものであり、昏睡に陥る前は女性らしい丁寧な言葉遣いをしていた。面倒くさがりの性格で、人間嫌いを公言しており、人間である自分も含めて嫌っている。その一方で誰かを殺したいという「殺人衝動」を自覚的に抱えており、その衝動が他人とのかかわり方や自身の立ち居振る舞いの軸となっている。そのため、自分と同じく「殺人衝動」を持つ異常者が現れると、進んで殺し合いをしようとする嗜好の持ち主で、蒼崎橙子が抱えるオカルト絡みの事件を引き受けては、自身の衝動を満たせる相手を捜している。黒桐幹也とは高校時代の同級生で、昏睡前からお互いを知る仲。他人を拒絶していた式に対して何度も話し掛け、昼食を共にしていた幹也は、式の中でもさまざまな意味で例外的で、特別な存在となっている。

黒桐 幹也 (こくとう みきや)

蒼崎橙子の主催するアトリエ「伽藍の堂」で事務員として働いている青年。元大学生で、「伽藍の堂」に就職するにあたって大学を中退している。高校時代に出会った少女の両儀式に惚れており、式が2年前の事故以来目を覚まさなくなっても、毎週お見舞いに通い続けていた。式や橙子と行動を共にしているが、本人は黒一色でコーディネートされた服装を好む以外に、特に目立つところのない一般人。唯一、ものを探し出す事には飛び抜けた才能を持っており、橙子にもその点を認められている。その腕前は探偵としての開業を進められるほどだが、黒桐幹也本人に自覚はない。「黒桐」という名字がフランスの詩人であるジャン・コクトーに似ている事から、式からは「詩人のような名前の奴」と言われていた。また、病院に足しげく通うけなげな姿から、看護師達からは「子犬くん」と呼ばれていた。黒桐鮮花という妹がいるが、彼女が小学校の頃に叔父の家へ引き取られたため疎遠に過ごした。全寮制である礼園女学院に鮮花が転校してきた事をきっかけに交流を取り戻すが、彼女がいつの間にか橙子から魔術を教わっていた事に頭を抱えている。

蒼崎 橙子 (あおざき とうこ)

アトリエ「伽藍の堂」を主催する人形師の女性。芸術家として活動しているが、大半は建築関係の仕事をしており、小川マンションの設計に携わった事もある。その正体は凄腕の魔術師で、魔術の総本山である協会から危険視されて追われるほどの実力者。現在は身を隠して世捨て人のような生活をしている。日銭を稼ぐついでに手慰みから、観布子の街で起こるオカルトな事件や現象に関する依頼を受けては、両儀式や、事務員である黒桐幹也と共に解決している。ふだんは優しげな口調で話す、女性的な人物だが、メガネを外す事で魔術師としての思考と冷徹な口調に切り替わる。荒耶宗蓮やコルネリウス・アルバとは協会時代の仲間。当時の事はいい思い出としながらも、小川マンションを巡る一件で敵対した際には、お互いにいっさいの遠慮を見せなかった。協会時代に魔術師として賜った「赤」の称号にちなんで付けられた「傷んだ赤色」というあだ名を憎んでおり、口にした人間を例外なく殺すという特別な信条を持つ。

黒桐 鮮花 (こくとう あざか)

黒桐幹也の実の妹。礼園女学院と呼ばれる、全寮制の女子校に通っている。幹也に対しては肉親ながら異性としての恋愛感情を抱いており、幹也と親しい女性である両儀式のことを一方的に敵対視している。蒼崎橙子とは旅行先で遭遇した猟奇事件をきっかけに知り合い、彼女に弟子入りして魔術の教えを受けている。

両儀 織 (りょうぎ しき)

両儀式の中に存在するもうひとつの人格。解離性同一性障害の人間が数多く生まれるという特徴を持つ両儀家に生まれた式の中に存在しており、陰性、女性である式とは事なり、陽性、男性としての人格である。肉体の所有権は基本的に式の方にあるため、勝手に肉体を操ることはない。式と大きく異なるのは男らしい口調の他に物事に対する優先順位であり、特に式が犯してはいけないと考えている禁忌と、拒否の感情を請け負っている。 一般に二重人格と呼ばれる人格としては複雑で、確固とした人格を有していることから蒼崎橙子は複合個別人格と表現していた。

浅上 藤乃 (あさがみ ふじの)

黒桐鮮花と同じ礼園女学院に通う女子高生。艶やかな黒髪に、静かで丁寧な言葉遣いでしゃべる、お嬢様然としたおしとやかな少女。鮮花とは友人の関係にある。中学時代に一度だけ会った事のある思い出の先輩に、あこがれに近い思いを抱いている。ブロードブリッジを建設している浅上建設に関係する家の人間だが、母親の連れ子という立場のために親族の中では微妙な立ち位置にある。母方の家は浅神という、長野の名家だった。後天的に「無痛症」を患っており、あらゆる痛みを感じ取れないでいる。そのため、病を原因とした常識の欠落を抱えており、あらゆる物事に対する実感を得られずにいた。湊啓太の属する不良グループに乱暴された際に、背中を強打した事をきっかけに痛覚を取り戻す。同時に、防衛本能としての「殺人衝動」も芽生えた事で、不良グループを追い回して復讐する殺人鬼となった。実は「ものをねじ曲げる」という魔眼の持ち主で、「無痛症」によって、その能力が封じられていた。魔眼の能力は絶大であり、最終的にはブロードブリッジをねじ曲げて見せた。

臙条 巴 (えんじょう ともえ)

小川マンションの住民である少年。父親の失職が原因で収入がほとんどなく、家庭崩壊に近い状態にあり、高校へもアルバイトをしながら通っていたほど、生活に困窮している。父親が、無免許運転による交通事故を引き起こしてしまったため、周囲からの風当たりが強くなり、それを機に高校を辞めて、引っ越し業者をしながら家族を養っていた。幼少時に馬の走る姿にあこがれを抱いて陸上を始め、中学時代まではそれなりに名の知れた選手だった。ある日、繰り返し見る悪夢から逃れるために、母親を殺害して逃亡生活を始める。しかし、昔の同級生である相川達に見つかり、リンチされる。そこに通りがかった両儀式に助けられた事をきっかけに、彼女の部屋に居候する事となる。式に思いを寄せており、彼女の口から語られる友人の黒桐幹也に対して少なからず羨望を抱いていた。小川マンションを巡る事件に巻き込まれる中で、悪夢と自身の正体に気づいていく事となる。

荒耶 宗蓮 (あらや そうれん)

動乱時代から生きる台密の僧という経歴の男性。蒼崎橙子が協会に所属していた時代の、古い友人であり魔術師。橙子曰く、魔術師としては欠点だらけだが、地獄という概念が人間というカタチを持ったかのような、圧倒的な自己の強さを有する男。小川マンションで自身の魔術師としての願望を果たそうと、観布子の街を中心に数年前から暗躍しており、浅上藤乃や巫条霧絵とも面識がある。根源の渦に到達する方法として、人間のあらゆる「死」を収集しており、その中に根源の渦へと至る魂の拡散を見出そうとしていた。しかし、それによってたどり着けるのは人間の「起源」だけであると悟り、量ではなく質を求めて小川マンションに64種類の死を集め、世界の縮図に見立てている。魔術師としては結界のスペシャリストで、橙子をして魔術の領域を超えていると言わしめるほどの実力者。本来は移動させられない結界を、荒耶宗蓮自らの身の回りに展開したまま移動するという離れ業を可能としており、戦闘時には触れたものを静止させるという強力な障壁として機能している。

巫条 霧絵 (ふじょう きりえ)

両儀式と同じ病院に入院している女性。不治の病で、全身の至る箇所に腫瘍が発生し、無事なのは髪の毛くらいで、死が訪れるのを待つだけの日々だった。意識の戻らない式のもとへ、毎週お見舞いをする黒桐幹也に思いを寄せていた。実は祈禱と呪詛を専門とする、古い家柄の出身で、病室から外を眺める内に外の風景を憎しみ、呪っていた。その内に、視力を引換えとして自分の意識だけが外に出られるようになるが、誰にも気づいてもらえない幽霊のような存在だった。そのため、誰かに気づいてもらおうと行動に移した結果、予期せず、少女達の飛び降り自殺を誘発する事件を引き起こしてしまう。

白純 里緒 (しらずみ りお)

黒桐幹也や両儀式と同じ学校に通っていた青年で、2人の先輩にあたる。生徒会に所属していたが、ある日、やりたいことができたからと高校を突然退学した。退学の際には送別会が開かれており、幹也は参加したのだが、共に参加しようと誘われていた式は本気の誘いだと思っておらず、会には参加していなかった。

学人 (がくと)

黒桐幹也の友人。中学からの友人で、同じ高校、大学に通っていた。幹也が大学を辞めてしまった後も大学に残っている。幹也の言うヴァイオレンスな交友関係とも繋がりがあり、グループに所属していた後輩の湊啓太が薬物に手を出して行方不明になった際は、金の無心に来た幹也に捜索を依頼している。

秋隆 (あきたか)

両儀式の実家である、両儀家に使える家令。短髪に刈り上げた凄みのある目つきをした男性。式の専属というわけではないのだが、両儀家を継ぐのに必要な二重人格の形質を持つ式のことを、両儀家の跡取りと見込んで付き従っている。

秋巳 大輔 (あきみ だいすけ)

黒桐幹也の親戚の男性。警察に勤めており、2年前に街で起こった連続殺人事件の調査をしていた。たまに幹也の実家を訪れては、幹也に事件に対する意見を求めたりしている。蒼崎橙子とは知り合いで、事件の情報や依頼などのやりとりをしている。

湊 啓太 (みなと けいた)

学人の後輩で、黒桐幹也の高校時代の後輩でもある男性。薬物を所持、使用する不良集団に所属しており、お嬢様である浅上藤乃をさらって集団で乱暴を働いていた。のちに、殺人事件に巻き込まれた際に行方不明となったため、先輩である学人により人捜しがうまい幹也に捜索の依頼が出された。

芦屋 (あしや)

昏睡していた両儀式が目を覚ました際に、式の主治医を務めていた病院勤めの医師。あごひげを生やしメガネをかけた男性。目を覚ましたばかりの式が突然目を潰そうとしてきた際、その対応において酷く取り乱したことが病院内の噂となっていた。

相川 (あいかわ)

臙条巴の元学友で同級生。学校を辞めた巴とは疎遠になっていた。巴曰く頭の悪い人間で、柄の悪い友人たちとつるんでいる。街で見かけた巴に対して因縁をつけ絡んでおり、金欲しさに複数人で取り囲んだが、巴の反撃によって空き缶を顎に叩き込まれた。

コルネリウス・アルバ

赤いコートとシルクハットを身にまとった金髪碧眼の男性。シュポンハイム修道院の次期院長と目される人物で、蒼崎橙子や荒耶宗蓮とは協会時代の古い友人である魔術師。血筋に関しては橙子から「アグリッパの直系の子孫」と言われている。橙子と同年代に見える外見ながら実際は魔術による若作りをしており、老年の域に達しようかという年齢である。協会時代から友人関係ではあったもののルーン文字に関する研究や人形師としての腕前など、コルネリウス・アルバ自身の功績をことごとく上回っていく橙子に対して忸怩(じくじ)たる思いを抱えていた。小川マンションで行われる荒耶の計画を知り、橙子を亡き者にするために協力を結んでいる。魔術師としては根源の渦という存在すら定かでないものへの到達に固執していない、即物的な価値観の持ち主で、個人としての栄誉に浴する事を目的としている。

場所

観布子 (みふね)

黒桐幹也や両儀式たちが暮らす街の名前。地方都市で、大きな港を有している。港の両端を結ぶブロードブリッジと呼ばれる巨大な海橋を建設中で、商業施設をはじめ、水族館などの各種施設が組み込まれる予定。1995年から1996年にかけて連続殺人事件が起こっていた。

巫条ビル (ふじょうびる)

オフィス街の近くに位置しているビル。飛び降り自殺が街中で頻発するなか、屋上に浮遊する女の子の幽霊が見えると話題になっていた。入り口は封鎖されており、屋上へ行くためには周囲のビルから飛び移るしか方法がない。

礼園女学院 (れいえんじょがくいん)

黒桐鮮花や浅上藤乃が通っている全寮制の女学校。外出する際には一々外出許可証が必要など、規則に関してとても厳しい。また、学内で寮の一部が火災で焼失した際には、学内から外に漏れないように情報統制を敷いてもみ消すなど極端に閉鎖的な体質である。

ブロードブリッジ

観布子の港の両端を繋ぐために作られることとなった海橋のこと。蒼崎橙子曰く、観布子の街には必要ない程に大きな橋で、内部スペースには商業施設を始めとした各種施設が多数組み込まれる予定となっている。建設会社である浅上建設は、浅上藤乃の父親が関わっている会社。

アーネンエルベ

観布子の街に存在する喫茶店の名前で、看板には「Ahnenerbe」と書かれている。黒桐鮮花と黒桐幹也が待ち合わせ場所としてよく利用している。喫茶店の店員として、TYPE-MOONが運営していた携帯サイト「まほうつかいの箱」の看板娘によく似た少女が登場する。

伽藍の堂

蒼崎橙子が芸術家として活動する際に使用している名刺に書かれたアトリエの名前。観布子市の建築途中で放置された廃ビルの中に事務所があり、橙子の他に黒桐幹也が事務員として所属している。幹也が所属する前は事務所にはダンボールと橙子が作成した人形以外に何もなく、文字通りがらんどうだった。普段は橙子が作成した結界の効果によって、無意識に近寄れなくなっている。

協会

イギリスのロンドンにある大英博物館の裏側に存在する巨大な魔術組織で、蒼崎橙子がかつて所属していた。橙子曰く大学のようなモノで、古今東西の魔術に関する研究部門や、その資料が協会に集約されている。広く知れ渡ると力が減衰してしまうという魔術の特性があるため、組織力を利用して魔術を世間にみだりに漏洩しないよう管理しており、中世に設立して以来、現代に至るまでその存在を可能な限り隠匿し続けてきた。

小川マンション

蒼崎橙子が建設に携わったマンション。茅見浜の埋め立て地にできたマンション地帯に存在しており、最近になって近隣で殺人事件が起こるなど奇妙な事件が発生している。半月型をした建物が二つ、向かい合う形で建てられており、航空写真からは円形に見える作りをしている。10階建ての建物で、部屋は各階に東西合わせて10部屋ずつ設けられており、各部屋は和洋折衷の3LDKの構成となっている。1〜2階にはリラクゼーション施設が存在したが、不景気から現在は使用されずにいる。また、東西それぞれの棟にロビーが存在しており、1階から2階までの吹き抜けとなっている。ほかに、収容台数40台の地下駐車場が備わっている。高級志向の建物だが水周りをはじめ、ずさんな工事や手抜き建設が見られ、エレベーターも一つだけしか存在しないうえ、当初は故障続きというありさまだった。社員寮となる予定だったが、オーナーが途中で変わった影響から一般販売が行われる。しかし、部屋は半分ほどしか埋まらず、西棟を作り直す話が出ている。実は小川マンション全体が荒耶宗蓮によって構想された魔術儀式のための祭壇となっており、魔術師としての彼の工房となっている。また、臙条巴はこのマンションの住民だった。

その他キーワード

直死の魔眼 (ちょくしのまがん)

2年間の昏睡から目を覚ました両儀式の両目に宿っていた魔眼、及びその力の名称。万物に宿る綻びを線として見ることができる能力で、ナイフや刀でその線をなぞるだけで万物に死を与えることができる。死の線を視ることができるものは物質に限らず、浅上藤乃の魔眼が放った力や内臓に巣食う病のように、形のないものに対しても視ることができる。 蒼崎橙子の説明によれば、死の線とは万物が完璧でないがゆえに抱く、一から作り直されたいという願望の表れであるという。

魔眼 (まがん)

特別な力を有した目のこと。本来は霊的手術により自己の眼球に付属効果をもたらすものだが、才能があれば自然に現れる場合もある。本作『空の境界』の登場人物では、浅上藤乃と両儀式が魔眼を有している。式の直死の魔眼は物質や概念の持つ死の線を視ることができるという能力。藤乃の魔眼は視線に納めたものに「凶れ」と念じることでねじ切ることができるという超能力的な能力に加え、透視能力までが付随していた。

結界

元々は仏教用語で、外界と聖域を隔離するというもののこと。魔術師が身を護る術の総称となっている。蒼崎橙子曰く、レベル差はあれど、一定の区画を隔離するもののことで、本当に壁を造ってしまうモノから見えない壁で覆ってしまうモノまでさまざま。一番レベルの高いものは、何もしていないのに誰も近寄らないという強制暗示で、一般人に異常と思わせない無意識下に訴えかける強制観念によって作られた結界だとしている。

魔法

どれほどの時間を掛けても、地球上の技術や魔術によっては再現不可能な力の総称。前提として「根源の渦」と呼ばれる、あらゆる現象が流出している地点へ到達した者だけが手に入れられるとされる。かつては、あらゆる魔術が魔法と呼ばれていたが、科学技術の発展などによって人間が再現可能な力が増えていくに従って、「魔法」と呼ばれるものも少なくなり、もはや数えるほどしか現存していないとされる。また、人間にはほぼ実現不可能な現象でありながら魔法とは呼ばれない魔術も存在しており、荒耶宗蓮の結界などが「魔法の域」にあると称されている。魔術師の世界において、魔術と魔法は厳密に異なるものと考えられており、同一視する事はそれだけで蔑視の対象となりうる。魔術を使う者が「魔術師」と呼ばれるのに対し、魔法を手に入れた者は畏怖と敬意を込めて「魔法使い」と称される。

魔法使い

魔術師の中でも、地球上で再現不可能な非常識な力である「魔法」を使用する人物たちの総称。かつては多くの魔術師が魔法使いと呼ばれていたが、人類の発達と共に人間にとって再現不可能な出来事が少なくなるにつれ、魔法使いと呼ばれる存在も減った。現在では5人しか存在していない。

魔術

通常の物理法則や常識からかけ離れた力のうち、地球上の技術によって時間をかければ再現が可能なものの総称。最終的に「根源の渦」と呼ばれる万物の原典へ到達する事を目的としている魔術師達にとっての研究対象であり、手段とも呼べるもの。黒桐鮮花によれば、今できる事を長い時間を費やして個人の力で可能とするのが魔術。対して地球上で再現不可能な、今できない事を個人の力で可能とするのが魔法と呼ばれる。魔術の中には荒耶宗蓮の扱う結界のように、人類には到底実現できないような現象を可能とするものもあるが、その場合は「魔法の域」にあるなどと表現されるにとどまり、魔法とは分類されない。

魔術師

端的には魔術を研究、使用する人物の総称。魔術のことを知らない人間には、魔法使いと説明をすることもあるが、厳密には魔術師と魔法使いはまったく異なる存在である。その多くは魔術の研究と実証を通して「根源の渦」と呼ばれる万物の原典、オリジナルへと至ることを目的としており、例として、蒼崎橙子は完璧な人形の作成を通して人間の根源へと至ろうとしていた。 魔術の才能は積み重ねられた研鑽と研究を家系から相続することと、個人の才能の双方に依る部分が非常に大きく、大成しようとするならば魔術の大家に生まれたうえに才能がなければならない。知る人が多ければ多いほどに力を失うという魔術の性質上、非常に秘匿的な人種が多く、その研究内容が他人に明かされることは滅多にないものとされている。

根源の渦 (こんげんのうず)

万物の根源が眠っているとされている場所。魔術師達が魔術の研鑽や研究によって、そこへの到達を目指している。すべての原因で、あらゆる現象がそこに収められていると考えられており、蒼崎橙子曰く、正確ではないもののわかりやすい表現として、「究極の知識がそこに眠っている」と語っている。根源の渦の機能の一部が、「アカシックコード」と呼ばれている。過去に到達した魔術師は存在しており、現存する魔法もそれら到達した魔術師が残したものだが、誰一人として向こう側から戻ってきた者はいない。主に「根源」と省略されて呼ばれる事が多い。また、似たような意味合いとしてカギ括弧に空白を用いて「 」と表現する事もある。

起源

人間が個人という存在になる原因である現象。「混沌の衝動」ともたとえられ、前世からの「業」とは区別して考えられる。魔術師に限らずあらゆる存在が持っているとされており、起源の指し示す方向性に従って個を獲得していく。魔術師である荒耶宗蓮は「静止」という起源を持っており、その影響によって肉体の成長を静止しているばかりか、身の回りに触れた物を静止する結界を展開している。登場人物の幾人かも起源が判明しており、臙条巴は荒耶宗蓮から「無価値」の起源を持つと断言されていた。また、両儀式は「無」の起源を持つとされており、同じ起源から分かれた者として巫条霧絵と浅上藤乃の名が上がっていた。

クレジット

原作

奈須 きのこ

キャラクター原案

武内 崇

書誌情報

空の境界 the Garden of sinners 12巻 星海社〈星海社COMICS〉

第1巻

(2011-11-11発行、 978-4063695014)

第2巻

(2012-07-11発行、 978-4063695069)

第3巻

(2013-07-11発行、 978-4063695083)

第4巻

(2014-09-11発行、 978-4063695175)

第5巻

(2015-08-11発行、 978-4063695342)

第6巻

(2016-07-22発行、 978-4063695540)

第7巻

(2017-09-09発行、 978-4063695823)

第8巻

(2018-08-11発行、 978-4065120002)

第9巻

(2019-08-01発行、 978-4065166956)

第10巻

(2020-06-12発行、 978-4065204337)

第12巻

(2023-12-13発行、 978-4065332696)

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